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日本の原子力の未来:六ヶ所村で立ち往生
2012年11月15日(Thu) The Economist
(英エコノミスト誌 2012年11月10日号)
日本の原子力の未来に関する政府のごまかしは、いまだに説得力を欠いている。
青森県の北東部沿岸にある人里離れたこの村は、北朝鮮やイランのスパイを大喜びさせるだろう。
ここが起伏に富んだ田園地帯だからではなく、ウラン濃縮施設と、使用済みのウランとプルトニウムを再処理して核燃料を作る試験を行っている工場があり、日本が保有する9トン超の分離プルトニウム――専門家によると、1000発以上の核弾頭を作るのに十分な量――の大部分の隠し場所だからだ。
六ヶ所再処理工場は、核兵器を持たないと誓い、54基の原子炉のうち2基を除いてすべてが停止している国では異常な存在に思える。
国の原子力政策を無意味にするような矛盾
だが、2030年代末までに原子力を段階的に廃止したいと言っている当の政府は、日本の原子力発電所が2050年代までフル稼働するための燃料を供給するのに十分な核廃棄物を六ヶ所村で再処理し始めることに早期に取り組むとも主張しているのだ。
それほどせっつかなくても、当局者たちは潜在的な矛盾を認める。日本の原子力政策をほとんど無意味なものにするくらい大きな矛盾だ。
野田政権は脱原発依存計画を骨抜きにせざるを得なかった(写真は今年6月に首相官邸前で行われた、関西電力大飯原子力発電所の再稼働に反対する抗議デモの一幕)〔AFPBB News〕
この矛盾を理解するカギが、人口1万1000人のこの村と、村の再処理工場が国の原子力政策に対して持っている巨大な影響力だ。
福島第一原子力発電所で昨年3基の原子炉がメルトダウン(炉心溶融)した後、原子力に対してほぼ全国的な嫌悪感が生じた。
しかし当局者らによると、六ヶ所再処理工場は、たとえ野田佳彦首相の支持率が急落しても、野田政権が原子力依存を終わらせるための計画を骨抜きにせざるを得なくなった一因だという。
世論調査は、有権者の多くがもっと断固とした反原発姿勢を支持していることを示している。
完成が予定より15年遅れており、大金を食う事業になっているとはいえ、六ヶ所再処理工場は強力なカードを持っている。
六ヶ所村の古川健治村長は、再処理工場に2兆2000億円が費やされた後で工場が停止されたら、かつて貧しかった漁業と農業の村に対する打撃は壊滅的なものになると主張する。何しろ六ヶ所村は今では、雇用と所得のほぼすべてを再処理工場に依存するようになっている。
政府の理屈
六ヶ所村のプロジェクトが打ち切られたら、東京電力はさらに破産に近づく(写真は福島第一原子力発電所3号機の原子炉建屋)〔AFPBB News〕
政府の視点から見てもっと強力な経済議論は、再処理工場を建設したのは日本原燃で、損傷した福島原発の所有者である東京電力が筆頭株主だということだ。
六ヶ所村のプロジェクトが打ち切られれば、東電は、原燃が抱える1兆円の債務のうち自社が保証している債務を背負い込む。そうなれば、福島の事故で既に破産の瀬戸際に追い込まれた東電が、一段と破綻に近づくことになる。
政府高官らは、六ヶ所再処理工場がなければ、日本は早急に原子力を永久放棄しなければならないかもしれないと言う。
再処理工場は、原発の中間貯蔵タンクに貯められている使用済み燃料を処理することになっている。この廃棄物が処理されなければ、そして、それをどこに恒久的に貯蔵するかで合意に達しなければ、安全性に関する懸念は大きくなるだけだ。
「六ヶ所再処理工場がなければ、我々は他の原子炉を再稼働させるための承認を得られなくなる――もう二度と」。与党・民主党のある議員はこう話す。原子炉が停止されて以来、政界の既成勢力は、迫り来る電力不足が有権者を原子力支持に逆戻りさせてくれることを密かに期待してきた。
国際社会の反発と懸念
次に登場するのが国際的な側面だ。当局者たちは、民主党が原子力を段階的に廃止することを公約した際、英国、フランスと並び米国が深刻な懸念を表明したと言う。ある当局者の話では、核拡散の恐れを指摘する者もいた。
正式な非核保有国の中で最大の分離プルトニウムを貯蔵する日本が原発を段階的に廃止する一方で使用済み燃料の再処理を続ければ、核を保有する潜在的なならず者国家に誤ったメッセージを送ることになると米国は主張した。
そうした懸念を取り除くために、日本政府はすぐさま、2030年代という期限は確約というよりは目標だと言って友好国を安心させた。
それ以外の国際的な反発は、どちらかと言うと技術力や国力に関係している。米国は、日本が原子力計画を放棄した場合、日立製作所とゼネラル・エレクトリック(GE)、東芝とウエスチングハウスとの提携を通じて日本企業が米国企業と共有している技術的な専門知識を米国が失ってしまうのではないかと心配している。
日本による原子力計画の放棄は、日本とフランスではなく、ロシアと中国が核技術で主導権を握ることも意味するかもしれない。
こうした圧力は、段階的廃止という政府の計画に多少曖昧さが残されている理由を説明する助けになる。将来の政権は多分に、この点を利用して原子力を保有し続けるだろう。それでもやはり、政府の計画は再処理の理論的根拠を示してはいない。
欠落した議論
プリンストン大学の核不拡散の専門家であるフランク・フォン・ヒッペル教授は、日本はウランを再処理するより輸入した方が簡単で、はるかに安上がりだし、核廃棄物を青森に輸送するよりも空冷式のコンクリートキャスクに貯蔵した方が安全だと言う。
だが日本では、再処理以外の選択肢に関する議論はほとんど行われていない。福島の大惨事が起きるまで原子力の安全性についてほとんど議論されなかったのと全く同じだ。
当の六ヶ所村では、地元でハーブ農園を営む菊川慶子さんが、村はずれにある自分の小さな農場から再処理工場に反対する孤独な戦いを続けている。彼女によると、抗議活動は随分長い間続いているため、仲間の活動家は全員亡くなったか、体が弱って続けることができないという。そして、村には他に話を聞いてくれる人は誰もいない、と話している。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36540
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