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「大飯原発『活断層ボーリング』は100メートルずらされていた」
http://ameblo.jp/heiwabokenosanbutsu/entry-11402913425.html
週刊ポスト2012/11/23号 頁:44 :大友涼介です。
活断層」か「地滑り」か。大学教授らが意見を戦わせる光景を見て、多くの人はこう思っただろう。「そんな重要な事実が”議論”で決まるのか」。関西電力・大飯原発の断層調査をめぐる報道で抱いた奇妙な違和感の正体はやはり、「どうしても原発を稼働させたい」原子力マフィアたちの工作だった。
◆再稼働に”アリバイ再調査”
「大飯原発の敷地の直下に活断層が存在するというのが私の結論です」
「局所だけみて結論を先走るのは危険。地滑りの可能性もある」
11月4日に開かれた大飯原発の断層をめぐる原子力規制委員会の評価会合は、「活断層だ」と指摘する渡辺満久・東洋大学教授と「現時点では活断層ということはできない」という岡田篤正・立命館大学教授の意見が真っ向から対立した。
活断層か否か学術論争がなぜ注目されているかというと、その結論が大飯原発の停止や廃炉問題につながるからだ。
断層とは地震などでできる「地割れ」をイメージするとわかりやすい。地中深くにあるプレートはゆっくり動いており、岩盤に歪が生じて亀裂ができ、上下左右に割れる。これが活断層と呼ばれる。断層に沿って岩盤がずれて発生するのが阪神・淡路大震災などの直下型地震だ。つまり、活断層とは「最近動いた」断層で、今後の地震を起こす可能性のある地中の亀裂といえる。同じ断層でも、古い地震の痕跡で今後動く可能性がないものもある。約14万年以内に動いた断層は活断層とされる。
直下型地震を起こす可能性のある活断層の上に原発があれば非常に危険なことはいうまでもない。そのため、経産省の原発の耐震設計審査指針の手引きでは、活断層の真上に原子炉など重要施設を建ててはならないと定めており、大飯原発も、建設前の調査で「F−6破砕帯」という断層があることはわかっていたが、関西電力の「活断層ではない」という結論で建設が認可された経緯がある。大飯原発ではこのF−6断層を横切って3号機と4号機に非常用の冷却水を送る重要な取水路が施設されている。
ところが、福島原発事故を機に各地の原発の再検証を求める声が高まると、情勢は一変した。
大飯原発が「活断層の真上にある」という疑惑が出てきたのだ。
きっかけは政府と関西電力が大飯原発再稼働に向けて動いていた今年6月、市民団体が変動地形学を専門とする渡辺教授らの学者グループに断層の評価を依頼したことだ。渡辺氏は日本外国特派員協会での会見で「F−6はおそらく活断層」という見方を示し、6月27日には超党派の国会議員と共に断層の掘削調査が可能かどうか大飯原発敷地内の5ヶ所の地点を観察調査して、<重要構造物である非常用取水路はF−6を横切って設置されている。このため、F−6破砕帯(断層)が活断層と認定された場合は、3・4号炉の使用は不可能となる>
という文書を発表して掘削調査の必要性を主張した。その間、関西電力が大飯3、4号機の建設の際の断層掘削調査(83年)で撮影した破砕帯の写真を原子力安全・保安院に提出していなかったことも発覚した。つまり、経産省は3、4号機の再稼働を許可していたことになる。
大飯原発が活断層という”地震の巣”の上にあれば、渡辺教授が指摘するように使用不可能だ。
政府や関西電力は再稼働前の調査に難色を示していたが、7月5日に大飯3号機が再稼働した後、それまで関西電力が「見つからない」と説明していた写真とスケッチ図が急に発見されて、保安院は関西電力に断層の再調査を指示した。批判をかわすために再稼働を待ってアリバイ的に再調査しようという原発マフィア側の狙いは見え見えだった。
◆国会議員の調査同行を拒否
原子力規制委員会の田中俊一委員長は、大飯原発の断層調査について「早急に調べ、結果が黒か濃いグレーなら止めてもらう」と断言し、さる11月2日、同委員会の専門調査団を大飯原発に派遣した。関西電力側が誤算だったのは、活断層論者の渡辺教授が外部専門家として調査チームに加わったことだろう。
「田中委員長は民主党内から原子力ムラ出身だと批判され、委員長就任の国会同意をまだ得ていない。そこで、渡辺氏を調査団に入れることで原発慎重派議員に中立をアピールしている」(民主党原発事故収束PT幹部)
中立・公平は当然である。しかし、調査には大きな障害が立ちはだかっていた。調査に立ち会った民主党幹事長補佐の橋本勉代議士は大飯原発に入って驚いた。橋本氏は渡辺教授の6月の調査にも同行し、どこを調査すべきかを確認した人物だ。橋本氏が語る。
「関西電力が断層調査のために掘削していた場所が、6月の調査で渡辺氏と一緒に観察した地点から大きくズレていたんです。100メートル以上離れた場所や山の上を掘っているケースもある。あれっ、と思いました」
