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放置されていたモニタリングポストの「過小表示」
住民の訴えから半年、ようやく改修始まる
2012年11月29日(木) 藍原 寛子
文部科学省は11月7日、福島県とその周辺の県に今年4月、同省が設置した675台の放射線の「可搬型モニタリングポスト」(以下、MP)のすべてで、測定値が1割ほど低い値を示していたことを発表した。
MPの内部に設置された鉛(なまり)のバッテリーが一方の放射線を遮る形で検出器の脇に位置していたため、1割低い線量を表示していたのが原因。このため同省は来年2月末までの予定で、約1億5000万円をかけてすべてのMPを対象に、鉛のバッテリーを検出器から離れた場所に設置し直す改修工事を行うこととした。
福島市内でも線量の高い渡利地区・花見山ウオーキングトレイル駐車場に設置された可搬型MP
約半年、文科省が公表してきた数字は実際よりも低く、誤った数字であったことを同省が認めわけだが、MP1台ずつでどのぐらい低く出ていたのかを今年4月にさかのぼって計算し直し、数字を修正、公表する予定はないという。「改修した後のMPの数値も自動的にウェブサイトで表示されるので、改修前の数値と比較してもらいたい」(同省担当者)としている。
このMPの数値が低く出ている状況は、半年ほど前の今年5月から、MPが設置された福島県内の自治体や県民などが同省に対して、問題を指摘していた。その1つが南相馬市。同市には26台の可搬型MPが設置されている。
無視された? 南相馬市の訴え
同市によると、文科省が今年4月に可搬型MPによるウエブサイト上でのリアルタイム測定値(ウェブサイト)を公表し始めると、住民から「数値が違っているのではないか」との問い合わせが寄せられた。
問い合わせがあったのは、旧警戒区域だった小高区の住民から。同区では、特に山間部を中心にMPが設置されていた。同市内でも比較的高線量地域だったことから、地元・小高区に戻った住民の中には、個人でガイガーカウンターなど測定器を購入して持参していた人が多く、手元の測定器と文科省の可搬型MPの数値が違うことについて、市に問い合わせた。地元の区長からも、MPの数値の低さについて確認してほしいとの要請があった。
そこで、市は職員を現地に派遣して、役場にあったヨウ化ナトリウムシンチレーションなどの測定器で、文科省の可搬型MPの前の数値を確認した。すると住民の指摘通り、可搬型MPの数値が低く出ていたのだ。市は幹部職員が集まり対応を検討した。
「MPの数値は、市民が現状を知るために重要なもの。市民に分かりやすい情報を伝えるのが何よりも大事だが、数値が低く出ていることで、市民の疑義が出るのは当然であり、分かりやすい情報になっていないとしたら問題。測定値のチェック機能はどう働いているのか。また、住民のためにどうしたらいいだろうか」(同市)
議論の結果、文科省に対して今年5月に口頭で、MP値が実際よりも低い問題を調査するよう要望した。しかし、「当時は、『原因を調べてみます。測定単位グレイをマイクロ・シーベルトに換算するため、何らかの差異が出ている可能性もある』などという話が出されただけで、その後は何の返答もなかった」(同市)という。
さらに、福島県の市町村で最も多い50台のMPが設置されているいわき市も、MPが設置された直後の今年4月に文科省に対して同様の指摘と調査要望を行っていた。同市の場合、南相馬市のように住民から問い合わせがあったのではなく、市が独自で数値の低さを発見していた。「MPの機器自体が文科省の所有で、地元の自治体では校正などの作業に関して手出しができない。『数値が違うようなので、確認してくれ』というしかない」(同市)という状況だった。
そして約半年間、全く進展がなかったMP問題が突然、解決に向かい題したのは10月下旬だ。文科省の職員が突然同市を訪ね、測定値が低く出た原因はMPのバッテリーの位置の問題があること、今後は順次改修工事を行っていくことを説明して帰ったという。
