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過激候補ロン・ポールの実像と米国の憂鬱
2012/02/16
マイケル・センズィン
米大統領選に向けた野党共和党の候補者選びが進んでいる。2月7日のコロラド州、ミネソタ州の党員集会ではリック・サントラム元上院議員が勝利し、ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事とニュート・ギングリッチ元下院議長の争いに割って入る形になった。
だが、あまり語られていないストーリーがある。もう1人の候補者、「リバタリアン」として知られるロン・ポール下院議員についてだ。彼は静かにではあるが幅広い若い層の投票者の心をつかんでいる。
ニックネームは「ドクター・ノー」
CNNの出口調査によると、17〜29歳のうちアイオワ州では48%がポール氏に入れた。ニューハンプシャー州では46%(18〜29歳)と50%近い票を獲得した。サウスカロライナ州は31%(同)、ネバダ州でも41%(17〜29歳)を得ており、いずれもこの年代でトップの得票率となった。
現実にはポール氏が共和党候補者の座を勝ち取るには到らないと思われるが、若者の支持が彼に向かっているという事実は、今の有力候補たちの限界を物語っている。
ポール氏は1935年、ペンシルベニア州ピッツバーグに生まれた。ノースカロライナ州のデューク大学メディカルスクールを修了し、医師となる。5年間米空軍の航空医官として働いた。そして、テキサス州で個人開業の婦人科医となり8年後、共和党員として政治の道に入る。1976年の下院選では民主党のロバート・ガメッジ議員に敗れるが、2年後の再挑戦で雪辱を果たした。途中、再び医療の道に戻るなど短い中断期間はあるが、1996年の選挙で下院議員として政界に復帰する。大統領選への挑戦は今回で3度目。1988年にはリバタリアン党の候補として、2008年には共和党候補として出馬した。
20数年もの政治キャリアは、「ワシントンのインサイダー」を意味しているように見えるが、ポール氏は数少ない例外の1人だ。
リバタリアンである彼は、連邦政府の役割を極端に限定し、完全自由市場の資本主義を擁護する。リートヴィヒ・フォン・ミーゼスやフリードリッヒ・ハイエク、マーレイ・ロスバートといったオーストリア経済学派の影響を受けたポール氏は、妥協を許さないリバタリアンとなった。自分の考えに合わなければ、所属する共和党に対しても反対票を投じてきた。イラク戦争への議会承認に反対した議員の1人だった。そして、議会の同僚から「ドクター・ノー」というニックネームで呼ばれるようになった。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120215/227233/?mlt&rt=nocnt
「FRB廃止」「金本位制復活」「米軍完全撤退」「国連脱退」
そのポール氏の基本政策は、米国に大改革を迫るものばかりだ。
まず連邦準備理事会(FRB)は不要だと唱える。2009年にはインフレを抑えバブルを防ぐためにFRBを廃止すべしという224ページに及ぶ論文を書いた。「FRBは金融緩和よるマネーでジャブジャブにする政策を一貫して行ってきた。それは誤った資源配分と人工的な景気過熱につながり、FRB製のバブルが崩壊した時、景気後退や恐慌をもたらす」
そしてこうも言う。
「FRBを創設して以来、バブルを生成し崩壊させる金融政策によって米国の中間層は犠牲になってきた。またFRBの政策は、インフレになった通貨を使うことで福祉国家にかかる本当のコストを隠そうとする政治家に恩恵を与えている。議会は今こそ、こうした特別な利害や大きな政府へ欲求よりも米国民の利害を優先させるべきだ」
ポール氏は、通貨を無制限に印刷できるFRBがある限り、ドルの価値下落を招き、長期的に米国を蝕む財政支出を継続してしまうと考える。そこで彼は、金本位制に戻るべきだと提唱する。金のように有限有形で価値があるグローバル資産とドルをリンクさせることで、通貨価値が安定すると考えているからだ。
ポール氏の政策は、彼自身の解説においては魅力的かもしれない。だが、専門家の多くはそれを実行するのは不可能だと言う。複雑化したグローバル経済は、経済的な目標を他の国々とともに達成するために強力な連邦政府を必要とするからだ。
「彼の多くの政策は現代のグローバル経済と矛盾する。(金融危機の後)もしFRBが流動性を供給しなかったとすれば、状況は(1929年に発生した世界恐慌後の)1930年代のように、深刻な状況に陥っていただろう」。ブルッキングス研究所のバリー・ボスワース・シニアフェローはそう反論する。
外交政策においてもポール氏は他の共和党候補者とは全く異なる姿勢を取っている。曰く「米国の介入主義(U.S. Interventionism)」の終結だ。
