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シーベルトへの疑問
東日本大震災と福島第1原発事故からおよそ1年が経過した。環境に放出された放射能は東日本各地を汚染し,危険極まりない様々な放射性物質が住宅地はもちろん,広く森林や湖沼・河川,農地や水源地,海などに降り注ぎ,我々の日常生活はすっぽりと,その放射能汚染に包まれることになってしまった。そうした中で,現下,一段と注目され始めたのが飲食や呼吸に伴う恒常的な低線量内部被曝である。先般は厚生労働省が,ようやく危険極まりない飲食品の残留放射能に係る暫定規制値見直しを決めたが,その過程でもこの内部被曝の危険性について激しい議論が展開された。また,春を迎えてスギ花粉の季節となるが,そのスギ花粉が放射性物質に汚染されていて,人体に被害を及ぼすのではないかが懸念されている。
しかし,原子力村の住民たちの恒常的な低線量内部被曝に関する説明や,マスコミによるその無批判な報道においては,しばしば「内部被曝は避けられないけれども,科学的に被曝量を評価した“シーベルト”の値は十分に小さいので,心配するには及ばない。むしろ,自然放射能と比較しても無視できるぐらいに小さな放射線被曝を過剰に心配することは無用の精神的ストレスを生み,かえってその方が健康には有害である」などとされる。簡単に言えば,たいしたことはないから考えることをやめよということだ。しかし,本当にそうだろうか。
実は「シーベルト」という人体に対する被曝影響度の概念について,本稿末尾にご紹介するいくつかの内部被曝に関する解説図書や,これまでの新聞・雑誌等の情報等から考察した場合,伝えられているように「シーベルトの値が小さいから安全だ,心配はない」などとはとても思えないのである。むしろ逆に,この人間の放射線被曝の度合いを推し量る評価単位である「シーベルト」という概念が,実はとんでもない偽物であり人をはぐらかすものではないか,言い換えれば,非科学的,非実証的で,恒常的な低線量内部被曝の危険性を覆い隠しているのではないかと思われてならない。
以下,私の「シーベルト」に関する疑問点を整理して申し上げ,現下,飲食を含めて対策が急務となっている恒常的な低線量内部被曝問題について,政府をはじめ関係責任者達の再検討を促したいと思う。
<現状における放射線と放射能の単位>
・ベクレル
放射能(放射線を出す能力)の量を表す単位。具体的には,1秒間に1個の原子核崩壊を起こす放射性物質の放射能を1ベクレルといい,記号はベクレル(Bq)で表す(旧単位は「キュリー」:1キュリー=3.7×10の10乗ベクレル)。物理的な絶対量の単位なので基本的に誤魔化しはないと思われる。放射線被曝を考察し評価する場合には,さしあたりこのベクレルに依拠するのがいいと思われる。
・グレイ(吸収線量)
放射線の物質に与える影響を推定するために,放射線が物質中を通過する際に当該物質中で失ったエネルギーの量=当該物質が吸収したエネルギーの量を「グレイ」(Gy)で表す。物質1kgがイオン化作用によって1ジュール(0.239カロリー)のエネルギーを吸収する時の線量を1グレイという(1グレイ=1ジュール/kg)。
・等価線量(シーベルト:旧単位は「レム」で,1シーベルト=100レム)
放射線の違い(α線,β線,γ線,X線,中性子線,陽子線等)により人体への障害効果が異なっているため,その障害効果をγ線を「1」とする相対的な指数であらわした「放射線荷重係数」を使って修正する。上記の吸収線量(グレイ)にこの「放射線荷重係数」を掛けたものを「等価線量」(シーベルト)という。「放射線荷重係数」の数値は別表1の通りで,α線が「20」,β線が「1」,中性子線が「5〜20」などとなっている。
・実効線量(シーベルト:旧単位は「レム」で,1シーベルト=100レム)
放射線への感受性=影響度合いは,人間の各臓器によっても異なるため「組織荷重係数」を使って修正する。上記の「等価線量」(シーベルト)にこの「組織荷重係数」を掛けたものを「実効線量」(シーベルト)という。「組織荷重係数」の数値は別表2の通りで,各組織ごとの「組織荷重係数」は合計すると「1」となるように決められている。全身への一様な外部被曝の場合,体全体の「実効線量」は「等価線量」と同じ値になる。
一般に人間の被曝量とは,外部被曝も内部被曝もこの「実効線量」のことを言い,単位は「シーベルト」で表示される。なお,実務的には「ベクレル」を「実効線量」(シーベルト)に換算する「実効線量換算係数」が,実証的に国際放射線防護委員会(ICRP)によって開発されており,それを使うことで体内に入った放射性物質の量(ベクレル)から,その被曝量(シーベルト)を簡便法で推定している。
