75. 2012年11月11日 08:42:18
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原子力発電が再稼働せず、電力が供給力不足に陥る中、稼働率が高まる火力発電。だが、設備の老朽化が進んでいる発電所もあり、現場は過剰な負担を強いられている。2012年7月5日、関西電力大飯原子力発電所(福井県おおい町)が再稼働し、関西電力は火力発電所を停止させた。すると7月8日に新聞社「赤旗」がそれをスクープとして掲載した。タイトルは「大飯フル稼働 火力8基停止」「関電に怒り”電力不足はウソか”」というもの。記事は続けて「報道を知った大阪市民からも『大飯再稼働は関電の利益が目的だった。これで電力不足は全くのうそであることが明らかになった』『詐欺かペテンか。あまりに腹が立って言葉がみつからない』との憤りの声があがっていますと報じていた。 http://blogs.yahoo.co.jp/watanabe_k0904/38532126.html 原子力発電所の特性上、再稼働したら、いったん火力発電所を停めるのは当然ではないのか。原発は一度動かし始めたら、一定の出力で運転する事が望ましい。一度発電を始めると、出力を上げにくく、下げにくいのだ。一方、火力発電所の中でも石油、LNG(液化天然ガス)が燃料のものは、自動車のエンジンや家庭のガスコンロと同じで、出力の調整が比較的容易である。だから、例えば暑い日の13〜16時など、電力需要のピーク時の時間帯に出力を上げる。とすると、いったん原子力発電所が動いたなら、火力発電所いったん停めるのが当然、という事になるはずだ。 関西電力の広報部に問い合わせると、次のような答が返ってきた。 「事情はお考えの通りです。加えて、夏のピーク時に向け、火力発電所の整備・点検をする時間ができたので、まさに今、この作業を行っている所です」 発電施設は、膨大な数の部品全てが正常に動かなければ運転できない。例えば、関西電力海南火力発電所(和歌山県海南市)の2号機であれば、長期計画停止からの復旧時、検査箇所数は、配管が約2200カ所、弁が約4400台にも及んだ。これほどに膨大な数の部品があるのだ。とすると、原発の停止以降、フル出力で稼働してきた火力発電所の検査をし、夏のピークに向け万全の体制を確立する事はむしろ当然。逆に、火力発電所を停止させなければ、自動車に例えれば、信号待ちの時にアクセルを踏み続けるような事になる。それこそ、職務怠慢であろう。 ちなみに、この時に答えてくれた関西電力の広報担当者とは、過去に何の接点もなかった。しかし電話をかけると、すぐに回答を寄せてくれた。初めて話す人間でも、電話一本で回答が得られるのだ。新聞社が火力発電所の停止に疑問を呈するなら、市民の声だけでなく、当事者である関西電力の事情も聞くのは当然ではないのだろうか。 しかし、このニュースはネットで「拡散」され、掲示板には「氏ね(ママ)関電職員」「原発止めて代わりに火力動かせよクズ関電」といった誹謗・中傷といっていいコメントが寄せられた。一方、まるで「電力会社憎し」と言わんばかりの報道に疑問を呈する人もいた。「老朽化した施設まで持ち出して稼働し続けたのが異常なんだよ」(いったん止めるのは当然)といったコメントも見られたのだ。 どちらの意見が正しいのか?今回、この老朽化した施設に向かってみた。余裕は本当にあったのか、それともなかったのか。取材先は関西電力海南火力発電所と、中部電力渥美火力発電所(愛知県田原市)だ。前者の「海南」は1〜4号機まであり、すべて昭和40年代の運転開始。後者の「渥美」は長期計画停止中の1号機が1971年、3・4号機は1981年の運転開始だ(2号機は廃止)。 現地を訪れると、素直な印象は「古い機械だなぁ」というものだった。例えば中部電力の「渥美」の計器類はアナログが多く、中央制御室の赤や白に光る計器類の光源はLEDでなく電球。ボイラー内の炎を確認するディスプレーは液晶でなくブラウン管。全てが「昭和」に戻ったような機械だった。 関西電力海南発電所所長・辻靖介氏によれば、そうした古い機械が、現在も「フル稼働に近い状態」なのだという。 「海南は、燃料が石油です。