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(回答先: 原発建設における特殊な活断層評価 変動地形学の視点から 投稿者 taked4700 日時 2012 年 11 月 14 日 12:53:04)
http://www2.toyo.ac.jp/~manqq/manq-file/query.pdf
渡辺満久 わたなべ みつひさ ( 東洋大学社会学部, 変動地形学)
原子力関連施設は「それなりに安全に」建設さ
れてきた,と思っていた.しかし,現実にはそう
ではなく,「原発の敷地内に活断層があってもよ
い」と明言された(1)ことは,大変な驚きでもあっ
た.最近,既設の発電用原子炉施設等の耐震安全
性確認(バックチェック)が各地で行われ,各電力
会社は安全性の確保と確認を謳っている.また,
「活断層等に関する安全審査の手引き」(2)が適用さ
れるべき安全審査がなされ,新たな原子力関連施
設の設置が許可された.これらの調査と審査によ
って,安全は確保されたのであろうか?
筆者は2006 年の夏以降,いくつかの原子力関
連施設周辺において,活断層評価の問題点を検討
してきた.以下では,記憶に残る言葉とともに疑
問を提示したい.
「リニアメント判読」「これが地形判読でありま
す」(島根原発) ―― 「専門家」の能力への疑問
中国電力が示した鹿島断層(宍道断層)のトレー
スは,「リニアメント(直線構造)」判読図と呼ば
れるものであった(3).これは,変動地形学的に検
討された活断層図(4)とは似ても似つかないもので
ある.筆者が学部生で地形判読能力が未熟だった
ころ,専門的知識がなくても容易に認識できたリ
ニアメントを追いかけたことがある.しかし,そ
の段階はすぐに卒業した.リニアメント判読は,
活断層判読ではないのである.鹿島断層の安全審
査では,驚くべきことに,レベルの低いリニアメ
ント判読図のほうが,変動地形学図より高く評価
された(本特集167 ページの中田氏の解説参照)(5).
また,断層運動による系統的な右ずれについて
「専門家」の一人は,「逆側を結べばいろいろなも
のが出てくる(中略)それが地形判読であります」
と発言している(6).これは,河川は低所から高所
へ流れてもよいのだという,驚くべき見解である.
われわれの研究分野を侮辱する発言として,体が
震えるほどの怒りを覚えた.電力会社側の不適切
なリニアメント判読とともに,審査する「専門
家」の能力に大きな疑問を抱くことになった.
「M 6.5」(志賀原発) ―― 活断層と地震の「値切り」
原発から離れたところで発生する地震の規模は
ともかくとして,施設の設計に大きな影響を与え
るような,近くで発生しうる地震に関しては,か
つてはM 6.5 程度の地震しか想定されていなかっ
た.筆者には,M 6.5 とする意味はよく理解でき
ないが,経済性を重視した結果であろうと思って
いる.ところで,2007 年能登半島地震を引き起
こした海底活断層の長さは,20 km 程度である(7).
この海域に活断層があることは地震前に報告され
ていたが,20 km という長さではなく長さが7
km 程度の3 つの活断層に分割されていた(8).音
波探査結果にもとづく検討結果であるというが,
完全に連続している活断層を分割することは理解
できない(9).しかし,「M 6.5」を考慮すると,謎
は解けるのである.M 6.5 程度を上限とするため
には,断層長が10 km 以下の短い活断層に「値
切る」必要があるからである.M の数値が多少
高めに設定し直されたとしても,同じような「値
切り」が起こる可能性は高い.
「犯罪に当たる」(敦賀原発)
―― それでも反省はなし
敦賀原発の敷地内を通過する浦底断層は,「リ
ニアメント」調査によって過小評価されてき
た(10).また,ボーリング調査の検討過程におい
ては,「専門家がやったとすれば,犯罪に当た
る」とまで言われた誤りがあった(10).筆者は,
どうやったらこれを活断層ではないと言えるのか
と,調査担当者に詰め寄ったことがある.これに
対して,「当時の判断は間違っていない」という
空虚な返答が繰り返されるだけであった.新たな
調査と指針の改定によって,間違いであったこと
がわかった,という主張である.しかし,「犯罪
的」な誤りは,地質学や地形学の基本原理を否定
するものであり,かつてはわからなかったという
言い訳は通用しない.ましてや,指針の内容とは
まったく無関係な問題である.過去の誤りとその
責任をまったく認めない姿勢は,今後の調査への
信頼性も失墜させる.このような姿勢は,電力会
社だけではなく審査の場にも共通して認められる
ものである.
