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http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120305/229443/?ST=print
早読み 深読み 朝鮮半島
韓国が脅える「政権末期の経済危機」
貿易黒字が急減――日・中との外交摩擦もリスクを加速
• 2012年3月6日 火曜日
• 鈴置 高史
「また、通貨危機に陥るのではないか」――。こんな恐れが韓国で密やかに広がる。外貨の稼ぎ頭である貿易黒字が消滅し始めたからだ。
14年で3回の経済危機
韓国のエコノミストが今、不安げに見守っているのが貿易統計だ。韓国は1997年、2008年、2011年の3度に渡り通貨危機、あるいは“準危機”に陥った。いずれも貿易収支の黒字が急減したり、赤字化した時だった。
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サムスン電子や現代自動車の快進撃からは想像しにくいが、韓国は国全体としてはまだ、おカネを外から借りて国内投資に回す債務国の段階に留まっている。
外国の金融機関は韓国が貿易赤字に陥ると、外貨不足のためにおカネを返せなくなるのではないかと疑って、融資の繰り延べに消極的になる。つまり「外貨の貸しはがし」が起こる。
「IMF」がトラウマに
1997年の危機は国際通貨基金(IMF)にドルを借りて債務不履行(デフォルト)をかろうじて回避した。見返りに厳しい緊縮政策を実行させられ、倒産は多発、失業率は跳ね上がった。韓国人は日本の併合に次ぐ「第二の国恥」と考え、IMFという単語はトラウマとなった。
このため、2008年の危機ではIMFを避け米国に泣きついて、いざという時は外貨を貸してもらえる通貨スワップを結び、直ちにドルを借りた。それでも資本逃避が収まらなかったので、日本、中国にもスワップを結んで貰い破綻を回避した。
韓国に緊張感が走ったのが2012年2月1日。この日に今年1月の貿易収支統計(通関ベース)が発表され、20億3300万ドル(確報値)と、24カ月 ぶりの赤字を記録したことが明らかとなったからだ。原油価格の高騰で輸入額が膨らむ一方、実物経済の収縮が世界に広がり、船舶などの輸出が大幅に落ち込ん だことが響いた。
ただ、この赤字には“カレンダー要因”もあった。例年、2月の旧正月が今年は1月だったため、工場が稼働する平日が例年と比べ少なく、その分輸出も減った。旧正月要因か、それとも輸出が落ち込む兆しなのかを見極めようと、2月の貿易収支統計が注目を集めた。
3月1日に発表されたそれは、21億9800万ドルの黒字(暫定値)。知識経済省が「重要品目の輸出が拡大」と威勢よく解説して見せたこともあって 「たったひと月で黒字転換」(中央日報)などと韓国各紙はそれまでの弱気から一転、前向きに報じた。為替市場も好感しウォン高に動いた。だが、このデータ を冷ややかに見る向きも多い。
貿易収支好転のメド立たず
まず、輸出の“拡大”。知識経済省は新聞発表資料で「前年同月比で輸出は22.7%増えた」と誇った。だが、今年の2月はうるう年だったうえ旧正月もなかったため平日が23%増えた。それを考えれば「横ばい」が正しい。
「旧正月のずれ」を調整するために、中国では1月と2月の数字を合算して前年と比べるのが普通だ。この方式で韓国の今年1月と2月を足して計算すると、 貿易黒字はふた月合わせて1億6500万ドルに過ぎない。2011年の1+2月が25億4700万ドルの黒字だったことを考えると、黒字はないに等しい。
関税庁が集計した2月1日から20日までの通関統計によると輸出額は292億ドル、輸入額は311億ドルで19億ドルの赤字だった。最後の9日間で輸出 が62%増えた半面、輸入は45%しか伸びなかったことになる。2カ月連続の赤字を避けるために、企業に輸出報告を前倒しで出させる一方、輸入承認を遅ら せた、と疑う人さえいる。
