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11月7日、新しい経営方針を発表した東京電力の下河辺会長〔PHOTO〕gettyimages
東電がギブアップ宣言で国に「新たな支援」を要請! 公的資金頼みの「ゾンビ企業」は早急に破綻処理して解体・売却すべきだ!
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34003
2012年11月09日(金)長谷川 幸洋「ニュースの深層」 :現代ビジネス
東京電力が2013〜14年度を対象にした「再生への経営方針」を発表した。PDFファイルでわずか2枚なので、ご関心の向きはぜひ現物を読んでいただきたいが、一読した感想は「なにをいまさら、都合のいい話を」という一言に尽きる。
東電が言いたいのは、こういうことだ。
原発事故被災者への賠償や除染、中間貯蔵費用だけで10兆円程度になる。それに巨額の廃炉費用を加えると「一企業のみの努力では到底対応しきれない規模となる可能性が高い」。
一方で「当社の企業体力(資金不足、人材流出)は急速に劣化し始めている」。賠償、除染、廃炉の負担が「青天井で膨らんで」いくと「士気の劣化も加速度的に進む懸念が強い」。
いまの原子力損害賠償支援機構法の枠組みだと「当社は巨額の負担金(注・機構に対する東電の借金返済)を超長期にわたって支払うためだけに存続する『事故処理専業法人』と化す」。あるいは「巨額の費用に対応するため公的資本を数兆円単位で追加投入することになれば、公的管理からの離脱は実質的に困難となり『電力公社』と化し」てしまう。
だから「国による新たな支援の枠組みを早急に検討することを要請する」。
■初めから出来もしない話
これは、ようするにギブアップ宣言である。自分たちはいまのままでは、もうやっていけない。だから、国に「新たな支援」を頼んでいる。だが、さすがに支援の具体的中身については言及しなかった。そこまで図々しくは言えなかったのだろう。だが、広瀬直己社長は会見で「重荷を背負ったまま競争はできない」と正直に語っている。
社長の本音は「自分たちはもう背負いきれないから、国が重荷を背負ってくれ」という話である。つまり賠償や除染、廃炉の費用は東電ではなく、国(すなわち国民)が負担してくれ、と頼んでいるのだ。
こういう事態に陥るのは、最初に先の賠償支援機構法を作ったときから分かっていた。たとえば、私は2011年10月7日付のコラムで「今後、膨大な除染作業や海を汚染したために海外から求められるかもしれない損害賠償などを考えれば、(中略)10年返済どころか100年返済、あるいは1000年返済のようなひどい話にならないとも限らない」と指摘している。他のコラムでも書いたが、ようするに初めから出来もしない話、フィクションなのだ。
今度の経営方針では、東電が支払う特別負担金(500億円)と電力各社が払う一般負担金(1,630億円、いずれも借金返済の原資)は、合計で年2,130億円と想定している。これで10兆円を返済しようとすれば、47年かかる計算だ。実際には、とても10兆円ではすまないだろう。100年かかってもおかしくない。
事故を起こした東電はともかく、事故とはなんの関係もない他社にとっては、まことに迷惑千万な話でとても受け入れられないと思う。東電1社が背負うとすれば、10兆円で200年かかる。東電がいう「超長期」とは、つまり100年単位の話なのだ。
■国民負担の最大化策
こういう事態になったのは、元はと言えば、政府が賠償支援機構法で東電の株主や融資した銀行の責任を一切問わず、電気料金値上げと交付国債を使った公的資金で東電を救済する仕組みにしたからだ。
シンクタンクの試算などで賠償と除染、廃炉費用だけで少なくとも数10兆円、最大250兆円にも上りそうな見通しは分かっていた。負債規模からみて、とても東電が存続できないのはあきらかだったのに無理矢理、東電を存続させようとしたツケがいまになって回ってきたのだ。
経営方針は「事故処理専業法人」などと上品そうな新語を編み出しているが、分かりやすく言えば、東電はとっくに死んでいるのに、生きているふりをした「ゾンビ企業」である。ゾンビ企業をぐずぐずと公的資金で生きながらえさせているのが、民主党政権である。
経済産業省や大手企業を中心とした経済界は、これまで天下りや破格の割引電気料金で東電から甘い汁を吸ってきた。それで、なにがなんでも東電解体を避けようとした。だが、もはや東電も経産省も、いよいよ首が回らないことを認めざるを得なくなった。それで、もっと大胆な税金投入によって東電をなんとか立て直そうとしているのである。
国民の目から見ると、今回の経営方針はとんでもない「国民負担の最大化策」だ。それは数字を検証するまでもない。東電処理をめぐる人事プロセスをみればあきらかである。
■下河辺と経産省の一人芝居
東電会長は弁護士の下河辺和彦が務めている。下河辺は原発事故の後、政府が最初に作った「東京電力に関する経営・財務調査委員会」の委員長だった。その後、政府が原子力損害賠償支援機構を作ると、今度は機構の運営委員会の委員長に収まった。
下河辺以下、調査委メンバー4人の全員が機構の運営委員に横滑りしている。先のコラムで指摘したように、財務調査委員会は機構に対して「東電にカネを出せ。返済はあるとき払いでいいことにせよ」という報告をまとめている。「カネを出せ」と要求した側が「出す側」に収まったのだ。これで話がまとまらないわけがない。
そのうえ、下河辺はさらに東電会長に横滑りした。下河辺を補佐する役割で経産省から一緒についていって東電取締役に収まったのは、与謝野馨元財務相の最側近として知られたエリート官僚の嶋田隆である。つまり、下河辺と経産省が「カネを出せ」「はい、出します」「足らないから、もっと出せ」という一人芝居を演じ続けてきた。それが東電処理の本質である。ガバナンスもなにもない。
今度の経営計画は「政府に要請する」などと、あたかも要請する側を演じているが、なんのことはない、もともと下河辺は政府の指示に従って調査委委員長、機構の運営委委員長、東電会長と渡り歩いてきたのだから、答えは初めから決まっている。このままだと、民主党政権は東電の重荷を取り払うべく、本格的な税金投入で東電救済に動くに違いない。
東電はどうすべきなのか。いったん破綻処理して発送電部門を解体、売却していくべきだろう。その前に、そもそも下河辺と経産省、東電の一人芝居をやめさせなくてはならない。これまでのプロセスは完全に国民不在だった。東電処理策をもっと透明に議論して、普通の国民が納得できるプロセスで決めていかねばならない。電気料金値上げと税金投入で国民に負担を求める前に、株式の100%減資と銀行の債権放棄は不可欠の前提である。
(文中敬称略)
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