12. 2012年3月20日 08:56:39
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リーマン・ショックから約3年半。今また、アメリカの金融業界に深刻な信用危機が忍び寄っている。徐々に逼迫する信用状況を反映して、世界中の大手銀行がオーバーナイト(翌日切り)の貸出金利を上げている。翌日には返済してもらう資金の金利を顕著に上げているということは、相当危ない借り手にも貸し出しているということなのだろう。 金融危機の時の特徴として、銀行側が「こういう安全な借り手ならいくらでも貸したい」と思うような財務体質のいい企業は借りる気が全くなく、危ない借り手ばかりが旺盛な資金需要を持っているということだ。その旺盛な資金需要は、もうどこかで既に空けてしまった大穴を何とか埋めるための必死の金策なのかもしれない。 今後、アメリカ・ヨーロッパ・新興諸国の金融市場がどこから先に破綻していくのかは、あまりにも不確定要因が多く、分からないとしか言いようがない。だが、一つだけ断言できることがある。それは、国境を越えて広がる貸し手・借り手のネットワークの中で、どこかで起きた危機が他の地域には何の影響も及ぼさないということはあり得ない。これは確かだ。 もう一つ、確かなことがある。それは、アメリカの個人家計が極端に疲弊していて、金融危機を無事乗り切れる世帯が非常に少ないということだ。 「もし今、1000ドルが必要になったら、どうやってそのカネを作るか」というアンケート調査に対して、「貯金を下ろす」と答えたのはたった36%だけで、他の64%の回答者は何らかの形で借りるか、資産を処分する必要があると答えるほどアメリカの個人世帯の経済状態は逼迫しているのだ。 貯蓄を下ろせる「幸運な」36%が首位を占めているわけだが、その他では以下の通りの回答率となっていた。「友人や家族から借りる」と「他の支払いを伸ばす」が12%ずつの同率2位だ。単独4位に入ったのが「資産を売るか質入れする」の11%。「新しくローンを起こす」と「クレジットカードでキャッシュを引き出す」が同率5位の9%だった。 これが世界最大で、最も裕福とは言えないまでも、有数の裕福さを誇る国の家計状況かと思うと、情けなくなる。だが、アメリカの経済格差がどこまでひどくなっているかを直視すれば、この調査結果もまた順当な回答だ。2009年時点でアメリカの五分位別の所得シェアをチェックしてみよう。五分位というのは、例えば今回の例なら所得順位で人口全体を20%ずつの5グループに分けた時の、その5つのグループのことだ。 最上位20%が全所得の50%、上から2番目の20%が23%、真ん中の20%が15%、下から2番目の20%が9%、最下位20%はわずか3%となっている。一番下の20%に属する世帯の平均年収は、一番上の20%に属する世帯の平均年収のたった6%に過ぎないのだ。 そして、所得より遥かに格差が大きく表れる資産所有の分布を見ると、世帯間の資産格差は凄まじい事になっている。事業資産の93%、金融証券の99%、信託資産の80%、株式・投資信託の81%、自宅以外の不動産の77%が、最上位10%の世帯に集中していたのだ。 ここまで資産が少数の大金持ちの所に偏在している経済が、今後確実にやって来る金融恐慌や長期不況を平穏無事に乗り切る事ができるのだろうか。 とにかく、現在のアメリカ株式市場には、ある日突然下げ始めたら、商いを伴って大暴落をしそうな金融銘柄が目白押しだ。そして、製造業の空洞化が進んでいるアメリカ経済には、全企業収益の30〜35%をコンスタントに稼ぎ出している金融業界がこけた時、これに代わって経済全体をリードするような業種はない。その金融業界からバタバタと破綻企業が続出するような景況は、もうすぐそこまで来ている。 アメリカ経済の現状は、回復の目途が立たないどころか、日を追って悪くなる一方だ。これもまた、アメリカやヨーロッパは素晴らしい国々で何もかもうまくいっているという大嘘を守るために、日本のマスコミがほとんど報道しない事実だ。だが、アメリカ経済の悪化のスピードは凄まじいものになっている。 例えば、たった2年前の2010年には、まだ失業者の4人に3人は何らかの失業手当の給付を受けていた。それが、1年後の2011年には、2人に1人よりちょっと下の48%まで、失業手当受給率が下がってしまった。くどいようだが、わずか1年のうちに起きた変化である。 「アメリカは、リーマンショックの際にも金融・財政政策の対応が速かったので、処理もその後の回復も順調に進んでいる」などというたわごとは、一体どこから出てくるのだろうか。