しかも古い機械なので効率が悪く、(自動車に置き換えれば燃費が悪く)、弊社の様々な発電所の中でも動かす優先順位は低い。ところが昨年から今年の夏にかけて、ほぼフル稼働が続いているのです」 日本中の電力会社は、水力や石炭、石油など、様々な発電所を持っており、動かす優先順位がある。まず、水力は燃料費がいらず、環境への負荷も少ないため、優先的に動かされる。次に石炭火力。LNGや石油に比べ燃料費は安いが、出力は変えにくいため、これは一日中、一定の出力で運転される(この運転形態は原子力と同じ)。 その次がLNG火力である。石炭より燃料費は高いが、石油のように燃料の調達先が中東に偏っておらず、環境への負荷が低い。また出力調整が容易なため、ピーク時に運転される。その次にようやく石油火力の出番だ。ガス同様に出力調整は容易だが、調達先が限られ、かつ石油火力は昭和初期の主力だったため、一般的に機会が古く、効率が悪い。つまり、自動車でいう燃費が悪い。だから、ピーク用の電源としては、LNG火力よりも優先順位は低く、言わば「電力需給を満たす最後の砦」という扱いだ。 辻所長が話を継ぐ。 「実際に、震災前の2010年の10月や11月は、当発電所は1日も稼働していません」 要するに、老朽化し、効率も悪い発電所が、現在はピーク時の夏だけではなく、秋も冬も稼働し続けているのだ。これが様々な「歪み」を生んでいる。 「そもそも、これだけ連続運転する事を想定していなかったため、例えば、燃料を運ぶ船が足りない。当社は近くの石油コンビナートから海南発電所まで燃料を小型の船で運びますが、この船が運べる燃料の量は、1往復当たり(発電所がフル稼働している場合)約10時間分に過ぎません。当然、発電所には燃料タンクがありますが、24時間連続運転すると、ほぼ10日でなくなってしまう程度の容量です」 さらなる問題がある。 「燃料費も嵩みます。当発電所の燃料消費量は1〜4号機まで合計すると、1時間当たり48万2000ℓにも及びます」 そう聞いても、どこか実感が湧かないから、身近なものに置き換えてみた。仮に自動車を使い、高速道路を1時間で80q走ったとしよう。燃費は1ℓ当たり20kmとする。すると、この自動車は1時間で4ℓの燃料を消費する計算になる。これを海南発電所の発電機をフル稼働させた場合に当てはめて計算すると、1時間当たりでこの自動車12万5000台分もの燃料が必要になる。 これが、電気料金の値上げに直結してくる。原子力発電は、施設を作るためには膨大な資金が必要(100万kW級の発電機1基当たり、現在、4000億〜5000億円程度)だが、燃料費は安い。これが全てLNGや石油に変わったため、電力会社は赤字に苦しんでいる。 というより、現在の電気料金では経営が成り立たない。関西電力は2012年3月期に、過去最悪の2422億円の税引き後赤字を計上し、このまま据え置けば2013年度中にも、債務超過に陥る可能性がある。大阪読売新聞は「関西電力はこの赤字を解消するため、家庭向けで平均18%、大口向けでは平均27%の値上げが必要と判断している」と報じた。 化石燃料費の増加で経営が逼迫しているのは、中部電力をはじめ各電力も似たような状況だ。東京電力に引き続き、各電力が電気料金を値上げすると、日本の経済は間違いなく減速するはずだ。 しかし、以下のような考え方もあろう。「それでも、やりくりすれば電気は足りているではないか」「経済的事情よりも、脱原発の方が重要」というものだ。もっともだと考える。だが、現状の火力依存は経済的事情よりも、大きな問題を抱えているのだ。 それは、トラブルのリスクだ。火力発電所は膨大な数の部品でできており、そのどれか一つにでも不具合が生じれば、修理が必要だ。それが主要部品であれば、即刻発電できなくなる。そしてあえて発言したい。発電所のトラブルは「起きる」ものなのだ、と。 具体例を紹介したい。まず中部電力の渥美火力発電所の例だ。同発電所は9月に、定格出力70万kWの3号機を停止させざるを得ない状況に陥った。所長の安藤友昭氏が話す。 「私達は、国によって定められた整備・点検だけでなく、日々、自主的に確認・点検を行っています。担当者は長年の経験で、機械の調子が悪いと分かるものなのです」 9月18日の朝9時半の事だった。