いずれにせよ、トントンだった1、2月と比べ今後の貿易収支が劇的に好転するとは予想しにくい。イラン情勢の膠着状態が続いて原油価格が高止まりする一方、世界景気の暗雲は晴れず船舶や自動車など韓国の輸出は頭打ちになる可能性が高いからだ。
「日本のスワップで危機は20%以下に」
欧州の金融危機が再び発火した昨年秋、新興国からは一斉に資本が逃避した。ことに韓国からの逃げ足が速かったのは「新興国平均の2倍に相当する、国内総生産(GDP)対比8%以上のホットマネーが純流入していた」(韓国銀行の金融安定報告書)からだ。
韓国のウォンは9月初めには1ドル=1060ウォンだったのが1カ月で1200ウォンに急落した。韓国政府や韓国銀行は「3000億ドルの外貨準備があ るから大丈夫」と繰り返し声明、デフォルトの心配を打ち消そうとした。しかし、国際金融界では「韓国の外準の相当部分は、いざとなったらドルに替えられな い債券の購入に充てられている」と見切っており、ウォン売りは止まらなかった。
外貨に窮した李明博大統領は10月13日の米韓首脳会談でオバマ大統領に通貨スワップの締結を要請。しかし「世界中でドルが不足する今、韓国だけにスワップ枠を与えることはできないと断られたようだ」(国際金融専門家)。
そこで韓国は10月19日に日本からスワップ枠を700億ドルに増やす約束を取り付けた。朝鮮日報の宋煕永・論説主幹は「これで通貨危機に陥る可能性は 20%以下に落ちた」と書いた。さらに10月26日、韓国は中国からもスワップ枠を3600億元(560億ドル相当)に拡大する約束を得た。急落の淵に あったウォンはようやく1ドル=1100ウォン前後に落ち着いた。
スワップ後、手のひらを返した韓国
抗生物質のように劇的に効いてウォン売りを抑えた日・中とのスワップだが、今、その効果を疑う向きが出て来た。韓国が日本や中国と外交摩擦を起こし始めたからだ。
李明博大統領は日本とのスワップ増枠を取り付けるやいなや、突然「韓国人従軍慰安婦に補償しろ」と日本に要求し始めた。12月の日韓首脳会談でも李明博 大統領の発言は従軍慰安婦に文字通り終始した。「なぜ終わった問題を今になって持ち出すのか」と日本人は驚き、反発した。
前々から民主党政権の“土下座外交”に批判的な人々はこのスワップに批判の矢を放ち始めた。当初、「金融と政治は別問題」と語っていた金融専門家も、李 明博大統領の執拗さにはあきれはて「このままだと政治的に延長は難しいかもしれない」と言うようになった。今回のスワップの期限は2012年10月であ る。
こうした空気を受け、アジアとの関係強化を主張する自民党の大物政治家さえも、2月末にある都内の会合で「700億ドルは多すぎる。スワップの枠を減らしたらどうか」と発言した。
中国も怒らせた韓国
韓国は中国も怒らせた。今年2月「中国に脱出した北朝鮮の人々を北に送還するな」と突然、中国に要求したからだ。「金正恩体制下では彼らは処刑されるか もしれない」という理由だ。しかし、これまで韓国政府は積極的に北の住民を受け入れて来たわけではない。亡命を申請した脱北者を韓国の在外公館が追い返し たこともある。韓国社会には“北からの厄介者”が増えるのを厭う空気が濃いし、外交官も手間を増やしたがらない。
中国にとって韓国は「脱北者の受け入れをあれほど嫌がっていたクセに突然、中国を悪者にし、米国を後ろ盾に国連の場で中国を『人権蹂躙国家』と決めつける」不愉快極まりない存在となった。
中韓スワップの期限は2014年10月。まだ、2年間半は有効だが、韓国が今後も執拗な中国批判を続ければ「韓国がいざ困って外貨を貸してくれと頼んだ 時、中国がすんなり応じるのだろうか」と市場は疑うだろう。中国が実際にどう行動するかはともかく、市場がそう疑っただけでウォン売りは始まるのだ。
外に「悪者」が必要な任期末
韓国はなぜ、自分の首を絞めるような外交を展開するのだろうか。外国に何か要求するにしろ、もっと穏やかなやり方があるはずだ。
韓国の大統領の任期は5年間で重任はない。政権末期には役人もそっぽを向くし、メディアも異常な叩き方をする。退任後は自身や家族の不正腐敗を徹底的に 暴かれ、完膚なきまでにいやしめられる。例外はない。李明博大統領も残りの任期1年を切った今、実兄らの不正が相次ぎ糾弾され始めた。
