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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34766 Financial Times
恐ろしいデレバレッジングが始まった 債務の山の麓での厳しい強行軍
2012.03.15(木)3月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
「デレバレッジング(負債圧縮)」は、大変な旅を指す不快な言葉だ。すなわち、信用バブルの後に過剰債務を減らす旅 である。今、その努力が特に難しいのは、米国やその他の経済大国に影響を及ぼすからだ。デレバレッジングは単に地域の出来事ではなく、グローバルな出来事 なのだ。
マッキンゼー・グローバル・インスティテュートは1月、デレバレッジングに関する貴重な調査報告の改訂版を公表した*1。これは、はっとさせられる資料だ。デレバレッジングの道のりは、まだ先が長いことを示しているからだ。だが幸い、報告書は米国経済がデレバレッジングで最も進んでいるということも示している。
一時的な財政赤字の増加は恐慌を防ぐ
債務をさらに抱えることで債務から抜け出すことはできない。読者の皆さんは一体何度、このような論評を読んだだろうか?
これは決まり文句だ。そしてマッキンゼーの調査が指摘しているように、間違った考えでもある。1990年代初頭に大きな危機に見舞われたスウェーデンとフィンランドは、なぜそれが間違っているかを示す好例だ。
穏便なストーリーは以下のように展開していく。まず、借り入れの急増は巨大な金融危機に終わる。政府はすぐに金融システムを再編する。過剰な債務を抱えた民間の借り手は、支出を大幅に削って債務を減らす。中央銀行は金利を引き下げる。
結果的に生じる経済活動と利益の急減により、政府は巨額の財政赤字に追い込まれ、一方で財政赤字が経済を支えることにもなる。最後に、輸出に助けられて経済が回復し、政府が財政再建に乗り出す――。
このように、財政赤字の一時的な増加は、民間部門が支出削減を余儀なくされる事態から経済を守る助けになるわけだ。財政赤字が増えない場合、恐慌が生じ、返済ではなく大量の破綻によって債務が減っていくことになる。
民間部門の回復のために必要なこと
残念ながら、スムーズな調整の道のりは、時間がかかる。また、政府の信用力にも左右され、政府の信用力は民間部門のそれより大幅に高くなくてはならない。米国と英国にはこれが当てはまるが、スペインには当てはまらず、同国は激しい緊縮を強いられている。
危険なのは、民間部門がいつになっても完全に回復しないことだ。日本では、これが起きたように見える。マッキンゼーの調査報告書は、その危険を回 避するには何が起きなくてはならないか説明している。リストに挙げられているのは、銀行システムの安定、財政の持続可能性に向けた確かな計画、構造改革、 投資と輸出の増加、住宅市場の安定、建設活動の回復などだ。
*1=Debt and deleveraging,www.mckinsey.com/Insights/MGI
経済が支えられる債務の量は、誰が借りて誰が貸したのかということに加え、担保の価値、そして何より経済活動によって決まる。不必要に破壊的な債務の減少をもたらす最も確実な方法は、経済が崩壊するに任せることだ。
積極的な金融政策と、一時的な多額の財政赤字が重要なのは、このためだ。民間部門が削減に取り組んでいる時に公的部門が支出を維持しなければ、民間部門は度を越すまで支出を削減し、不必要に深刻なダメージを経済に与えてしまう。
米国のデレバレッジングが大きく進み、英国とスペインが遅い理由
では、デレバレッジングは今、どこまで進んだのか?
米国の場合、2008年から2011年第2四半期にかけて、債務総額は国内総生産(GDP)比で16%減少した。英国とスペインでは、同じ期間に 債務が増加している。1つには、英国やスペインと比べると、米国がはるかにうまくGDPの水準を維持してきたためだ。また、米国では、金融機関と金融以外 の企業部門も首尾よくデレバレッジングを進めてきた。
だが、英国とスペインでは、金融部門はデレバレッジングを行っていない。そして何より、米国は英国やスペインよりも家計の債務を大きく削減してきた。米国では、主にデフォルト(債務不履行)のおかげで、家計債務の絶対額さえ減少している。
米国の家計債務は、1990年代のスウェーデンのデレバレッジングに並ぶまでには、まだ道のりを3分の1ほど進んだだけだとはいえ、米国の長期トレンドの水準まで戻っている。
全体的に見ると、危機後の米国は、英国とスペインより健全な状態にあるようだ。政府と民間を合わせた米国の債務総額(2011年第2四半期でGDP比279%)は、英国(507%)やスペイン(363%)よりはるかに少ない。米国政府の借り入れ能力は依然高い。
英国政府の借り入れコストも低いままだ。GDP比219%に上る金融部門の巨大なバランスシートが、英国の高い債務水準を概ね説明する。だが、英国政府は歳出を削減している一方、民間部門のデレバレッジングは遅々として進まない。
