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日本半導体・敗戦から復興へ
エルピーダよ、2度目の敗戦を無駄にするな 社長とアナリストが語る「負けた原因」は大間違い
2012.03.02(金)
湯之上 隆:プロフィール
「エルピーダが会社更生法を申請」
2月27日、当コラムの読者なら、誰もが知っている悲しくも腹立たしい出来事が起きた。翌28日、TBSの記者からインタビューを申し込まれた。日経新聞や毎日新聞出版の「週刊エコノミスト」などに何度も苦い思いをさせられている私としては、どうしようかと躊躇した。
しかし、私はエルピーダメモリ設立時に唯一手を挙げて出向を志願した元社員であり(NECと喧嘩してたった1年で叩き出されたけれど)、また現在はメルマガでその体験記を連載している。その私がエルピーダを語らずして誰が語るのかという思いから、TBSの取材に応じることにした。
インタビューの収録にはその前後の時間も含めて1時間くらいかかった。TBS往復も含めると4時間くらいを費やしている。
しかし、放映された時間はわずか10秒。言いたかった意見の1万分の1(は大げさだけれど)も伝わらなかった。そして、私は「元エルピーダの“ゆのうえ”さん」と放送された。ガッカリしたことこの上ない(TBSの記者から謝罪の電話があったことは付記しておく)。
止むを得ないので、私が言いたかったことを、本稿に執筆させていただきたい。先月に引き続き、2カ月連続でエルピーダの話題を取り上げるのは、いささか気が引けるところもあるが、ご了解下さい。
坂本社長もアナリストも全員間違っている
時事通信が報道している坂本幸雄社長の記者会見の全文を読んだ。また、新聞やネットニュースなどに掲載されているアナリストたちの意見も見た。
彼らは、経営破綻の原因を、「DRAM価格の下落、歴史的円高、震災、タイの洪水」にあるとしている。
全員、間違っている。
上記に列挙した要因は、経営破綻のトリガーになったに過ぎない。経営破綻の本質的な原因は、ここにはない。
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では、本質的な原因は、どこにあるのか?
まず、エルピーダのDRAMシェアの推移を見ていただきたい(図1)。エルピーダ設立時に、NECと日立製作所の合計シェアは、約17%だった。対等合併による社内の混乱と摩擦(簡単に言えばNECと日立の壮絶なバトル)により、設立2年でシェアは4%にまで急落した。
図1 エルピーダのDRAMシェアの推移(ガートナーおよびiSuppliのデータなどを基に筆者作成)
(この混乱と摩擦については、2010年3月16日の記事『「1+1」が1にもならなかった日本半導体再編』にて報告した。また、もっとリアルな私の体験記を有料メルマガにて配信中である)
誰もがエルピーダは潰れるか、またはNECに吸収されると思っていたが、2002年10月、坂本社長が就任後、V字回復を遂げ始めた。これには、坂本社長のトップマネジメントと、少数加わっている三菱電機社員が大きく貢献したことを、2010年4月14日の記事『2社統合の混乱を収束させた「外様」の力 エルピーダが急速にシェア回復した要因を探る』にて詳述した。
ところが、エルピーダのシェアは2009年の16%で頭打ちとなる。一度も、設立直前のシェア17%を超えたことはないのである。
坂本社長は会見で、2008年秋のリーマン・ショックによる影響が大きいと言っている。しかし、リーマン・ショックはエルピーダだけではなく世界 中のDRAMメーカーに等しくダメージを与えた。エルピーダだけに損害をもたらしたわけではない。2009年以降のシェア低下の原因をリーマン・ショック によるものというのは論理的でない。
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経営が破綻しない方がおかしい赤字の連続
次に2001年以降のエルピーダの純利益の推移を見ていただきたい(図2)。坂本社長がマネジメントを行った10年で、黒字になったのは4回しか ない。そのうち、まともに利益を上げたと言えるのは、2007年ただ1回だけだ。後の3回の純利益額はほとんどゼロに近い。累積の赤字額は1500億円に なる。これで経営が破綻しない方がおかしい。
図2 エルピーダの純利益の推移および積算純利益(エルピーダのHPのデータなどを基に筆者作成)
世界の半導体メーカーの利益はどうなっているか。例えば、2010年について、半導体メーカーの売上高と営業利益率を示した図を見ていただきたい(図3)。
図3 2010年の売上高と営業利益率(ガートナーのデータおよび各半導体メーカーのHPのデータを基に筆者作成)