「断層関連褶曲」(柏崎刈羽原発)
―― 活断層見逃しへの言い訳
2007 年中越沖地震の直後に,地層の褶曲や変
動地形の連続性にもとづき,この地震を引き起こ
したと考えられる海底活断層の位置が特定され,
それまではこの活断層は見逃されていたことが指
摘された(11).表層部の褶曲構造をもとに地下の
断層運動を考察することは,1980 年当時にはす
でに常識となっていた(12).この基準にもとづき,
数多くの学術論文が執筆されてきているのである.
ところが,東京電力と政府は,断層関連褶曲は
2000 年になって初めて明らかになったことであ
り,1980 年当時にはそのような知見はなかった
と主張している(13).もし本当に,この常識を知
らなかったとすれば,専門性の欠如によって原発
近傍の活断層の存在が見落とされたと言わざるを
えない.中越沖地震の震源域に存在する活断層に
関しては,未だに議論が継続している(14).事業
者と政府の審査委員には,見逃しの原因となった
「常識の欠如」に対する真摯な反省はない.
「新知見はない」(六ヶ所再処理施設)
―― 不安をよぶはぐらかし
最近,筆者らは六ヶ所村周辺の活構造を明らか
にした(15). 研究成果を学会で公表した後,
日 本 原 燃 は 「 何ら新たな知見はない 」
として,ホームページにおいてわれわれの研究成
果を否定し(16),保安院も「新たな知見はない」
との見解を示した(17).彼らは,われわれが示し
た活断層の存在をすでに知っていた,というわけ
ではない.日本原燃は,われわれ独自の調査デー
タが少ないことを,保安院は,論文になっていな
いことを問題としたのである.しかし,自前のデ
ータが少ないことが問題となる理由はないし,事
業者の調査内容は学会発表もなされていない.わ
れわれの研究成果には新知見はないと言える理由
は不明である.提起された問題に向き合って議論
してほしいと希望してきたが,そのような対応は
まったくなされぬまま,バックチェク報告はほぼ
了承された(18).安全な施設を作ってほしいと願
っているだけなのであるが,「このような組織に
日本の未来を託してよいものか.ちょっと不安」
という意見(19)に同感である.
「高度な専門性」(大間原発) ―― 役に立たない審査
大間周辺において,考慮すべき活断層はないと
して,新たな原発の設置が許可された.しかし,
この地域の海成段丘の高度には,断層運動に起因
すると考えられる異常が存在する(20).大間原発
の設置審査は,「活断層等に関する安全審査の手
引き」が適用されるべき最初の審査であった.
「手引き」作成の目的は,活断層が見逃されて基
準地震動が過小評価されないようにすることであ
るが,残念ながら,その理念は生かされなかっ
180 科学Feb. 2009
特集活断層とは何か
た(21).「断層運動が原因であることが否定できな
い場合に耐震設計上考慮する活断層として適切に
想定すること」と明記されているが,変動地形自
体が認定されなかったのである.中田高教授(広
島工業大学)は,審査会における変動地形の高度
な専門性が担保されていないことを問題にしたが,
原子力安全委員長は,「今でも高度の専門性のあ
る先生方にご審査いただいた」と反論している
(前掲・中田氏の解説参照)(22).「高度な専門性」
とは何であるのかを問い直す必要がある.
* *
いったい,何が変わったのであろうか? バッ
クチェックの報告書では,従来頻繁に用いられて
いた多数の「リニアメント」という用語が,「断
層地形の可能性のある地形」という用語に機械的
に置き換わっているだけである(23).新たな活断
層がいくつか認定され,活断層長もかなり長くな
りつつある.しかし,このように修正されたのは,
「新たな調査が追加され,指針が改定された」た
めである,などという言い訳が罷り通っている.
そのことが非常に悲しい.活断層は見逃され,過
小評価されてきたのであり,まず,そのことへの
反省が必要である.また,審査体制の問題は依然
として改善されず,「専門性」にも大きな疑問が
残されたままである.電力を指導する「専門家」
は,申請者側を指導して報告書を作成させ,それ
を審査でパスさせるという行為さえ行ってきた.