失業者の苦しみとか、まだ何とか自分の職を守っている人たちの不安など、全く気にもしていない連中だからこそ言えるセリフなのだろう。 そして、普通の庶民の生活が苦しくなる一方なのだから、当然住宅市場の泥沼化も収まらない。最近になってようやく2010年に行われた国勢調査の結果が公開され始めている。その成果の一つは、ローン返済中の持ち家のうちで、ローン残高よりもその家の資産価値が低くなっている、いわゆる「水没物件」数の正確なデータが出たとことだろう。水没物件とは、すぐさま家を売り払っても、その代金でローンを完済することができない物件のことだ。 ローン返済中の持ち家が全米で5033万9500戸あるのに対して、そのうち約28%に当たる1430万戸前後が水没物件だという。しかも、住宅ローン制度自体が、いつの間にか金融機関に有利で、借り手に不利に改悪されている。従来、アメリカの金融業界では、ローンはノンリコース(非遡及型)ということになっていた。 担保権を設定した物件を貸し手に渡せば、借り手は後腐れなく出ていくことができたということだ。もしその物件を処分した金額が物件の残高に満たなくても、それは担保価値を査定した貸し手の責任だという理論だ。 この住宅ローンは原則ノンリコースという点だけは、担保権を設定した物件を引き渡しても、その売却額がローン残高に満たなければ、差額を払えと追いかけ回す日本のリコース(遡及型)ローンよりいいと思っていた。ところが、最近のアメリカの民事訴訟では、物件の売却額とローン残高の差額が大きいと、金融機関に元借り手に対する差額の請求権を認めているのだ。まさに泣きっ面に蜂だ。 1983〜2008年のアメリカの個人負債の対GDP比率と、トップ5%世帯の所得シェアを対比してみよう。個人世帯の総負債がGDPの約75%から135%へと急上昇する一方、所得順位でトップ5%世帯の所得が総所得に占める比率は、22%から34%弱まで伸びている。シェアが1.5倍以上に拡大したということだ。 これは非常に危険な兆候だ。前回アメリカのトップ5%世帯の所得がこれほど大きなシェアとなったのは、1920年代後半だった。その後、アメリカは1929年のパニックから1930年代の大不況へと転落することになる。 だが、当時の個人世帯の負債と貿易赤字の合計額でさえ、GNPの30%〜55%へと上がっただけで、まだかわいいものと言える水準だった。 貧富の格差という点では、現在のアメリカ経済は1920年代末から1930年代にかけての水準を再現するにとどまっている。だが、アメリカ国民が背負い込んでいる負債総額の対GDPシェアとしては前人未到の域に達している。 未だに「国債残高は国民全体の借金」というような大嘘を垂れ流しているメディア多いので、お間違い無きように願いたいが、国債は国の国民に対する借金であり、国民にとっては資産だ。そして、日本の個人世帯としては、借金より貸しているカネである資産の方が多いし、借金は1990年代のバブルピーク期にも、GDPの30%台にとどめていたのだ。 ところが、アメリカでは、国債・地方自体債や企業の社債を除外した個人世帯の借金だけで、ほぼGDPと同額くらいになっている。なぜ、こんなに個人世帯の借金が激増しているのだろうか。自分で借金をすることのプロであると同時に、他人に借金をさせることのプロでもある金融業の肥大化に全く歯止めがかからないからだ。 製造業の付加価値額は1950年代半ばに対GDPシェアで28%になったのをピークに、直近では11%程度まで衰退している。それに比べて、金融・保険・不動産業の付加価値額は1947年の10.5%からほとんど一度として縮小することなく、2009年では21.5%まで対GDPに占めるシェアを伸ばしている。特に1980年代以降、製造業の衰退にも金融・保険・不動産業の肥大化にも拍車がかかっている。 「企業家精神の母国」を自認するアメリカで、現在特に大手金融機関やい一流企業のヒモが付いているわけではない中小企業の実態は、凄まじいことになっている。例えば、中小企業は必ず従業員のために便利だからという理由で、「コーポレート・カード」を持つことをしつこく勧められる。 しかし、うっかり金融機関のセールストークに乗せられて、コーポレート・カードを持った瞬間から、企業融資の金利では借金が出来ないという羽目に陥ることが多い。取引先の金融機関に企業融資を申請しても、「おたくにはコーポレート・カードをお渡ししてあるでしょう。このカード使って必要な資金を引き出してください」と言われてしまうのだ。 |