韓国サムスン、ハイニックス、米国マイクロンなどのDRAMメーカーと比較して、エルピーダの利益率は極めて低い(エルピーダだけでなく、日本の大手である東芝やルネサス エレクトロニクスも低収益率である)。
たまたま2010年だけ、このようになっているのではない。国別半導体の営業利益率の推移を見てみると、日本半導体が10%を超えた年はないのである。
つまり、日本半導体は、昔も今も、相も変わらず低収益体質なのだ。
低収益体質は何も変わっていない
この古くて新しい問題「低収益体質」こそが、本質的問題なのだ。
なぜ低収益なのか? その原因が、過剰技術で過剰品質を作る病気にあることを、本連載の第1回目の記事から、読者の皆さんは耳にタコができるほど聞かされ、読まされ続けてきたはずだ。
低収益体質だから、不況が来ると大赤字を計上する。好況になっても十分稼げない。DRAMは特に巨額の設備投資が必要なビジネスである。低収益体質を引きずっている限り、DRAMビジネスで生き残ることは不可能だ。
2000年前後、このような理由から、日本のDRAMメーカーは次々と撤退していった。NECも日立も、シリコンサイクルによって不況が来るたび に大赤字を計上するDRAM事業が、本体の経営をも揺るがしかねない事態となった。それゆえ、切り離す決断をし、合弁によりエルピーダを設立したのであ る。
つまり、エルピーダを設立した時点が、そもそも最悪の状況だったのだ。シェアも低下する、収益率も悪い、1社ではどうにもならないと言って合弁会社エルピーダをつくった。
しかし、その最悪の状況から12年も経っているのに、シェアも利益率も、何も改善されていないじゃないか。最悪よりも、もっと最悪なのだ。
DRAM1ドル時代に適応できなかったエルピーダ
2007年以降DRAM価格は急落した。2008年1月、とうとう1G-DRAMのスポット価格が1ドルを切った。この背景には、超低価格PCネットブックの流行があった。5万円を切るネットブックには、1ドル以下のDRAMが必要だったからだ。
このDRAM価格の下落は、各メーカーの収益力を推し量る格好のフィルターとなった。
2007年1Q、まず米マイクロンが赤字に陥った。2Qには、欧州Qimonda、台湾Nanya、Power Chip、ProMosが赤字組になった。この時、黒字を維持していたのは、韓国サムスン、ハイニックスとエルピーダだった。そして3Q、エルピーダが赤 字組になり、黒字組は韓国の2社だけになった。この結果は、各DRAMメーカーの収益力を明確に表している。
ネットブックは短命に終わったが、これに影響されて、高性能PCの価格も下落した。その結果、2008年1月以降、DRAM価格が1ドルを切ることが常態化した。
私は、「DRAM 1ドル時代が到来、ビジネス方式の転換が必要」という記事を書き、多くの講演会でも警告してきた(電子ジャーナル2008年12月号)。
坂本社長は、電子ジャーナルの記者に対して、「DRAM1ドル時代? あり得ない」と回答したと聞いている。坂本社長は、DRAM1ドルは一時的 な異常現象と思ったのだろう。これは明らかに経営判断の誤りと言える。2011年にDRAM価格は、1ドルどころか0.5ドル前後が当たり前になってきた からだ。今や「DRAM 0.5ドル時代が到来」したのである。エルピーダはこの変化に対応できなかったし、する気もなかったように見える。
進化論で有名なチャールズ・ダーウィンは、『種の起源』の中で、「生き残る種というのは、最も強いものでもなければ、最も知能の高いものでもない。変わりゆく環境に最も適応できる種が生き残るのである」と述べた。
エルピーダは、激変するDRAMビジネスに適応できなかった。だから淘汰されたのだ。
安く作る技術で負けたことを肝に銘じよ
会社更生法を申請したが、坂本社長は続投すると発言している。ならば、「DRAM 0.5ドル時代」でも利益を出せるような大改革を行っていただきたい。
そのためには、「DRAMを安く作る技術でサムスンに負けた」ということを、しっかりと認識していただきたい。ビジネスはもちろん、技術で敗北し たということを肝に銘じてほしい。坂本社長は、記者会見の中でぽろっと「エルピーダの技術は高い」と述べていたが、そう思っている内は、改革はできない。
安く作る技術は「低級」ではない。簡単でもない。極めて高度な技術である。
マスク枚数と工程数を徹底的に減らせ。製造装置は初期価格を重視するのではなく、スループット(処理速度)と稼働率が高い生産性の良いモノを選定せよ。