地元の自治体の指摘がたびたびありながらも、MPのチェックと校正(正しい数値が表示されるように補正すること)、バッテリーの移設という補修工事着手までに半年間もかかった理由はなんだろうか。福島県内では補修工事が始まっているが、実際に県内のMP 545台のうち、最後の1台の補修工事が終了するのが来年2月末のため、今年4月の設置から実に10カ月も誤った数値を見せられる地域があるわけだ。
「調査、検討」で半年 文科省の対応
その理由などを文科省に尋ねた。まず、文科省には自治体や住民を含めて、何件ぐらい問い合わせがあったのだろうか。
驚くことに担当者は「何件という具体的な数値は手元にない」と話した。しかも「現地調査に入ったのは今年7月から8月にかけて。発表が11月になったのは、原因調査と今後の対応を検討していた」からだという。この間、南相馬市に対して途中経過が告げられることもなく、地元住民からすれば“放置されていた”感覚になるのは当然のことだ。
例えば民間企業の場合、消費者や顧客などからの問い合わせやクレームなどを記録し、業務に反映させることは常である。製造物責任などに関する問題に対しても、より大きな事故を防ぐための「防波堤」になる。もちろん迅速な対応が何よりも求められる。MPの数値が「過小表示」された場合、結果的に被曝などの被害をこうむるのは住民。しかし国民を守るべき「パブリック・サーバント(公務員)」の対応は、福島県民から見ればあまりにも遅い。
MPの数値は、警戒区域などの区域解除と、それに伴って住民が地域に戻って生活を再開できるかどうかの大きな基準の1つとして使われている非常に重要なもの。その数値が半年間も誤っていて、しかも地元住民の声が迅速に反映されなかったとすれば、住民が国・行政に不信を抱く大きな要因ともなろう。
福島県民にとって、放射性物質に汚染された環境の中で、日常生活のリスクをいかに少なくしていくかは非常に重要な問題だ。線量の高い地域では、毎日時計を見るのと同じようにガイガーカウンターや測定器の数値を見るのが習慣になっている住民も多い。福島県民は、霞が関や永田町に対して、地図上の距離以上に距離感を感じ、疑問や不安を持っている。
今回の可搬型MPは、文科省が入札で2業者を選び発注したのだが、入札の仕様書の段階で確認したり、設置後に正しい測定がなされているのか確認をしなかったのだろうか。過去にない新しいタイプのMPであるなら、数台のデモ機を福島県内に設置し、実際の自然環境のなかで適正に作動するかなどのパイロット事業をやってもよかったのではないか。
同省によると「今回のMPは震災後に新たに開発されたタイプのもので、停電などがあっても電源を供給できるように太陽電池パネルを設置している。検出器自体に問題はなく、バッテリーの位置によって低く表示された」と説明するのみ。そのために結果として、住民に誤った情報が伝わり、さらには文科省自らの“失策”で1億5000万円の血税がムダに費やされることになってしまった。
「国の過小評価は明確な意図?」 指摘の声も
「さまざまな事態を見てきて、国や行政には、事故の被害を過小評価したいという、はっきりとした意図があるように思う。賠償額を増やしたくないし、地域外に避難する人を増やしたくない、あるいは今後も原発をやりたいという国の意図もあるのではないか」。国際環境保護NGOグリーンピース・ジャパンの放射線調査チーム鈴木かずえさんはこう話す。
鈴木さんや、オランダ、ドイツ、英国などのグリーンピースのメンバーで核物理学や放射線防護の専門家が今年3月と10月などに福島県内で放射線量の測定調査を実施した。今年10月には文科省が設置した40カ所のMP周辺を含む410カ所で放射線を測定。南相馬市やいわき市同様に、40カ所のうち30カ所(75%)で低く表示されていたことが分かり、MP自体が実際の放射線量を適正に表していない問題を指摘した。
具体的には以下ような問題点をを挙げている。
・MP周辺を除染したり、MPの土台をコンクリートや鉄板で作っていることで、MPが地域の放射線量を正しく測定できていない(MPより5メートル、10メートル離れた地域ではMP直近より放射線量が高くなる)
・除染後、一時期は線量が低くなるが、その後再び線量が上がる場所(再汚染)が起きており、除染効果に疑問
