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保田隆明 [小樽商科大学ビジネススクール准教授]
AIJ問題をきっかけに年金詐欺が広まる可能性は高い
一つの犯罪は他の犯罪を誘発するきっかけになることが多い。たとえば、ナイフで切りつける通り魔がニュースになった際は、同じような事件が全国で広がった。今回のAIJの件をもとに、個人をターゲットとした「年金」を触れ込みにした詐欺事件が増えるのではないかと危惧する。
フィリピンのエビ養殖への
投資詐欺と同じ
今回の件は、端的にはポンジ・スキーム(ねずみ講まがいの手法)であろう。新たな契約者から受け取ったお金を、先に契約していた人への配当や解約時の清算支払に充てるというタイプである。
契約者が増え続ければ維持可能な仕組みだが、ひとたびその成長が止まると破たんする。もっとも、ある程度は運用もしていたのかもしれないが、儲かっているというウソで顧客を開拓するというのはポンジの常とう手段である。
AIJ事件は、年金基金、投資顧問、信託銀行など、登場人物が金融のプロっぽい人たちばかりなので、何か特殊な詐欺事件のようにも思えるが、ポンジの範疇で考えれば、実はこの手の詐欺は山ほど前例が存在する。
多くは個人を相手にしたものだが、「投資ファンド 詐欺」で検索するとわんさか出てくる。フィリピンのエビの養殖への投資、牛への投資、海外の鉱山への投資など。それらで騙された被害者のインタビューをテレビで見ると、「銀行に預けても利息は付かないから」「老後が不安だから」と、みな少しでも資産を増やしたいという切実な思いを抱えていたことがわかる。
通常、それら投資ファンド詐欺の場合は、契約者に対して、最初の何年間かは当初は約束通り5%や10%など高い利回りで配当を支払う。そのようにして顧客に「わあ!本当に儲かるんだ!」ということを実感させて、追加で投資させる、あるいは、クチコミで新たな契約者を募るというやり方である。
ただ、それら支払われる配当は運用益ではなく、後から契約してきた人の契約金がそのまま右から左へ流れているだけである。従って、契約者をどんどんと増やしていかないと破たんする。
年金詐欺にすれば発覚、
破たんまでの期間を数十年稼ぎうる
このように通常の投資ファンド詐欺の場合は、投資をした翌年からすぐに契約者に高い配当利回りを提供して信じ込ませる形になっている。しかし、これを年金を触れ込みにした詐欺に発展させるとどうなるか。
「老後の年金不安ですよね? 政府は信用できませんよね? だったら、この年金ファンドで運用しませんか?」なんて持ちかける。
年金型の保険商品や財形を持っている人はわかると思うが、契約時から60歳までを払込期間(投資期間)としてせっせと毎月保険料を支払い、保険会社はこれを運用する。契約者が60歳や65歳になると、10年間にわたり、毎年年金のように一定金額を受け取れるというものである。
たとえば、35歳の人が60歳から受け取れる年金型保険に加入した場合は、最初の25年間はひたすら保険料を支払うのみである。その間は毎年保険会社から現在の積立金残高はいくらになっていますよ、という紙ペラ一枚が送られてくるだけである。60歳になってやっと投資したお金を受け取ることができる。
■紙ペラ1枚で契約者を信じさせることができる
年金を触れ込みにした詐欺が、通常の投資ファンド詐欺よりも優れている(?)のは、払込期間中は、契約者に対して配当を支払う必要がないという点である。
今回のAIJのように紙ペラ1枚送っておけばいいのだ。通常の投資ファンド詐欺の場合は少し経てば詐欺事業者は配当の支払いに窮するため、契約者が何かおかしいと気づいて破たんするが、年金型詐欺の場合は契約者がだまされたと気づくのは20年後や30年後である。
契約者をすべて30代にしておけば、約30年間程度はまったく何も支払う必要がない。詐欺者たちは、集めたお金で30年間毎日パーティ三昧である。破たんするころには詐欺を働いた当人がすでに墓場に行っているかもしれない。
