01. 2013年1月24日 00:24:23
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Bpress>イノベーション>ウオッチング・メディア [ウオッチング・メディア] 政府も大企業もウソをつく スリーマイル島からフクシマへの伝言(その4) 2013年01月24日(Thu) 烏賀陽 弘道 アメリカ東海岸のスリーマイル島原発を訪ねて取材した「スリーマイルからフクシマへの伝言」4回目である。スリーマイル島(TMI)原発から20キロのハリスバーグ市(ペンシルベニア州の州都)に住むスコット・ポーツラインさん(54)に話を聞いた。 事故後、原発の安全問題に興味を抱き、ボランティアとして調査・研究を続け、前回のメアリー・オズボーンさんと同じように、経験と知識を積んで州や連邦議会の公聴会で証言するまでになった。現在は原発の安全問題のコンサルタントとして活動している。原発監視団体「スリーマイルアイランド・アラート」(TMIA)には安全問題のコンサルタントとして参加し、調査結果を公表している。 今回も「Captured Regulator」(監督官庁が規制すべき業界に飲み込まれてしまう現象)「偽りの確率論」など、日本での事例に似た話が次々に出てくるので、驚きの連続だった。 住民の安全対策が後回しにされたのはお金がかかるから ──1979年のスリーマイル島原発事故の当時はどこで何をしていましたか。 ポーツライン氏(以下、敬称略) 「私は当時ミュージシャンでした。ファンクやディスコを演奏するバンドでベースを弾いていました。グリーンランドの米軍基地で演奏をしてテレビを見ていたら『スリーマイル島原発で事故が起きた』とニュースが流れた。慌てて故郷に戻りました」 ──同じメルトダウン事故を起こしたスリーマイル島原発そばの住民として、福島第一原発事故をどうご覧になりましたか。 ポーツライン 「事故2日目からずっと動きを書いて記録していました。『津波があったが安全に停止した』というニュースを聞いて『それは嘘だろう』と思った。私はスリーマイル島事故を経験して教育されましたからね(笑)。自衛隊が非常用バッテリーを運んでいると聞いて、きっとメルトダウンになるだろうと思った。原発に電源がないならメルトダウンは避けられませんから」 ──日本政府や東京電力はメルトダウンしているのに「していない」と言い続けました。 ポーツライン 「日本人はアメリカ人より政府を信頼すると聞きます。しかしフクシマでそれも変わったのではないですか? TMI事故で私が学んだのは『政府はウソをつく』『大企業はウソをつく』『政府を盲目的に信じてはいけない』ということです」 原発の安全問題のコンサルタントとして活動するポーツラインさん(筆者撮影) ──なぜアメリカでも日本でも住民の安全対策が後回しにされたのでしょう。
ポーツライン 「お金がかかるからです。原発のコストが上がって採算が合わなくなる。経済の法則に合わないのです」 ──TMIではどんなことでそう感じましたか。 ポーツライン 「1993年のことですが、TMI原発に頭のおかしな男がバンで突っ込んだことがあります。正門を突破してタービン建屋まで突っ込んでしまった(注:TMI原発は川の中洲にあるので橋を渡らないと原発の敷地に入れない)。なぜこんなに簡単に突破されたのかと思ったら、ガードマンの数を削っていた。『本当なら30人が理想だけど、そんなに雇う金はないな。でも5人だと少なすぎる。じゃあ10人にしておくか』という論法です。同じようにメルトダウン事故ですら『clear threat(明白な危険)がないなら、対策はやめておこう』『1000万ドルも安全対策に払う必要はない』と対策を切ってしまった」 市民をミスリードするための確率論 ──日本では「メルトダウン事故などあり得ない」という言説が政府や電力会社、学者の間に流れていました。「安全神話」と言います。 ポーツライン 「それは‘Belief system’というやつですね。現実認識にバイアスがかかっているので、いくら『メルトダウンが起き得るデータ』を見せても、信じないのです」 (注:‘Belief system’=心理学用語。人間が「信じること」にはその人なりの「現実の根拠」がある。しかし、もともと何かを信じることで現実認識にバイアスがかかっているので「根拠」にもバイアスがかかっている。そのシステムの中で、ますます信じる内容に沿った認知しかしなくなる) ──なるほど。 ポーツライン 「彼らがよく使うレトリックは‘Probability and Risk’(リスクマネジメント用語。起きる確率と損害でリスクを管理する)です。『メルトダウン事故が起きる可能性は隕石が落ちてくる可能性と同じ。100万分の1の確率』などと言います。根拠のない確率論にすり替えてしまうのです。そういう偽りの確率論をやめなくてはいけない」 ──えっ! そっくり同じフレーズを日本の学者や電力会社が原発を擁護するために言っていましたよ(笑) ポーツライン 「アメリカの原子力産業の人間は何人も同じことを言っていますよ。フクシマの後も確率論を使うのをやめません。『100万分の1じゃなくて10万分の1』ぐらいには変わったかもしれませんが(笑)」 「彼らは『メルトダウン事故が起きる可能性は低い』と言いたいだけなのです。そこに確率論を持ち込んで『100万分の1』とか適当な数字を当てはめる。可能性が低そうに見えれば、数字はいくつでもいいのです。確率論を持ち込めば、科学的に見えるでしょう? しかし実際に『メルトダウン事故の確率が何%か』なんて計測できるはずがないでしょう? 市民をミスリードするだけじゃない。