「MPの改修に1億5000万円を費やすというが、こうした測定機器などにお金を掛けたり、復興予算を復興事業以外に使うなどの事例があるが、それよりも、被災地の人々の被曝を防ぐことに投入すべきではないか。100億円ぐらいあれば、線量の低い地域での子どもたちの移動教室実施や妊産婦の移住支援が実現する。放射線の影響を過小評価し、正しく住民に伝えないことにより、住民の権利や健康が侵害される。放射線防護のためには、まず住民が正しい情報を得ることが何よりも大切」
グリーンピース・ジャパンの鈴木さんは、国や行政は何よりも住民に対して、正しい情報を提供し、迅速に防護策を取る責務があると訴える。
文科省より早く原因を明らかにした市民グループ
放射能汚染に取り組む市民グループ「市民と科学者の内部被曝問題研究会」の市民環境・測定部として、今年9月から福島県内のMPの測定を行なっている矢ケ崎克馬・琉球大学名誉教授らモニタリングポスト検証チームは10月に記者会見し、MPの数値が低い現状と考え得る原因について発表した。
矢ケ崎名誉教授らによると、MPが示している値と検証チームの測定値を、最小二乗法で最も確からしい数値として算出してみると、実際に住民が受けている放射線量の平均で約50%になっており、「MPの値をほぼ2倍しなければ住民の受けている放射線値にならない」と指摘した。測定したMPによってばらつきがあり、5分の1の数値になっているところもあった。MPの数値が低くなる原因についても、「モニタリングポスト内部の部品による遮蔽」を文科省の発表よりも1カ月早く指摘していた。そのほかにも「MPの下にある鉄板や、バッテリーを含む部品、周囲の金網による放射線の遮蔽」も数値が低く出る要因として挙げた。
学校などではMPの数値を目安として、児童・生徒たちが受ける線量とその対策を講じている。検証チームはMPの数値が低く出ていたことに対して「被曝線量を極端に過小評価している」と非難。グリーンピース・ジャパンの鈴木さん同様に、「住民の集団移住などの健康保護策を優先すべきなのに、住民の健康を切り捨て、その口実づくりのためのデータ操作をして、賠償額を低く抑えようとしている可能性はないのだろうか」としている。
震災以降、国や行政は様々な政策を打ち出し、調査データなどを公表してきた。しかしその中には、市民の検証や住民の声が反映されないものもあった。そのような状況の中でも、市民やNGOなどは独自に調査を進め、データを示しながら、事実確認を進めてきたが、それでも多くの問題が今回の震災以降、繰り返されている。それはまるで、国民や住民不在の政策、永田町や霞が関だけで論じ、被災現場を知らない政策が生む大きなひずみのように感じられてならない。そのひずみの中で、いつも犠牲になるのは、被災者であり、社会的弱者だ。
「いったい誰のための政策なのか」。そう考え、空しさを抱いている福島県民は私だけではないと思う。
藍原 寛子(あいはら・ひろこ)
フリーランスの医療ジャーナリスト。福島県福島市生まれ。福島民友新聞社で取材記者兼デスクをした後、国会議員公設秘書を経て、現在、取材活動をしている。米国マイアミ大学メディカルスクール客員研究員として米国の移植医療を学んだ後、フィリピン大学哲学科客員研究員、アテネオ・デ・マニラ大学フィリピン文化研究所客員研究員として、フィリピンの臓器売買のブローケージシステムを調査した。現在は福島を拠点に、東日本大震災を取材、報道している。フルブライター、東京大学医療政策人材養成講座4期生、日本医学ジャーナリスト協会員。
フクシマの視点
東日本大震災は、多数の人命を奪い、社会資本、自然環境を破壊したが、同時に市民社会、環境、教育、経済、政治や行政など、各分野に巨大なパラダイム・シフトを起こしている。我が国はどのような社会を志向していこうとしているのか。また志向していくべきなのか。「原発震災」で、社会の姿が大きく変わりつつある福島、震災のフロントラインで生きる人々の姿から、私たちの社会のありようをグローカル(グローバル+ローカル)な視点で考える。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20121126/240015/?ST=print
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