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津田栄 :経済評論家
「12年間変化した日本経済の裏で変化していないこと」
JMM開始以後これまでの12年間、日本経済は、大きく変化したといえます。し
かし、一方で、変わっていないこともあります。というよりその変わっていないこと
があるがゆえに、日本経済をここまで変化させてきたといえます。その変わっていな
いものとは、旧態依然たる日本政治・経済・社会構造と考えています。その日本の政
治、経済、社会の古い構造とは、戦前から続いている、官僚主体の行政中心の中央集
権的構造であり、全てが東京に集中し、東京中心に決定する構造です。
12年間を振り返れば、当初、97年に三洋証券、山一証券、北海道拓殖銀行と大
手銀行、証券の破綻を機に、それまで耐えてきた日本経済が、金融システム不安を起
こし、急速に悪化しました。その後、小渕政権時に大量の国債を発行して大規模な公
共事業を中心とした景気刺激策を行ったものの、日本経済が一向に上向かず、どこま
で落ちていくのか不安と閉塞感が国民の中に広がるなかで、90年にバブル崩壊して
以来浮上しない日本経済に対して「失われた10年」と言われていました。
2001年、こうした閉塞した経済状況をなんとか打破してほしいという国民の思
いが、日本の経済構造を変えて再び成長しようと訴える小泉政権を成立させたといえ
ます。そして、小泉首相に起用された竹中大臣が、金融再生プランのもとに、遅々と
して進まない不良債権の処理を、銀行など金融機関に期限を設けて迫り、一気に解決
したことで、日本経済の重しとなっていた設備、債務、雇用における三つの過剰が解
消に向かいました。
その結果として、成長の基礎が築けたといえます。実際、不良債権処理が終わって
みると、これまで金融機関が苦しんでいたバランスシートは改善し、その後起きるア
メリカのサブプライム問題や欧州の財政問題による金融・経済危機において、日本の
金融システムは大きく傷つくことがなく、機能しています。また、金融機関の不良債
権処理とともに、非効率で不採算の企業は破綻や廃業などで淘汰され、生き残った企
業は、経営に支障をきたしていた過剰設備や過剰雇用をリストラなどで整理する一方、
債務処理も進めることができ、負担が軽くなって、企業活動がしやすくなったといえ
ましょう。
それが、住宅バブルにより長期の経済成長していたアメリカとそれに牽引されて拡
大していた新興国などを含む世界経済に乗って、輸出を中心に日本経済は回復の道を
歩み、企業業績が改善し、株式市場は、日経平均で03年4月の7603円を底に0
7年2月18300円を付けて、倍以上の上昇を見せるまで至りました。しかし、日
本経済は、グローバル化により急速に変化していく世界経済に合った構造に改革して
いなかったため、見かけだけの回復にとどまりました。その後、小泉・竹中コンビに
よる構造改革は、06年で終え、その後の自民党政権、政権交代してできた民主党政
権は、改革を維持することができず、それまでの改革を後退させてきました。そして、
以前にもまして古い構造が堅固になって、今や日本経済をむしばんでいます。しかも、
国民の先行きへの不安、閉塞感は12年前よりも強まっているような気がします。
つまり、経済のグローバル化により需要、供給において市場が一つに収斂する方向
へ向かい、中国、ブラジル、インドなどの新興国の台頭、欧米の伸び悩みという形で
急速に変化していく世界経済に対して、日本経済は、戦前からの古すぎて機能不全に
陥っている構造を抱えたままです。その結果、バブル崩壊により日本経済の足かせと
なっていた金融機関の不良債権、企業の設備、雇用、債務の三過剰が処理されても、
それは日本経済の回復につながる基礎を作っただけで、グローバル化した世界経済に
合わせて政治・経済・社会における旧来構造を改革して本格的に回復へ進めるための
条件や環境を整えることをできないまま、急変する世界経済の中で、日本経済はつい
て行けず、バブル崩壊時よりも経済状況が悪化し、縮小、衰退していく姿をさらけ出
しています。
すなわち、バブル崩壊後金融システム危機以降のデフレ状態から一向に脱却できず、
正社員の減少・非正規雇用の増加などにより雇用環境が悪化し、家計の所得が年々減
少して、日本経済の中心である個人消費の伸び悩みがこの12年間続きました。その
結果は、名目国内総生産(GDP)は1999年度の498兆円から2011年度の
470兆円(予想)へと約28兆円減少、一方で実質GDPでは99年度489兆円
から11年度537兆円(予想)と増加、その間GDPデフレーターは-14.1%
も下落して、水準的には1981年度に戻った形なっています。
また、国税庁の民間給与実態統計調査によれば、99年度の461.3万円から1
0年度の412.0万円へと49万円強減少しており、11年度は景気が一段と悪化
したことを考えれば、さらに減っていると予想されます。失業率も、リーマンショッ
ク後5.5%まで上昇した後直近では4.6%まで低下していますが、失業者にカウ
ントされていない人を入れると、8〜9%とも言われています。そして、生活保護世
帯は99年度70万世帯から11年度150万世帯へ、生活保護受給者も99年度1
00万人から11年度207万人と倍増しています(若干不正受給もあるでしょうが)。
こうした調査から、この12年間、デフレで日本経済を傷め続けられてきたこと、そ
