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ある円高仮説の致命的欠陥(小笠原誠治)
2012/02/14
小笠原誠治ブログhttp://blog.livedoor.jp/columnistseiji/archives/51449640.html
この1、2年為替市場では円高局面が続いている訳ですが‥そして、その円高の原因については、いろいろ言われる訳ですが、一部で超円高の原因は、アメリカなど海外勢がじゃぶじゃぶ通貨を供給しているのに、日本の場合には日銀が渋っているのが原因だ、という説がありますが、どう思いますか?
例えば、米国がどんどんドルを発行し、その一方で日本の円の流通量が増えなければ、円が強くなる‥うーん、それはそのとおりかもしれない、なんて考える人も多いのではないでしょうか。
でも、そんなプリミティブな考えをする人は市場関係者にはいないと思うのです。そして、経済界にもそのような主張をする人は殆ど見当たらないと思います。しかし、評論家や政治家などのなかには一部そういう主張をする人がいるのです。例えば、あの森永さん。そうです、教授でありながらオタクの森永さん。日本だけが金融緩和が十分ではなく、通貨の流通量が増えていない、と。その一方、アメリカはリーマンショック以降こんなに通貨の流通量を増やしているので、ドル安円高になっているのだ、と。
まあ、でも、森永さんのような人が無邪気にそういう主張をしているだけなら、笑って済ますことができる訳ですが‥予算委員会で、野党の議員が財務大臣に対して、そのような説を吹聴し、そして、それに対して財務大臣が否定することもできないので、黙っていることができないのです。
■先ずは、山本幸三議員が2月2日の予算委員会でどういうことを言ったのか、見てみましょう。
<山本議員>
今日は日銀総裁に来ていただいて、円高デフレ対策、私はこれが日本経済の最大の問題だ思っているので、この点についてお伺いしたいと思います。
まず、今の超円高の原因は何ですか、日銀総裁。
<白川日本銀行総裁>
えー、お答え致します。あの、為替相場は日々様々な経済のデータに反応して動いておりますけども、過去数年間、特にリーマンショック以降の円相場・為替相場の動きを見ていますと、やはり一番大きな要因は、世界全体のこの金融システムあるいは金融市場に対する安定性、これに対する(聞き取れず)と非常に密接に連関してるというふうに思います。
これはあの、よく世界経済の不確実性が増す時に、投資家のリスクに対する許容度、リスクを取
る態度、これがどうしても後退します。そういう中で相対的に、まあ安全だというふうに見られる資産に選好が集まるという現象の下で円高が生じているというふうに思います。
<山本議員>
リーマンショック後に世界経済が不確実になったって、それは日本だって一緒じゃないですか。どこの国の通貨だって弱くなるのに、どうして円だけ強くなるんですか。そんなの説明にならない。
<白川総裁>
えー、お答え致します。あの、もう少しあの詳しく申し上げますと、世界経済全体の不確実性の増大、これはもちろんあの、各国に共通している原因でございます。で、現在は為替の取引の金額が非常に実物取引以上に大変大きな経済でございます。で、そういう中でグローバルな投資家がどの通貨に投資をするかという、まあ判断をする際に、相対的に金融システム、金融市場が強い、頑健性が強いというふうに見られている通貨に移すという傾向が見られます。
そういう中で、たとえばリーマンショック以降の動きを見てみますと、スイスフランもそうですし、日本の円もそうでございます。そうした通貨が相対的に買われるので、これあの、このこと自体の良し悪しを議論しているということではなくて、グローバルな投資家がどういうふうに見てるかということについての解説を申し上げました。
<山本議員>
財務大臣、その説明で納得しますか。
<安住財務大臣>
あの、先生からも私、何度かご指導いただいてますけど、短期、中期、長期と為替の変動につい
ては、そういう見通しがあると。で、その中で短期的な見通しだけ申し上げれば、やはりFOMCがこ
の間25日に行った結果を受けて、米国金利が、まあ当面14年まで低下をするということを、まあそういうことがあの背景にあって、短期筋による思惑的な買いというのが、円買いというのが強まったというふうに私としては総分析しております。短期のことについてはですね。
<山本議員>