政府さえもそうやってミスリードするのです」 ──つまり原子力産業を監視し監督するはずの政府を、ですね? ポーツライン 「そういう状態を‘Captured Regulators’(規制官庁が業界の捕虜になった状態)と言います。政府の原発検査官には化学や電気、機械が専門の人だって多い。原子力が専門とは限らない。原発内部を見ても会社側ほど理解できないのです。会社側が書類を揃えて『問題ありません』と言うと、それ以上疑うことができない。さらに言えば、政府やNRC内部にも原子力産業出身の人はたくさんいるのです」 ──規制官庁が電力業界に飲み込まれてしまうのですね。日本の監督官庁「原子力安全・保安院」には電力会社に知識で勝てる人材がいませんでした。日本では原子力を専門とする人たちのコミュニティを「原子力ムラ」と言います。 ポーツライン 「フクシマの事故をCNNで見ていて、日本の政府や電力会社の言うことがウソだとすぐに分かりました。彼らは自分がついているウソのトリックにすら気づいていないと思います」 「実は私は、次にメルトダウン事故が起きるなら日本ではないかとずっと考えていました」 ──それはなぜですか。 ポーツライン 「日本の電力業界や政府が『傲慢』(arrogant)なのが分かったからです。『日本ではチェルノブイリやTMIのような事故は起きない』と言っていたましよね? あれはまさにTMI事故を起こしたアメリカの業界と同じ傲慢さです。そして『もんじゅ』がナトリウム冷却材漏れ事故を起こしたあとも、事故を記録したビデオを隠したり改竄したりの隠蔽がありました。あれは犯罪行為です。政府の監督・規制がもう機能しなくなっているのだと分かりました」 ──なぜ彼らはウソをつくのでしょう。悪意なのでしょうか。何か一般市民とは別の価値観があるのでしょうか。 ポーツライン 「産業界や政府には『国民を驚かしてはいけない』『パニックさせてはいけない』と考えるメンタリティがあります。やがては『大丈夫だと必ず言わなければならない』と思い始めるのです」 放射性がれきを受け入れてはいけない ──TMI周辺では、居住地帯の除染を全くしていないと聞いてびっくりしました。いまフクシマでは住宅や学校、道路の除染に懸命です。 ポーツライン 「何兆ドルというとてつもないおカネがかかるからです。『事故の結果は小さいから気にするな』『病気になっても20年後だ』という論法です。漏れた放射線の総量が一体どれくらいなのか、政府は今も正確な数字を明らかにしません。市民は見捨てられています。国民ではなく国家の生存が優先されています」 (注:TMI原発では、メルトダウン事故の間だけでなく、廃炉の過程で格納容器に充満した放射性ガスを抜いた際も大量の放射性物質が大気に放出された。事故前から放射能漏れがあったのではないかという指摘も根強い) 「33年前に原発のそばに住んでいた人が、他州に引っ越して何年も経ってから甲状腺がんになったり白血病になったりしている。何年かぶりで昔のご近所さんに電話すると、同じ病気になっている人が多い。きっと日本でも同じことが起きるでしょう」 ──気の滅入る話です。 ポーツライン 「フクシマ以外の日本の自治体が放射性がれきを受け入れるのは間違っています。『フクシマの重荷を分担したい』という気持ちは分かる。しかしフクシマだけでなく全国で同じこと(被曝)が起きてしまう。やってはいけません」 ──フクシマでも汚染を承知で避難先から自分の家に戻る人が増えています。心身ともに疲弊してしまうのです。 ポーツライン 「人間には『私は大丈夫だ』『悪いことは起きない』と信じたがる心理があります。そして『元の暮らしに早く戻りたい』という心理があります。それを政府は利用するのです」 アメリカ人は真実に興味がない ──原発の安全問題に関する調査研究はボランティアですか。 ポーツライン 「そうです。TMIAには無給で関わっています。なので貧乏ですよ(笑)」 ──調査はやはりインターネットがツールなのでしょうか。 ポーツライン 「もちろんそうです。でも、インターネットがなかった頃から、地元の図書館で政府の資料や情報を調べることができました」 (注:米国では政府の情報公開が法律で義務付けられているので、ポーツラインさんのような一般市民でも、図書館を通じて州・連邦政府に情報資料を請求することができる。こうした情報公開制度がポーツラインさんのような「市民記者」活動の基礎になっている)。 ──なぜ原発の調査活動を続けるのですか。 ポーツライン 「政府はウソを言います。アメリカ政府が『イラクに大量破壊兵器がある』とウソをついたせいで、イラクで戦争が始まりました。何人ものアメリカ人やイラク人が死にました。立ち上がって『政府はウソをついている』と言う人はいた。でも誰も耳を貸さない。アメリカ人はいま‘too fat and too happy’(物質的に満足し切っていて無関心)なんです。フットボールをテレビで見たり、ボートを買ったり家を直したりで忙しくて、真実に興味がない」 ──日本では原発事故被害の危険性を知らせようとすると、ネットで「放射脳」「デマ野郎」と罵倒されます。 ポーツライン 「私も『お前は共産主義者か?』『トラブルメーカーなのか?』と罵倒されますよ(笑)。傷つきませんし気にもしませんが。福島第一原発事故を聞いたとき、私は怒りました。『避けることができたのに、起きてしまった』と怒りました。そして怖かった。フクシマは日本だけの問題ではありません。世界中に放射性物質をばらまいているのです。それは世界の人類の遺伝子を傷つけているのです」 「アメリカと日本、地球の反対側でまったく同じ事故が起きたのです。もう『事故は起きない』などと言ってはウソになります」 |