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http://diamond.jp/articles/-/16248 World Voiceプレミアム【第74回】 2012年2月22日 矢部 武
“ウォール街占拠”運動の仕掛人カレ・ラースンに聞く「世界の若者たちは新しい経済モデルを求めている!」
昨年世界の1000ヵ所以上で、富を独占する大金持ちに対し若者たちが抗議の声をあげた“ウォール街占拠”運動。世界のリーダーたちはこれに危機感を持ったのか、今年のダボス会議では「これからの資本主義をどうしたらよいか」についての議論が相次いだ。実は“占拠”運動はこれからが本番で、5月のシカゴでのG8サミットなどに向けて次の闘いの準備を進めている。その仕掛け人である、カナダの雑誌発行人のカレ・ラースン氏にその狙いを聞いた。(聞き手・ジャーナリスト 矢部武)
世界中の若者が
社会に幻滅し、怒っている
Kalle Lasn/1942年、エストニア生まれ。フィルム制作者、雑誌発行人・編集者、活動家。オーストラリアの大学で応用数学を学んだ後、カナダへ移住。60年代半ばから日本の経済、社会、文化などに関するドキュメンタリーを制作。日本の経済成長の秘訣を描いた”Japan Inc.: Lessons for North America?”は米国産業映画祭で銀賞を受賞した。89年に雑誌“アドバスターズ”を創刊。過剰な広告や消費がいかに社会をダメにしているかをパロディーで批判し、“商業主義を退治する”活動を展開している。
――世界の経営トップが集まるダボス会議で、米国型経済モデルのゆがみなどについての議論が行われたということは何を意味しますか。
資本主義が危機的状況に陥り、多くの人が目覚め始めたということだろう。専門家は「世界経済はゆっくりと回復基調にあり、雇用も戻ってくる」と指摘しているが、「危機はどんどん深刻さを増す」と、多くの人が感じている。しかも、どこが不況の底なのか誰にもわからない。
このまま世界経済が停滞し続け、雇用情勢が回復しなければ、さらに多くの若者が怒りの声をあげるだろう。スペインなどは若者の失業率が50%に達しているのだ。
私は69年生きてきて、若者の抗議運動がこれほど盛り上がったのは初めてだ。1968年にフランスの「パリ・オデオン座占拠」で始まった学生運動は、世界中の何百もの大学キャンパスに広がった。彼らは親の世代の抑圧的な社会体制に反発し、自由を求めた。当時私は、それがグローバルな社会変革運動に発展するのではないかと期待したが、結局何も起こらなかった。でも、今回の“占拠”運動はあの時と比較にならないくらい大きなものだ。
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世界中の若者が社会に幻滅し、怒っている。彼らは将来に希望を見出そうとしても、そこに見えるのはブラックホールだけだ。親の世代は家や車など欲しいものはほとんど手に入れ、快適な生活を送ってきた。彼らもそのような生活を夢見ていたはずだが、その期待は持てなくなった。だから、いま立ち上がらなければ自分たちの将来はないとわかっているのだ。
――仕事に就けないことが大きな原因になっているのでしょうか。
失業だけではない。彼らの将来にはエコロジーの危機、気候変動、政治腐敗、大恐慌の再来のような金融危機など、深刻な問題が山積みだ。決して終わることのないような危機を前に、彼らは恐怖を感じているのだ。
一方で、大企業の経営幹部などの年収は倍増し、格差がどんどん拡大している。また、多くの人が家を差し押さえられたり、失ったりしているのに、サブプライムローン問題を引き起こした張本人は裁きを受けず、自分のしたことの説明さえしていない。ウォール街の経営幹部は国民の税金で救済されたにもかかわらず、すぐにまた莫大なボーナスをもらうようになった。それはフェアではない、何かがおかしいと彼らは感じているのだ。
投機的な国際取引に課税する
“ロビンフッド税”
――あなたが最初に“ウォール街占拠”運動を仕掛けた動機は何ですか。
チュニジア、エジプトなどアラブ諸国で若者を中心に民主化運動が起こり、レジームチェンジ(体制転換)を成し遂げた。彼らはムバラク政権など古い体制を倒し、新しいより良いシステムをつくるために闘っている。そこで私は、世界中の不安を抱えた若者たちも、体制転換を求めているのではないかと考えたのだ。
私たちは国のリーダーに気候変動に真剣に取り組み、金融市場をゆがめている投機的な国際取引に課税する“ロビンフッド税”の導入などを求めている。1%か0.1%でも課税すれば各国は莫大な税収が得られ、財政赤字削減や格差是正にも役立つ。ロビンフッド税を実施するには、G20などすべての国が同意しなければならない。フランスやドイツなど欧州諸国の多くは賛成しているが、米英などアングロサクソン系の国は反対している。
次のページ>> 長期的戦略としては米国で第3政党を立ち上げる
世界中の若者たちは個々のリーダーが経済や政治などの問題にいかに取り組んでいるかを注視している。彼らは、人々にきちんとした将来像を示せるリーダーを求めているのだ。
長期的戦略としては
米国で第3政党を立ち上げる
――米国人の多くは体制転換を求めているのでしょうか。
そうだと思う。もちろん秘密警察を使って、国民を拷問していた独裁者のムバラク大統領を追放したエジプトのような“ハードな体制転換”ではなく、米国では“ソフトな体制転換”である。
たとえば、ウォール街の金融機関の力を少し弱め、ワシントンの政治腐敗を一掃することなどだが、これは民主・共和2大政党の政権交代では、成し遂げることができない。