また,癌などの確率的健康障害については,同じく実証的に「DDREF」(線量・線量率効果係数(*):基礎データは同じく広島・長崎の原爆被害者)が開発されており,実効線量を「DDREF」で割ることにより,近い将来発生する癌患者数,及びその死者数を推定している。
*「DDREF」(線量・線量率効果係数)
低線量の場合,細胞の回復効果(DNA修復能など)により,被曝のダメージが一度に大量被曝した場合と比較して,どの程度低減されるかを示す係数のこと。国際放射線防護委員会(ICRP)ではDDREFを「2」としている(一度に大量被ばくした場合のダメージの1/2)。
<問題点>
(1)吸収線量「グレイ」の定義をご覧いただければわかるように,「シーベルト」では放射線被曝が「吸収エネルギー」に単純化・矮小化され,かつ被曝が体全体で平均化・希薄化されてしまっている。その内容は体全身に一様均一に(一過性で)放射線を浴びる外部被曝の場合に当てはまる定義であり,これでは飲食や呼吸に伴い体内に入り特定部位に留まった放射線源からの恒常的な低線量内部被曝の実態からは,かけ離れたものとなってしまう。それは「組織荷重係数」の合計が「1」になっていることを見ても明らかである。内部被曝の場合に,何故「組織荷重係数」を合計で「1」にする必要があるのだろうか。
恒常的な低線量内部被曝の実態とは,被曝は「体全体に一様均一に受ける」のではなく,@「局部的」に,A「集中的」に受けるのであり,また「一過性」ではなくB「継続的」であることだ。こうした恒常的な低線量内部被曝の決定的な特徴を,この「シーベルト」の定義は見過ごしてしまっている(意図的にその特徴を定義に反映させることを避けている?)。
(2)また,この「シーベルト」の定義では,恒常的な低線量内部被曝の特性であるミクロレベルのC「超至近距離から」の猛烈な被曝であることが見落とされている。「放射線被曝の程度は線源からの距離の2乗に反比例する」はずだ。体内部に入った放射性物質は,体を構成する細胞組織を,ミクロレベルの超至近距離から,とんでもないエネルギーで破壊し始める。その重大事実が「シーベルト」には反映されていないように思われる。
ところで,原子力の御用学者達は,この「放射線被曝の程度は線源からの距離の2乗に反比例する」を,原発事故の際の外部被曝の場合に「たいしたことはない,線源から離れれば大丈夫だ」と説得する時には使うが,内部被曝の危険性を説明することには絶対に使わない。つまり,この「放射線被曝の程度は線源からの距離の2乗に反比例する」という説明は,内部被曝が問題となった時に,発言者が御用学者かそうでないかを判別するための「リトマス紙」として使うこともできる。
(3)「放射線荷重係数」の数値が怪しい。特にα線の「20」(γ線の20倍)というのは,その内部被曝性から鑑みて小さすぎないのだろうか。またβ線の「1」や,中性子線の「5〜20」も小さすぎるように思う。β線も内部被曝性である。
更に「組織荷重係数」の数値も怪しいし,また,同じ臓器であっても,その臓器の中のどの部位・部分か,どの組織かによっても数値は大きく違ってくる可能性もある。細胞増殖の激しい部位・部分(例えば体性幹細胞)では,その影響は格段に大きいはずだ。この両方の係数については実証的根拠を示していただく必要がある。
(4)加えて放射線被曝の場合には,胎児を含め年齢による感受性の違いも大きいが,「シーベルト」には明示的に反映されていない(「実効線量換算係数」に,その代替として「体重差」がカウントされているらしい)。更には,性別差による感受性の違いもある(女性の方が男性よりも感受性が高く,そのことは現在の日本の法律である放射線障害防止法にも反映されている)。日本だけでもいいから,直ちに「年齢別及び性別感受性係数」を暫定的に定めて,飲食品や環境の被曝限度数値に反映させるべきではないか(別表4参照)。
(5)「ベクレル」(放射能の量)から「シーベルト」(人間の被曝量)に換算する「実効線量換算計数」も,被曝量を確率的健康障害である癌などへの疾患率へ転換する「DDREF」(線量・線量率効果係数)も,その根拠が国際放射線防護委員会(ICRP)による広島・長崎の原爆被害者データの解析から導かれている。しかし,そのデータは,冷戦下の核戦略の影響下で米国主導で収集整理されたため,様々な問題が指摘されている。また,内部被曝を軽視・無視したり,被曝の人体への影響を過小評価したりしていることは,多くの研究者や有識者が指摘するところである。
(6)化学的作用の有害性が考慮外
