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リーマンの呪縛にもがく野村、世界の舞台へ後に引けない挑戦
2月28日(ブルームバーグ):今年1月10日午前8時、野村ホールディングスの柴田拓美最高執行責任者(COO)は、テムズ川を臨む同社ロンドン本部のボードルームに姿を現した。破綻した米リーマン・ブラザーズの欧州・アジア事業買収という2008年の英断が無に帰すのを防ぐためだ。
東京から出張してきた柴田COOはホールセール事業担当の経営幹部を招集した。「ブルームバーグ・マーケッツ」誌4月号が報じた。
投資銀行業務とセールス・トレーディングを手掛ける同事業の全般を統括するジャスジット・バタール氏は大ニュースを携えてシンガポールからビデオコンファレンスに参加した。それは自身が野村を退社するという内容だった。同氏は柴田COOが自ら選んだ腹心であり、同氏の後継候補と目されていた人物。会議に先立ち、柴田COOはバタール氏の下でグローバル・マーケッツ部門を率いていたタルン・ジョットワニ氏にも、同ポジションをなくす旨を伝えていた。事情に詳しい関係者3人が匿名を条件に明らかにした。
リーマン出身者の中でトップの経営幹部2人の退社は、野村の将来をめぐる守旧派との意見対立の果ての結末だったと、関係者らは話した。バタール氏は高いリターンを生んでいなかった一部事業について思い切った措置を主張したが、東京の幹部らは国際的な投資銀行を構築する路線を変えることを望まなかった。
野村との決別
ホールセール部門が2011年4−9月に880億円の税引き前赤字を出したことで、対立は表面化した。部門の業績は11年終わりにかけて改善したものの、同年4−12月の野村の純損益は105億円の赤字となった。86年の歴史を持つ野村が国際金融の舞台に打って出ようとする試みはこれが4回目だが、事態は思うようには進んでいない。同社の株価はリーマン事業買収以降約70%下落、11年11月24日に37年ぶり低水準に落ち込んだ。
関係者によれば、黒字回復のためにバタール氏(55)は株式と投資銀行、米国事業で最大16億ドル(約1290億円)規模の縮小を望んだ。同時に、厳格な資本規制に対応するために欧州の銀行が放出している資産を購入するチャンスだと考えていた。しかし東京の幹部は、そのような動きは国際的な投資銀行となる野村の野望後退につながる上、資本準備を縮小させるとして受け入れなかった。
1月のコンファレンスコールでバタール氏が野村に別れを告げた後、柴田COOは10分間にわたって、世界的なプレーヤーになる野村の戦略に変わりはなく、ホールセール部門統括は自身が引き継ぐと説明した。1年弱前にバタール氏に自ら譲り渡したポストだった。
オペラ愛好者
柴田COO(59)によれば、同COOは幹部らに、「アジアに本拠を置く世界的投資銀行となる野村の決意に変わりはない」と説明した。ジョットワニ氏とバタール氏はこの記事にコメントを寄せることを拒んだ。
野村の未来の大きな部分は今、柴田COOの手中にある。ハーバード・ビジネス・スクールで学位を得たオペラを愛する野村生え抜きだ。自ら推進したリーマン事業買収という戦略が奏功しなければ、ウォール街とロンドンのトップ金融機関に伍して闘うという野村の野望はまたしてもついえることになる。
野村の野望は数十年来のものだ。1980年代に海外進出したが日本経済の失速で撤退。90年代半ばと2000年代半ばの試みも成功しなかった。リーマンの米国外事業の買収を「千載一遇の機会」と位置付けた渡部賢一最高経営責任者(CEO)と柴田COOはリーマンの欧州事業をわずか2ドル、アジア事業は2億2500万ドルで手に入れた。野村が金融危機で弱ったウォール街と互角に闘えるようになる大逆転の一手のはずだった。
日本のゴールドマン・サックス
1987年に時価総額760億ドルで世界最大の証券会社として君臨した野村だが、時価総額は今、179億ドルで米ゴールドマン・サックス・グループの3分の1にすぎない。「野村の野望は日本のモルガン・スタンレー、日本のゴールドマン・サックスになること。つまり、世界の主要プレーヤーになることだ」。香港の野村で2001年まで地域主任ストラテジストを務めていたウィリアム・オーバーホルト氏はこう指摘する。ハーバード大学ケネディ行政大学院の上級研究員を務める同氏は、野村には「戦略実践の能力に欠けるという問題があった」と話した。
リーマンから従業員8000人を引き取り、米国ではゼロから事業を構築した野村は今、戦略を大きく転換するよりも細かな手直しに専念している。商品トレーディングから撤退したほか、不動産関連証券とヘッジファンド向けプライムブローカー・サービスを縮小。東欧通貨トレーディングとロシアの投資銀行事業の縮小も検討している。同社は昨年11月1日に、年間経費の削減目標を12億ドルと、7月の計画から3倍に拡大させると発表した。昨年末までには世界の社員約3万5700人のうち、764人の削減を済ませた。
ただ、ベイビュー・アセット・マネジメントの高松一郎ファンドマネジャーは、野村の努力は小さ過ぎで遅過ぎたかもしれないと語る。欧州危機が悪化する中でコスト削減のスピードがマーケットの変化に必ずしも追いつかず、また巨額の赤字に陥り、2度にわたる増資に至ったことなどから、渡部CEOか柴田COOのどちらかは辞任など何らかの責任を取る必要があるだろうと指摘した。
「冬眠するつもりはない」
