13. 2012年2月19日 13:58:34
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2011年8月5日(アメリカ時間)、S&Pが「AAA(トリプルA)」という最上級格付けから一段下の「AA+(ダブルAプラス)」に下げた。 米国債が「AAA」から転落したことは前代未聞だからインパクトは強い。だが、実際上は「AAA」も「AA+」も等級としてはほとんど変わらない。そもそも米国債など、リーマン・ショック時に格下げされていなければならなかったのだから、市場はとっくの昔に織り込み済みだったはずだ。 この米国債格下げ劇で唯一面白いと感じたことは、米国債を格下げした時に、これで「AAA」を付ける国債は地上から消えた、とでも宣言するかと思いきや、S&Pもムーディーズもそうはしなかった。米国債よりもはるかにリスクの高いドイツ国債やフランス国債、はてはイギリス国債で「AAA」のまま据え置いていた。 格付け会社と自称する連中の、「ヨーロッパは世界を指導し続けてきた白人キリスト教徒が作った国ばかりだ。だから、アジア・アフリカ・中南米の国より偉いのだ。誰が何と言っても、偉いんだから、偉いの」という感覚が噴飯ものなのである。 日本のマスメディアの特徴は、日本経済について悪いニュースが出れば喜んではやし立てるところだから、欧米の格付け会社が日本国債を下げたりすると鬼の首でも取ったかのように喜んで報道する。米国債格下げのあと、8月24日にムーディーズは日本国債の格付けを上から三番目の「Aa2」から四番目の「Aa3」へと一段下げているが、この時もいつもの調子で「日本経済はお先真っ暗」といった論調ばかりだった。 この大騒ぎも、全くのから騒ぎに過ぎないのである。米国債の格付けが下がったということに唯一意味があるとすれば、債券のポート・フォーリオの弁解や責任転嫁に利用されるということだ。もともと、格付けにはその程度の使い道しかないのである。 市場は損得で判断する場所だから、普通は日本国債のように圧倒的に低い利回り(=高い価格)の債券が流通するはずはないのだ。ところが現実には日本国債の人気は高く、いつも高倍率で消化されている。 アメリカの金融市場で今最も深刻なことは、株式市場のパフォーマンスではなく、米国債の利回り低下に歯止めがかからないことだ。米国債の10年物の金利も、ピークを打ってから11年以上も過ぎているのに下げ止まりの気配が全くない。一見しただけだと、アメリカの国債金利低下も、日本と同じような現象と錯覚してしまう人がいるかもしれない。 だが、背景となる貨幣価値の動向がまるっきり違うのだ。日本は経済全体が年率0.3〜0.5%の穏やかなデフレとなっているので、10年物日本国債が生み出す1.0%前後の名目金利は、実質1.3〜1.7%の金利となり、決して低すぎることはない。 だからこそ、日本国債の新発債はだいたい3〜5倍の応募があって、市場での吸収に何の不安もないという状態が続いているわけだ。 一方、米国債(10年物)の2.0%前後という名目金利は、政府が公式に発表しているかなりうさんくさいインフレ率でも、ぎりぎり実質金利がプラスになるかならないかという水準なのだ。これは政府公式統計を監視している民間調査機関(例えば、シャドウ・ガバメント・スタティスティクス)が発表するインフレ率で計算すれば、実質金利がかなり大幅なマイナスになってしまう。つまり、長期間持てば持つほど金利を稼げるどころか、持ち出しになってしまうのである。 日本国債の保有者中95%は日本国籍の個人、民間企業、公的機関である。彼らは経済評論家が何を言おうと、マスメディアが何を報道しようと、現在の円レートは実力から見ればまだ少し割安であり、今後も円高は続くに違いない、ということを本能的に知っている。だから、高い名目金利につられて海外の債券を買ったりしたら最後、為替でやられて結局、惨憺たるパフォーマンスに終わることも承知している。 当然、確定利付き商品同士の比較では、為替リスクのない日本国債や日本の地方自治体債、日本企業の社債の方が有利だと分かっている。 ところが、米国債需要の30〜40%は外国人投資家が担っている。彼らにとっては、まずアメリカ国内のインフレで実質金利はゼロから若干のマイナス、その上、慢性的なドル安で為替でも損失を計上するようになったら、米国債を持つ理由は全く見い出せなくなる。 そういう意味でも、今の米国債(10年物)の低金利は嵐の前の静けさという感が強い。 |