http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/275.html
Tweet |
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120227/229101/?ST=print
日経ビジネス オンライントップ>$global_theme_name>「そもそも」から考えるエネルギー論
「原発はダメ、自然エネ拡大まで天然ガス」では解決しない ピークオイル問題が日本に投げかけるのもの
• 2012年2月28日 火曜日 大場 紀章
昨今、原子力のあり方や再生可能エネルギーの普及、または発送電分離に関する議論などが広く行われています。それらの議論は“エネルギー問題”として捉えられています。しかし私は、議論が矮小化されていないか、少し注意しなければならないと考えています。
いま議論すべきなのは石油問題
図1を見て下さい。左のグラフは、1990年から2009年までの20年間の日本の最終エネルギー消費量の推移です。石油が依然としてエネルギー消費の 5割以上を占め、またその内訳の殆どは、運輸部門と産業部門であることが分かります。石炭、天然ガスを含めると未だに9割近くが化石燃料です。
一方、電気による消費は23%に過ぎません。現在、盛んに議論されていることは、23%の中の約6%の原子力を2011年から2012年にかけて一気に ゼロにするという事態を受けて、約0.5%にとどまっている再生可能エネルギーをなんとか拡大できないか、ということになります。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120227/229101/zu1.jpg
図1:日本の最終エネルギー消費とその内訳
(注:発電用燃料消費量の縦軸はイメージのために左図にスケールしてあるが、発電量の推移と一致するものではない)
現在は、原発の減少分を、高コストな調整用電源である天然ガスや石油などの火力発電をフル稼働させ、さらに産業界に省エネ(+今後の電力料金上乗せ)させることでしのいでいます。
もちろん、原子力業界・電力業界の闇を暴き、被災者に補償させて、再生可能エネルギーの普及拡大を願う議論も重要なのですが、ここで私が言いたいのは、 「エネルギー源としての石油の重要性は強調してもし過ぎることはない」ということです。今、議論されていない真のエネルギー問題は、石油問題であり、それ はまず運輸と産業の問題なのです。
「ピークオイル」はオオカミ少年か?
私はこの数年間、「ピークオイル」について研究してきました。「ピークオイル」とは、将来必ずやってくる世界の石油生産の減少のタイミングこそが人類文明の重要な転換期であり、またそのタイミングはそう遠くないとする考え方です。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120227/229101/zu2.jpg
図2:コリン・キャンベル氏の予想
しかし、「ピークオイル」論はつい最近まで、異端の悲観論として扱われてきました。その1つの理由として、ピークオイル論者の代表格で、ピークオイル研 究の国際組織であるASPO(Association for Study of Peak Oil and Gas:石油ピーク研究連盟)を設立した英国の地質学者、コリン・キャンベル(Colin Campbell)氏のこれまでのピーク時期の予想がずっと外れているとみなされてきたことがあります(図2)。
キャンベル氏はピークオイルの議論を世界に広げたという意味で大変な功労者ですが、皮肉にも、ピークオイル論者が“オオカミ少年”としてのレッテルを貼られるきっかけも作ってしまいました。
一方で、ピークオイル論者を批判してきた“主流”の石油評論家がこれまでに主張してきたことはどうでしょうか。
図3をご覧下さい。わずか数年前まで、石油供給は見通せる将来まで全く問題はないと言われてきました。2004年頃から上昇を始めた石油価格に対して も、「原因は投機マネーの流入であって、石油の需給に問題はない」と。ところが、現在では”主流”のエネルギー専門家ですら、「1バレル100ドルが適正 な価格だ」と主張しています。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120227/229101/zu3.jpg
図3:石油価格の推移とそのときの論調
一体この数年でなにが起きたというのでしょうか。
2020年ごろには石油生産が減退し始める
実は、たった数年間で、これまで「ピークオイル」論を批判してきた専門機関や石油会社の多くが、石油生産のピークが近いことに言及するようになりました。
代表的なところでは2010年、国際エネルギー機関(IEA)が、「2006年に在来型石油生産はピークを過ぎた」「安い石油の時代は終わった」と、報告書の中で述べました。どうやら、キャンベル氏の予想は結果的にかなり正しかったことになりそうです。
ほかにも、世界的な石油企業(ロイヤル・ダッチ・シェル、シェブロン、トタル、スタットオイル、ヘスオイルなど)に加え、英国政府、フランス首相、 ニュージーランド政府、EC(欧州委員会)、IMF(国際通貨基金)、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)などの政府または国際機関、さらには各国 の軍部(米国国防総省、ドイツ軍シンクタンク、カナダ軍)、自動車会社(トヨタ、ボルボ)、金融業界・著名投資家(ドイツ銀行、加CIBC、マット・シモ ンズ氏、ブーン・ピケンズ氏)などが様々な形でピークオイルの危機を認識していることを明らかにしています。
現在、石油楽観論を唱えるのは、OPEC(石油輸出国機構)、EIA(米国エネルギー情報局)、CERA(大手エネルギーコンサルタント)、BP、エクソンモービル、および日本の主流エネルギー専門家、の少数派・・・とすら言えるかもしれません。
