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2012年03月06日 13:19
「就社」社会の誕生 −ホワイトカラーからブルーカラーへ−冷泉彰彦氏のコラムが話題になっているが、このようにレストランの給仕でも職務が細分化されているのは、アメリカだけではなく日本以外のすべての国の組織の特徴である。日本のように他人の仕事を手伝ったりサービス残業したりする労働者は、中国にも韓国にもいない。これは勤勉革命のたまものだろう。
ただ日本でも、戦前の職人は多くの職場を渡り歩く専門職だった。それがなぜ戦後は就社になったのかというのが本書のテーマだが、これには諸説ある。経済史でふつう想定するのは戦時体制で年功序列になったとか、戦後の労使紛争を経て熟練労働者を囲い込むために長期雇用が始まったというものだが、本書は戦前からの学校の需給調整機能に注目している。
職能別の編成はいいことばかりではなく、排他的な縄張り主義になりやすい。特に職能ごとに労働組合が編成されると、一つの企業に何十も組合があって、その一つでもストライキをしたら工場が止まる、といった非効率性が、かつては大きな社会問題になった。それに対して日本の企業別組合では、労使が「一家」として長期的関係で問題を解決するので労使紛争が少なく、市場の変化に対して配置転換で対応しやすい。
しかし職能別に物的資本と人的資本がモジュール化された組織は、企業買収・売却で一部を切り離すのには適している。職能も専門的でポータブルなので、クビになっても再就職しやすい。つまり職能別組織は、石油化学や食品のように変動の少ない業種か、ITのように変動の非常に激しい業種に向いており、日本型の「就社」組織はその中間のゆるやかに変化する2.5次産業に向いている――というのが拙著の整理である。
このようにjob descriptionが曖昧でfirm-specific skillに片寄っている日本の労働編成はきわめて特殊で、アジア進出に際しても障害になっている。だから先進国に残された成長フロンティアが変化の激しいITやサービス業に移っているとすれば、考えられる対応は二つしかない:グローバルな産業構造の変化に合わせて組織を職能別に再編成するか、それとも今の組織を維持して国際競争にさらされない業種に特化するかである。
TPPに反対したり原発の再稼働に反対して「脱成長」とか言っている人々は、暗黙のうちに後者を選ぼうとしているのだろう。しかしそれは日本が貧しい小国になる道であり、私は(逃げ切れる世代なので)個人的には悪いとは思わないが、今の30代以下には(財政負担も含めて)相当ひどい生活が待っていることを覚悟したほうがいい。
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アメリカの外食産業に過労死がない理由とは?
2012年03月05日(月)15時53分
大前提として客も店も細かいことはゴチャゴチャ言わないし、とりわけ中堅以下の企業化されたファミレス系やファーストフード系に至っては、サービスの水準はかなり低いという問題があるわけです。その点では、日本とは全く別世界で比較の対象にはならないのですが、個別の問題では参考になる点もあると考えて箇条書きにしてみました。
(1)役割分担がハッキリしています。例えば、注文を取るのは「サーバー」、最初に接客して客をテーブルに誘導するのは「ディスパッチャー」などという「専任」ですし、料理を運んだり皿を下げる専門の「アシスタント」など接客だけでも細かく分かれています。厨房の中も役割分担が明確です。
(2)職務内容は契約書で明確になっています。ですからコストカットのために、ある仕事を他の人間にカバーさせるなどということは不可能です。また契約に書いてあることは双方が履行しなくてはなりません。野球の井川慶選手がヤンキースで一軍落第の烙印を押されてもクビにもならず、5年間毎年400万ドル(3億2千万円)ずつ払われたのがいい例で、契約社会では成立した契約を力関係でひっくり返すことはできないのです。外食産業での契約も双務性(お互いが契約に縛られる)という点では同じです。
(3)もっと言えば、人の仕事はやってはいけないのです。誰かが客の前で料理をひっくり返した場合に、その人間がサーバーだったら掃除をしてはいけません。掃除はジャニターの権限であり、他の人間がその仕事を横取りするのはジャニターの雇用を脅かし、給与の分配の根本を壊すので重大な規律違反になります。従って、他の人が忙しくても自分の仕事や勤務時間が終わったら帰っていいのです。といいますか、他の人の仕事にちょっかいを出すのは禁じられています。
(4)決して給与は高くありません。全員が腰掛け仕事と言っても過言ではありません。「アシスタント」はまず最低賃金レベルでヒスパニック系の出稼ぎ労働の人が目立ちます。「デイスパッチャー」なども大した時給ではなく、学生のアルバイトが多かったりします。それぞれが、人生のそれぞれの段階で、収入の不足を補うという位置づけで働いており、長く勤務するという前提の人はほぼ皆無、従って何らかのストレスを貯めこむ危険があるようなら転職してしまいます。
(5)本部の経営層やマーケティング専門職、商品開発専門職は管理職扱いで給与も高いですが、こうしたポジションはMBAやフードビジネスの修士などが要求され、またそうした「最先端知識」を大学院で学んだ人が即戦力、もしくは業界をヨコに転職してきてポジションを取ります。ですから、現場叩き上げで昇進する可能性はゼロ。現場の仕事は良くも悪くも腰掛けであり、フルタイム雇用者が管理職候補で将来の出世を人質にムリな働き方を強制されるということは絶無です。