次頁の図は、渡辺教授が6月の調査で確認した掘削の必要がある地点と、関西電力が実際にトレンチ掘削(※1)やボーリング(※2)をした地点を重ね合わせたものだ。超党派の国会議員団が作成した。関西電力が3、4号機増設前にトレンチ調査した場所の上にはすでに建屋が建っており、地層は取り除かれている。そこで渡辺氏は、地表の観察からF−6断層が伸びていると思われる地点をA、D、Eなどとマークしてトレンチ調査をすべきだと指摘していたが、この図からも、実際に関西電力が掘った箇所が渡辺氏の指摘した地点から離れていることがわかる。
※1 大きな溝を掘って地層を直接観察する調査方法
※2 小さな穴を掘って過去の地層の重なりを掘り出す簡易な調査方法
疑問に感じた橋本氏は現地で関西電力の担当者に「なぜ、渡辺教授が指摘した地点をトレンチしないのか」と尋ねると、こう説明されたという。
「関西電力側は、『建屋に近いから掘ると危険です』とか、『道路が使えなくなったら大変です』という。原発の施設は頑丈に設計されているはず。建屋の近くをトレンチ調査したくらいで危険になる強度なら、その方がはるかに問題です。活断層なのかどうかを正確に判断することは原発の安全性に直結するのだから、道路も少し迂回させればすむ。費用も数百万円しかかからない。安全を証明したいなら指摘されたところを掘るべきなのに、関西電力側がわざと活断層が見つかり難いように離れた場所を掘削していると思えてくる」(橋本氏)
関西電力は専門調査団の派遣前の10月31日、独自調査をもとに「活断層ではないという評価を覆すデータはない」と、活断層を否定する中間報告を規制委員会に提出している。この調査箇所のズレが、原子力規制委員会の専門調査団メンバーの間で「活断層か否か」の大論争につながっている原因のひとつなのだ。
関西電力はどう答えるか。
「渡辺教授が指摘した道路には非常用電源車が置かれ、掘削に制約がある。もう1ヶ所の道路も深く大きく掘る必要があり、困難だと説明しています」(広報室)
実は、事前に奇妙な圧力もかかった。調査団に同行した議員たちの事務所には、調査前日、関西電力から「来ていただきたくない」という電話が入り、当日朝も、議員団が大飯原発に到着すると、原子力規制庁の担当者が、「国会議員の同行は予定していない」と調査への同行を拒否したのだ。「国政調査権を持つ国会議員をなぜ入れないのかと押し問答し、2時間以上足止めされた後になんとか視察できた」(橋本氏)という。
政府は「規制を強化する」と原子力規制庁を設立(今年9月)したが、規制より推進が本音だとわかる。
◆「原発を停止させる法律はない」
原子力規制委員会の評価委員会では、その後も活断層かどうかの議論が続いている。学者の意見が割れているのは、まさに田中委員長が「原発を止めてもらう」といったグレーの状況だ。
だが、役所側は旗色が悪くなると、今度は「原発を停止させる法制度はない」という論理を編み出した。原子力規制庁法務室の説明はこうだ。
「原子炉等規制法には活断層が見つかった場合に原発を止める規定はありません。確かに、安全審査の手引きでは、活断層の上にSクラスの建築物は建てられない。大飯原発の非常用取水路はSクラスです。しかし、この規定は許可段階のもので、あとで活断層が見つかったからといって許可を取り消すことにはなっていません」
なんと、いったん「活断層はない」といって原発を作ってしまえば、あとで地震の巣の上に原発があるとわかっても稼働を続けるようになっているのだ。
が、原子力規制委員会の設置にあたって原子炉等規制法は改正され、同委員会には原子炉停止を命じることができる強い権限が与えられているはずだ。それについても、規制庁は、「改正法は来年7月19日までに施行することになっている。現在は必要な施行令や施行規則を定めている段階で、技術基準にかかわるのですぐ施行しろといわれてできるものではない」(技術基盤課)という。
野田政権は安全確認ができていない大飯原発を政治判断で再稼働させる一方で、仮に何かあっても今後1年近くは法的に原発を停止できない状況にしているのである。何のためか。
「資源エネルギー庁や規制庁は大阪の活断層問題は再調査で時間を稼ぎ、その間に北海道電力の泊原発などを再稼働させようと動いている。万が一、大飯を止めなければならなくなっても原発ゼロにしないためだ」(経産省官僚)
案の定、11月7日の規制委員会の第2回評価会合では、渡辺教授が「再調査というなら、原子炉を停止してやるべきだ」と主張したが、停止せずに再調査の方向になった。
原子力ムラの「時間を稼いで他の原発を再稼働させる」というシナリオが始まったのである。
国民ははっきり覚えている。6月4日、野田首相は「大飯原発再稼働の責任は私にある」と言い切った。
だが、その裏には規制庁と電力会社による「疑惑まみれの調査」がある。それでも詭弁を弄して稼働を続けるつもりなのか。
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