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第2回 増税か成長か、百家争鳴でまた日が沈む
前回、なぜ今消費税増税が必要とされるのかについて意見を聞いた。しかし増税の必要性を説かれても、疑問や不安はまだ拭えない。増税して景気が落ち込めば、むしろ税収が確保できないのではないか。経済成長を促せばそもそも増税は必要ないのではないか。政府の歳出削減だってまだまだ中途半端だ。再び森信茂樹氏と明石英司氏に聞く。
経済が成長すれば、増税は必要がないという見方があります。きちんと施策を実行して経済が成長すれば、年金の運用利回りも改善し、税収も増え、増税しなくても財政が健全化に近づくのではないでしょうか。
森信:例えば名目成長率が4%になれば、長期金利も恐らくそれに近い水準になるでしょう。そうなると国の歳出も国債費を大幅に増やさなければなりません。物価連動の多い社会保障費は歳出が増えてしまう。つまり経済成長で歳入が増加しても、利払い費や社会保障費などの歳出も増えるので、それだけでは財政再建にはなりません。また、金融機関の保有する国債に損失が発生し、貸し渋りなどにつながります。
明石:もし神風が吹いてリーマン・ショック前の水準まで国内景気が戻っても、法人税は7〜8兆円増える程度です。これに対して、900兆円にのぼる国と地方の債務の金利が経済成長に伴って1%上昇すると、それだけで9兆円も歳出が増えるのですから、舵取りが非常に難しいところですね。
富裕層への増税をさらに強めるとしても、相続税収はここのところ年1.5兆円程度、バブル期ですら3兆円程度でしたからインパクトはかなり限定的です。現状では国債関連の元利返済を無視し、税外収入を加味しても、単年度の収支のアンバランス(支出超過)は毎年20兆円を超えているわけで、消費税5%増による12兆円の増収は大きいでしょう。
経済成長だけで健全化は実現できない
森信:BNPパリバ証券のエコノミストである河野龍太郎さんの分析では、高齢化要因を取り除いて分析すると、若い世代の間では貯蓄率が上昇しているそうです(グラフ参照)。高齢化すると貯蓄を取り崩して生活するようになるので通常、貯蓄率は下がるのですが、これはまさに、若者の将来不安の表れではないでしょうか。それには、少しでも早く財源を確保して安定的な社会保障を構築し、不安を払しょくする必要があります。
――今の政府は財政再建優先で、経済を活性化する施策や成長戦略に乏しいのではないですか。経済がやせ細ってしまいますし、将来が不安になるのも当たり前です。増税より先に、成長戦略が必要なのではないでしょうか。
森信:一口に経済成長戦略と言っても、即効性のあるアイデアはありません。ただ民主党の言う、社会保障費をばらまき、社会保障に携わる人たちの雇用を増やすというのは、古い経済学に基づく非現実的な考え方のように感じます。自分の手を食べるような話ではないでしょうか、政府の規模がむやみやたらに大きくなる。
ですから、地道に規制緩和を進めるしかないと思います。例えば、医療・介護、さらには農業や漁業の分野に、規制緩和で民間資本を入れる。そして近代的な経営手法で効率的な経営をし、競争力をつけながら規模を拡大していくのです。前から指摘されているのに、全く前進していないではないですか。私も、株式会社に抵抗がある場合には、合同会社(LLC)で農業や漁業を活性化することを提言しています。
介護の分野は人手不足です。もっと規制を緩和して競争原理を導入すれば、民間資本がもっと入ってくる。公費をつぎ込むことで社会保障に携わる人の給料を上昇させれば、経済が成長するという民主党の考え方には確かに違和感があります。増税したら景気が良くなる、とまで言いますが、そんなうまい話はない。経済原理に基づかない政策ではないでしょうか。米国は1980年代に大幅な規制緩和をして、サービス業の雇用を1千万人単位で増加させた。所得水準の低いマクドナルドの店員だけが増えたと批判もありましたが、雇用は相当安定しました。
また、「経済が成長すれば増税はいらない」という論理を主張するグループがいます。ですがこれまでの税収弾性値、すなわちGDP(国内総生産)の伸び率と税収の伸び率の比率から考えて、そのようなことは起こり得ない。そうした人たちに、どう成長するのですかと聞くと、それは日本銀行の政策で、という答えが返ってくる。マネーを供給しても金融機関は企業にお金を貸さない、企業も収益の上がる事業をなかなか見つけられないという状況には目をつむっている。最後には、とにかくマネーを刷ればいいという主張になる。
――「ヘリコプターマネー」ですね。お金をどんどん刷ってばらまく。
森信:国債発行の日銀引き受けは財政法の明文で禁止されています。これは、戦前、戦中に、日銀引き受けで大量の公債を発行した結果、激しいインフレーションを引き起こしたことへの歴史的な反省から規定されたのです。
――法改正は必要がない、と言っている方もいるようですが…。
森信:確かに日銀が保有する国債の借り換え債では、予算総則に明記し、国会の議決を経て、日銀引き受けを実施しています。これは、日銀が保有している国債の満期到来に伴う引き受けです。国債の単なる借り換えなので、通貨膨張にはつながりません。財政法第5条の趣旨に反するものではなく「特別な事由」として、日銀引き受けをしてきています。