短期的にはそういうことがあるかもしれませんが、問題は中期的な動きなんですね。で、お配りしたグラフを見ていただきたいんですけれども、図を見ていただきたいんですけど、これを見れば一目瞭然なんですよ。で、リスクの話とか債務危機の話とか言うのは超短期の動きであって、そんなものはちょっとした時間が過ぎれば消えていくんです。だけど、中長期的に基本を決めてるのはお金の動きなんですよ。ね。で、お金の動きは中央銀行がコントロールするところで決まるんで、それをマネタリーベースと言いますけれども、現金と中央銀行預け金ですね。それは中央銀行がコントロールできるもんですよ。それ以上のものは中央銀行はコントロールできない。
それを見ると、2000年を100として、日本銀行だけですよ、ほとんど何もやってないのは。特にリーマンショック以降、日本の円が高くなったのはリーマンショック以降ですがね、何もしてないのは日本銀行だけですよ。リーマンショック以降、中国は猛烈に伸ばした、アメリカも伸ばした、ね、イギリスも、韓国も、そして、ECBも。ECBはちょっとよそより少ないんだけど、これが今の日本の円の円高を説明してるんですよ。
だって、通貨の価値ってのは、それぞれの通貨の相対価格なんだから、たくさん出した方の通貨が安くなるに決まってるじゃないですか。これが基本ですよ。そのことを財務大臣、理解されますか。
<安住大臣>
先生からいただいた、あの、資料で、このマネタリーベースの残高というのがあります。あの、ひとつだけ私の方から申し上げたいのは、これ先生、あの、やっぱり中国のような経済規模が大きくて成長がまあ10%前後の時には、やっぱり供給量ってのはものすごく増えていくであろうと思います。ですから総体の量としてのことはあると思いますが、他方で、対GDP比でよく日銀の総裁からあとからあるかもしれませんが、見たときの比率ということで言えば、まあ30%弱の供給比にあると。それに対してFRBは18.8、ECBは24.2というふうな統計もありますので、まあ一概に、あの、統計で数字だけ見て中国が非常にジャンプをするほど大きくなってるのに比べて日本は極端に低いという総量的なあの考え方は、十分あの、私も分かりますけども、対GDP比で見たときのそういう指標もあるということは事実ではないかというふうには思っております。
さあ、如何でしょう?
何と元気のいいと言うか‥上から目線の山本議員。それに対して、自信なさげな安住大臣。
いずれにしても、山本議員の主張は明快であるのです。
「通貨の価値ってのは、それぞれの通貨の相対価格なんだから、たくさん出した方の通貨が安くなるに決まってるじゃないですか。これが基本ですよ」
そして、付け加えるとすれば、通貨の量はマネータリ―ベースで決まる、と。ということは、マネタリーベースが大きく増えている国の通貨は安くなり、そうでない国の通貨は強くなる、と。
ここまでの段階では、山本議員の主張を支持する人が多いかもしれません。しかし、だからこそ
私は、こうして謎解きをしようというのです。それに、私自身30年以上も前のことではあっても、自分も似たような考え方をしていたので、もし誤解している人がいたら、その誤解を解いてあげたい気持ちになるからなのです。
先ず、最初に一言だけ言っておきます。
他の条件が同じであれば、それは通貨の量が多くなった方の国の通貨の価値は下がる傾向にあるだとうということ自体を私は否定するものではありません。私が、誤解を解こうとしているのは、山本議員などの実際の主張についてであるのです。
■ポイントは3つあります。
先ず、通貨の流通量が増加すると、必ずその通貨の価値が低下するみたいなことをいう訳ですが、そのような主張は、その通貨が国外へ流出していく効果を全く考慮していないのです。早い話、
大量に追加発行されたドルの大部分が、どこかの国に流出し、そのどこかの国の中で使用されることになれば、ドルの価値が必ずしも低下することにはならないことを彼らは無視しているのです。
第二に、通貨の流通量が増加しても、それに伴って、或いはそれ以上にGDPが増大していれば、
必ずしも通貨の価値の低下は起こらないことを彼らは無視しているのです。
例えば、ある時点において、米国では1ドルでコーラ1本が買え、その一方で日本では100円でコーラ1本が買えたとします。そして、ある期間において米国ではドルの流通量が倍増し、日本では円の
流通量が変わらなかったとします。そのような状況で、ドルと円の価値に変化は生じるのか?
