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「[その5]消費税に取って代わるべき税制:「小売売上税」への変更で消費税にまつわるデタラメは解消」(http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/309.html)の補足として投稿するものです。
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[その5]で、消費税に代わる税制として「小売売上税」を取り上げたので、米国で採用されている「売上税」がどのような税制なのか簡単に説明させていただく。
■ 日本の消費税と米国型「売上税」は似て非なるもの
ニューヨークやロスで買い物をすると、表示価格に税金を加えた額を支払わなければならない。その税金が「売上税」である。
「売上税」の税率が7%なら、120ドルのシャツを買うと、税金8.4ドルを加算した128.4ドルを支払うことになる。レシートにも、本体価格の合計とそれに対するTAXが明記される。
「外税」時代の消費税を経験した人なら、米国にも同じような税金があると思うだろう。
米国の「売上税」は州税として導入されているので、税率をはじめ仕組みは州によって異なる。現時点で、5つの州を除く、45州と首都ワシントンD.C.で導入されている。
「売上税」が導入されるきっかけになったのは、“大恐慌”のなかで陥った州政府の財政難である。歳入は減る一方なのに福祉などで求められる歳出は膨らむ一方という財政状況に置かれた州政府が、手探りのなかで実施していった税制である。
その後、廃止→再導入といった紆余曲折を経る州もあったが、70年までに現在と同じ45州まで導入が進んだ。
(※ 「大恐慌」でどの州も例外なく困窮した州政府財政を究極的に支えたのは連邦政府からの補助金である。「大恐慌」から第二次世界大戦へという時代を経るなかで、州政府に対する連邦政府の優位性が高まったと言える)
限られた数しか読んでいないが、米国の「売上税」に関する日本語の説明は、日本の消費税は流通すべての段階で課税される多段階課税、「売上税」は小売段階(最終消費者向け販売)だけの単段階課税という違いで、消費者が最終的に税を負担することについては同じなので、両者は本質的に変わらないといったニュアンスになっている。
しかし、消費税と米国型「売上税」は、内実を考えれば、月とスッポンほど違うことがわかる。
● 米国型「売上税」の概要
米国型「売上税」がどういう税なのか、ざっと確認しよう。
米国型「売上税」は、小売段階に課税される点はどの州も共通だが、課税対象の違いで3種類あり、消費者の納税義務を法で定めている場合とそうでない場合がある。
課税対象は、販売事業者の総収入、販売価格、総収入と販売価格の混合と3種類に分かれている。
税率は2.9%から7%の範囲でばらばらだが、市税などが付加されることもあり、買い物で実際に負担する「売上税」の税率は、州税の規定よりも高くなることがある。
ハワイ州などは、総収入を課税対象とし、税を明示して消費者に負担を求めることを認めていない。
多段階課税の消費税に比べると適用しやすいというもあり、課税除外・軽減税率・割増税率などが採り入れられている。
食品(家庭調理用)・処方薬・電力・ガスなどは多くの州で免税になっているが、米国らしく、種子・肥料から農業機械まで農業用途の品目が免税になっている州もけっこう多い。工業用機械なども少なからぬ州で免税になっている。
DIYの主要取り扱い品目が免税になりやすいとイメージすればわかりやすいかもしれない。
禁酒法が施行されたくらいで敬虔なキリスト教徒も多いことから、酒類に割増税率をかけている州も少なくない。
● 消費税と米国「売上税」の違い
買い物に付随する税であることなど外見が似ているので、消費者にとっては、米国の「売上税」と消費税はほとんど変わらない税のように思える。しかし、その内実を見ると、まるで違う税であることがわかる。
「売上税」は、家計が手にした可処分所得の実質購買力を殺ぐことでは消費税と同じである。しかし、消費税とは違い、事業者の経営の在り方を変えさせていくロジックは内包していない。
消費税は、会計上は同じ売上金額と同じ原価でも、事業者の経営実態に深く係わるロジックで課税されるので、納付(負担)する税額が異なる。
消費税は、販売価格全体ではなく、販売価格の特定部分に課税するものなので、同じ販売価格でも、販売価格を構成している要素の割合を変えることで税負担を軽くすることもできる。
消費税は、[その3]で説明したように、付加価値のなかでも「人件費(直接雇用者分)+支払利息+賃貸料・地代+租税公課(損金算入可能分)+純利益(配当・内部留保・役員賞与)」の原資になる範囲が課税ベースなので、なかでも70%を占める人件費を減少させることで消費税の負担をぐんと軽くできる。
消費税法の規定から、短期の雇用契約やアルバイトを含む直接雇用の人たちに支払う給与部分は課税対象なのに、“ハケン”や外注に支払う経費は消費税の課税対象外だからである。
一方、販売価格そのものを課税の対象とする「売上税」は、販売価格が税額をストレートに決める。だから、課税の仕組みが事業者の経営内部にまで影響を及ぼすことはない。
「売上税」が事業者の経営に及ぼす影響は、自由主義競争のなかで商売する限り逃れられない価格競争が少し強められる程度である。販売価格に税率が乗じられるので、販売価格が他の店より高いと、課税後の支払い額の差はさらに広がるからである。
