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http://diamond.jp/articles/-/16392
もし日本が経常赤字になったら経済はどうなる? ドイツに学ぶビジネス振興策のススメ
1963年以来の赤字に転じた
貿易収支
昨年の我が国の貿易収支は、国際収支ベースでも1963年以来の赤字に転落した。背景には、東日本大震災に伴うサプライチェーンの寸断よる輸出減と、原発事故に伴う火力発電の燃料増加による輸入増がある。
さらに、産業空洞化による輸出減が継続し、資源価格高騰により輸入増も継続することから、東日本大震災で我が国の経常赤字化が前倒しになった可能性が高く、一部では2010年代半ばにも経常赤字になると見方もある(図表1)。
日本が仮に経常赤字に転落すれば、円安や金利上昇、交易条件の悪化に加え、財政問題など様々な経路を通じて日本経済に大きな影響を及ぼすことが想定され、我々生活者へも影響を及ぼす。
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経常赤字への転落は、様々な経路を通じてマクロ経済に影響を及ぼす(図表2)。第1に、国内余剰資金の枯渇を通じて、新規の国債発行を安定的に消 化しにくくすることが予想される。そして、財政リスクプレミアムの高まりが金利上昇を通じてマクロ経済を縮小させる方向に働く。
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この経路は「国民所得(Y)=消費(C)+投資(I)+海外所得の純受取(X―M)」の関係から導き出される(下の式)。つまり、国民所得(Y) から消費(C)を引くと国内貯蓄(S)となる。このため、国内貯蓄投資差額(S−I)で示される国内の資金余剰が海外所得の純受取(X−M)すなわち経常 収支を示すことになる。つまり、経常赤字転落は国内での国債購入資金の不足を想起させるため、長期金利の上昇をもたらすのである。
【国内貯蓄投資差額と経常収支の関係】
●Y=C+I+X−M
●→Y−C−I=XーM
●→S−I=X−M
●→ISバランス=経常収支
Y:国民所得、C:消費、I:投資、X:海外所得受取、M:海外所得支払、S:貯蓄
第2に、経常赤字転落は通貨の調整をもたらす。そして、輸出価格の低下が我が国の輸出を後押しすることから、企業収益の増加がGDPを拡大させる 方向に働く。半面、輸入価格の上昇が国内物価を押し上げることから、企業収益の圧迫がGDPの押し下げ要因になる。そして、これらの動きによって雇用・所 得環境や物価が変動すれば、国民生活にも影響が及ぶ。
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事実、四半期ベースの経常収支(季節調整値)によれば、経常収支/GDPが▲1%低下すると、 同時に長期金利が+0.19%pt(ポイント)上昇する関係がある(図表3)。赤字が拡大しても成長率の高い国もあるので、経常収支の黒字・赤字と成長 率、金利には一義的な関係はないという議論もある。しかし、日本の場合は図表で分かるように、経験的に黒字が縮小すると、金利が高くなり成長率が低下する といえる。
従って、2011年の経常黒字/名目GDP=2.1%がゼロになるとすれば、同時期の長期金利を+0.40%pt押し上げ、マクロ計量モデルに基 づけば 3年後の実質GDPを▲0.96%程度押し下げる(図表4)。こうした経済活動の縮小は、企業の人件費圧縮を通じて1年目の失業率を+0.29%pt程度 押し上げ、単位時間当たり賃金は3年目に▲1.53%程度押し下げると試算される。
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一方、経常収支が赤字に落ち込んだ場合、通貨が下落することで輸出競争力が改善に転じ、それが 経常収支の赤字を改善させるというメカニズムが存在する。事実、我が国でも経常収支/名目GDPが▲1%低下すると、約2年のラグを伴ってドル円レート が+7.4円程度円安になる関係がある(図表5)。
この関係から、2011年の経常黒字/名目GDPの消滅は2年後のドル円レートを+15円程度円安にする効果を持つ。そして、マクロ計量モデルに 基づけば3年間で実質GDPを+0.36%程度押し上げる一方、失業率を▲0.19%pt程度押し下げ、単位時間当たり賃金を+0.49%程度押し上げる と試算される(図表6)。
次のページ>> GDPへの影響は3年後に▲0.8%程度
