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エルピーダメモリの破綻が示唆する日本の問題
極度の近視になった政治家、企業経営者、年金運用者
2012.03.03(土)
川嶋 諭:プロフィール
つい先日、ある上場企業のトップに民主党の最高幹部から電話がかかってきたという。その内容は「経団連には期待できない。加盟企業以外のところに頑張ってもらわなければ日本の未来は危うい」というものだったそうだ。
経団連加盟企業からはもう税金が期待できない!
日本の高度成長を支えてきた経団連に加盟する多くの企業はいまや成長戦略が描けず、日本政府としてこれからの税収が期待できないということらしい。
この電話を受けた企業トップは「民主党もようやく与党らしくなって経済のことが分かってきたか」と笑う。
しかし、経団連に加盟していない企業となると、主にサービス産業の大企業か中小企業ということになる。
野田佳彦首相が党首討論の直前に自民党の谷垣禎一総裁と密会するという大きなリスクまで取って進める消費税増税は、まさにサービス産業や中小企業を直撃する。
与党らしくなってきたのは結構だが、期待と戦略がまるでかみ合っていないようだ。
いまの日本にはお勉強をしている余裕は全くない。政治家は素人でもサラリーマンでも困る。プロ中のプロであってほしいものだが、政治家が日本のビジョンを示せない中、日本経済は着実に疲弊し続けている。
今週破綻したエルピーダメモリがその典型例だろう。製造業最大の負債を抱えた日の丸半導体メーカーの倒産は、様々な意味で日本の問題点を改めて示してくれた。
1つは日本的な「親方日の丸」経営では国際競争力を持てないということだ。
この点を前からしてくれているのが、JBpressの人気コラムニストの1人である湯之上隆氏だ。エルピーダの破綻直後に寄稿してもらった「エルピーダよ、2度目の敗戦を無駄にするな」も非常によく読まれている。
日立製作所とNECの対等合併で誕生した日の丸を背負った半導体メーカーは、坂本幸雄社長という日本体育大学出身の異色カリスマ経営者を戴いても激しい国際競争の中で勝ち残ることができなかった。
湯之上さんは、「経営破綻の原因を、DRAM価格の下落、歴史的円高、震災、タイの洪水にあるとしているが、全員間違っている。これらの要因は、経営破綻のトリガーになったに過ぎない。経営破綻の本質的な原因は、ここにはない」と指摘している。
真の原因は「過剰技術で過剰品質を作る病気にある」と言う。バブル経済が崩壊したあと、半導体産業だけでなく日本の産業全体の問題としてことあるごとに指摘されてきたことだが、いまだにこの問題を引きずっているとしたら、まさに経営の問題である。
日産も日本航空もそしてエルピーダメモリも
フランスのルノーに救済されカルロス・ゴーンという経営者を得て蘇った日産自動車も、まさにこの問題を自ら解決できなかったことが不振の原因だった。
会社更生法を申請し京セラから稲盛和夫という名経営者を戴いて復活した日本航空も、過剰サービス高コスト体質が分かっていながら自ら抜け出すことができなかった。
エルピーダメモリの坂本社長は大学卒業後に日本テキサス・インスツルメンツに入社し、外資系企業からたっぷりと「経営」を学んだ。その後、神戸製鋼所の半導体部長などを経て、日の丸半導体メーカーのエルピーダメモリから請われる形で社長に就任した。
日本人離れした決断力、飛び抜けた営業力で知られるが、その力を持ってしても、技術オリエンテッドで、かつ日立、NECという日本を代表する官僚化した大企業の組織の壁を突き破れなかったということだろう。
今回、会社更生法という形を選んだことで、そうしたしがらみが外れれば、復活した日産や日本航空のように、再生してくれる可能性はある。ぜひ蘇ってもらいたい。
古くさい言葉だが、半導体は産業のコメと言われてきた。ご存じない方も多いかもしれないが、米国のIBMは今でも半導体メーカーである。韓国のサムスン電子のように自動化された大量生産工場は持っていないだけで、世界最先端の半導体メーカーであり続けている。
以前、ニューヨーク州イーストフィッシュキルというところにあるIBMの半導体部門に取材に行ったことがある。そこで見たのは、韓国や日本の半導体工場とは相当違った工場だった。クリーンルームの中で働いている人の多いこと。自動化はほとんどされていなかった。
その理由は、自動化するとそこで技術発展が止まるからだ。新しい半導体技術には新しい生産技術がいる。ここの製造責任者から「IBMの半導体工場では作業員が1日に1万メートルは歩くんですよ」と説明されてびっくりしたことをよく覚えている。
IBMのイーストフィッシュキル工場では当時、マルチコア技術とともに半導体の発熱を抑える技術の開発が行われていた。
現在、私たちのパソコンなどではマルチコアのプロセッサーが当たり前になりつつあるが、それを生み出したのは半導体専業のインテルではなく、IBMだったのだ。発熱を抑える技術も、ノートパソコンやスマートフォンには不可欠となっている。