米国は長い間この政治システムを維持し、昔は両党の政権交代でも大きな変化をもたらすことができた。しかし、最近は些細な政策論争をするだけで、経済、環境、政治などの重要問題では、コカ・コーラとペプシコーラの違いぐらいしかない。
――民主・共和の政権交代に代わるものとは。
私たちはまず、何を求めているかをリーダーにきちんと知らせたい。5月のシカゴのG8サミットはそのための絶好の機会となるだろう。
長期的戦略としては、米国で新しい第3政党を立ち上げることだ。いまどきの若者たちはインターネットを使って新政党づくりに参加し、党の名前を考え、綱領などについてもどんどん議論するだろう。
そして支持者が数百万人ぐらいになったら、党大会を開いて直接話し合い、リーダーを決めればよい。11月の大統領選には間に合わないが、次の2016年には新しい第3政党ができているだろう。
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――占拠運動はこれからが本番ということですか。
その通りだ。“占拠”運動は予想以上に盛り上がり、昨年10月には世界1000カ所以上で行われた。東京での抗議デモの写真も私のところに送られてきた。
これからは世界のリーダーに、「こうしてほしい」という具体的な要求をどんどんしていく。
長引く不況や先行き不安などで欧州の国々では、右派政党がわかりやすい即効の解決策を提案し、支持を広げている。これは危険な兆候だが、“占拠”運動がこのような状況を変える“解毒剤”のような役割を果たす可能性はある。
政治的左派の人たちはこれまでバラバラだったが、“占拠”運動のもとに結集し、新たな政治勢力になるだろう。
――占拠運動には主に左派の人たちが集まっている?
政治的には左派だが、マルクス主義者のような古い左派とは違う。気候変動に懸念を示す“グリーン左派”や、インターネット世代の“ブルー左派“などを中心とした新しい左派である。彼らはまったく新しい視点で世界を見て、新しい形の政治システムをつくろうとしているのだ。
――米大統領選への影響は。
“占拠”運動に参加している若者の多くは、「オバマ大統領は約束したことを実行するガッツ(根性)をもっていない。裏切られた」と思っているので、積極的には支持しないだろう。しかし、共和党のロムニー候補との選択になれば、仕方なくオバマに投票するかもしれない。
いずれにしても彼らは最大の関心は第3政党をつくり、既存の政治システムを完全に変えることである。
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――米国型経済モデルの将来をどう見ていますか。
第2次大戦以降、米国型経済モデルは世界中に爆発的な繁栄をもたらし、成功した。でも、私たちはいま非常に危険な時代に突入しつつある。米国人の多くは2台目の車や別荘を買うどころではなく、医療保険を払えるか、仕事に就けるかどうかを心配しなければならなくなった。
そして私たちの地球には約70億人が住んでいるが、すべての人に十分な水や食料、鉱物資源、石油などがあるのかどうかわからない。さらに、世界各地で気温がどんどん暑くなり、政治腐敗が進み、経済危機にも見舞われている。
このシステムはそろそろ終わりに近づき、私たちはいま大きな転換期をむかえている。しばらくすれば、米国型経済モデルは戦後50年間、人々に豊かさをもたらした過去のものとして、人々に記憶されることになろう。
――米国型経済モデルにとって代わるものは。
1党支配体制と市場経済を組み合わせた中国の国家型資本主義は決定が早く、非常に効率的だ。しかし、中国も永遠に高い成長率を維持することはできないだろう。
そこで、注目すべきは日本である。私は1960年代半ばから70代半ばにかけて、日本の経済成長の秘訣や文化、教育、社会問題などに関するドキュメンタリーを多く制作した。当時日本は、優秀な官僚が集まった通産省(現経済産業省)が産業を主導し、奇跡的な経済成長の原動力となっていた。
もちろん働き過ぎや女性の低い地位、閉鎖性など問題もあったが、日本社会にはダイナミズム、活力があふれていた。人々の心は熱く、何かを創り出そうという情熱や闘争心が旺盛だった。まるで、現在の中国を見ているようだった。
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日本が新しい経済モデルを実現し
世界を驚かすことができる
日本は世界で最も発達した資本主義国家の一つだが、バブル崩壊後は長期の不況に苦しんでいる。そういう経験をした日本だからこそ、成長至上主義でもナンバーワンでもない、人々がそこそこに働き、満足に生活できる安定した経済モデルを実現できるのではないかと思う。そうすれば、初めての持続可能な資本主義経済モデルになるかもしれない。
最近日本のメディアは、「日本は元気がない」というニュースばかり報じている。しかし、日本の文化、創造性、チームワークなどはまだ強く残っており、この混迷の時代に日本が新しい経済モデルを実現し、もう一度世界を驚かすことはできると思う。
日本は戦争に敗れ、米国によって社会や法律を変えられたのだから、米国に追随するのは仕方なかった。しかし、米国は今や衰退している。日本は今こそ、独自に将来に向けた新しいビジョンを打ち出すべきではないか。
(編集部からのお知らせ)
矢部さんの新著『ひとりで死んでも孤独じゃない: 「自立死」先進国アメリカ 』(新潮新書) が発売されました。DOLで紹介した孤独死やリビング・トゥゲザー・ロンリネス、高齢者の自立などに関するインタビューの内容なども含まれています。ぜひご一読ください。
世論調査
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