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原発作業員、被曝どう把握
チェルノブイリ、低線量でも白血病 長期の健康管理 不可欠
1986年に起きた旧ソ連・チェルノブイリ原子力発電所事故で収束に当たった作業員に白血病の患者が増えているという調査結果を、米国などの研究チームがこのほどまとめた。健康への影響が少ないとされていた低いレベルの放射線量で病気の増加が見つかった。東京電力福島第1原発でも廃炉まで30年以上かかる見通しで、作業員の長期の健康管理が課題となりそうだ。
調査結果は、米国立がん研究所や米カリフォルニア大学、ウクライナ放射線医学研究センターなどのチームがまとめ、11月に専門誌に発表した。1986〜2006年に現場作業にかかわった約11万人を追跡調査した。その結果、137人が白血病になり、うち79人が慢性リンパ性白血病だった。
原因の16%占める
研究チームは被曝(ひばく)した放射線が原因で白血病になったかどうかを見分けるため、年齢や居住地域などの影響を取り除いて疫学的に分析した。白血病になった人のうち、16%に当たる19人は放射線が原因だと断定した。作業員の被曝線量は全体の78%が100ミリシーベルト未満で、国際放射線防護委員会(ICRP)などが「人間が浴びても明らかに健康への影響が出るとする科学的なデータはない」としている値だった。研究チームは「低い放射線の被曝でも白血病のリスクが高まる恐れがあり、放射線と病気の関係を調べるためより詳しい調査が必要だ」と指摘する。
チェルノブイリ原発では事故直後の収束に多くの作業員が投入され、放射線の影響で命を落としたケースもある。原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)などによると、事故発生から現場で働いた作業員は50万人以上。約1000人が事故直後の作業で高い放射線にさらされ、134人は激しいやけどや敗血症などを併発した急性放射線障害を発症した。このうち少なくとも28人が放射線の影響で亡くなったといわれている。
米国などの研究チームが今回指摘したのは、こうした事故直後の高い線量の被曝ではなく、現場に入ったものの低線量の被曝をした作業員ばかり。これまでも白血病などが増えたとする論文はあった。原爆被爆者の調査を手掛けた福島県立医科大学の柴田義貞特命教授は「今回の論文は分析もしっかりしているが、作業員が被曝した放射線量の推定にバラツキが大きい」と指摘する。白血病になった作業員がどれだけ被曝したのか明確になっていないからだ。
基準超えた例も
放射線量の推定では作業員1人ずつに線量計を持たせるのではなく、その場で1度だけ線量を測定したデータや、作業員に聞き取りをした行動記録から推定したとみられる。チェルノブイリ原発では、現場に入った作業員が放射線量の情報は十分に知らされなかった例も多く、被曝した線量を特定するのは難しい。今後、病気と被曝量の因果関係をどこまで突き止められるかが課題となる。
一方、福島第1原発でも通常の原発に比べて放射線量の高い状態が続く。これまでの作業で国が定める基準を超えた作業員もいる。
東電によると、事故が発生した2011年3月11日から12年10月末までに現場で働いた作業員は2万4575人。このうち、現行の基準である年間の累積放射線量が50ミリシーベルトを超えたのは1132人に上る。これには基準が緩かった11年12月までの作業員も含まれるが、最も高かったのは事故直後に福島第1原発1〜2号機の中央操作室にいた東電社員で678ミリシーベルトだった。
この社員は被曝線量の許容限度を大幅に超えたため、東京都千代田区の東電本店で働いているという。被曝線量が上限を超えた作業員を含め、東電は「これまでの医師の診断から、放射線量の影響で健康に被害が出た人はいない」と説明する。
厚生労働省は福島第1原発で働いた作業員について「健康管理をしっかりやるよう東電などに指導している」(同省福島労働局)。政府が冷温停止状態を宣言した11年12月16日以前に働いた作業員の一部には、がんなどの検診費用を負担している。ただ、宣言以降は東電などに委ねている。特に実態の把握が難しい協力企業の作業員は事業者任せだ。「国が責任を持って健康管理を続けるべきだ」という専門家の意見も多い。
福島第1原発は廃炉まで30〜40年かかる見通しで、今後も多くの作業員が長期にわたり高い放射線量の現場作業を強いられる。作業員の不安を解消し新たな人員を確保するためにも、国による健康管理が重要だ。
(福島支局長 竹下敦宣)
[日経新聞12月28日夕刊P.7]
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