35歳になるベテラン作業員が、3号機のボイラーの前で足を止めた。水がポタリポタリと垂れていたのだ。彼は一瞬、雨水かとも思ったという。しかし通常、この位置から雨が漏れる事はない。彼は「異常の可能性がある。点検したい」と報告した。幹部も同じ箇所を見たが、やはり異常の可能性があると意見が一致。副長が中部電力本店の中央給電指令所に「出力を絞りたい」と緊急連絡を入れた。本店は、電力の需給状態を鑑みながら、これを了承。安藤氏は指令を出した。 「今後の電力の需給に悪影響を及ぼしてはならない。可能な限り早く復旧せよ」−。 安藤所長が振り返る。 「そこからの作業員は、ほぼ突貫工事です。作業員の方たちはがんばってくれました。まず、空冷や水冷を問わず、全ての手段によって、ボイラーの内の温度を下げました。高さが60mもある巨大なボイラーの内部が、800℃近い高温になっているのです。そして夜中の0時近くにようやく80℃程度まで下がると、すぐボイラー内に足場を組んで、点検を開始しました。すると、作業員の1人が『ああ、ここだな』と声を挙げた。そして彼は、熱水が通る管に、10数mmの亀裂を発見したのです」 ちなみに火力発電所のボイラーは、家庭にあるものに置き換えれば、湯沸かし器に似ているという。見れば、水が滴り落ちていた。安藤所長は異常個所を突き止めた事で、ひとまず安心し、そしてトラブルに気付いた作業員をねぎらった。部品の亀裂は長く放置するほどに大きくなり、復旧に数カ月以上かかる可能性もあった。だが、早期発見に成功したため、その後の復旧は早かった。実際に、渥美火力の3号機は9日間で復旧を果たしている。 関西電力海南火力発電所でも、同様の事態が起きた。9月5日の14時頃、辻所長は異変に気付く。 「各機がどれくらいの出力で運転しているかは、常に計器に表示されています。その中でも、2号機の出力が急上昇、急降下を繰り返すようになったのです」 中央制御室に駆け付けると、「火が出ている」という。辻所長はすぐに「運転継続不可能」と判断。消火の指示を出すとともに、ハンドオフの指示を出した。手動で発電を停止する、という意味だ。 現場に行くと、ゴムが焼けるような異臭がし、端子箱の一部からスッと立ち昇るように一筋の煙が出ていた。すぐに消火の指示を出し、火は消し止められた。 トラブルの場合は、何より発電所長の判断が優先される。当日、もし関西電力管内で電力需要がギリギリであったら、関西圏は大停電に見舞われていたかもしれない。そして14時19分、運転停止。ハンドオフによりバルブが全て遮断されると、一度にボイラー内の火が消えた。一瞬の静寂があったという。その後、機器類を一斉に点検すると、原因は、電流検出器の不調と分かった。 「端子が接続不良により加熱され、煙が出ていたのです」 部品に替えがあったので、9月19日には復旧する事ができた。 そう、日本の電力会社は震災後も今に至るまで大停電を起こす事なく電力を安定供給してきたが、その実態は「トラブルがない」ではなかった。トラブルが発生しても、その日はたまたま供給力に余裕があったから、大停電には至らなかっただけなのだ。 ならばトラブルが一切発生しないようにはできないのか。中部電力の渥美火力の安藤所長が話す。 「人的エラーは、極力起きないようにしています。例えば、制御室のボタン1つでさえ、自分1人で押してはいけない事になっています。必ず、後ろに人がいる状態で指差し確認し、また作業内容を口頭で確認し合って、手順などに誤りがないか判断した上で、操作を行っています。しかし、発電所の機械や機器類は長く使っていると、どうしても消耗していきます」 先の例のように、長期停止や事故に繋がる事態に陥る前に、トラブルを発見する事が最善策なのだ。 関西電力海南火力発電所の辻所長も同様の事を話し、話を継いだ。 「火力発電所にも、自動車の車検と同じように定期点検があります。しかし現在は、特例でその定期点検すらせず、運転を継続している状態なのです」 そして、彼は資料を取り出した。「海南火力発電所のトラブル件数内訳」というものだ。震災前の2010年はトラブルが7件。全て復旧迄に1日以上かかっている。2011年は12件。今年は9月末迄に16件。件数は確実に増えている。 「しかし、復旧迄に1日以上かかるトラブルの件数は、3件と減っています。