山本議員の説によれば、そのときにコーラの価格は2ドルになっていて、日本におけるコーラの価格は100円のままだと言いたいのでしょう。そして、その結果、円の価値はドルに対して上昇する、と。
もし、山本議員の説が正しいとするのであれば、円の価値が上がる前提として、米国では物価の
高騰が起きている必要があるのです。では、リーマンショック以降、ドルの流通量を増やした結果と
して、アメリカではインフレが起きているのでしょうか?
そんなことはありません。物価は大変落ち着いている、と。一時は、日本のようになってしまうのではないかと心配したほどでした。だから、米国で物価が上がっていないのに、円に対してドルの価値が落ちるという議論は根拠がないと言わざるを得ないのです。
それに、もう一つ重要なことがあるのです。仮に米国である期間を経て通貨の流通量が倍増して
いたとしても、それと同時にGDPが増大していれば、必ずしも物価の上昇は起こらないということです。例えば、モノやサービスの生産量が増え、コーラの生産量も増えていたとすれば、幾ら通貨の流通量が2倍になっていたとしても、やはりコーラ1本は以前のように1ドルで買えるでしょう。そして、米国ではコーラ1本が1ドルであり続け、日本ではコーラ1本が100円であり続けているので、ドル安になるはずはないのです。
日本ではGDPが余り増えず、その一方で米国などでは比較的高い経済成長が続いていたのであれば、米国の通貨の流通量の増え方が大きくても、必ずしも円高ドル安にはならないという訳なのです。
最後に、彼らは、マネタリーベースを通貨の流通量と同一視する訳ですが、それがそもそも間違っているのです。
確かに、リーマンショック以降、米連銀は金融危機を食い止めるために、未曾有の金融緩和を行い、マネタリーベースが著増したのは事実であるのですが、実際の通貨の流通量はそんなには増加していないのです。
■そもそもマネタリーベースと聞いて、それを正確に説明できる人がどれだけいるのか?
マネタリーベースというのは、現金プラス連銀に預けてある市中銀行の預け金のことなのです。日本で言えば、現金と日銀に預けてある市中銀行の準備預金の合計だ、と。
で、リーマンショック以降、米国のマネタリーベースが増えたというのは、連銀に保有する市中銀行の準備預金の残高が増えたということであるのですが、何故、それが急増したのか?
それは、一つには連銀が金融危機を鎮静化するために、市中銀行の対し潤沢に貸し出しを行った
からなのです。つまり、市中銀行が資金繰りに支障を来さないようにするために彼らの預金勘定に
資金を放り込んでやった、と。
では、そうやって放り込まれたお金を、市中銀行はどうしたのか? これを市中銀行が自分たちの顧客に対する融資に使用すれば、実際の通貨の流通量がどんどん拡大していくのですが‥金融危機の状態にあって自分たちの存続さえ危ういのに、企業にお金を貸してあげようなどという市中銀行は殆どなく、幾らマネタリーベースが増えても実際の通貨の流通量はそれほど増えなかったのです。
つまり、米国では通貨の流通量がとんでもないほど増えたというのは、全くの誤解であるのです。
通貨の流通量が増えないのでインフレも起きる筈がなく、そしてインフレが起きないのに、ドルが対円で安くなるとすれば、それは別の理由があるからに他ならないのです。
■では、その原因は何か? 中期的長期的にドル安になる原因は何か?
それは、経常収支の赤字が長年続いていること。そして、その反対に日本では経常収支の黒字が長年続いていることであるのです。
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