スペインでは、政府の借り入れコストが米国や英国より大幅に高く、民間部門のデレバレッジングはこれまで、ごく限られたものになっている。
各国が直面するリスク
これらの経済国は皆、危機からの脱出に向かう旅でリスクに直面する。例えば米国には、財政の持続可能性を確保する計画がなく、規模が大きすぎて輸出からは多少の後押ししか期待できない。
米国の景気回復は、建設を含む投資が引っ張らなければならない。債務増加に頼らない民間投資の急増がなければ、財政赤字を解消するのは難しいかもしれない。
英国の場合もやはり、政府が望んでいるように経済が回復し、財政赤字が解消されるには、企業の投資と純輸出の急増が欠かせない。それに加えて英国は、ユーロ圏の崩壊の脅威にも直面する。ユーロ圏が崩壊すれば、英国の金融部門に深刻な被害が及ぶ恐れがある。
スペインの場合は、景気回復に向けて、純輸出の急激な変化が主要な役割を果たさねばならない。特に、金融以外の企業部門が既に多額の債務を抱えて いるからだ。金融を除くスペインの企業部門の債務は2011年第2四半期にGDP比134%に上っている。これに対して英国は109%、米国は72%だ。
総合すると、1930年代以来最大の金融危機の後遺症から逃れるには、かなり長い時間がかかるだろう。良い知らせは、恐慌が回避されたことだ。さらに良い知らせは、特に米国では民間部門のデレバレッジングが進んでいることだ。
デレバレッジングに至る道筋を描け
資産価格が安定し、各国経済の調整が進めば、金融・財政政策の異例な支援を打ち切ることができるはずだ。悪い知らせは、それには多くの人が考えて いるより長い時間がかかりそうなことだ。金融・財政支援の早計な撤回は、苦しんでいる経済国を再び景気後退に陥らせ、信頼感に破滅的な影響を及ぼす恐れが ある。
さらに、長期的には、無責任な民間借り入れが再び生じたり、巨額の財政赤字が続いたりする事態を避けるためには、対外収支の大きな変化が必要になる。
デレバレッジングへの道のりは、長く、厳しいものになる。財政再建へ向かう道のりも含め、歩んでいく道筋を描くことが肝要だ。それ以上に重要なのは、まだ始まったばかりなのに、終わりが近いと思わないことだ。
By Martin Wolf
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The Economist 大きく変わる欧州の政治:マリオ・モンティ効果2012.03.15(木)3月10日号)
イタリアの偉大な首相は国内と欧州の政治を変えた。
就任から100日程度で、多くの改革を実行してきたマリオ・モンティ首相〔AFPBB News〕
マリオ・モンティ氏に対する尊敬の念は極めて深く、一部の人は同氏を、古代ローマを救うために引退生活から呼び戻された貴族ルキウス・クィンクティウス・キンキナトゥスに例える。
伝説によると、紀元前458年にキンキナトゥスが自分の畑で働いていた時、使者たちがやって来て、トーガを着るように言い、ローマ軍を捕らえたアエクイ族に立ち向かうために6カ月間独裁官に任命されたことを知らされたという。
キンキナトゥスは敵を倒すと、あらゆる戦利品や贈り物を受け取るのを拒み、絶対的な権限を明け渡して農耕生活に戻った。
マリオよ、トーガをまとえ
同じように、イタリアが昨年大惨事に直面し、債券市場に支払い不能状態に追い込まれそうになった時、モンティ氏がミラノのボッコーニ大学の総長、そして欧州問題に関する賢人として過ごしていた平穏な生活から呼び出された。
モンティ氏は終身上院議員に任命され、11月16日に自堕落なシルビオ・ベルルスコーニ氏から政権を引き継いだ。モンティ氏は、実務家から成る小さな内閣を組閣したうえで、自らを財務相に任命し、内閣の職務に対する給与の受け取りを拒否した。
モンティ氏は就任から3カ月間で、イタリアを破局から引き戻した。歳出削減、増税、年金改革、そして大々的な脱税防止対策が国家財政を立て直し、来年に予算を均衡させ、うまく行けばその後、巨額の債務の返済を始められる軌道に戻した。
成長の回復を後押しするために、モンティ氏は薬剤師や公証人といった閉鎖的な職業を自由化し、官僚機構を簡素化したいと考えている。次の段階はもっと難しい。硬化症を患っているイタリアの二重労働市場の改革である。
イタリア国債の利回りが低下したため、破綻の脅威は後退した。これは、もう1人のイタリア人に負うところが大きい。欧州の銀行に流動性を大量に供給した、欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁だ。
だが、ドラギ氏が行動できた背景には、モンティ氏がイタリアの信頼を回復させたことがあった。イタリアの国債利回りが最近、欧州連合(EU)に義務付けられた今年の財政赤字目標を破棄したいと考えているスペインの利回りを下回ったことは、多くを物語っている。
モンティ氏は就任後わずか100日程度で、ベルルスコーニ氏が尻込みした多くの改革を進めてきた。そして、左派、右派両方の政党からの支持をつなぎ止めている。