ピークの時期の予想については、以前はばらばらでしたが、最近では研究が進んで様々な予測手法が開発され、かなり集約されるようになってきました。様々な研究を総合すると、どうやら図4のようになるのではないかと我々は考えています。
特に、2014年前後に需要が供給をオーバーシュートし、2020年頃には生産減退が始まるという点については、かなり確度が高いだろうと思われます。詳しい解説は、今後の連載の中で行なっていきたいと思います。
図4:様々な情報に基づく石油ピーク予測
石油生産が減退すると、何が起こるのでしょうか。私はこの問題をずっと考え続けています。その影響の大きさは、脱原発や再生可能エネルギーの比ではな く、どう考えても明るい未来を描けそうにありません。この点が、最近のエネルギーの議論の前提で最も欠けていることではないかと思っています。石油生産の 減退は20年、30年先の話ではなく、もう目の前の問題です。
現在、経済産業省総合資源エネルギー調査会「基本問題委員会」では、原発事故を受けて「エネルギー基本計画」を白紙からの見直す議論を進めています。そ こでも将来の石油供給リスクについては全くと言っていいほど語られていません。それどころか、エネルギー安定供給のために石油消費を増やすべきだとの意見 すら出ており、私は大変、驚きました。
影響の大きさは「脱原発」の比ではない
まず重要なのは、ピークオイル問題は、単なる「エネルギー問題というよりも液体燃料問題である」ということです。図1で見たように、石油の多くは輸送用 燃料、つまり自動車やトラックに使われています。特にトラック輸送に強く依存する物流は、産業の血液とも呼べるものですが、ハイブリッド車や電気自動車で の代替が困難であり深刻な影響を受けます。鉄道輸送に移行しようにも、現在の鉄道インフラキャパシティのおよそ10倍が必要になります。そして、自動車の 利便性が下がることは、すなわち日本の基幹産業の一つである自動車産業の衰退でもあります。
加えて、日本では欧米と異なり天然ガスをLNG(液化天然ガス)として石油価格とリンクした価格で購入しているため、石油価格の上昇がダイレクトに天然ガスコストにも影響します。
このままいけば、ピークオイル後の日本は物流と産業に深刻なダメージを受け、労働人口減少の効果も加わって、不可避なマイナス成長の世界に突入してしまうことになるでしょう。
世界を見ても大きな変化が起きると考えられます。産油国は、ますます自国内向けの供給を重視し、輸出の割合を制限しようとします。産油国は、(軍事的) 友好関係を結んでいる国に対してのみ、有利な条件で供給するかもしれません。つまり、国家資本主義(国家が政治体制の維持の為に資本主義を利用する)、保 護貿易、経済のブロック化への道です。エネルギー資源供給の制約を背景に、世界の資本主義経済は新しいステージに突入するかに見えます。図3で、英国の石 油価格「Brent」と米国の石油価格「WTI」が近年分裂し始めていることは、経済ブロック化の予兆かもしれません。
現在、「原発はダメで、自然エネルギーの開発には時間がかかるから、天然ガス発電を増やす」という選択肢が最も現実的であるかのように語られています。 それは“かなり”正しいのですが、既に述べたように今後はLNG価格も石油価格とともにどんどん上がるという現実を考慮する必要があります。日本にはも う、「原子力にシフトして、少しでも輸送部門を電化する」ぐらいしか有効な道は残って“いなかった”のです。
この連載では、ともすると忘れられがちな、石油、天然ガス、そして石炭といった化石燃料を中心に取り上げ、将来のエネルギーを考えるうえでの最も基本的 な前提について解説していきたいと思っています。また、最近話題になることも増えてきた「シェールガス」や「シェールオイル」、「メタンハイドレート」と いった非在来型化石資源と呼ばれるものも取り上げていきます。
そしてその内容は、読者の方々が想像される以上に暗い未来を示さざるを得ないことになりそうです。特に日本は、エネルギーのほぼすべてが輸入依存である のに加え、原発の運用に致命的な課題を抱えており、諸外国に増して厳しい立場に立たされています。これに人口減少や財政問題など、内部の根本的マイナス要 因が加わります。
なかなか明るい未来を描きづらい状況ですが、そもそも私たちが本当に守らなければならないことは何だったのかを問い直しながら、皆さんと一緒に日本のエネルギーのこれからについて考えていけたらと思います。
「そもそも」から考えるエネルギー論
原発事故を受けて現在、エネルギー利用の新しいあり方について広く議論されています。その中では、「原発はダメで、自然エネルギー拡大を、でもそれには時 間がかかるから、とりあえず天然ガス発電を増やす」という声がきこえてきますが、実はこの議論は日本のエネルギー消費の23%に過ぎない電気のことだけを 語っているに過ぎません。エネルギー消費の5割を超える石油は、2020年ごろから生産減退することがかなりの確度で予想されています。安定供給が期待さ れる天然ガスや石炭も、実は多くの問題を抱えています。その影響の大きさは脱原発の比ではありません。果たして、我々はエネルギー問題にどのように向き合 えばよいのか。表層的な議論に流されず、「そもそもどう考えるべきか」を問題提起していきます。
⇒ 記事一覧
大場 紀章(おおば・のりあき)
1979年生まれ、愛知県江南市出身。2008年京都大学大学院理学研究科博士後期課程単位取得退学。株式会社テクノバ研究員。ウプサラ大学物理・天文学部博士課程グローバルエネルギーシステムグループ在籍中。専門は、化石燃料供給、エネルギー安全保障、無機物性化学。テクノバは、エネルギー・環境、交通、先端技術分野の調査研究を行う技術系シンクタンク。
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。