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Q:エルピーダ経営破綻が象徴するもの
◇回答
□中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部
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■今回の質問【Q:1254(番外編2)】
「日の丸半導体」とも呼ばれたエルピーダメモリが経営破綻しました。このこ
とは、何かを象徴しているのでしょうか。
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村上龍
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■ 中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長
「国によるセーフティネットの終焉」
・ウォン安・円高が長く続いたことにより、恒常的に競争環境が厳しい中に置かれ
た。
・親方日の丸で、DRAMメーカーとして専業していたエルピーダだが、DRAMそのものの
市況状況も芳しくなく、営業キャッシュフローの確保に至れなかった。
・DRAMしか作らないというビジネスモデルそのものの破綻。
・規模の経済こそが重要な局面で、提携関係を推し進めることが出来なかった。
すべて、エルピーダの経営破綻につながる重大な問題だと思います。しかも、この出
来事を契機に電機セクターに対する懸念が浮上しやすくなってきています。規模の経
済を必要とし、作った途端に値段がさがってしまうような製品は、実はいくらでもあ
るからです。DRAMの次は、おそらくデジタル家電など、デジタル製品を使ったもので
はないでしょうか。マイコンを得意とするルネサスなどの状況も、ですから、心配に
なってきてしまいます。
でも、今回のエルピーダの経営破綻が象徴するものは、クレジットを観ているものか
らすれば、もっと大きな、いわばクレジットの根幹を揺るがすものでした。そのた
め、今回のレポートはその点を中心に論じたいと思います。
クレジットの見方の一つに、セーフティネットの考え方があります。たとえば、金
融システムは預金を集めているがゆえに、突如デフォルトすることがあれば国民生活
への影響が絶大になってしまいます。そのため金融システム不安を守ることが必要
で、今は批判の対象になってもいますが、TBTF(Too big to fail)のセオリーが効い
てきたのです。りそな銀行が結局、株主だって守られたことを思い起こせば簡単にわ
かります。そうです。国民の生活にとって欠かせないと判断される会社、国民にとっ
て、あるいは日本にとって重要な職責を担っていると考えられる事業を行っている企
業、などに対しては、ある一定程度のバックアップが得られるものである、というの
が特に日本のクレジットを考える上では重要なポイントでした。
現在では、そのセーフティネットが期待できるだろうということの象徴的な銘柄は
東京電力です。震災関連の事故により、発生した賠償責任に対し、国は原子力賠償支
援機構法と機構を設置しました。これは、言うまでもなく、賠償責任を負うためにも
東京電力を生き残らせる必要がある、との国としての判断があってこそ、です。とい
うことは、東京電力の生き残りのために、政府は出来るバックアップを続けるであろ
うと考えるのが、一般的なクレジットからの見方ということになります(もちろん、
東京電力の営業キャッシュフローが回るのか、そのための料金値上げが出来るのか、
原子力発電の稼働が現実化するか、など数多の問題がありますが)。こうした東京電
力および電力セクターに対するバックアップがあると考えられるからこそ、社債市場
で資金が調達できてきたのだとも言えるわけです。格付けも、事故前はトリプルAで
したが、当然ここには、いざというときの政府のバックアップが読まれていたことは
言うまでもありません。
エルピーダがデフォルトしたとき、ちょうど私はロンドン出張中でした。予定して
いなかった多くのヘッジファンドからミーティングの依頼が来て、予定量より多い
ミーティングをこなさなければならなくなったのは、計算外でしたが、彼らの関心事
はエルピーダのデフォルトで、日本国政府のバックアップストーリーが変わったので
はないか、ということ、引いては、東京電力などに対する見方も変えるべきなのか、
ということでした。外人投資家も、我々と同じ感覚で、エルピーダを見ていたことに
なります。
エルピーダは、2009年産活法対象企業として認定されました。当時認定された理由
として、1.日本で唯一のDRAM専業メーカーであること、2.技術力は極めて高いと想定
されること、3.工場などに多くの(といっても8000人程度ですが)労働者を確保して
いること、があげられています。経営破綻した今も、その1.から3.までどれ一つとし
て変化していません。なのに、なぜ経営破綻の道にいってしまったのでしょうか?
エルピーダ自身はもちろんのこと、経済産業省も、関連メインバンクも、エルピー
ダの資金繰りを何とかしようと、本当に最後の最後まで話し合いをしていたように観
察されました。そのため、今回の判断は何ともトリッキーであり、理解しがたいとこ
ろがあります。メインバンクの資金が普通に入って、何とかお金を回す算段を整える
のが、これまでの日本のやり方でしたし、これこそが日本のセーフティネットだった
といえるからです。
違和感の残る判断となってしまったことによって、クレジットの見方の中で、セー
フティネット分はやはり過剰に期待してはいけないというムードに変わってきまし
た。私自身も、その見直しの調整に躍起になっています。JALやエルピーダはなぜ
経営破綻したのか、りそな銀行や東京電力はなぜ、バックアップが期待できた(る)
のか。この違いを明確に説明しようとしてもあまり合理的な説明はできません。ただ
何とか説明が付くと言えるのは、公的な事業を展開し、かつ、メインバンクがしっか
りしており、そのメインバンクを中心に再建計画が建てられる場合、は、バックアッ
プが継続的に期待できるということくらいです。
なんでもかんでも国が助けるという発想は、モラルハザードのなにものでもないの
ですから、ないに超したことはありません。しかし、これまでの我々のクレジットの
見方は、そういうものであるということを前提にしていたので、今回のエルピーダが
象徴する「セーフティネットの終焉」により、まさに、その見直しが必要になったと
いうことになるのです。
BNPパリバ証券クレジット調査部長:中空麻奈
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