彼の「米国再生計画(Plan to Restore America)」によると、大統領として1兆ドルの歳出削減を断行するための重要な政策は「対外政策の支出削減」だ。対外支援の終了、紛争地域を含めた在外米軍の完全撤退を求めている。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120215/227233/?P=2
外国での紛争介入を避けるだけではない。国際連合やNATO(北大西洋条約機構)、さらに多くの国際機関から脱退、そうした機関の解散に言及している。2003年に出したニューズレターでは、「国連に米国市民を拘束する“法律”を作る権限はない」と述べている。
評論家からは、ポール氏が掲げるもっともらしい孤立主義は今日の世界では現実性がないと指摘されている。
「彼が言っているように米国が世界から手を引くことは不可能だ。ポール氏は米国、もっといえば現実世界を統治できる政治家ではない」。中東政策に詳しいウッドロー・ウィルソン国際センターのアーロン・ミラー氏はそう断ずる。
「レーガン後」の喪失感を引きずる共和党
専門家や主要メディア、民主・共和両党などから、そのリバタリアンとしての政治姿勢が非現実的だと否定されてきたにも関わらず、若年層におけるポール氏の支持は底堅いものがある。ロムニー氏とギングリッチ氏が争い、サントラム氏が割って入る予備選だが、ポール氏はニッチな支持層を掘り起こしてきた。
共和党にとってポール氏が無視できない存在になっているのは、前回2008年の大統領選敗北から共和党が立ち直っていないことを示している。言うなれば「共和党のアイデンティティー・クライシス」だ。
「今の共和党支持者は幸せではないという事実が、予備選でのポール氏の生き残りを許している。それは、ロナルド・レーガン元大統領に熱狂した後で味わった失望から立ち直っていないということだ」とミラー氏は言う。
進行している予備選では、ギングリッチ氏の支持者はロムニー氏を「弱い」と攻撃し、ロムニー氏の支持者はギングリッチ氏を「好きになれない」と言う。共和党を束ねるものは、唯一、オバマ政権に対する拒絶だけだ。確固としたイデオロギーや強いメッセージが欠けているから、大金を投じてネガティブキャンペーンを張るという醜い争いが続いている。抗争がエスカレートし、党内の亀裂が深まったため、ポール氏は保守派の中に自身の支持基盤を作ることに成功した。
ポール氏が予備選で勝つことはまず考えにくい。それでも、ポール氏の選挙活動からは、共和党の不安定な状況が見えてくる。彼の戦略が一定の成功を収めれば、共和党の政策に対して影響力を獲得するかもしれない。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120215/227233/?P=3
接戦になれば「キングメーカー」に?
コロンビア大学のジャスティン・フィリップス教授は、若年層のポール人気に注目している。予備選の展開次第では、共和党の候補者選びが8月の党大会における決選投票にもつれこむ可能性があるからだ。
フィリップス教授によると、アイダホやノースダコタ、ワイオミングなど、党員集会で候補者を選ぶ西部の小さな州では、ポール氏が善戦する可能性があるという。もしそうなれば、党大会での決選投票というシナリオが現実味を帯び、共和党主流派にポール氏は自らの要求を認めさせることができるかもしれない。「ポール氏が獲得する選挙人の数では、大統領選の党候補者にはなれないが、やり方によっては、彼はキングメーカーになる可能性がある」(フィリップス教授)。
ポール氏の人気に脅威を感じているのは共和党だけではない。2008年大統領選でオバマ氏の勝利を決定づけたのは、熱狂的な若者の支持だった。NBCの出口調査によると18〜29歳の年代層では、共和党のジョン・マケイン候補に対し、66対31の大差をつけた。「Hope」「Change」というキーワードで彩られた選挙運動を繰り広げ、長引く中東戦争に嫌気が差していた若者に、「変革をもたらす新鮮な候補者」というイメージを植え付けることに成功した。
だが、就任から3年がたちオバマ氏に限界を感じる若者も出てきている。ジョージア州サバンナ在住の大学生、ガブリエル・アキーノ氏もその1人だ。米国人でもあるアルカイーダ幹部、アンワル・アウラキ容疑者を裁判にもかけず殺害するなど、前ジョージ・ブッシュ政権と変わない強硬路線をとるオバマ政権に失望したという。
そのアキーノ氏は今、ポール氏を支持している。同じように多くの若者が、自らの理想に妥協しない候補を求めている。予備選におけるポール氏の結果がどうなろうとも、1つだけはっきりしていることは、現在の政治に限界を感じている若年が全米にかなりの数、存在しているということだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120215/227233/?P=4
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