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http://sankei.jp.msn.com/economy/news/120212/fnc12021208310002-n1.htm
【復興日本】第10部 崩れたシナリオ(下)超円高で工場消えた
2012.2.12 08:29
「稼働開始からわずか2年でこんな状況になるとは思わなかった。最低10年は稼働してほしかった」。兵庫県の井戸敏三知事は今月7日の定例会見で、ため息交じりに語った。パナソニックが同県尼崎市にある尼崎第3工場の生産休止を決めたことへの発言だ。
尼崎工場は世界最大級のプラズマパネル生産基地との鳴り物入りで、平成17年9月に第1工場が操業を始めた。県も市も地元経済活性化の起爆剤と歓迎した。
しかし、現在、その面影はない。第1工場はプラズマ生産を中国に移し、そこで太陽電池の生産を行う予定だったが、昨秋、その計画は撤回され、太陽電池はマレーシアの新工場で生産される。第3工場に至っては井戸知事が嘆くほどの短命だ。県はパナソニックに支給した補助金約38億円のうち約13億円の返還を求める異例の措置に出た。
さらに、同社は4月をめどに調達本部機能をシンガポールに移す。24年度はアジアの部材購入を増やし、海外調達比率を前年度より3ポイント高い60%程度にするという。
この生産縮小と海外移転を招いた最大の要因が、歴史的な円高である。
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日本総合研究所は、23年度下期の平均円相場が1ドル=77円ならば、製造業全体で経常利益を2920億円押し下げると試算する。パナソニックの場合は対ドルで1円円高になると、経常利益は年間38億円減る。「日本での製造は採算が合わない」(幹部)との判断に傾かざるを得なかった。「国内生産にこだわっていては、ウォン安を武器にするサムスン電子など韓国勢に対抗できない」(大手電機)と危機感は強まるばかりだ。
同様の動きは、日本の輸出産業全体で加速している。東芝は来秋までに半導体3工場を閉鎖。富士通テンは5月までに神戸工場を閉鎖し、一部を中国の工場に移す。トヨタ自動車が輸出用主力SUV(スポーツ用多目的車)「ハイランダー」の生産を国内から米国に移すことを決めたのをはじめ、日産自動車、ホンダなども海外生産強化に乗り出している。
震災後、日本に居座る超円高。それが震災後の経済回復シナリオに与えた影響は計り知れない。
◇
■空洞化加速 被災地雇用奪う
円相場は東日本大震災発生後、決済や保険金支払いに備えて円需要が強まるとの思惑から急騰し、3月17日、平成7年4月以来の戦後最高値を更新する1ドル=76円25銭をつけた。
それでも、これは明らかに行き過ぎであり、落ち着きを取り戻せば、円安基調に転じるとの見方が強まる。実際、4月初旬には1ドル=85円台まで値下がりした。
当時、例えば、日本総合研究所は「年央以降は徐々に円安」と予測していた。震災で日本経済は弱くなり、逆に米国経済は減税や金融の量的緩和などの効果で回復するだろう。牧田健上席主任研究員は「米景気が回復して量的緩和が終われば、金利上昇するとの観測があった」と振り返る。
高金利国の通貨は買われる。一方、日本は復興を支える意味からも超低金利を続けざるを得ない。両国の金利差は広がり、ドル高円安になる-。そんな予想から、円安で輸出が増え、震災復興を下支えする、との期待さえあった。
だが、ギリシャの財政赤字問題はこじれて欧州全体の経済危機に発展した。米国では景気回復が遅れ、財政への不安だけが募った。円は相対的に安全な資産として買い進められ、8月には海外市場で一時76円を割り込んだ。「欧州の政治の力を過信していた。米国の景気回復期待も過度で、失望感が大きかった」と牧田氏はいう。
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止まらぬ円高に、政府は昨年10月21日、雇用対策や中小企業支援策など総事業費23兆円を超える「円高への総合的対応策」を閣議決定した。そこには「必要な時には断固たる措置をとる」と明記されている。円売りドル買い介入の意志をはっきりと示し、市場を牽制(けんせい)したのだ。
それでも円高基調は変わらないどころか、10日後の31日にはオセアニア市場で1ドル=75円32銭という戦後最高値をつけた。政府の「断固たる」決意は完全に黙殺された格好になった。