例えば、1台50億円もする露光装置について、サムスンやTSMCがなぜASML製をずらりと並べているかをご存じですか? ニコン製やキヤノン製に比べて圧倒的にスループットと稼働率が優れているからだ(2010年9月24日、『いつまでも「職人芸」では海外メーカーに勝てない 日本の半導体製造装置はなぜスループット、稼働率が劣るのか』)。
2度目の敗戦を無駄にするな
2000年前後、日本はDRAMから撤退した。これが第1回目の敗戦だ。しかし、設立直後のエルピーダに在席した感触では、「負けた」という意識 は希薄だった。特に多くの社員が「技術では負けていない」と過信していた。これは何の根拠もない妄想だった。この時点ですでに、安く作る技術でサムスンに 大きく負けていたのだ。
私はエルピーダから追い出され(自ら辞めたことになっているが、閑職に回され辞めるように仕向けられた。この顛末はメルマガに書く予定だ)、その 後、日立に早期退職を勧告された。今エルピーダに在籍している社員と違って、私は「負けた」ことを、退職を通じてずっしり重く受け止めなければならなかっ た。だから、同志社大学の経営学の教員になってまで、その原因を追究し続けてきたのである。
現在、エルピーダの全社員は、2度目の敗戦の事実を「会社更生法申請」として重く受け止めていると思う。この痛みを無駄にしないでいただきたい。
負けた原因を「DRAM価格下落、円高、震災、タイ洪水」などに転嫁しないでほしい。何度も言うが、これらは単なるトリガーだったに過ぎない。負けた原因を自身にあることを認め、これを変革していただきたい。
3度目の正直である。もう後はない。マイナスからの出発であるが、挑戦者として、サムスンに挑んでいただきたい。
湯之上隆有料メールマガジン 「内側から見た『半導体村』 −今まで書けなかった業界秘話」をイズメディア・モールで 販売中。日本の半導体産業の復興を願う筆者が、「過去の歴史から学ぶ」材料として、半導体技術者として経験した全てを語る問題作。これまでの連載では、草 創期のエルピーダに出向した著者だからこそ語れる「エルピーダ失敗の原因」を赤裸々に綴ってきました。そのさなかに、エルピーダが会社更生法を申請。3月 1日配信号では、このニュースを受けて筆者が改めて日本半導体産業衰退の理由を分析するとともに、ルネサステクノロジーや、近く発足するジャパンディスプ レイに対して「いい加減に目を覚ませ!」と警鐘を鳴らしています。乞うご期待。
湯之上 隆
湯之上 隆 Takashi Yunogami
1961年生まれ。1987年、京都大学大学院(修士課程原子核工学専攻)を卒業後、日立製作所に入 社。16年間にわたり、中央研究所、半導体事業部、デバイス開発センター、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて、半導体の微 細加工技術開発に従事。2000年に、京都大学より工学博士。2003年〜2008年にかけ同志社大学の技術・企業・国際競争力研究センターにて半導体産 業の社会科学研究を推進。長岡技術科学大学客員教授も務める
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エルピーダよ、2度目の敗戦を無駄にするな
社長とアナリストが語る「負けた原因」は大間違い
現在、エルピーダの全社員は、2度目の敗戦の事実を「会社更生法申請」として重く受け止めていると思う。この痛みを無駄にしないでいただきたい。負 けた原因を「DRAM価格下落、円高、震災、タイ洪水」などに転嫁しないでほしい。何度も言うが、これらは単なるトリガーだったに過ぎない。
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いつになったら懲りるのか、
またも提携交渉に走るエルピーダ
結局、合弁や提携で一時的に合計シェアが増えたとしても、各社が高コスト体質である本質的な問題は何も解決されていない。だから、合弁や提携した時以上にシェアが増えることはなく(むしろ低下し)、不況が来れば赤字ということを繰り返すのである。
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知られざる半導体業界の「士農工商」
リソグラフィ技術者はそんなに偉いのか?
半導体デバイスを作るには、前工程、後工程、全ての技術が必要である。どこか1つ、ボトルネックがあっても競争力のある半導体デバイスをつくり出すことはできない。技術間のヒエラルキーは、排除しなければいけない。
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ボツになった「テレビ産業壊滅の真相」記事
凋落の兆しは2004年からあった
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