@ 放射性物質自体の化学的性質が人体や生命体に対して有害作用がある(プルトニウム,ウランなど)。しかし,放射性物質の中には,その化学的特性なり有害性がよく分かっていないものもある。更に放射線被曝と重複した場合には,その化学的毒性が倍加する可能性もある。こうしたことは「シーベルト」には反映されていない。
A 放射線は人間の体の中では,遺伝子=DNAや染色体だけを破壊するのではない。各所の細胞内で様々な分子,原子に衝突し,それを活性化=イオン化する。中でも酸素がイオン化され,いわゆるラジカルと呼ばれる活性酸素が細胞内で生まれると,人間体内で様々な健康障害や臓器障害などを引き起す可能性がある(*)。それが「シーベルト」では全く考慮されず,定義に反映されていない(「ペトカウ効果」(**)など)。
B 放射性物質から放たれた放射線が物質にあたると,その物質が別の物質に変化し,化学的性質が転換して有害化する可能性がある。里見宏氏のレポート(本稿末尾)によれば,例えば脂肪酸に放射線があたると発がん性のあるシクロブタノンという物質に変わる。こうしたことも「シーベルト」には反映されていない。
C 昨今では,放射線被曝について,バイスタンダー効果(***)による細胞生理の異常や染色体異常など,各種のエピジェネティックな現象なども観測されており,そうした効果も「シーベルト」には反映されていない。
D 健康障害については,放射線被曝によるものと化学物質の毒性によるものとが相乗効果を発揮する可能性があると言われている。しかし,動物実験等も含めて,これに関する明確なデータは見たことがない。
(*)放射線被曝に伴う様々な健康障害の可能性
極度の慢性疲労(いわゆる「ぶらぶら病」)
各種臓器不全,免疫力低下・ホルモン異常,循環器系疾患・心臓病,神経系疾患
ぜんそく,糖尿病,白内障,脳障害・知能低下,生殖異常・遺伝病・奇形児他
(**)ペトカウ効果
恒常的な低線量内部被曝によって発生する活性酸素の影響で細胞膜及び細胞が破壊される効果
(***)バイスタンダー効果
直接放射線被曝を受けていない離れた場所にある細胞や組織が,被曝の影響と思わしき状態を呈する現象を言う。
(7)放射性物質の体内への入り方(放射能パーティクルの危険性)
昔から自然界に存在する放射性物質の場合は,人体や生物体内に入る場合には分子単位の非常に小さな小さな粒の状態で入り,入った後も特定の臓器や部位に長く留まることなく体外へ排出されることが多い。しかし,原発事故で環境に放出される放射性物質は,いわゆる「パーティクル」の形で,多種大量の放射性分子が「塊」になって人体や生物の体内に入り(それでも人間の日常生活のレベルで考えれば非常に小さい粒ではあるが),それが体内で猛烈な放射線を発する他,核種によってはかなりの長い期間にわたり特定の臓器や部位で濃縮かつ滞留し,周辺の細胞を痛めつけることが多い。こうした放射性物質の体内への取り込み方の違い,体内での破壊威力の違いも「シーベルト」では考慮されない。
(8)更に,昨年末のNHK番組「追跡! 真相ファイル」で,広島・長崎の原爆被害者の調査結果から,従来考えられていた以上に低線量被曝の健康被害が大きいことがわかってきたにもかかわらず,1990年頃の国際放射線防護委員会(ICRP)の委員たちが,それを逆に放射線被曝の健康被害を軽い方へ評価する(作為的に1/2にする)形で定義や数値を操作していたことが放送された(その後に予想された被曝規制値強化の動きに対抗するための「バッファ」(余裕)を用意するためだったという)。
国際放射線防護委員会(ICRP)が提唱している被曝線量評価単位の「シーベルト」は,定義そのものも怪しいが,その定義に沿って「実証的」に定めたとされる被曝限度の数値についても怪しい。いずれも政治的操作の産物である可能性が高いと言える。
(9)放射線被曝は人間や生命体の「老化」を早める効果があるとされが,そのメカニズムは完全には分かっていない。もちろん「シーベルト」にその効果の反映はない。
<暫定的結論>
シーベルト概念は,恒常的な低線量内部被曝の局所性,集中性,継続性,総合性,多様性を反映できておらず,また,超至近距離からの被曝であることの危険性や化学的毒性なども考慮されていないように思われる。つまり,もともと広島・長崎の原爆被害者を対象とした外部被曝の評価単位として開発されたものが,そのまま恒常的な低線量内部被曝の評価に援用されたために,内部被曝の特徴や危険性のポイントが欠落してしまっているのではないか。
また,放射線被曝のネガティブな影響を極力小さく見せたい原子力推進の政治権力や原子力村の人間達の思惑が重なり,被曝評価が非(経験)科学的に,非実証的に,言い換えれば政治的に操作されることで,実態と合わない「シーベルト」の歪んだ概念が固定化し,かつ「被曝限度数値」などが歪められてきたのではないか。私の「シーベルト」への疑問とは,こういうことである。
