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http://mainichi.jp/select/news/20121230k0000m040061000c.html
毎日新聞 2012年12月30日 02時30分
東京電力福島第1原発事故の刑事責任の有無を捜査している検察当局が、東日本大震災発生前の08年に東電が15メートル級の津波を試算していたことに注目し、地震や津波の研究者から任意で事情聴取を始めたことが分かった。東電幹部らは業務上過失致死傷容疑などで告訴・告発されており、検察当局は想定津波の科学的根拠を調べることで▽巨大津波は予見可能だったか▽事故は回避可能だったか−−などの判断の中核に位置づけるとみられる。
東電は、同原発への想定津波を最大6.1メートルと設定していたが、震災では10メートル以上の津波が到達。冷却用ポンプや非常用のディーゼル発電機が水没し、1〜3号機は全電源が喪失して炉心溶融(メルトダウン)や放射性物質拡散につながった。
東電の事故調査委員会などによると、最大6.1メートルの想定津波は09年2月、電力会社の研究者や大学教授らでつくる「土木学会」が策定した津波の計算式「津波評価技術」に基づき設定された。一方、その約8カ月前の08年5〜6月に文部科学省の地震調査研究推進本部が発生の可能性を指摘した福島県沖の海溝沿いの地震津波についても社内で独自に検討。最大15.7メートルの津波を試算していた。
しかし、東電幹部は15メートル級の津波について▽原子力安全・保安院(現・原子力規制委員会)が具体的な判断基準を示していない▽福島県沖の海溝沿いでは大きな地震は起きないとされていて評価が定まっていない−−ことなどを理由に、対策を先送りした。また、08年12月ごろには、貞観(じょうがん)地震(869年)に伴う津波の論文に基づき、最大9.2メートルと試算したが、同様の理由から対策を見送っていた。
検察当局は、複数の科学者にそれぞれの想定津波の発生可能性や試算方法などについて詳しく事情を聴いている模様だ。その上で、より低い「最大6.1メートル」を想定津波と設定した判断が妥当だったかを見極めていくとみられる。【島田信幸、山本将克】
◇予測の難しさ 立証の壁に
原発事故を巡っては全国の1万4000人余が、当時の東電幹部ら計33人について「津波の危険性を踏まえた対策や事故防止の注意を怠り、事故を発生させ住民らに被ばくによる傷害を負わせた」などとして業務上過失致死傷容疑などで告訴・告発している。検察当局は来春をめどに刑事処分の判断を行うとみられるが、「起訴は困難」との見方が強い。
検察当局は各地から応援検事を集め、東京、福島両地検に捜査チームを編成。事故時の対応を記録した東電のテレビ会議映像を入手し、第1原発を視察した上で、東電本社とやりとりした免震重要棟・緊急時対策室の状況なども確認した。捜査の焦点は津波対策に絞られつつあり、検察当局は既に一部の東電幹部の事情聴取を始めたが、今後は津波襲来やそれに伴う全電源喪失などを予測できたかを追及するとみられる。
ただ、聴取を受けた研究者の1人は「海岸の地形などで津波の高さは大きく変わる」と予測の難しさを強調する。仮に東電や国の過失が認定できたとしても、事故と傷害の因果関係なども立証しなければならない。ある検察幹部は「予断を持たず徹底的に捜査しているが、立証は非常に厳しい」と話す。【山田奈緒、吉住遊】
◇業務上過失致死傷罪
刑法の罪で、業務上必要な注意を怠り人を死傷させた場合は5年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金。ある行為が原因で人を死傷させる結果を招く「因果関係」の立証に加え、「事前に危険を予測できたか」(予見可能性)や「その危険を回避する義務を怠ったか」(結果回避義務違反)の立証が求められる。医療事故や鉄道・航空機事故などは、検察が「特殊業過」と呼ぶこともある。
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