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福島の私立幼稚園が存続の危機 少子化、避難、賠償難航の「三重苦」
2013年1月25日 東京新聞[こちら特報部]
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013012502000147.html
福島県内の私立幼稚園の経営が厳しさを増している。少子化傾向に加えて、原発事故に伴う避難による園児の減少、放射能汚染を避ける施設改築の負担増というトリレンマ(三重苦)に襲われているからだ。施設改築の負担などは東京電力の賠償対象になりそうだが、交渉は現在もはかどっていない。国も傍観するだけだ。震災後、繰り返された「絆」という言葉が寒風に揺れている。(上田千秋、小倉貞俊)
「原発事故で避難した後、戻ってきた園児は2人だけ。子どもの数が減り続けたら…という不安はずっとある」。福島県郡山市南部の住宅街にあるみどり幼稚園。「こんにちはー」と元気にあいさつしてくる園児たちを横目に、平栗裕治園長(64)はそう話した。
同幼稚園は例年、定員を上回る園児が入園を希望。事故前は年少、年中、年長のそれぞれの組を合わせて約220人の園児が在籍していた。
ところが事故後、状況は一変した。同市は避難区域指定こそ受けなかったが、放射線量が高く、子どもへの影響を案じた多くの住民が県外に自主避難。市全体で約6,000人いた園児は約5,000人に減った。みどり幼稚園でも約70人の園児がいなくなり、現在は約150人が通っている。
園児の減少に伴う東電の賠償は十分ではない。そのうえ、新たな出費がのしかかる。放射線量の高い屋外での運動時間が制限されるため、室内に運動スペースを設ける必要に迫られたからだ。
◆多額費用で屋内遊戯室
現在、約7,000万円かけて園舎の一部を建て直しているという。2階の約160平方メートルを遊戯室にし、鉄棒や平均台などを置くことにしている。
屋内遊戯室を設けようと決めたのは、子どもに起きた“異変”がきっかけだった。園庭の放射線量は、除染により事故当初の毎時1.5マイクロシーベルト程度から0.1マイクロシーベルト程度にまで下がったが、以前のように自由に屋外で遊ばせるわけにはいかない。
仕方なく狭い廊下を走らせていたが、平栗園長はある日、「はー、疲れた」という子どもの言葉を耳にした。「以前はそんな言葉を聞いたことがなかった。たまに郊外の公園へ行くと、転んでしまう子供が続出した。平たんな廊下を走っているだけなので、平衡感覚がおかしくなっていたのだと思う。5年先、10年先にどうなってしまうのか、と心配になった」
実際、運動場所の不足は深刻だ。市内の放射線量は今も毎時0.5マイクロシーベルト程度あり、公園などで気軽に遊ばせるわけにはいかない。長男(5つ)を通わせている女性(37)は「どうしても、家の中にいる時間が増えてしまう。休日に線量の低い会津地方の公園に行って遊ばせている」と漏らす。
余震におびえたり、笑わなくなっていた子どもたちも、元気になってきているという。平栗園長は「こんな線量の高い場所で子供を預かるなんて、と悩んだこともあった。しかし、ここにとどまっている人たちがいる以上、続けていかねばと考えた。復興の原動力は子どもたち。どこの幼稚園も一丸となって頑張っている」と語った。
福島県内の146園でつくる県全私立幼稚園協会(関章信理事長)は原発事故後、会員のうち103園で「私立幼稚園関係原子力損害対策協議会」を設立した。損害賠償をめぐって、東電との協議を進めている。
◆支払金額は請求の2割
昨年1月から昨夏までに、2011年3月〜同12月分の賠償として92園分の計9億6,800万円を請求した。しかし、現在までに東電から支払われたのは2億1,000万円。請求額の2割程度にとどまっている。
その理由は請求項目のうち、東電が支払いを認めたのが、入園の辞退や退園による減収分などに限られているためだ。
園庭の除染費用や放射線測定器、空調設備の購入費などについては、まだ賠償方針すら決まっていない。昨年から進んでいる砂場の砂の入れ替えや屋内への遊具・砂場の設置の経費は、現段階では請求できていない。
同協会の西山竜介事務局長(60)は「12年度も間もなく終わろうというのに、11年度分の賠償すら進んでいない。各園から『資金繰りが厳しい』という声が上がっている。新年度の入園予定者も減る見通しで、前途は多難だ」と危ぶむ。
県内の幼稚園児数の減少は、少子化傾向に加えて、原発事故でより深刻化している。県義務教育課などによると、国公私立を合わせた幼稚園児数(幼稚園数)は10年5月の3万26人(357園)から、12年5月には2万5,283人(351園)に減少。私立は1万9,105人から1万6,566人に減った。
警戒区域外など別の場所に移転して運営している幼稚園もあるが、休園状態になったり、園児数がゼロになってしまった施設も少なくない。
県私学・法人課の渡辺信一主査は「少子化による減少率は毎年数%程度だったが、原発事故後は1割以上減っている」と話す。「県で従来支援している幼稚園運営費の補助金は園児数で決まる。原発事故によって急減しないよう、事故前の10年度と12年度とで、有利になる方の園児数を適用している」
◆「除染費用の方針は未定」
文部科学省も被災地の幼稚園を含む私立学校を支援する交付金を出しているが、用途は授業(保育)料減収分の穴埋めにとどまり、賠償を進展させる有効な手は打っていない。東電広報部は「除染などの賠償方針はまだ定まっておらず、お待ち願いたい」としている。
福島大の大宮勇雄教授(幼児教育・保育)は「県内の幼稚園は賠償の方向性も確定していない段階から、率先して子供の安全を守ろうと除染などに取り組んできた。一刻も早い対応が必要だ」と指摘する。「子どもを育む幼稚園は、地域の生活再建と復興にとっては不可欠だ。単に一法人の存続という矮小な問題にとどまらない」
東電は今月、「被災地に寄り添う姿勢」を示そうと、収束作業の拠点になっているJヴィレッジ(楢葉町、広野町)に復興本社を置いた。
ただ、前出の平栗園長は「形だけでは困る。これまではこちらが何かを求めても『本店に持ち帰る』だった。決定権を持った人を配置して即決できる体制をつくってほしい」と注文を付ける。
「福島がどういう状況になっているのか、自分の目で見て、子どもたちの親に直接話を聞いて考えてほしい。政府は事故収束を宣言したかもしれないが、地元ではまだ何も解決していない」
[デスクメモ]
時間の経過とともに惨禍を忘れる。これは人間の性(さが)だ。ただ、当事者の痛みが反比例して増すことも少なくない。原発事故ではそれが顕著だ。誰もまだ責任を取っていない。その一点だけで記者には追及する義務がある。世間の興味に沿うのが商業紙の宿命だが、忘れてはならないことがある。(牧)
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