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2012年12月21日 田口理穂
現在ドイツでは電力の平均価格は1kWhあたり26セント(約26円)で、来年も値上げが予定されている。最近メディアでは「電気代が高すぎる」との報道が頻繁にみられ、その矛先は再生エネルギーに向けられている。「高いのは再生可能エネルギーのせい」「高くて払えない家庭が出ている」と批判口調。ひいては「再生可能エネルギー政策は失敗した」とまでいわれる。電気代が高いのは、本当に再生可能エネルギーのせいなのか。関係者に話をきいてみた。
■大口消費者に恩恵
その前に、ドイツの電力事情について。ドイツは2011年全電力の20%を再生可能エネルギーでまかない、今年半ばには25%を占めるまでとなった。半年で5%という急激な伸びである。1993年に大手電力会社が「長期的にみても、再生可能エネルギーが4%以上を占めるようにはならない」と新聞で発表し、1994年から98年まで環境大臣となった現メルケル首相も当時そのように公言していた。2000年の再生可能エネルギー法により、固定買い取り価格制度を始めたときも、再生可能エネルギーがここまで伸びるとは誰も予想していなかった。
1998年より電力市場が自由化されているドイツでは、電力は株式のように市場で売買されている。約1000存在する電力小売業者の多くはこの市場で調達しており、再生可能エネルギーの買取価格と市場価格との差は消費者に分配されている。この負担額は現在1kWhあたり3,6セント(3.9円)で、ドイツの一般世帯では、家計の0,3%を占める。2013年には5.3セント(5.7円)になる予定で、高すぎると批判されている。
しかし、値上げ分の6割は送電網使用料や税金、他のコスト増によるもの。さらにアルミニウムや鉄鋼工場など電力の大口消費会社はこの負担から免れており、企業による自家発電分にも免除される。ドイツ最大の環境団体ブントによると、消費電力の半分でこの負担が免除されており、その分中小企業や一般家庭にしわ寄せがいっている。
助成金の問題もある。再生可能エネルギーの買い取りの助成金の半分は太陽光発電に投入されているが「ソーラー発電は再生可能エネルギー分野の5%しかない」と批判されている。しかし太陽光発電は昼間のピーク時の電気料金を下げることに大きく貢献している。太陽光発電量は2007年は3100GWhだったが2011年には18500 GWhと5倍に。午前11時から12時の1時間、2011年の電力市場の平均価格は2007年と比べて4割減となった。
つまり大口消費企業は負担額を払わなくていい上、安く市場で電力調達できるという二重の恩恵を受けているのだ。再生可能エネルギーを供給するシェーナウ電力会社のシュテーゲンさんは「大口消費者は安い電力をますます多く消費する。中には規定の消費量を満たすために空稼動させている企業もある」と憤る。企業優遇のキリスト教民主同盟(CDU)と自由民主党(FDP)が2009年に連立政権をとるようになってから、当時再生可能エネルギーの負担額は1kWhあたり 1,1セントがだったが、現在は3倍以上に。消費量の基準を下げ、免除企業を増やしたためで、批判を浴びている。
今年の秋、多くの電力会社は顧客に、来年から電力料金値上げ通告をした。中には「再生可能エネルギーのため、値上げせざるをえなくなりました」という表現を使っている大手電力会社もあった。アルトマイヤー環境大臣は「再生可能エネルギーのせい、というのは間違い。しかも料金の値上げ幅が大きすぎる」と怒りを表明。原発を推進したい一部の電力会社は再生可能エネルギーにすべてを押し付けるとともに、不当に儲けようとしているとした。
■偏っているメディアの報道
しかしメディアでは、「再生可能エネルギーは高い」という論調が大半だ。原発事業には約3万人が従事しているが、再生可能エネルギーの分野で2011年には約38万人が従事しており、経済効果も大きい。ドイツのソーラーモジュール製造会社が倒産するなどしたが、安い中国製が入ってきても、設置やメンテナンスでは引き続き雇用がある。もともと旧東ドイツ地域にソーラー関連の会社が多いのは、設備投資に国の補助金が出ていたため。会社設備に補助金、ソーラー発電の電力は補助金で買い取りと、国から二重に助成を受けるという特殊構造があった。
ドイツの再生可能エネルギー法は、すでに世界50カ国以上で導入されている。フライブルクで再生可能エネルギーを推進する団体フェーザのレーマーさんは「再生可能エネルギー法による固定買取価格制度がなければ、ここまで市場は発展しなかった。再生可能エネルギー政策は失敗した、とメディアがあおっているだけ」と断言。風力エネルギー協会のケンペサムサミさんは「重要なのは法律で、再生可能エネルギーを優先的に送電網に取り込むと明記していること」いう。
再生可能エネルギー供給会社のナチュアシュトロームの社員オルガッセさんは「再生可能エネルギーを購入している人は8%ほど。実際は消費量の25%を占めているから、もっと買う人が増えなければ」と願う。電気自動車の開発と改造をしているジャーマンエーカーズのラーバー社長は「ソーラー発電は自家消費とすべき。蓄電して夜使うようにすれば、送電網もいらない」と電気自動車で街中を走り、遠出には列車を使う。緑の党の国会議員のフェルは、省エネと電力効率化も重視しており「日本はまだまだ省エネの余地がある。地熱を利用するなどその地にあるものを使えばいい」とアドバイスする。電気代が高いと、省エネの動機付けになるとの声もあった。
発電に多くの一般市民がかかわっているのもドイツならでは。発電容量だけみると、個人と農家が半数を占めている。確実に採算の取れる投資として一般市民が多く参加したからだ。
■透明化されている再生可能エネルギーのコスト
最終的には、コストは誰かが負担しなければいけない。そのコストが目に見える形であるかどうか、の問題なのだ。再生可能エネルギーのコストは透明化されているが、莫大な税金が導入されている石炭や原発の実質コストはなかなか見えない。実際のところ1970年から2012年まで、再生可能エネルギーへの助成金は約540億ユーロで、原発は1870億ユーロ、石炭は1770億ユーロだった。さらに原発には、核廃棄物処理費や廃炉費、事故が起こったときの保障コストがかかる。
民主主義とは情報公開をして、理解をもとめることでもある。何ごとも事情を話して誠実に頼めば、筋の通ったものであれば納得してもらうことは可能だろう。再生可能エネルギーはまさにそのプロセスを経ているところではないか。
今夏のアンケートによると、再生可能エネルギー利用を重要だと思う国民は93%。再生可能エネルギー負担額については「高い51%、適当44%、低い2%、わからない2%」だった。ドイツ政府は2022年に脱原発を決めているが、3000キロ以上の送電網の整備が遅れているなど実現可能が危ぶまれている。現在の混乱は再生可能エネルギーが予想以上に早く伸びたのがひとつの要因だろう。この状況をいかに打破し、国民の声に答えていくか。政治家の力量が問われている。
ちなみにインターネットで、その日の予測と実測の発電量をリアルタイムで確認できる。英語版もあるので、興味のある方はどうぞ。(http://www.transparency.eex.com/en/Statutory%20Publication%20Requirements%20of%20the%20Transmission%20System%20Operators)
田口理穂(たぐち・りほ)
ジャーナリスト、ドイツ語通訳。日本で新聞記者を経て、1996年よりドイツ・ハノーバー在住。州立ハノーバー大学卒業。社会学修士号。ドイツの環境政策や経済、社会情勢など幅広く執筆。エコ視察ツアーやテレビ番組のコーディネートも。著書に「市民がつくった電力会社 ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命」(大月書店)、共著に「『お手本の国』のウソ」「ニッポンの評判」(ともに新潮新書)
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