年金型の保険商品の場合、支払開始は何十年も先である。それゆえに、契約先の金融機関が何十年も存続している必要があり、通常は大手生保など名前の知られたところの商品を購入することになる。
しかし、今回のAIJで明らかになったのは、名前の知られていない金融機関でもプロ投資家を騙すことができるということである。いわんや、個人を騙すことなんて楽なものであろう。
■年金は分からないことだらけ。不安に付け込んだ商法が可能
担当しているテレビ番組で、この事件をきっかけに年金をテーマとしたコーナーを設けたが、その際、視聴者から届いた声はこのようなものだった。
「年金の仕組みが分からない」「将来年金がいくらもらえるかも分からない」「老後いくら必要なのか分からない」。
老後に不安を抱えるから少しでも高い利回りの商品に飛びつきたくなる。不安ほど詐欺事業者にとっておいしい商売のネタはない。しかも詐欺者たちにとっては都合がいいことに、日本では年金の仕組みやいくら受け取れるかなどを日々の生活に必要な金融知識をきちんと教えてくれる存在がいない。
大学生に聞いてもおそらく、ほとんどの学生は答えられないであろう。大学まで進学しても、日々の生活に必要な知識が提供されない現実は、大いに改善すべきだとは思うが、現状はそういう状況だ。
また、不安がなければ、個人がわざわざリスクを背負って自ら運用する必要はない。この点、年金制度に対する不安を増殖させる一方の政府の責任は重い。
金融リテラシーの向上の必要性があちこちで叫ばれるが、もっとも重要な金融リテラシーは、おいしい投資話は転がっていない、ということである。
残念ながら現在の投資環境においては、小さなことからコツコツと実践していくしかない。年金を触れ込みにした詐欺事件にはくれぐれもご注意願いたい。
http://diamond.jp/articles/-/16363
【第221回】 2012年2月29日山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
AIJ投資顧問事件、企業と個人への教訓
うますぎる話の“罠”
AIJ投資顧問の2000億円損失
主に年金資金を運用するAIJ投資顧問が、約2000億円の顧客運用資産の約9割を失っていたことが明るみに出た。
事件発覚当時は、始めから意図的な詐欺だったのか、運用の途中で出た損失を隠した虚偽報告なのか、あるいはいきなり大きな損が出た運用失敗に止まる違法性のない事案なのかがはっきりしなかったが、その後の報道によると、かなり前から運用で損失が出ていたものを順調に運用ができているかのように偽って営業を続けていた、ということのようだ。
資金の流れの全貌がまだ解明されていないので、単純な運用失敗と虚偽報告(金融商品取引法違反)の組み合わせなのか、たとえば資金の一部を関係者が着服していたというような追加的な犯罪を含むものなのかはわからないが、いずれにせよAIJ投資顧問が「悪い」ことには間違いがなさそうだ。
AIJ投資顧問は、ファンドの私募投資信託の運用利回りについて2002年度に約35%、03〜05年度に14〜18%台、06年度以降には1ケタになるが5〜9%になると謳っていた。
低金利に加えて株価が低迷し、リーマンショックを伴った金融危機が起こったにもかかわらず、安定的な高利回りであり、これが本当なら文句のない高成績だが、実態は当然のことながらそうではなかった。それに、インチキをやるにしても、さすがに、これは「作りすぎ」だろう。
資金の運用を任せる側は、(1)なぜこのような高利回り運用が可能になるのか理由が理解できるか、(2)本当に高利回りが実現していることを裏付ける証拠があるか、(3)これは虚偽報告ではないのか、(4)そもそも本当にこんなに上手く運用できるなら、他人のお金を運用していることが不自然ではないか、といった疑問を抱くべきだった。
次のページ>> 大手が避けるAIJに中小企業が集まった「統合型年金」とは?