の中心が個人であることが窺えます。
そして、その原因は、変化していく新しい世界経済に合わすように、日本の政治・
経済・社会構造を改革してこなかったことにあります。一方で、バブル崩壊から生き
残り、身軽になった企業は、世界経済の変化に合わそうとして、コスト削減として雇
用、給与などを抑制する動きを変えていません。むしろ、規制が多く旧態依然の非効
率でスピードの遅い日本の古い構造の中では生き残れないとして、企業は、海外への
移転を図り、人員を海外からも採用する動きを取る方向にあります。それが、個人に
しわ寄せが行く形となり、日本経済の基盤を崩し回復力を奪っていっています。そう
したことで、日本経済のなかに構造的なデフレが内包する結果となっています。
一方、輸出企業は、依然として国内を主要な拠点としてきましたから、リーマン
ショックやギリシャショックによる世界的な経済不況において、輸出が急激に悪化し、
そのことが、日本経済を大きく落ち込ませる状況にしています。もちろん、昨年の輸
出の悪化は、東日本大震災やタイの大洪水などによる影響も大きく、ギリシャショッ
クによる欧州景気悪化だけによるものとは言えませんが、輸出に依存している日本経
済がいかに弱いかを見せています。しかも、家計が弱体化しているだけに、日本経済
の脆弱性が以前にまして大きくなっています。
また、デフレ構造の日本経済のもとでは、個人所得が減少し、個人消費が伸び悩む
中で、税収が増えず、しかも、輸出企業以外の内需中心の企業では利益が出ないなか
で、一旦輸出が伸びないと、税収の悪化を招き、財政赤字が膨らむことになります。
それも、小渕内閣時代に行われた景気刺激策のための大量の国債発行が財政赤字を膨
張させ、継続的な景気刺激と不良債権処理などのバブルの後始末に、膨らむ社会保障
費も加わったなかで、デフレ構造と輸出依存の日本経済における税収の慢性的な伸び
悩みにより、構造的な財政赤字体質になっています。(結局、今の欧米も同じですが、
バブル崩壊後の金融・経済危機を抑え込むために、国が国債を発行して金融機関や企
業を救おうとした結果、企業の抱える債務が国と国民に移転し、その負担の苦しみか
ら企業が解放されて、逆に国、最終的には国民がその苦しみを負うことになったとい
えましょう。)
しかも、少子高齢化、人口減少という構造的な社会問題を抱えて、今の日本の構造
がこのままでは、社会保障費の増加、税収の伸び悩みから財政赤字は増加し続け、増
税しても、構造を改革しない限り、いずれ維持できなくなる日が来ることになります。
結局、日本の抱えている問題は、日本の古い政治・経済・社会構造が残っている限り
は解決せず、日本経済を悪化させ続けているといえます。そして、これまでは、その
古い構造を維持するために、小手先の政策で目先の問題を解決することで、パッチワ
ーク的につぎはぎをしてきたのであって、今回の社会保障と税の一体改革も、増税で
旧来の構造を変えないことに終始する一例であり、それも限界が近いといえましょう。
したがって、この12年間の日本経済は、官僚主体の行政中心の中央集権的な構造
が改革されず変化していないために、規制などによる非効率が続き、経済のグローバ
ル化によるスピードに追いつけず、また変化に対して柔軟に対応できず、しかも少子
高齢化、人口減少、デフレ、地方の疲弊、財政赤字問題などの構造的問題を抱えて、
縮小し、衰退する状況へと大きく変化していて、限界に近付きつつあるといえましょ
う。
最近、維新の会を率いる橋下大阪市長が、もはやこの国は機能していないという発
言や船中八策という政策概要から、この日本の抱える中央集権的な構造に根源的な問
題があり、それを変えない限り、日本経済の復活はないと考えていて、そのことが今
の閉塞感から現状を変えてほしいという国民の願いに通じ、既存の政党、あるいは政
府への不信と相まって急速に橋下市長および維新の会への支持につながっています。
つまり、国民は、そうした日本が抱える構造的な問題に気づき始めていて、その解決
と変化への期待が、橋下市長と維新の会への支持の形で表れてきているのではないで
しょうか。
最後に、金融業界に身を置いていた私は、80、90年代において金融の世界から
バブルとその後の崩壊を体験して、日本の政治経済が抱える問題は何かを考え、その
問題の奥に構造問題があるのではないかと感じ、そうした視点から読者の皆さんに伝
えたいという思いで、JMM開始以来、ほとんどを回答してきました。その間にも、
もっと真実を見極め、またその解決のために何かしらの力になれないかと考え、生ま
れ故郷の地域支援や若者たちへの支援などを行いながら、現実を、断片的ではありま
すが、見てきたと思います。そうした経験を踏まえ、JMMの読者の皆さんには、今
の現状を私個人の視点から説明し、半歩先でもよいので、その問題の本質、今後の成
り行きを考えてもらえたらという思いで自分の意見を書いてきました。これからも、
こうした姿勢を持ち続けたいですし、また少しでも変化につなげ、今より明るい未来
を築いていけたらと考えています。
経済評論家:津田栄
(私のコメント)
津波、地震の被害だけでも大変なのにフクシマ原発事故の処理を抱え、日本は未曽有の危機です。夏ごろから深刻な影響が出てくると思います。それなのに政府、経済界、大学のこの陣容で解決できるのだろうか。しかもカルトに張り付かれて身動きの取れない人も多いのです。
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