このようなことから、税制で重要なポイントとされる「経済活動に対する中立性」原則に照らせば、「売上税」のほうが消費税(付加価値税)より優れていると言える。
● 「売上税」の問題点
米国の「売上税」は、導入当初から、州境付近や国境付近で「売上税」がより低い州や課税がない隣接国や州で買い物する動きが問題になった。その結果、対応策として「利用税」が設定された。
「利用税」は、州外で購入した物品を州内で使う場合に徴収されるもので、シアーズのような店舗・通販混合型小売業や登録が必要な自動車などではそれなりに機能してきたが、個人の日常的な買い物に適用できるものではない。
「売上税」を導入していない州、たとえば、ニューハンプシャー州は、近隣州から非課税目当てでやってくる買い物客を当て込み、増加が見込まれる所得税収入に期待しているという。「売上税」がないことで特殊な余禄が生じ、財政的に「売上税」を導入する必要がないという構図である。
「売上税」に係わる問題では、新しいビジネスモデルが論議の的となっている。
日本の税務当局とも法人税をめぐり争った(米国連邦政府との協議で日本政府が敗北)アマゾン・ドット・コムのように、州や国家を超えてまるで地球という抽象的な地で商売をしているようなビジネススタイルがはびこると、「売上税」が課税される書店と課税されない書店が正面から競争しなければならないという不公平問題が起きる。
端から7%といった「売上税」分のアドバンテージを持ち、品揃えも豊富で、大量仕入れのメリットで本体価格も安くできるのでは、店舗型書店はとてもじゃないが対抗できない。
実際、税収の落ち込みから、アマゾン・ドット・コムに州内消費者の購入分について「売上税」(「利用税」)を納付するよう求める訴訟も行われてきた。この訴訟の背景には、アマゾンの影響を受けて売上を減らす地元書店の存在もある。
アマゾン・ドット・コムのように本社でさえ店舗を持たず、配送システムと決済システムをうまく活用して商売しているような場合、米国型連邦制の制約から、州政府が徴税を行うことは難しい。
アマゾン的小売業は今後増加すると予測できるが、それはともかく、米国型連邦制は、幸か不幸か、多段階(州際取引になりやすい)に課税する付加価値税の導入を阻む要素になっている。
州の独立性が今なお根強く残る米国では、州をまたいで課税と納税が連なっていく多段階の付加価値税導入は難しいだろう。
● 消費税増税で出てきた低所得者向け保護政策と「売上税」
消費税増税の動きともに、軽減税率の採用は見送りになりそうだが、給付付き税額控除や低所得者向け補助金が政策テーマとして浮上してきた。
「売上税」は、シンプルな課税方式なので、「売上税」に対する低所得者支援政策も実施しやすい。
基礎的生活費を見積もり、その金額に「売上税」の税率を乗じた金額を補助金にすれば対策になる。
その費用は納税者全体が負担することになるが、負担と納付の関係が明瞭だから、そのほとんどが税収として戻ってくるため、一回性の負担で済む。
仮に、補助金が贅沢品の買い物ばかりに使われたとしても、公的負担と回収と言う点では問題がない。補助金に相当する「売上税」が発生する買い物がされる限り、税率がアップするまでは「補助金→税収→補助金→」というリサイクルでまかなえる。
プライバシー問題や処理の煩雑さをいとわなければ、指定品目を買ったレシートを提示した低所得者に税金分を還付するといった方法も採れる。
消費税も、理屈上は補助金が税収として戻ってくるはずだが、「輸出戻し税」などもあり負担と納付の関係が一様ではないため、特定事業者の付加価値増加に貢献するだけで終わる可能性もある。
販売価格だけでは税部分と本体部分の分離ができない消費税は、低所得者に消費税増税対策補助金を給付しても、その効用が誰のものになるのかわからない。
消費税は、課税ベースが特定の付加価値で流通の多段階で課税される仕組みだから、消費税の重荷から逃げ出せない事業者は誰なのか、消費税負担というババをうまく第三者に回している事業者は誰なのか、購入品は増税前の付加価値と比べて増税後にどう増減しているのかなど、詳細な調査をしなければ、消費税増税対策補助金がまともに機能しているかどうかチェックできない。
言えることは、補助金が配られることで家計部門の可処分所得総額が増えるので、消費税の負担を消費者に付け回ししやすくなるかもしれないということだ。これとて、とっくに付け回している事業者の粗利益をさらに増やす役割で終わってしまう可能性さえある。
経済論理的に考えると、低所得者に給付した「消費税増税対策補助金」は、補助を受けた低所得者も買うことがある品目で強い価格支配力を持つ流通段階の特定事業者(小売かメーカーかはわからないが)の“消費税転嫁”に貢献することになる。
消費税では、社会政策的な目的で「非課税」になっている取引がある。
[その4]で説明したように、「非課税」取引は、収入に課税されないのはいいとしても、仕入で消費税を負担していても控除することができないから、税抜きの販売価格を引き上げない限り、事業者が一方的な税負担を被ることになる。
この問題も、「売上税」なら、対象取引を課税除外品目にすることで誰もバチを被らないで済む。
■ 法人税の代替案として浮上した付加価値税(BAT)とは
米国の「売上税」を取り上げたついでに、米国連邦政府が法人税改革案の一つとして提示した「法人付加価値税」について簡単に触れたい。