モンティ氏の経済的な力量が予期されたものだとすれば、その外交手腕はうれしい驚きだった。EUの創設メンバーであるイタリアは、何年にも及ぶベルルスコーニ時代の疎外と冷笑を経て、政策立案の中心に戻ってきた。
予算の規律に関する財政協定に調印した今、モンティ氏は、特に単一市場の潜在能力を引き出すことで成長を促す「経済協定」をEUに採用してほしい と思っている。ある外交官の言葉を借りるなら、モンティ氏は「イタリアの中にもっと多くの欧州を、欧州の中にもっと多くのイタリアを」求めているのだ。
欧州委員会の辣腕委員を2期務めたモンティ氏は、欧州官僚の寵児だ。だがモンティ氏は、ブリュッセルの枠を超えて誘いを受けている。モンティ氏はバラク・オバマ大統領との会談に招待されており、3月13日にはアンゲラ・メルケル首相がローマを訪問することになっていた。
4本足の椅子になった欧州
EUの政治に突如、動きが出てきた。ドイツにとっては、モンティ氏は、ユーロを正常な姿に戻すためには、主に問題を抱えた国の改革が必要だという 考え方を立証してくれる人物だ。フランスにとっては、ドイツにもっと多くのことをする(例えば救済基金を増額する)よう求めている点で協力者だ。
英国にとっては、12月のEUサミットで孤立した後、再び仲間に加わるための支援の手を差し伸べてくれている人物だ。さらに、小国にとっては、モ ンティ氏は4大大国の間でうまく立ち回る自由を与えてくれている。「イタリアが戻って来てくれてうれしい」と別の外交官は言う。「欧州は今、4本足の椅子 になった」
多くを物語るのは、モンティ氏が、英国、オランダ、その他の自由主義諸国が発起人になっている書簡に署名したことだ。エネルギーおよびサービス市場を開放する公約を順守しない国の名前を公表することを含む、単一市場ルールのより厳格な実施を強く求めたものだ。
イタリアは、この書簡のいくつかの要求、特に貿易の自由化にはそれほど熱心でないかもしれない(イタリアはしばしばグローバル化の敗者になってきた)。
だが、単一市場に対するモンティ氏の信念は疑いようがない。単一市場は新たな成長の強力な源泉であり、問題を抱えた南欧諸国と活力に満ちた北部欧州諸国とを結び付け、ユーロ圏の「加盟国」と「非加盟国」との結束を維持するものだ。
一方、これはメルケル首相を当惑させるものでもある。ドイツは救済基金を増強するための資金拠出を求める要求に抵抗するかもしれない。だが、ドイツが他国に要求しているように、ドイツに自国市場を開放するよう求めるのは過大な要求だろうか?
イタリアの新たな名声は、すべてモンティ氏の持って生まれた能力の結果というわけではない。EUはベルルスコーニ氏以外なら誰でも歓迎しただろうし、各国の指導者はモンティ氏の立場を有利にすることに熱心だ。
まだ多くのことが間違った方向に向かう可能性はある。モンティ氏はまだ、イタリアの最も深刻な悩みを治療する能力があることは示していない。すなわち、慢性的な低成長だ。
イタリア経済は今年、最新の予算が考慮しているより大幅に縮小すると見られている。特に深刻な景気後退がモンティ氏に対する脆い超党派の支持を損ねてしまった場合には、緊縮財政と改革に対する抵抗が大きくなるかもしれない。
同氏の綱渡りはさじ加減が難しい。英国はモンティ氏の統合主義を容認し難いと考えるかもしれないし、フランスは同氏の自由化の本能を腹立たしく思 うかもしれない。また、モンティ氏の権威をもってしても、緊縮財政に対する自己破滅的な執着からドイツの気持ちをそらすことはできないかもしれない。
身を引くのを忘れないように
何よりも、モンティ氏には時間がない。イタリアを正常な状態に戻すには10年かかるかもしれないが、同氏の権限は来年終了するのだ。
モンティ氏の前にも、自分の成し遂げたことが無能な政治家たちによって帳消しにされるのを目の当たりにしたイタリア人実務家はいた。だが、長期的な改革には、明確な国民の信任が必要だ。
ベルルスコーニ氏率いる政党「自由の人民」の中には、2013年の総選挙でモンティ氏を擁立し、党を導いてもらうべきだと考える人もいる。それは間違いだ。同氏の威信は、党派に属さないことに依存しているからだ。危機を撃退した時には、モンティ氏は身を引くべきだ。
だからと言って、モンティ氏に政治的な未来がないわけではない。2014年には、欧州委員会の委員長か欧州理事会(各国の元首や首脳を代表する組織)の議長の相応しい候補者になるだろう。
また、キンキナトゥスがローマ共和国を転覆させる陰謀を阻止するために2度目に呼び戻されたように、モンティ氏はいつか、イタリア大統領を務めるために呼び出されるかもしれない。それがただ、ベルルスコーニ氏が大統領職を得るリスクを排除するためだとしても。
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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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