格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスもコスト削減に満足していない。同社は昨年11月9日に、野村の格付け「Baa2」を引き下げ方向で見直すと発表した。Baa2は投資適格の下から2番目。2月28日の株価は383円。1年間での下落率は25%となった。野村株は1月10日の人事刷新以降は53%上昇。2月1日に発表した昨年10−12月(第3四半期)の純損益は予想外の178億円の黒字だった。
欧州の今後2、3年の見通しは暗いものの、野村は退却するつもりはないと、柴田COOは言う。同COOは世界経済フォーラム(WEF)年次総会に参加したダボスからの帰途、チューリヒ空港でインタビューに応じ、米国を含め株式と投資銀行事業を維持する方針は変わらないとの意向を表明。そしてこう付け加えた。「戦略を大きく変更することなく、ぜい肉を落とした。嵐の中を確実に生き延びねばならないが、冬眠するつもりはない」。
隙間
カーキズボンにブルーのブレザー、赤にブルーのもようのネクタイ姿の同COOは、1−3年はホールセール事業のCEOにとどまり、その間に野村の社内から後継者を見つけたいと語った。同社が引き続き日本での支配的地位維持に注力していくことは「疑う余地はない」とした上で、海外では「力を入れる活動の幅こそ狭めるが、これはという分野ではかなり深く食い込みたい」との意気込みを示した。
リーマンが破綻した時、柴田COOは野村のようなブローカーディーラーが参入する隙間が市場に生じたと考えた。ベアー・スターンズがJPモルガン・チェースに買収され、他の投資銀行も政府からの支援を受け入れる中で、野村が前へ出られると判断した。
「私は間違っていた」と柴田COOは話す。「2008年に私は、欧州の銀行が商業銀行へと回帰すると考えた。銀行が公的資金を受け取れば、納税者はその金を国内での事業に使うことを求めるだろうと思った」という。
「L」
リーマン買収は野村の海外部門ではリバーステイクオーバー(逆買収)のようなものだった。海外の大方の事業で、外国人がトップに就いた。野村は事業統合を進めるため、非リーマン化キャンペーンを実施。ロンドンでの会議でリーマンの「L」の字を口にした幹部から5ポンド(約640円)の罰金を取ったりした。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。
買収価格は割安だったものの、リーマンは安い買い物ではなかった。野村はトップバンカーらの高額ボーナスを2年にわたり保証。危機前の報酬水準を維持したが、その支払いが終わった2010年、稼ぎ頭のバンカー少なくとも12人が退社した。
柴田COOは2010年3月に、新設したホールセール部門の社長兼COOにバタール氏を指名。さらに同氏を11年4月に昇進させ、自ら務めていた同部門CEOの職を任せた。バタール氏を自身の後継者と見なしていたと柴田氏は語った。
11年7月末までに、欧州債務危機が悪化する中で野村は同部門で4億ドルの経費削減を決める。柴田氏とバタール氏は9月に一段の節減が必要だとの認識で一致。しかしバタール氏はより大きな縮小を主張した。戦略の溝が埋まらない中で、柴田氏とバタール氏は12月半ばに東京で会い、袂(たもと)を分かつことを決めたという。
繰り返す歴史
バタール、ジョットワニ両氏が去った後の野村で、リーマン出身者で残っている上級幹部にはロンドンで投資銀行事業を率いるウイリアム・ベレカー氏(45)と世界株式のロンドン在勤責任者、ベノワ・サボレ氏(46)がいる。
ぜい肉を落とした野村は野心も絞ることになる。05年にモルガン・スタンレーからリーマンに移り、野村での今日に至っている英国人のベレカー氏は「あまりにも多くの場所で、多くの顧客に対して多くを提供しようとし過ぎる時間が多過ぎた」と言う。「すべての人に対して万能な会社などない。特に事業の構築時にはそうだ」と付け加えた。
ハーバードのオーバーホルト氏は歴史が繰り返しているのではないかと思っている。野村は「ロンドンとニューヨーク、香港で、3年のサイクルで動いてきた」として、「多額の資金を注ぎ込み、1年目は大きな成功を見込んだ祝賀ムード、2年目はまずまず、3年目でクラッシュする」と同氏は振り返った。
しかし、今や欧州で4100人の社員を擁し、その大半がセントポール寺院を見下ろす8万1800平方メートルのガラス張りの新しいビルで勤務する野村。もはや荷物をまとめてロンドンを出ていく人はいない。失敗することすら考えられないほど、野村は大きくなり過ぎたのかもしれない。
記事に関する記者への問い合わせ先:ロンドン Stephanie Baker stebaker@bloomberg.net;東京 Takahiko Hyuga thyuga@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Michael Serrill at mserrill@bloomberg.net;Chitra Somayaji csomayaji@bloomberg.netcsomayaji@bloomberg.net
更新日時: 2012/02/28 18:14 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-LZWDYI07SXKX01.html
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