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Financial Times
英国経済に必要な企業収益の減少とポンド安
2012.02.20(月)
(2012年2月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ユーロ「圏外」を喜ぶべきは英国か?
ムーディーズは2月13日、イタリアやスペインなどユーロ圏6カ国の国債格付けを引き下げると同時に、英国など3カ国の格付け見通しを「ネガティブ」とした〔AFPBB News〕
格付け機関のムーディーズは先日、英国債のトリプルA格付けをネガティブウオッチに指定した。見通しの変更は重要なのだろうか? 答えはノーだ。
ムーディーズは、見識のある人がよく知らないことは何も語っていない。つまり、英国は多額の財政赤字を出しており、公的債務が増加しており、マクロ経済的な苦境にある、ということだ。
ムーディーズの警告の意義は、政府が現在出している財政赤字ではなく、長期的な展望にある。
ケンブリッジ大学名誉教授のロバート・ニールド氏は、英国王立経済学会の会報で「無意味な警戒論によって正当化された大戦間の予算均衡政策の再適用が、我々を不必要に深刻な景気後退に追い込んでいる」と指摘した。
デフォルトせずに国家債務を維持してきた英国の歴史
全くもって正しい。教授はこうも書いている。「政府の財政管理のリーダーである英国は、3世紀以上にわたって、デフォルト(債務不履行)に陥ることなく国家債務を維持してきた。国内総生産(GDP)に対する債務比率は、現在よりずっと高いことも多かった」
なぜ大勢の人は、この成功の歴史をほとんど意味のないものと見なし、ユーロ圏内のギリシャやイタリアの悲惨な経験の方がはるかに意義深いと考えるのだろうか?
しかし、英国の歴史から明らかなのは、経済成長が、公的債務の管理に成功する必要条件だということだ。例えば、1920年代初頭の大幅な歳出削減は、その後経済が崩壊したため、対GDP債務比率を引き下げられなかった。この点は、ムーディーズの分析と一致している。同社は将来の英国の弱い経済成長を招く要因についても強調していた。
政府の対策は、2016〜17年度までに財政赤字をGDP比で8.1%削減する見通しだ。では、政府はどうやって、力強い経済成長とともに、これほど大規模な財政再建を実現するのだろうか?
その答えは、原則としてはシンプルだ。経済のその他部門、すなわち、家計、企業、対外部門で、政府部門の赤字削減を相殺する資金余剰の大幅減が起きなければならないのだ。
政府が赤字を解消するために必要なこと
さらに、こうした変化は、所得の激減を通じて起きてはならない。それは必要な調整をもたらす方法としては、破滅的なうえに持続不能だ。一連の収支の変化は所得の減少ではなく、従来より低い計画貯蓄と、特に投資に対する支出の大幅増によって実現しなければならない。重点を置くべきは、こうした変化がどのようにして起きるか、だ。
土台として2011年第3四半期までの4四半期を見ると、政府の財政赤字はGDP比8.8%だった。政府の赤字に対応するものは何だったか? 家計はGDP比0.9%の小幅な黒字(資金余剰)を出し、外国人は同2.7%の黒字、企業は同5.5%の黒字だった。
ロンドンに本拠を構えるスミザーズ・アンド・カンパニーのアンドリュー・スミザーズ氏が最近のリポート(「英国:利益率の低下とポンド安が必要」)で指摘しているように、財政赤字を解消するためには、何にもまして対外部門と企業部門で反対の調整が起きなければならない。
企業収益の減少と投資の拡大、そしてかなりの規模の経常赤字の減少という組み合わせが必要になる。政府の投資と民間の住宅建設の増加も役立つだろう。だが、重債務を抱えた英国家計は、再び多額の赤字を出すべきではない――。
筆者はこの論理を受け入れる。多額の財政赤字は、危機の直後は、需要を支える必要な手段だった。それでもやはり長期的には、解決策は、経済成長を維持しながら、経済のその他部門の収支に大規模かつ恒久的な変化をもたらすことでなくてはならない。
もう近隣窮乏化政策しかない
英、0.5%利下げ ECBは据え置き
イングランド銀行は量的緩和を実施しているが、ポンドは十分に下落していない〔AFPBB News〕
スミザーズ氏が指摘するように、対外不均衡に対する解決策には、実質為替レートの引き下げが含まれなければならない。
需要不足の世界では、かなり過剰な民間・公的債務を抱えた国は、近隣窮乏化政策を追求しなければならないのだ。これについては本当に申し訳ない!
量的緩和の問題点は、この政策がまだポンドを十分に下落させていないことだ。
スミザーズ氏が指摘するように、「向こう10年間の経済政策の唯一最大の課題は、いかにして経済を景気後退に陥らせることなく、企業部門の資金余剰を資金不足に転換させるか、という問題になるかもしれない」。
ポンド安はそれだけで、製造業者の生産の利益率を高めることにより企業の投資を増加させるはずだ。しかし、企業部門の利益にも目を向ける必要がある。
我々はまず、なぜ英国企業の利益がこれほど堅調で、設備投資がこれほど弱かったのかを理解しなければならない。スミザーズ氏は、悪しきインセンティブが原因だと指摘している。特に大きいのが、経営幹部の報酬を株価に連動させる仕組みだという。
経済全体に害を及ぼす企業の「現金ため込み」
短期的には、少ない投資と高い生産物の価格は、経営陣の報酬と株価の両方を押し上げる。さらに言えば、経営陣に与えられているのは短期間だ。英国企業は長期的な繁栄ではなく、経営幹部の富のために経営されており、企業自身、さらには経済全体に悪い結果をもたらしているわけだ。
つまり、政策は、現在の企業部門の莫大な資金余剰を促しているインセンティブに焦点を合わせなければならない。この点を重視することで、我々はジョン・メイナード・ケインズの最も重要な教えを学び直すことにもなる。すなわち、財政状況は経済のほかの部門で起きていることと切り離して考えることはできない、ということだ。
大きな課題は政府以外の部門で資金余剰を減らすことだが、それは経済を落ち込ませるのではなく、成長率を高めることによって実現しなければならない。これが永続的な財政再建を成し遂げる唯一の方法だ。政府は物事を大きく考えなければならない。政府は、節約に取り組むただの家計ではないのだ。
By Martin Wolf
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