今回の事件で損失を出した年金基金及びその運用担当者と責任者(理事長や常務理事など)は、一方で事件の被害者だが、他方では、プロとして当然必要な注意を怠って大きな損失を招いた「加害者」でもあることを自覚する必要がある。
正直なところ、「お気の毒」とも思うのだが、現実はそういうことだ。AIJ事件の半分は運用会社の不正だが、もう半分は年金基金側の杜撰な運用管理の問題だと筆者は考える。
大手が避けるAIJに中小企業が集中
業界誌も特集した「統合型年金」とは?
さて、好成績であるにもかかわらず、AIJ投資顧問の顧客は、「AIJ契約、中小9割」(『日本経済新聞』2月27日朝刊)と報じられたように、主として中小企業が寄り合って加入する厚生年金基金(「総合型」と呼ばれるタイプ)が多く契約していた。
金融関係のマーケティングの常識として、顧客が欲しがるような競争力のあるプロダクトは、営業効率のいい大手顧客に対して先に販売されるものだ。大手の顧客は、AIJ投資顧問を避けたものと推測される(もちろん、正しい判断だった)。
さて、金融業界の業界誌である『週刊 金融財政事情』(2月27日号)は、20日に発売された号で「もう一つの年金問題」と題して、あたかもAIJ事件の発覚を予想していたかのようなタイミングで、総合型の厚生年金基金に関する特集を組んだ。
この特集を読むと、総合型の厚生年金基金の財政状況が極めて悪く、厚生年金に独自に付加した企業年金部分の積立金を失っただけではなく、国から預かって運用している代行部分の支払いに必要な積立金まで損が食い込む「代行割れ」を起こしている基金が少なくないことがわかる。
ことわざでは「貧すれば、鈍する」というが、率直に言って、AIJ事件は「貧して、鈍した」年金基金が、怪しい運用に資金を任せて年金資産を毀損させた年金運用上のスキャンダルだ。
次のページ>> 「統合型」の多くが解散できずに残った企業年金事情
28日の厚労省の発表によると、運用資産の半分前後をAIJ投資顧問に委託していた基金も(3つほど)ある。これは、非常識な集中的委託だ。こうした基金の関係者の責任は厳しく問われるべきだろう。
「統合型」の多くは解散できずに残った
AIJ事件の背景にある企業年金事情
『週刊 金融財政事情』の図表に、AIJ事件の背景が端的にわかるものがある。それは、タイプ別に厚生年金基金の数をまとめたものだ(P.12、[図表3]厚生年金基金数の推移を参照)。
この表を見ると、1996年時点に「単独(型)」が562基金、「連合(型)」が678基金、「総合(型)」が643基金あるが、2010年度には、「単独」42基金、「連合」51基金、「総合」495基金とそれぞれ減少している。大企業が単独あるいは数社で作る「単独型」「連合型」が激減しているのに、主に多数の中小企業が集まって業種別・地域別などで作る「総合型」基金の数が大きくは減っていないアンバランスが目につく。
端的に言って、総合型の厚生年金基金の多くは、解散できずに残ってしまったのだ。年金運用の流れから取り残された三日月湖のような状態と言える。
大企業の場合は、厚生年金基金の国から代行している部分を返して確定給付企業年金に移行できたが、母体企業が多数ある総合型基金では解散が難しい。現状では、積立不足の穴埋めが不可能なくらい業績の悪い企業が含まれる場合も多く(解散に伴う損失の負担で、加入企業が連鎖倒産した兵庫県乗用自動車厚生年金基金のようなケースもある)、年金保険料を引き上げ、運用目標を引き下げて、財政を健全化させることもできず、さりとて基金を解散することもできず、回復の見込みが極めて乏しい中で、運用に「最後の勝負」を賭けるような基金が出てきてしまう背景がそこにある。
こうした状況下で、「運用で何とかしろ」と上司や母体企業からプレッシャーがかかる基金の運用担当者には、大いに同情の余地がある。
次のページ>> 企業は、運用でリスクをとる確定給付型の年金から足抜けせよ