日銀引き受けは通貨の信認を損なう愚行
また、財務省証券は、日銀引き受けが禁止されていない(財政法第7条)ではないかという反論があります。収入と支出の時期がずれる年度内の国庫の資金繰りで財務省証券を発行することは、国庫金の出納を管理している日銀の仕事で、そこで財務省証券の引き受けをやっているだけの話です。最終的には年度の中で償還される。
日銀は、年間20兆円を超える長期国債の既発債を民間金融機関から買い入れているではないか、という指摘も聞きます。既発債の買い入れというのは、日銀の金融調節の一環として流通市場でしているもので、発行市場で買い入れするのとは意味が全く違います。
いずれにしても、日銀引き受けは法律を変えなければできませんし、それは通貨の信認を損なう愚行です。
明石:過度の金融緩和によるインフレは円安誘導になる、という意味でも微妙だと思います。多くの輸出企業が円安を切望しているわけですが、今の日本で衣食住のうち衣と食が価格的に安定しているのは円高によるところが大きいと思います。牛丼もハンバーガーも30年前の価格と同水準なのは、当時1ドル240円程度だった円の価値が今ではその3倍になっているからです。もしここで急激に円安に振れると、石油は高騰し、食料品も衣服も上昇して一挙に物価が高騰しかねません。
ハイパーインフレで富裕層の資産も吹っ飛ばして国をいったんリセットするという過激な意見もありますが、富裕層の一部は国債の格付け低下による円安効果を見据えて既に円資産をドル資産に移し始めており、結局は中間層が泣きを見ることになりかねません。
――しかし、消費増税で個人の消費は冷え込むでしょう。増税しても施策を講じて経済が成長すれば緩和されるというお話ですが、どれぐらい賃金が上昇すれば、増税の負担感が軽減されるのでしょう。
給与が約2.5%上昇すれば“チャラ”
明石:まずすべての支出に消費税がかかるものではない、という点をご理解ください。家賃、保険料、授業料、通院の医療費、貯蓄、ローンの元利払いなどには消費税が課されません。例えば年収500万円の人の場合、手取りが450万円、これから家賃150万円、保険料・医療費・貯蓄などで50万円を控除すると残額は250万円になります。税込で250万円ですから消費税の増税分は11.4万円になります(250 ÷1.10×5%)。つまり、年収500万円の方の場合、2.3%(11.4 / 500)だけ購買力が低下してしまうので、これを補うには給与が約2.5%上昇すれば“チャラ”になるということです。
――デフレが解消し、例えば「名目成長率4%」が実現するなら満たされる可能性もあるかもしれませんが、それを実現するのはかなり難しいのではないですか。
明石:確かに円高で国内事業から利益の出にくい現状では人件費の増加どころではないでしょう。しかし一方で、人員を極度に切り詰めた結果、多くの過労死やうつ病を併発している状況もあるわけです。企業経営者には、昇給あるいは雇用増による人件費の2.5%増は、個人消費の維持拡大に対する投資と考えていただきたいところです。
日本国債への不信は金利上昇となって多くの企業にも負担増を強いることになる。2.5%程度の人件費増を受け入れることは、国の与信維持のための消費税増税を企業が側面からサポートするような意味合いもあります。官民一体となって難局を乗り切るうえで、企業側に必要とされることではないでしょうか。
実際には所得水準が高いと逆進性があるために負担率は下がるので、平均的な個人に必要な給与の増加率としては2.5%よりも低くなりますし、さらに企業側の法人税の節税効果を加味すると、企業の正味負担は1.5%増程度でしょう。
国債が国内だけで消化できる状況は終わりつつある
森信:逆進性の解消に向けては、低所得者向けの給付付き税額控除が実施されるので、問題は起こらないのではないでしょうか。
日本国債は国内で消化しているから問題ないので暴落しない。だから、増税しなくていいという意見があります。
森信:国債に関連する純貯蓄の話ですが、2010年度で一般政府総債務が1048兆円、家計金融純資産が1115兆円と、金額がほぼ接近していると前回、言いました。今まで95%国内で消化と言っていた状況が、終わりつつあるということでしょう。外国の投資家に国債を買ってもらうようになれば、金利が上がる可能性が高い。
――家計金融純資産と一般政府総債務で「ネットとグロスを比較するのはおかしい」という指摘があります。
森信:確かに政府は年金積立金を持っているのでこれをネットアウトすべきだという議論はあり得ますが、社会保障基金が持つ金融資産は、政府債務を返済するために活用することはできないので、比較の際に控除すべきではない。つまり一般政府の方も純債務で考えるというのは、逆に現実的ではないと思います。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20120208/226989/?P=5
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