本来であれば,恒常的な低線量内部被曝を適正に評価できる(経験)科学的根拠に基づいた被曝評価概念が開発され,それが実証的に慎重に(予防原則的)運用されるのが望ましいが,現下,ひどい放射能汚染にさらされた地域が広がる中で,そうした新概念の開発と定着をゆっくりと待っているわけにはいかない。従って,現行の「シーベルト」を緊急対応として暫定的に使うにしても,上記で申し上げたような恒常的な低線量内部被曝の特徴を踏まえた「修正係数」(*)をこまめに用意することで,その歪みを是正してみてはどうだろうか。
いずれにせよ,例えば子どもたちの内部被曝への過小評価は,もう看過できない大問題である。「シーベルト」の値が小さいという理由でその危険性を誤魔化さず,真摯に被曝回避のためのあらゆる対策を打ち出してほしいものである。
(*)考えられる「修正係数の例」
「放射線荷重係数」と「組織荷重係数」の抜本的見直しに加え,少なくとも「局部集中係数」「継続性係数」「至近距離係数」「年齢別感受性係数」「性別感受性係数」「化学毒性係数」「活性酸素係数」「エピジェネ係数」「遺伝係数」「早期老化係数」など
また,臓器などの内部被曝の場合には「実効線量」ではなく「等価線量」をつかうべきではないか。
注1:一般食品に割り当てる線量は、介入線量レベル(1mSv/年)から「飲料⽔」の線量(約0.1 mSv/年)を差し引いた約0.9mSv/年を,年齢区分別の年間摂取量と換算係数で割ることにより限度値を算出している(この際,流通する食品の50%が汚染されているとする)。
注2:すべての年齢区分における限度値のうち,最も厳しい(小さい)値から全年齢の基準値を決定することで,どの年齢の方にとっても考慮された基準値とする。
(コメント:しかし,表の限度値を一見してわかるように,年齢が小さいほど限度値は大きくていい=つまり食べる量が少ないから,その食べ物の単位当たりの汚染限度は高くていいという,我々が一般に認識している年齢別の被曝効果とは逆の計算結果になっている。子どもほど汚染限度値は高くていいなどという結果は非科学的である)
<参考文献>
*『放射線規制値のウソ:真実へのアプローチと身を守る法』(長山淳哉:緑風出版)
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4846111164.html
*『隠された被曝』(矢ヶ崎克馬:新日本出版社)
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4406053735.html
*『内部被曝』(矢ヶ崎克馬:岩波ブックレット)
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4002708322.html
*『低線量・内部被曝の危険性:その医学的根拠』(医療問題研究会,伊集院真知子:耕文社
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4863770189.html
*『人間と環境への低レベル放射能の脅威』(ラルフ・グロイブ,アーネスト・スターングラス著/肥田舜太郎,竹野内真理訳:あけび書房)
http://www.junkudo.co.jp/detail.jsp?ISBN=9784871541008
*『放射線被ばくによる健康影響とリスク評価:欧州放射線リスク委員会(ECRR)2010年勧告』(欧州放射線リスク委員会(ECRR)編/山内知也訳:明石書店)
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4750334979.html
*「内部被曝を軽視してはいけない:毒性のメカニズムが違う自然放射線と人工放射線」(里見宏『消費者レポート第1503号 2012.2.7』)
<参考となるネット上の情報>
*「市民と科学者の内部被曝問題研究会」(「内部被曝研」HP)
http://www.acsir.org/index.php
(2012年1月に発足した市民と科学者が協力して運営していく研究会です。今後,その活動が期待されています。現在,会員を募集中)
*NHK番組「追跡! 真相ファイル:低線量被ばく,揺らぐ国際基準」
http://www.nhk.or.jp/tsuiseki/shinsou_top/20111228.html
以 上
(食の安全・監視市民委員会運営委員 田中一郎)
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