これは、トラブルが起きた場合、すぐに復旧できるよう24時間の復旧体制を構築、かつ、事前に替えの部品を用意しておくなどして、実現できているものなのです」 なぜ、老朽火力を再稼働する必要があるのだろうか、といった疑問もあるだろう。しかし一般的に、用地の取得なども加えると、発電所は計画から運転開始迄に10年近くの年月を必要とする。そこで関西電力も中部電力も、電力危機がない限りは動かす事はないはずだった古い発電機を修理し、動かしているものもあるのだ。 しかし、こうした火力発電所の事情はほとんど報じられる事がない。逆に共同通信は、9月1日に以下のような記事を掲載した。 「関西電力管内でこの夏(7〜8月)の最大電力需要となった8月3日は、大飯原発3、4号機(福井県おおい町)が再稼働していなくても、他の電力会社から融通すれば十分に供給できたことが、共同通信の分析で31日、分かった」 「関電によると、最大需要は8月3日の2682万キロワット。この日の供給力は、大飯原発3、4号機の計237万キロワットを含む計2991万キロワットだった。供給が需要を309万キロワット上回っていた」 http://www.47news.jp/47topics/e/234133.php しかし、その「上回った」という電力供給の実態とは、定期点検もせず、かつ老朽化した発電所を修理して動かすなど、かき集めるようにして発電した結果によるものだった。 ちなみに電力は常に10%程度の余裕がなければ、適正ではないと言われる。電力の供給が需要に対して101%程度になると周波数が乱れ始め、需要が供給を大幅に上回ると、広域的な停電に襲われる可能性もある。 関西電力で最大需要であった8月3日の2682万kWに10%の余裕を持たせると、適正な電力量は約2950万kWとなる。一方、この日の関西電力の供給力は2991万kW。約40万kWの余裕しかなかった。そして9月5日に停止した海南火力発電所2号機の出力は45万kWである。しかしこの記事では、「中部電力以西の電力5社への取材で、この日の供給余力が計約670万キロワットあったことが判明。(大飯原発の)2基が稼働していなくても、供給力に問題ない状況だった」とし「大飯原発止めて需給検証を」と締めくくっている。 新しい電源として再生可能エネルギーの利用を大いに進めるべきと考える。しかし国や会社の「構造改革」には時間がかかるように、電力もまた同様だ。1年前迄原子力に依存していたものを、すぐに火力や再生可能エネルギーに置き換えるなど不可能だ。 例えて言えば、電車を全て廃止にし、バスや自動車に置き換えるとしたら、どれだけの時間がかかるだろう。 経済的な視点も無視してよいものではない。原発を火力に置き換える事により、多くの試算が「年に3兆円程度の国富が海外へ流出している」としている。消費税を1%上げると、国の税収は2.5兆円増えるという。3兆円という金額の大きさが分かるというものだ。 再生可能エネルギーへの転換を進めるなら、大停電への不安や経済的な打撃に襲われないよう、長い歳月をかけて、計画的に行うべきと考える。同時に、我々国民を無意味に煽る一方的な報道にも「NO」と言いたい。例えば、ミュージシャンの坂本龍一氏は、大飯原発再稼働に反対したが、その一方で電気自動車のCMにも出演している。しかし、その電力は、1発電所だけで10数万台もの自動車を動かせるほどの石油を焚いて生まれているものだ。電気自動車=エコの図式は、原発ありきのものなのだ。 http://blog.goo.ne.jp/nobuyoshi65/e/1a53d419657a4385256f680a668ecd1... 坂本氏の音楽の才能を尊敬し、彼の良心を疑わない。しかし発電システムへの理解は足りないと感じる。 最後に、今回取材した火力発電所所長の言葉を紹介したい。まずは渥美の安藤氏だ。 「私は、1発電所の所長なので、トラブルが極力起きず、今後も電力を安定供給できるよう、万全の体制を敷いていくのみです」 そして海南の辻氏が言う。 「例え24時間体制で働く事になっても、今は我々が踏ん張る時ですから」 これらの人物に「氏ね」「ペテン」といった言葉が投げかけられる事も是としない。 |