(6)店全体の管理責任と業績の責任を負うのは店長です。ですが、店長の処遇は歩合制がほとんどです(スーパーの店長も同様)。ですから、オペレーションマニュアルと自身の雇用契約に違反しない範囲という「ゲームのルール」さえ守っていれば、儲かれば儲かるだけ自分の懐に入ってくる仕掛けです。終身雇用と将来の出世を人質に、ネチネチとエリアマネージャーに管理されるということはありません。売上の最低ラインが未達成ならアッサリとクビになり、これも後腐れはありません。
(7)歩合ということで言えば、サーバーもチップ制になっています。サーバーというのは基本的に出来るだけ高い料理と酒を選ばせ、デザートも注文させることでテーブル単価を稼ぐ「営業職」という位置づけだからです。また客はサービスの満足感に対して、チップの率を12%から20%の間で変動させますから、顧客満足度の向上のモチベーションもカネで精算されるわけです。つまり、固定給を前提にノルマ達成を迫られるより、後腐れがないわけです。
(8)サービスのレベル一般は低いです。客を待たせても、注文の料理が遅くても、冷めていても、そこで謝罪することはまずありません。その代わり、好感度を増してチップを稼いだり、リピートにつなげるためには、パーソナルタッチ、つまりサーバーの個人的なアドリブ会話が奨励されています。それも厳しい強制はないですし、上手になればチップという見返りがあるので、働いている人間にはそれほどストレスにはなっていないようです。
(9)労働法規のコンプライアンスに関しては、特に当局が査察をするわけではないのですが、例えば多くの州で「従業員控え室には労働法規の一覧と最低賃金額を記載したポスターを掲示しなくていけない」という法律があって、それが雇用側が法律順守をするようなプレッシャーになっています。また、実際に労働法規違反が顕著であれば、多くの労働者は弁護士を雇って訴訟に持ち込みます。その場合、内容が悪質で、かつ雇用主に支払い能力がある場合は、巨額の懲罰賠償を取られますから、雇用主としては自発的に法律に従わされる仕組みです。
というわけで、同じ外食産業といっても、労働契約や労務管理に関しては、全く日本とは事情が違います。ですが、こうした要素一つ一つが「ブラック性」であるとか「過労死」という方向性とは反対の作用をしているのは事実だと思います。一点でも、二点でもいいですから、参考になればと思う次第です。
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虫歯でERに駆け込むアメリカ人
More Americans Use the ER for Dental Care
普通の歯科医に診てもらえない低所得者がERに殺到、虫歯1本に1000ドルもかける茶番の元凶は、やっぱり医療保険の不備
2012年03月01日(木)17時11分
サマンサ・スタインバーン
格差 公的医療保険をもたないことのしわ寄せは低所得層に Mario Anzuoni-Reuters
歯がシクシク痛む。どうやら虫歯ができたようだ──。そんなとき、近所の歯医者ではなく、大病院の緊急救命室(ER)に駆け込むアメリカ人が増えていることがわかった。
ピュー・リサーチ・センターが2月28日に公表した最新調査によれば、歯のトラブルでERを訪れる人の数は、06年から09年の間に全米で16%も増加したという。いくつかの州では特にその傾向が顕著で、サウス・カロライナ州では過去4年間で60%近く増加。テネシー州では、歯科治療のために病院のERを訪れた人の数が火傷の患者の5倍に達した。
ERで歯科治療を受けるという行為は、「驚くほどカネがかかり、驚くほど非効率だ」と、調査を精査したフロリダ大学歯学部教授のフランク・カタラノッテ博士は語る。カタラノッテによれば、定期的な歯のクレンジングのような予防的処置の医療費が50〜100ドル程度なのに対し、虫歯や感染症の処置を救命病棟で受ける場合は1000ドルかかるという。
治らない患者がERに戻ってくる悪循環
しかも、ERの医師や看護師は歯科の専門家ではないため、そこで提供できる治療は痛みを止めたり感染症を抑える応急処置に限定される。歯の病気が治まらないと、患者は高額の追加処置を受けるために再びERに戻ってくる。
ピュー・リサーチ・センターによれば、ミネソタ州では歯科関連の治療でERを訪れる患者の20%が再診だった。「間違った環境で、間違ったタイミングで、間違ったサービスが行われている」と、同センターの小児歯科活動担当ディレクター、シェリー・ゲーシャンは言う。
人々はなぜ、普段から地域の歯科医院で定期的な検査を受けておかないのだろうか。もともと歯科医の数が足りないうえに、メディケイド(低所得者医療保険制度)を使う患者を敬遠する歯科医院が多いためだと考えられる。
事態を改善するために、地域で歯科治療を受けやすくするよう各州の政策にいくつかの変更を加えるべきだと、ピュー・リサーチ・センターは提言している。小児科医が基本的な歯科治療も提供できるようインセンティブを用意したり、診療報酬を実際の治療コストをカバーできる額に引き上げるなどして、より多くの歯科医院にメディケイドへの参加を促す方策などが考えられる。
(GlobalPost.com特約)
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