この日、約3カ月ぶりの介入が実施された。介入額は8兆円を超え、1日としては過去最大規模である。翌11月1日から4日までは、直ちに介入を公表しない「覆面介入」だ。民主党政権が、この手法をとったのは初めてだった。日本市場が休みになる11月3日の文化の日も介入は行われ、4日間の総額は約1兆円に達した。
こうした、まるで堪忍袋の緒が切れたかのような政府の動きもあったが、円相場は今も1ドル=76〜77円台である。昨年の年間平均為替レートは前年より約8円高い1ドル=79円76銭。戦後最高だ。円安期待はこなごなに砕かれ、輸出産業にとって深刻な事態が訪れた。
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自動車や電機は、材料や部品など取引先の裾野が広い。大手が海外移転すれば、影響は取引先企業に及ぶ。日本政策金融公庫が昨年、約5600の中小企業を対象に調査したところ、約17%が「円高で5%以上の減益」と回答。その約3割は取引先が海外移転を強めていると感じ、約1割は海外移転を検討していた。
ますます厳しくなる国内市場。円高で安い海外の部品などとの競争はそれに拍車をかける。中小企業は我慢比べを強いられている。
生産部門の海外脱出を促す要因は円高だけではない。福島第1原発事故後の電力不足に加え、火力発電強化に伴うコスト増による電気料金値上げも控える。ライバル国よりも高い法人税の実効税率、遅々として進まない環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉。日本で生産を続けるメリットはますます少なくなる。
経済の停滞は復興の足を引っ張るうえ、被災した東北地方は九州と並ぶ製造業の一大生産拠点だ。輸出産業の受けた打撃が直接伝わる。それが海外への生産移転、空洞化の加速というかたちを取ると雇用や消費に深刻な影響を与える。被災地はまた一つ、重しを抱えることになる。(大柳聡庸、牛島要平、石垣良幸)
【復興日本】第10部 崩れたシナリオ(中)電力不足、「東」から全国へ
2012.2.11 07:43
「小さなものを積み上げる。革新的な対策があるわけではない」。関西電力の八木誠社長は1月31日、今年の夏も繰り返される恐れのある電力不足懸念にどう対応するかを問われ、こう答えるしかなかった。
八木社長自身、関西がここまで追い込まれるとは、東日本大震災直後には、夢にも思っていなかった。当時、深刻だったのは、爆発した福島第1原発を持つ東京電力や、被災地を抱える東北電力だ。全国の電力各社が両社が供給する地域を支えねばならない。その中心的役割をどう担うかが、関電の課題だった。それが一転、電力不足の当事者になってしまったのだ。
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関電が担当地域に10%以上の節電要請を始めた昨年12月19日、阪急電鉄は逆に電車内の暖房温度を「10度台前半」から「10度台半ば」に引き上げることになった。阪急はこの冬、節電のために車内温度の抑制を始めた。コートを着込んだ乗客が寒く感じることは少ないはずと見込み、あえて公表しなかった。
しかし、12月12日の記者会見で節電対策を聞かれた角和夫社長が「車内暖房10度台前半」と応じると、翌日から「やっぱり」という不満が乗客から次々に寄せられた。結局、車内温度を上げ、車掌が乗務員室の温度計を見ながらこまめに調節することにした。
関電は2月3日、電力供給力に対する使用率が96%まで上昇すると予想。需給の厳しさを色で示す「でんき予報」マークは震災以来最も厳しい「赤」になった。関西の私鉄各社は使用率が97%以上になれば、間引き運転も検討する。
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震災後、首都圏の電力不足を心配した企業は競うように研究開発施設や情報管理施設を西に移した。都市対抗野球はじめ、コンサートなどのイベントも西日本での開催にシフトした。
しかし、電力不安が全国規模に拡大した。それは日本経済全体に回復シナリオの修正を迫ることを意味した。引き金は昨年5月6日、菅直人首相(当時)が行った中部電力への浜岡原発(静岡県御前崎市)の運転停止要請だ。浜岡原発は東海地震の予想震源地の上にある。津波対策などが不十分と判断されたのだ。
原発事故以来、国民に広がっていた原発不信は決定的になり、日本は今年4月、国内電力の3割を担う全原発の停止という深刻な事態に陥る。