2008 年12 月11 日,原子力安全委員会は,柏
崎刈羽原発の耐震安全性評価は適切であると結論
した(24).事業者の主張が丸呑みされた形で,過
去の見逃しに関する真摯な反省はまったくなく,
同じ過ちが繰り返されてしまった.事業者の主張
のみを検討する審査体制が保持され,安全性に疑
問を呈する研究者が意見を表明する場はほとんど
ない.残念ながら,調査方法も審査方法も,何も
変わってはいない.これでよいはずはない.
文献および注
(1) 内閣総理大臣・福田康夫: 答弁書第八二号,内閣参
質一六九第八二号(2008)http://www.sangiin.go.jp/
japanese/frameset/fset_c03_01.htm
(2) 原子力安全委員会: 活断層等に関する安全審査の手
引き(2008)http://www.shinsashishin-nsc.jp/pdf/1/
ho023-1.pdf
(3) 資源エネルギー庁原子力発電安全企画審査課: 中国
電力株式会社島根原子力発電所の耐震安全性について
(1998)
(4) 佐藤高行・中田高: 活断層研究,21, 99(2002); 中
田高・他: 都市圏活断層図「松江」,国土地理院技術
資料,D・1-No. 502(2002)
(5) 石橋克彦: 島根原子力発電所近傍の宍道断層を巡る
重大問題とそれへの対応(2006)http://www.nsc.go.
jp/senmon/shidai/taisinbun/taisinbun046/siryo81.
pdf
(6) 原子力安全委員会: 第46 回原子力安全基準・指針
専門部会耐震指針検討分科会・速記録(2006)http://
www.nsc.go.jp/senmon/soki/taisinbun/taisinbun_
so46.pdf
(7) 渡邊真人・他: 2007 年能登半島地震・能登半島の地
質(2007)http://www.gsj.jp/jishin/noto/noto1.html
(8) 片川秀基・他: 地学雑誌,114, 791(2005)
(9) 明石昇二朗: 原発崩壊,金曜日(2007)
(10) 原子力安全委員会: 第2 回原子力安全委員会耐震安
全性評価特別委員会地質・地盤に関する安全審査の
手引き検討委員会・速記録(2008)http://www.nsc.
go.jp/senmon/soki/chishitsu/chishitsu_so002.pdf
(11) 鈴木康弘・他: 科学,78, 97(2008)
(12) 活断層研究会編: 日本の活断層,東京大学出版会
(1980)
(13) 内閣総理大臣・福田康夫: 答弁書第六六号,内閣参
質一六八第六六号(2007)http://www.sangiin.go.jp/
japanese/joho1/syuisyo/168/meisai/168066.htm
(14) 石橋克彦: 科学,78, 819(2008)
(15) 渡辺満久・他: 活断層研究,29, 15(2008)
(16) 日本原燃:「六ヶ所再処理工場の直下に活断層か」
などの主張に関する当社の考えについて(2008)
http://www.jnfl .co.jp/event/080528-dislocate.html.
(17) 内山太介: 日本原子力学会誌,50, 748(2008)
(18) 東奥日報: 2008 年11 月22 日朝刊
(19) 中島達雄: 原子力支える組織 不可解な行動,コン
パス,2008 年6 月2 日読売新聞夕刊(2008)
(20) 渡辺満久・他: 下北半島西部における更新世後期旧
汀線の変形と離水ベンチ,活断層学会秋季大会(2008)
(21) 震源を特定しない地震を想定することによって,適
正に評価しているという反論もある.しかし,活断層
の存在を見逃しているようでは,調査・評価の信頼性
に対する疑問を感じざるを得ない.
(22) 原子力安全委員会: 第10 回原子力安全委員会耐震
安全性評価特別委員会 地質・地盤に関する安全審査
の手引き検討委員会・速記録(2008)http://www.nsc.
go.jp/senmon/soki/chishitsu/chishitsu_so010.pdf
(23) 電源開発株式会社: 大間原子力発電所原子炉設置許
可補正書(2008)
(24) 第81 回 原子力安全委員会臨時会議,http://www.
nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2008/genan081/genansi081.
htm
Vol. 79 No. 2 原子力関連施設周辺における活断層評価への疑問181
特集活断層とは何か
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