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地球の明日
日本の企業年金基金が危ない!
AIJの破たんで明らかになったお粗末な実態
2012.02.27(月)
福原 正大:プロフィール
「AIJの問題点を挙げる前に、お前のところもAIJのような運用成績が出せるようになって出直して来い!」
「AIJこそが、運用会社の鏡だ!」
多くの年金運用者が恐れていたことが現実化しました。しかしながら、投資していた多くの日本の年金基金の担当者は「恐れて」さえもいなかったのかもしれません。直前まで冒頭の言葉を年金基金の担当者は、多くの運用会社に浴びせかけていたのですから・・・。
神様以外にはあり得ない運用成績
AIJが悪いのは当然です。運用成績の虚偽報告が許されるはずがありません。実際、AIJは毎月コンスタントに0.5%以上のリターンを稼いで、年間10〜20%の運用成績を「表向き」には出し続けていました。
5年程度預ければ投資資金が2倍になるのです。そして、驚くことに運用成績は、2008年に起こったリーマンショックの前の月も、起こった月も、その翌月も0.5%程度のプラスが毎月続いたのです・・・。
問題であるのは、投資知識がある人であれば、こうした運用成績が不可能であることに気付くはずなのに、プロであるべきの年金基金運用担当者がこうした運用成績を信じAIJに投資したこと。
運用例を挙げて説明してみましょう。運用者がリーマンショックのような金融危機を予測し、クレジット債券を危機が起こる前に売り持ちにすることと想定します。
この場合、起こるまではマイナスの運用成績が続きますが、金融危機が起こった時に大きなプラスのリターンを取ることができるのです。
一部欧米のヘッジファンドは、こうした手法を採り、リーマンショック直前まではマイナスの運用成績が続きましたが、起こった日から非常に大きいプラスの運用成績を出すことに成功しました。
しかしAIJの運用成績のようにリーマン前後も含めてプラスというのは、金融市場の動きをすべて見通せる神のみぞ可能です。
実際、2008年には今回のAIJのように毎月安定してプラスのリターンを出し続けたかのように見せかけたバーナード・マドフ率いるヘッジファンドの詐欺事件で世界中が震撼したことも日本の年金基金はニュースで知っていたはずです。
その際に、ヘッジファンドの中身の精査を中立的に行うはずの監査法人とグルになり、運用精査を形式的にのみ行っていたことも問題になりました。
今回のAIJのケースでも、運用はオフショアで行っていたため日本の金融当局の管轄外であり、監査法人も明らかにされていませんでした。日本の金融当局は怪しいと思っていても直接的に運用の中身を精査することができなかったのです。
投資家に運用の中身を一切公開せず
そして、AIJも、投資をしてもらっている年金基金に対して、一切の運用の中身を開示してきませんでした。
では、なぜこのような不可解な運用成績を出し、運用の中身を開示しない運用者AIJを年金基金は信用していたのでしょうか? 数百億円の運用責任を負う年金基金の運用担当者であるにもかかわらずです。
信じられないことに、2010年に日本経済新聞の子会社である年金情報により実施された日本中の年金基金が選ぶ運用会社人気ランキングでは、AIJが1位だったのです!
第1の理由は、こうした膨大な資金を運用する年金基金の運用担当者が投資について素人である場合が多いこと。投資の勉強を全くしたことのない人が、企業の人事異動の一環として年金運用担当者になるのです。
もちろん経験がなく運用担当者になった方で、寝る間も惜しんで勉強をし、プロ顔負けの知識をもっている方もいらっしゃいます。
こうした方は、AIJを当初から怪しんで投資をしていませんでした。この点においては、AIJに投資をしていた年金基金自体が今後受託者責任が問われるかもしれません。
第2の理由は、「ヘッジファンド」という言葉に幻想を抱いている人が多いことです。
ヘッジファンドは確かに世界経済・金融市場が厳しい時でも、先ほど説明したように売り持ちを持つなど運用制約を抱えないで運用できるので、運用成績をプラスにすることは可能でした。
しかし、株式を売り持ちにすることは、経済状況が反転し株式が上昇するとマイナスのリターンになるのです。経済状況を常に正しく予想できる人は存在しないことは、新聞のエコノミスト予測など見ていてもよくわかるはずです。
あり得ないリターンを求める年金基金
第3の理由は、年金基金の運用担当者が現在の経済金融情勢で到達できない期待リターンを構成する企業の経営者から求められているということです。
年間に4〜5.5%程度の運用利回りを毎年安定的に取っていかないと、年金基金の運用が破たんする仕組みになっています。
企業年金連合会が毎年実施している「企業年金資産運用実態調査」で明らかになっている2000年度以降の実現リターンを基に筆者が実態を試算し明らかにしてみました。
2000年度初に100資産があった企業年金基金は、当初資産と負債および拠出と給付が均衡しているとすると、企業年金平均で2010年度末には95.6になっています。
期待リターンを5.5%としている企業年金基金は2010年度末には、本来の試算では2000年度初の100から2010年度末には180.2に資産がなっている必要があります。
この180.2が給付に必要な資金、つまりは負債になります。この180.2と95.6の差が意味するところは、企業年金基金の負債と資産の差なのです。
少し難しいのですが、誤解を恐れず簡単にいえば、現在多くの年金基金の試算では、将来の年金給付が賄えない状況になっている。ある種の破たん状態にあるのです。
もしかすると、あなたの加入している企業年金基金も同じ状況で、予定している老後の企業年金は大幅に少なくなっているかもしれません。
そして運用担当者は、こうした状況を挽回するべく、つまりは年金資産を95.6から180.2のあるべき水準に取り戻すために、期待リターン5.5%では足りないので、年間10%超えのリターンを目指しているのです。
これもある意味、投資のプロであればしないことです。一発逆転狙いです。
こうした年金基金に、AIJの営業が来たら立ちどころがありません。毎月安定的にプラスで、年間20%の「みせかけ」の運用成績に目がくらむのです。基金の運用担当者もそうですが、その基金を構成する母体の日本企業の経営者が投資に無知なのです。
それでは、どうすればいいのか?
役に立たなかった年金コンサルティング会社
まずは、100億円以上の基金の運用担当者は、プロの投資家にするか、信頼できる外部のアドバイザーをつけること。ただ、アドバイザーに関しては、雇ってもらいたいばかりに基金のいいなりとなるケースもあるので注意が必要です。
今回AIJを採用していた基金の多くが、日本を代表する年金コンサルティング会社をアドバイザーにしていました。
こうしたアドバイザーは、基金が「AIJの商品を買いたい」と言うことに反対し、解雇されるのを恐れるのです。本末転倒はなはだしい状況といえるでしょう。
そして、年金基金の現状を冷静に見つめ、負債が資産を大きく上回っているところは、基金を構成する企業から拠出金をしっかり出してもらい、期待利回りを現実的な年2%程度まで引き下げることが必要でしょう。
現在社会年金制度の問題が議論されていますが、今回のAIJの事件を民間企業の年金基金制度も見直しを進めるきっかけにすべきです。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34623?
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