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■火力増強 値上げショック
現在、国内で動いている原発は54基中3基だ。順次定期点検で停止し、点検終了後も再稼働できないから、稼働原発は減っていく。
関西電力管内で唯一動いている高浜3号機(福井県)も今月20日には定期点検に入る。20〜24日の最大需要見込みは2559万キロワット。これに対して、火力発電28基をフル稼働させても供給能力は2376万キロワットで、183万キロワットの不足が見込まれる。一段の節電で乗り切るしかない。
見過ごせないのは、代替電源の中心となる火力発電所のトラブルが全国で起きていることだ。1月28日に中国電力の下松(くだまつ)発電所3号機(山口県)、30日には関電の堺港発電所3号機(堺市)が停止。今月3日には、九州電力の新大分発電所(大分県)が燃料の液化天然ガス(LNG)を送る配管の凍結で停止した。電力供給の安定性で火力発電は原発に到底及ばない。八木社長が電力危機回避には「原発再稼働が不可欠だ」と訴えるゆえんだ。
だが、再稼働への道は厳しい。まず、全原発に義務づけられたストレステスト(耐性検査)。想定以上の地震や津波などに襲われた場合、どの程度まで耐えられるかを分析、結果を経済産業省原子力安全・保安院が評価する。保安院が「妥当」と判断しても立地自治体の了解が必要になる。
政府が閣議決定した「運転40年で廃炉」とする法案もある。例外的に20年延長できるが、今年で運転42年を迎え、対象になる関電美浜1号機(福井県)などの再稼働は一段と難しくなろう。
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首都圏からの機能分散も実効性があやしくなった。
進学塾「東進ハイスクール」を運営するナガセ(東京都武蔵野市)は、講義を生徒が好きな時間にネット経由で受講、講義後のテスト結果をコンピューターで解析し、次の講義や個別指導に反映させている。
このシステムと生徒の学習履歴は同社の切り札だ。電力危機を受け、昨年6月、横浜市の本サーバーとは別に神戸市にバックアップ用サーバーを増設し、本サーバーが停止しても3時間で復旧できるようにした。
しかし、全国規模の電力不足は想定外だった。市村秀二上級執行役員は「絶対に電力不足のツケを受験生に負わせない」と次の対策を模索している。
大手金融機関も、実際に一方のデータセンターやシステムが突然停止した場合、ATM(現金自動預払機)などのシステムを動かしたまま、直ちに他方に切り替えるのは難しいという。1月10日、新生銀行で起きたシステム障害は移行作業の難しさを見せつけた。都内のデータセンターを関西に移そうとしたところ、約3万5千件の振り込みができなくなったのだ。
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もっとも、有事への備えよりも日本経済に直接打撃を与える事態が起きた。東電による事業者向け電気料金の値上げだ。
理由は火力増強に伴うLNG、石油など燃料費の増大で、4月から平均17%、夜間電気料金は4割の値上げになる。
節電要請もあり、例えば、鉄スクラップを電気で作った熱で溶かし、鉄鋼製品を作る電炉メーカーは夜間や休日の操業を強化していた。この大幅値上げで、電炉業界全体で60億〜70億円のコスト増になるという。
普通鋼電炉工業会の栗川勝俊会長は「刃物で突き刺されたほどの痛み」と話し、日本鉄鋼連盟の林田英治会長も「利益が吹っ飛ぶどころか、即座に赤字転落だ」と悲鳴を上げた。
内閣府は、値上げで実質国内総生産(GDP)で0・1〜0・2%低下すると試算。日本エネルギー経済研究所の末広茂氏は、7月以降も原発が再稼働しない場合、電力は5・4%不足し、大規模停電回避のための生産抑制がさらにGDPを押し下げる、とみる。
震災直後に計画停電が実施され、昨夏は第1次石油危機以来、37年ぶりに電力使用制限令が発動された。
しかし、菅前政権の“脱原発依存宣言”以来、安定供給の面では、火力にも遠く及ばない太陽光発電などの自然エネルギーにばかり目が向き、原発再稼働が正面から議論されることはほとんどなかった。そして、危機は深化していった。(吉村英輝、川上朝栄、内海俊彦、石川有紀)
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