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#かっての最貧国も、グローバル化による経済発展のおかげで飢餓や貧困が生滅し、人口増加は抑制され、高齢化も進展へ
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34739
アジア最貧国バングラデシュを見ても明らか、「世界食糧危機」論は荒唐無稽だ
2012.03.14(水)
川島 博之:プロフィール
「21世紀は人口爆発の時代であり、食料生産が人口増加に追いつかなくなる可能性がある。いつまでも安定的に食料を輸入できるとは限らない。輸入したくともできなくなる」
多くの日本人はこのように考えている。それが食料自給率を向上させなければならないとする根拠になっている。そしてTPPをめぐる議論でも、通奏低音として大きな役割を果たした。食料安保はTPPに反対する人々の大きな旗印であった。
筆者は3年ほど前に『「食糧危機」をあおってはいけない』と題する本を書き、食料危機説がいかに荒唐無稽であるかを説いた。しかし、その浸透はいまひとつのようだ。農水省が長年宣伝を繰り返した結果、多くの国民が信じ込んでしまったことを覆すのは容易ではない。
好景気に沸くバングラデシュ、雇用機会も給料も増えている
今回は実例を語ることから、食糧危機説がいかに見当違いかを示そうと思う。
実例とはバングラデシュだ。バングラデシュはアジアの最貧国でありながら、1億5000万人もの人口を抱え、かつその国土面積は日本の約4割に過ぎない。狭い国土に多くの人が住み、食糧危機が最も懸念される国の1つである。
FAO(国連食料農業機関)は世界に10億人の「栄養不足人口」が存在し、その半数が南アジアにいるとしている。バングラデシュにも多くの栄養不足人口がいることになっている。栄養不足人口は、わが国では「飢餓人口」と訳されることもある。
そんなバングラデシュを訪問するチャンスに恵まれた。1週間ほどの日程だったが、首都ダッカの他にチッタゴン、シレット、クルナなどの地方都市とその周辺の農村を回ることができた。
印象的だったのは、都市も農村も好景気に沸いていることである。人々が忙しそうに動き回っている。物価の高騰を嘆く声も聞かれたが、それ以上に雇用機会の増加や給料の上昇を喜んでいるようだ。
バングラデシュを活気づけている原因の1つに中国の人件費高騰がある。高騰を嫌った外資系企業が中国からベトナムなどに工場を移しており、バングラデシュもその有力な移転先になっている。バングラデシュの人件費は中国の半分以下であり、既に日本からもユニクロなどが進出している。
経済発展はそれまで多くが農民であったバングラデシュ人の心を確実に変化させている。それは急激な人口増加率の減少となって表れている。
人口増加率は減少し、食料生産は増加している
バングラデシュは先に述べたように人口密度が高い国であり、都市だけでなく農村にも多くの人が住んでいる。ただ、人口は多いが絶対貧困と言われる状態からは脱したようで、訪問先で子供の物乞いに囲まれて、身動きができなくなるようなことはなかった。
絶対貧困を脱しただけでなく、子供の数も確実に減っている。国連人口局は、1970年代に6.0を超えていた合計特殊出生率が2.2に低下したとしている。
多くの農民に対してインタビューを行ったが、異口同音に子供の教育の重要性を語っていた。子供に高い教育を受けさせて都市で働かせたい。これがバングラデシュの農民の切実な願いである。
子供に高い教育を施したいと考えれば、子供の数は自然に減ってゆく。国連は2050年のバングラデシュの人口を中位推計で1億9400万人、下位推計で1億6600万人としているが、このような傾向が続けば下位推計に近い水準に落ち着く可能性が高い。アジアの最貧国においても人口爆発は止まりつつある。
食糧生産も順調に増加している。バングラデシュ人の主食はコメである。その1人あたりの生産量は1970年には250キログラムに過ぎなかったが、2010年には332キログラムになった。これは人が生きてゆくために十分な量である。国内需要を満たしたために、21世紀に入ってコメを輸出したこともある。
この増加は単収(単位面積当たりの生産量)の増加によってもたらされた。1970年に1.6トン/ヘクタールに過ぎなかった単収は、2010年に4.2トン/ヘクタールにもなった。40年間で2.6倍である。これは品種の改良や農薬、灌漑、化学肥料の普及によりもたらされた。アジアの最貧国にも近代農法は確実に浸透している。
先ほど述べたように、バングラデシュの人口増加率は急速に低下している。そのために、2050年の人口は現在の2割増程度に収まると推定されるから、単収を5トン/ヘクタール程度にすれば、今後も十分にコメを自給することができる。現在、先進国のコメ単収は6〜7トン/ヘクタールになっているから、バングラデシュが今後40年かけてその水準を達成することは容易だろう。
ここで1つ誤解を解いておきたい。FAOが「栄養不足人口」としている人々は、飢えている人を指すわけではない。所得が低いために十分な食料を手に入れることができない人である。
それは物乞いと考えてもよい。今回、実際にバングラデシュを回った印象では、物乞いはいるが、その数はそれほど多いものではなくなっている。その原因は、経済が成長しているためである。これまで物乞いをしていたような人々も、道路工事の仕事などにありつくことができるようになった。
このような事実を見るとき、南アジアに5億人もの栄養不足人口が存在するとしたFAOの推計は見直す時期にきていると思う。
政府はいつまで間違った情報を発信し続けるのか
これまで述べてきたように、アジアで食糧危機が最も懸念されてきたバングラデシュでも食料事情は確実に改善している。この事実を知る時、人口増加率が急速に低下し、かつ技術の伝搬速度が速くなった21世紀に、「世界が食糧危機に陥る」とする説が、いかに荒唐無稽なものであるか理解できよう。
今回、紙幅の関係で詳しく触れることができないが、多くのダムや堤防が造られたことにより、洪水による被害も確実に減少している。地球環境の変化がバングラデシュ農業に壊滅的な被害を与える可能性はほとんどないと考える。
ここでは食糧問題に限定して言及したが、食糧危機説に見られるように、多くの日本人は20世紀に流布されていた俗説をもとに21世紀を語っている。それゆえに、TPPに関する議論も、どこかピントはずれなものになってしまった。
昨今、戦略の重要性が語られ、内閣府に国家戦略室を設けるなどしているが、政府自身が自己の政策を都合よく進めるために「世界食糧危機」などといった間違った情報を発信し続けるようでは、的確な国家戦略を練り上げることなど難しいであろう。
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