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一方、+15円程度の円安は、円ベースの原油価格を+19%程度押し上げることを通じて、3年 後の実質GDPを▲0.21%程度押し下げ、消費者物価を+0.46%押し上げる。そして、単位時間当たり賃金を▲0.45%押し下げ、失業率 を+0.10%pt押し上げると試算される(図表7)。
以上の影響を勘案すると、最終的に2011年時点の経常黒字/名目GDP=2.1%が無くなる影響は、我が国の実質GDPを3年後に▲0.81% (=−0.96+0.36−0.21)、単位時間当たり賃金を▲1.49%(=−1.53+0.49−0.45)それぞれ押し下げ、1年目の失業率 を+0.25%pt押し上げることになる。これは、16.7万人の失業者の発生と実質GDPの4.1兆円減少をもたらすインパクトである(図表8)。
示唆に富むドイツの
経常収支構造
以上の試算は、現時点で経常黒字が消滅することを想定して、その影響に焦点を当てたものであり、筆者の試算では国内の高齢化やデフレが投資率を抑制するため、経常赤字転落は2020年代以降になると考える。
ただ、仮に証券投資受取を中心とした所得収支により経常黒字が維持されたとしても、国内の雇用にはつながりにくい。グローバル企業が日本国内で雇 用を創出する環境を作るには、法人税率の世界水準並みへの引き下げや、世界的に遅れをとっている経済連携協定(EPA)の構築、さらには実力見合いで高す ぎる円高是正策が求められる。その意味では、貿易収支は経常収支の一部分ではあるものの、国内雇用面への影響を見るうえでは大きなポイントとなる。
次のページ>> 示唆に富むドイツの経常収支構造
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こうした中、日本とドイツは共に輸出依存度が高く、製造業が強いなど経済構造が類似していると言われており、日本は1981年以降、ドイツは 2001年以降、経常収支の黒字が継続している(図表9)。しかし、日・独の経常収支の内訳を見ると、ドイツの経常収支の黒字は貿易収支への依存度が高い のに対して、日本の経常黒字は所得収支が経常収支の黒字を押し上げている。
一方、日本の2010年の対外直接投資残高は世界第8位だが、ドイツは4位で日本の1.7倍の規模である(図表10)。
さらに、日本の対外直接投資/GDP比率の拡大が緩やかであるのに対し、ドイツは急速な拡大を示している。この結果、ドイツの対外直接投資残高 /GDPは、2010年時点で日本の2.8倍にまで拡大している。また、ドイツは対内直接投資も活発だが、日本は対外直接投資残高に比べて対内直接投資残 高が極めて小さい(図表11)。
次のページ>> 法人税率引下げと経済連携協定網拡大の好影響
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近年著しいドイツの対内外直接投資の増加の背景には、ドイツ政府が2000年代から積極的に推進してきた国内での企業活動促進と、2004年に加速した欧州連合の拡大がある。
ドイツは、国内の企業立地の優位性を高めるために2001年の税制改革で法人税率をそれまでの35〜40%から一律25%に引き下げ、2008年の法人税改革でさらに15%まで引き下げる等、国際競争力強化や経済活性化を積極的に展開してきた(図表12)。
また、経済統合による域内経済の活性化を目的に発足したEUは、2004年には過去最大の10カ国が加盟し、東ヨーロッパ諸国を中心に、人・モノ・サービス・金の自由な域内移動が拡大することになった。
その結果、2011年6月時点でEUの貿易額に占めるFTA(自由貿易)/EPA署名・発効国との貿易額の比率は域内貿易も含めれば74.8%、域内貿易を含まなくても27.2%である。これに対し、我が国は17.6%に過ぎず、その取り組みは遅れている。
さらに、ドイツは現在交渉中のFTA/EPAが発効すると、EUの貿易額に占める82.1%(2010年)、域内貿易を含まなくても同48.4%が将来的に原則非関税となる。つまり、他国の企業がEU加盟国で生産して、EU域内に出荷する製品の大半は非関税となる。
EUは今のところ米国、中国、日本とFTA/EPA交渉に入っておらず、ユーロ圏では通貨も統合されている。従って、EU市場へ製品を売り込む企業にとって、ドイツ進出はメリットが大きくなり、ドイツの対内直接投資が増加しやすくなったと示唆される。