もはやDRAMは日本にはいらないと断じる向きもあるようだが、将来性のない原発技術は捨てたとしても将来性ある半導体技術は簡単に捨てるべきではないのではなかろうか。
エルピーダを破綻させた円高政策
湯之上さんは「経営破綻のトリガーにすぎない」と言うが、円高の問題もエルピーダメモリの破綻を機に、私たちは認識を新たにすべきだろう。
5年前に1円が約8ウォンだった日韓の為替レートはいま、13.67(3月2日午後4時)ウォンとなっている。ウォンに対しては実に7割もの円高となっている。
ここに国策で日本の半分以下に設定されている電力料金(「電力がぶ飲み大国・韓国の現実」)と低い法人税という条件が加わって、日本の半導体メーカー、電機メーカーは韓国勢と戦わなければならないのだ。
米国、欧州など世界中が通貨安政策を取る中、日本が円高を放置してきたことがエルピーダメモリの破綻につながったことは確かである。いや、「放置」というのは正しくない表現かもしれない。積極的な円高政策と呼んだ方がいい。
デフレ政策を続ける方が、日銀が金科玉条としている物価の安定を守ることができ、また名目金利が上がらないために、膨大な赤字を続ける日本政府が金利地獄による破綻から延命できるからである。
一方、金融機関にとっては実質金利が高いために、国民から預かった資金を国債で運用すれば何もせずに巨額の利益が転がり込んでくる。
日本の金融村にとって、現状維持こそが最善の策であり、エルピーダメモリなど産業界はどうなってもいいのである。「いやなら勝手に倒産するか日本から出ていけ」ということだろう。
さて、AIJ投資顧問が受託していた約2000億円の年金資金の約9割が消失した事件も日本が抱える重要な問題が含まれている。この記事(「日本の企業年金基金が危ない! AIJの破たんで明らかになったお粗末な実態」)がそれを指摘している。
日本ユニシスやコスモ石油、大日本印刷も
AIJが運用成績を虚偽記載していた疑いが浮上し、昨年12月末時点でAIJに運用委託していた企業には、日本ユニシス、コスモ石油、ライオン、大日本印刷などの大手企業も含まれていることが明らかになったと共同通信が伝えている。
『日本の企業年金基金が危ない!』の筆者、福原正大(まさひろ)氏は、AIJが標榜していたような運用実績、特にリーマン・ショックの前も後もプラスというのは神様以外にはあり得ない運用成績だとしている。
それなのに、プロであるべき年金基金運用担当者がこうした不可解な運用成績を信じたのはなぜなのか。福原氏は次の3つの理由を上げている。
第1に、こうした膨大な資金を運用する年金基金の運用担当者が投資について素人である場合が多いこと。企業の人事異動の一環として年金運用担当者になるわけだ。
第2には、「ヘッジファンド」という言葉に幻想を抱いている人が多いこと。ヘッジファンドの運用の仕組みやリスクを正しく理解せず、漠然とリターンの良さに期待するケースが多い。
第3は、年金基金の運用担当者が、現在の経済金融情勢ではあり得ないリターンを、企業の経営者から求められているという点。こうした状況で「一発逆転」を狙いたい年金運用者は、AIJの「見せかけの」運用成績に目がくらんでしまうのだろう。
しかし、企業年金連合会の調査による2000年度以降の実現リターンを基にした試算の結論について筆者の福原氏は、「誤解を恐れず簡単に言えば、現在多くの年金基金の試算では、将来の年金給付が賄えない状況になっている。ある種の破綻状態にあるのです」と述べている。
金融庁はAIJの問題を重く見て、投資顧問会社の一斉調査に乗り出すのは当然だが、こうしたずさんな投資顧問会社を野放しにしたお上を批判するのは少し筋違いだ。
政治家も企業経営者も年金の運用担当者もプロ意識が乏しすぎる。みな半径3メートルほどのことにしか興味がなく、本当の責任を果たしていない。AIJの事件で明らかになったなったのはこの点にほかならない。
今週のランキング 順位 タイトル
1 日本の企業年金基金が危ない!
2 欧州自動車メーカーの苦悩
3 頻発するストもたちまち解決、中国人の若きリーダー
4 エルピーダよ、2度目の敗戦を無駄にするな
5 日本の電機産業:頂点からの転落
6 若者の間で激増している「できちゃった婚」
7 輸入車15台に一気乗りで体感!
8 三十路を超えた女は年下の男にロックオン
9 橋下市長の職員アンケート、隠された本当の狙いとは
10 薄熙来失脚? 両極端に振れる中国内政のパターン
11 ソニーはどこへ向かうのか
12 もう背中すら見えない韓国の先頭集団
13 教育の国際化:世界から完全に取り残された日本
14 ロシアの対日恫喝を取り上げた中国の意図
15 民主主義の成熟度が試されている
16 中国経済:激変する出稼ぎ事情
17 ギリシャが全面的にデフォルトする日
18 長期株高が始まった
19 不本意な回り道こそ、大きな発展への近道
20 次の世界金融危機は中国発か?
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34677
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