1987年の民主化以降の4人の大統領のうち、1人は自身が、2人が子供を収監された。もう1人は自殺した。こんな悲惨な結末を予感した任期末の大統領 は、自身に向かって来る国民の怒りをそらすのに必死になる。一番効果的と彼らが信じるのが外に「悪者」を作りだすことだ。
1997年は金泳三大統領の「政権最後の1年」だった。日米両国との関係を悪化させていたところに通貨危機に襲われた。米国は韓国を助けず、日本にも助けないよう指示した。韓国はやむなくIMFに救済を求める羽目に陥った。
「政権末の1年、必ず経済危機」
「最後の1年の迷走」は、外交だけではない。民主化以降の歴代政権は人気取りのために景気過熱を演出、あるいは放置し、経済危機を生んできたと言って過言ではない。金泳三政権の「1997年危機」の根には企業の異常な借入金拡大があった。
金大中政権も内需拡大を狙い信用カードによる決済を広めたが、誰にでもカードを発行させたため、任期最後の1年の2002年に大量の個人破産者が生まれ 大問題になった。2008年の「準通貨危機」も盧武鉉政権時代の失敗のツケを次の李明博政権が任期初年度に支払った側面が濃い。景気の過熱で輸入が急増 し、2005年以降、黒字が急減していたのだ。
李明博政権も家計負債の急増や退職者の生活難、建設・造船・海運業界で相次ぐ破綻など、様々な構造的問題に直面している。しかし、大統領への批判の火消しに追われ、対策は手つかずのままだ。
ついに2月26日、国民が密かに恐れていることを毎日経済新聞(ネット版)がずばりと書いた。見出しは「政権末の1年、必ず経済危機……今回は?」である。
鈴置高史さんの近著
『朝鮮半島201Z年』
(日本経済新聞出版社、1900円+税)
朝鮮半島の近将来を予測したシナリオ小説。
「すでに一部は現実のものとなっている」
「最近の事件や政治情勢の現実とリンクして書かれており、冷や汗をかいてしまった」(amazon.co.jpのブックレビューから)。
早読み 深読み 朝鮮半島
朝鮮半島情勢を軸に、アジアのこれからを読み解いていくコラム。著者は日本経済新聞の編集委員。朝鮮半島の将来を予測したシナリオ的小説『朝鮮半島 201Z年』を刊行している。その中で登場人物に「しかし今、韓国研究は面白いでしょう。中国が軸となってモノゴトが動くようになったので、皆、中国をカ バーしたがる。だけど、日本の風上にある韓国を観察することで“中国台風”の進路や強さ、被害をいち早く予想できる」と語らせている。
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鈴置 高史(すずおき・たかぶみ)
日本経済新聞社編集局長付編集委員。
1954年、愛知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。
77年、日本経済新聞社に入社、産業部に配属。大阪経済部、東大阪分室を経てソウル特派員(87〜92年)、香港特派員(99〜03年と06〜08年)。04年から05年まで経済解説部長。
95〜96年にハーバード大学日米関係プログラム研究員、06年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)ジェファーソン・プログラム・フェロー。
論文・著書は「From Flying Geese to Round Robin: The Emergence of Powerful Asian Companies and the Collapse of Japan’s Keiretsu (Harvard University, 1996) 」、「韓国経済何が問題か」(韓国生産性本部、92年、韓国語)、小説「朝鮮半島201Z年」(日本経済新聞出版社、2010年)。
「中国の工場現場を歩き中国経済のぼっ興を描いた」として02年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。
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