次のページ>> 日本を凌駕する対内外直接投資増加の理由
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対内直接投資の促進は、国内の雇用環境や市場の活性化、貿易の増加など受入国にとっても恩恵が大きい。そこで、2010年まで増加傾向にあったド イツへの対内直接投資額を国・地域別に見ると、2010年に最も多かったのはベルギーで全体の4分の1以上を占め、次に米国となっている(図表13)。
南欧の政府債務問題がより深刻化するまでは、ユーロ安もあってグローバル企業のドイツへの進出意欲が高まり、対独直接投資が拡大した。そして、グローバル企業を誘致したドイツは、国内雇用の拡大や輸出増加による貿易黒字の拡大という恩恵を享受してきた。
ドイツにおいてEU統合の効果が大きかったもう一つの背景に、経済連携の範囲を非関税障壁の撤廃にまで踏み込んだことがある。事実、近年のドイツ の対内直接投資流入額を業種別に見ると、ドイツの対内直接投資に占める非製造業の比率は、2010年時点で製造業を上回っている。EU統合の主要目的の一 つであった非関税障壁撤廃の面でも、積極的な市場開放や自由化を通して、ドイツ経済の活性化が図られてきたと見られる。これに対し、日本では非製造業の対 内直接投資が、2010年に引き揚げ超過となっている。
また、EU統合によって非関税障壁が下がったことで、他の加盟国に対する対外直接投資が加速した点も指摘できる。事実、ドイツ商工会議所連合会 (DIHK)が、昨年3月に発表したドイツ企業の外国直接投資動向に関するアンケート調査結果を見ると、前年に比べて「2011年の投資を拡大する」とし た企業の割合が44%と2010年の2倍になり、2003年以来最高となっている。2004年にEU拡大が加速したことと、ドイツの所得収支が直接投資収 支を中心に黒字に転じたことは、関係があると言わざるを得ない。
以上より、ドイツにおける経済連携協定の拡大効果は、貿易黒字の拡大に止まらなかった可能性が高い。ドイツは法人税率の引き下げによる国際競争力 強化や経済活性化を積極的に展開する中で、EU拡大の効果も相まって、貿易黒字の拡大のみならず、内外直接投資の拡大により、ドイツ国内に立地する企業が グローバルに市場を拡大したと言える。
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こうしたドイツの経験は、日本にとっても大いに示唆に富む。EUの経済連携協定網が貿易額の約8割に達しつつあるのに対し、日本の経済連携協定網はこれまで小国が中心で輸出額に占めるシェアは2割弱にとどまり、経済連携協定に対して消極的である。
また、政府は東日本大震災による電力不足や、欧米債務危機による円高を受けた企業の海外移転加速を危惧して法人税率の引き下げに乗り出したが、そ の一方で復興増税による法人税率の臨時引き上げや各種労働規制の強化などが打ち出されており、政府の産業空洞化対策の本気度が伝わってこない。
さらに、南欧の債務危機により自国通貨のユーロが購買力平価から16.5%の割高にとどまるドイツに対し、金融政策が十分に機能せず、自国通貨の円が購買力平価から33.5%も割高となっている日本は、グローバル需要の取り込みでもハンディを背負っている。
現状は欧州債務問題への対応に苦慮しているドイツだが、人口が減少する中でも、これまで産業立地の優位性を高め、国際競争力強化や経済活性化を積 極的に展開して経済成長を高めてきた。こうしたドイツの経験を教訓とし、我が国でも法人税率の引き下げや経済連携協定網の拡大、円高是正等といったプロビ ジネス的な政策が最優先されるべきだ。
――第一生命経済研究所主席エコノミスト 永濱利廣
な がはま・としひろ/第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト。1971年生まれ。栃木県出身。早稲田大学卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。95年第一生命保険入社。日本経済 研究センターを経て第一生命経済研究所経済調査部へ異動。研究員、主任エコノミストを経て、08年より現職。主な著書は『日本経済のほんとうの見方、考え方』『中学生でもわかる経済学』など。
質問1 日本の経常収支が赤字になると国債金利が上がると思いますか?
上がる
変らない
下がる
一義的には言えない
わからない
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