財政状況が厳しいことが杜撰な運用管理を正当化するものではないことは、言うまでもない。しかし、こうした状況で、かつ必ずしも運用に関して専門的な知識や見識を持っていない担当者が、危ない運用に手を出すような状況を放置してきた厚生労働省には、企業年金の制度に関する設計と運営のミス、その後の基金に対する監督不十分の責任がある。
企業は運用でリスクをとるような
確定給付型の年金から足抜けせよ
企業年金制度、特に厚生年金基金の問題は、公的年金よりもいち早く表れた厚労省の年金行政の失敗事例だが、現実に企業年金を抱えている企業は、役所を恨んでも問題は解決しない。経営問題として年金を考えると、企業は、少なくとも運用でリスクを取るような確定給付型の企業年金を止めてしまったほうがいい。
まず、企業規模の大小を問わず、事業会社のほとんどは運用の専門業者ではない。そうであるにもかかわらず、事業の損益と同規模、あるいはそれ以上の損が発生しかねない運用リスクを企業年金の形で抱えていることは、合理的でない。
厚生年金基金を含めて確定給付の年金を持つことは、ファンドマネージャーのいない運用子会社を持ち、これに資本金の大半(資本金より多い場合もある)を任せている状態と実質的に同じだ。
投資家・株主から見ても、株式を通じて事業会社の本業に投資したつもりが、企業が保有する確定給付年金のポートフォリオのリスクも持たされるような投資になることは余計だ。
現状において、企業にとっての企業年金の効用の主なものは、節税された形で従業員に報酬を支払うことができる節税効果だ。企業年金の掛け金は、企業が支払う形を取ることが多いとしても、社員にとっては自分の報酬の一部であり、企業にとっては人件費の一部だ。
次のページ>> 脱退か、解散か。経営にとっての運用リスクを除外する法
社員は、税金を軽減(受け取り時には課税されることがあるが、現役時代よりは低税率になることが多い)した形で報酬を受け取ることができ、企業も人件費を有効に支払ったことになる。
基金を脱退するか、解散するか
経営にとっての運用リスクを除外する法
このメリットを維持したまま、企業経営にとって余計な運用リスクを除外するためには、(1)確定給付年金を止めて確定拠出年金に移行する、(2)厚生年金基金を解散ないし脱退して、確定給付型企業年金として十分に低い予定率(たとえば国債利回り程度)で安全かつローコストに運用する、(3)金利情勢の変化などで給付が変化するキャッシュバランス・プランに移行する、といった手がある。いずれにしても、企業が大きな運用リスクを取る形は合理的でない。
総合型厚生年金基金に加入している企業の場合に対応を考えるなら、厚生年金基金を脱退するか基金を解散するかの必要がある。これは、一時的な負担が大きいとしても、いずれは必要な負担なので、会社が潰れない限り、何とかして頑張る方がいい。方法については、『年金倒産 〜企業を脅かすもう一つの年金問題〜』(宮原英臣著・プレジデント社)などを参照されたい。
問題は、加入企業の脱退を認めない厚生年金基金があることだ。厚労省は、フェアな条件で脱退しようとする企業を厚生年金基金が認めるように指導すべきだし、財政状況が厳しい基金に対しては、これまでよりももっと早い段階で解散を促し、そのための便宜を図るべきだろう。
企業にとっても、従業員にとっても、企業年金の組織を残すことよりも、企業自体が残ることの方が大切なはずだ。少なくとも、年金組織を残すために、運用でリスクを取ることで最後の勝負に出るような事態があってはならない。
世論調査
質問1 あなたは、普段から金融商品取引のリスクを十分認識している?
している
していない
どちらとも言えない
http://diamond.jp/articles/-/16355
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