基本情報は、みずほ総合研究所の「みずほ政策インサイト」2008年5月28日発行「米国BAT提案の評価 〜付加価値税に関する一考察〜」(http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/policy-insight/MSI080528.pdf)を参考にした。
(※ みずほのレポートは、すっきり割り切って、利益課税の法人税を付加価値課税の法人税に変えるという考えのBATと、ウソやマヤカシの説明で「間接税」のフリをさせている消費税を同じ俎上に載せて論じているので、ちぐはぐのおかしなコメントになっている部分が多々ある)
ブッシュJr.大統領時代の07年に、米国連邦政府は、米国の企業競争力を高めるという触れ込みで、法人税の改革に関するレポートが提示した。(U.S.Department of the Treasury,2007b)
改革案は3つ示されており、そのなかの一つが、法人税を廃止して事業活動税(Business Activity Tax,BAT)に衣替えしようというものである。
(※ 他の二つは、「租税歳出措置」(特例を設け課税を除外することを「隠れた歳出」と捉えて付けられた米国流の概念:日本で言うところの「租税特別措置」)の全廃で課税ベースを広げ、それで得られる増収分を法人税率引き下げもしくは設備投資の加速度償却に充てるという案と、現行法人税の欠点を部分的に改めるという案である)
BATの課税方式は、消費税や欧州諸国VATの「前段階税額控除方式」ではなく、「仕入高控除方式」が考えられている。
私も好きだが(笑)、「仕入高控除方式」は、売上を通じた税の転嫁や仕入での税負担といった問題を考慮することなく、売上から機械設備などの資本財を含む仕入を控除した付加価値にストレートに課税する考え方である。
輸出で生み出した
(※ 日本の消費税は、インボイス制度を採用せず、非課税仕入分も税込みで控除できるので、BATが採用を考えている「仕入高控除方式」に近いと言える)
現在の連邦法人税の税収を賄うために必要なBATの税率として、5〜6%が想定されている。
「仕入高控除方式」は、付加価値税に対する考え方を如実に示している。
米国連邦政府は、付加価値税を「間接税」と考えず、税負担の転嫁問題を税制に持ち込むこともしないという姿勢をしっかり見せたのである。
(※ 「国境税調整」は、仕向地主義というだけで、非課税措置があるのか、「仕入高控除方式」でどのように処理するのかは不明。法人税の代替であれば、輸出を特別に扱う必要はないと考える)
07年のレポートで、BATは、配当の法人税と所得税の二重課税を解消することで投資課税を軽減させるので、資本形成(設備投資など)が増大して生産性が上がり、それにつれ、国民生活の水準も上がることから、国民も広くその恩恵を受けると説明している。
資本形成以後の後半部分は経済状況や他の政策との関係でどうなるか一概には言えないが、前半部分は誤りである。
BATは、付加価値を課税ベースとしているので、消費税と同じく、配当の原資にも当然のように課税されるから、配当の二重課税が解消されるわけではない。
法人税とBATのどちらが有利なのかは、損益が黒字か赤字か、付加価値に占める純利益の比率が高いか低いかなどで変わってくる。
確実に言えるのは、BATは赤字決算の企業にも課税される法人税なので、それで増える税収が黒字決算の企業の法人税負担の軽減に利用できるということである。
簡単な例で、ケース別に、法人税が得かBATが得かを算出してみた。
法人税税率を30%、BAT税率を5%に設定した。
付加価値は、売上(収入)から仕入を差し引いた金額で、諸経費は「人件費・利子・賃貸料・租税公課(損金算入可能な税)」とする。
[Aケース]
付加価値:100
諸経費: 80
純利益: 20(対付加価値純利益20%)
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法人税: 6
BAT: 5
[Bケース]
付加価値:100
諸経費: 60
純利益: 40(対付加価値純利益40%)
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法人税: 12
BAT: 5
[Cケース]
付加価値:100
諸経費: 90
純利益: 10(対付加価値純利益10%)
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法人税: 3
BAT: 5
[Dケース]
付加価値:100
諸経費:100
純利益: 0(対付加価値純利益0%)
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法人税: 0
BAT: 5
設定税率の違いで結果は変わるが、BATの導入により、赤字決算企業は一気に税負担が増え、付加価値に占める純利益の割合が低い企業も負担が増すと考えられる。
法人税からBATに変更することで得するのは、付加価値に占める純利益の割合が高い企業ということになるだろう。
米国支配層の率直さというべきか潔さというべきか、米国財務省は、BATは賃金への課税強化になるので経済成長をある程度阻害するという表現で、消費税の内実で説明した付加価値税が給与に対する所得税との“二重課税”であることを認めている。
BATの善し悪しはともかく、米国の官僚や学者のほうがストレートな議論をしているように思える。
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