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【第8回】 2012年11月8日 井部正之 [ジャーナリスト]
こっそり押しつけられる放射能
拡大する管理なき被曝労働(2)
福島第一原子力発電所事故以降、各地にばらまかれた放射性物質によって、さまざまな労働現場が放射線被曝を強いられる事態になっているといわれる。そうした知られざる被曝労働の1つ、焼却炉に設置されるサイレンサ(消音器)の修理で、設備内に残留する放射性物質による被曝の可能性がいっさい知らされていないとの下請け業者の告発を紹介した。今回は消音器修理における被曝実態について明らかにする。
飛び散る放射性粉じん
前回の記事で紹介したように、焼却灰まみれの消音器は修理のために自治体の下水汚泥焼却施設から取り外され、取材に応じてくれた会社社長の元に送られてきた。その社長によると、発注者である自治体や工事を請け負った元請け企業らから、付着物に「何が含まれているかを知らされたことは一度もない」という。
放射性物質の含有の可能性はおろか、多量の付着物が焼却灰であることすら知らされていなかったというから、ひどい話である。
消音器が設置されていた焼却炉の集じん装置で捕集された焼却灰からは、1キロあたり数千ベクレル単位の放射性セシウムが現在も検出されている。焼却炉に設置された集じん装置は排ガス中の放射性物質を選択的に除去できるものではないし、排ガス中の粉じんのすべてを取り除けるものでもない。
いくら集じん装置によって「きれいになったはず」の排ガスしか最後段に設置された消音器に入ってこないはず、といっても、集じん装置をくぐり抜けた焼却灰がある程度消音機に入ってくるのは当然だ。また集じん装置で取り除いた焼却灰に放射性物質が含まれている以上、集じん装置をくぐり抜けた焼却灰にも放射性物質が含まれていることは、これまた当然だろう。
そう理論的には知っていたが、実際にあれほど大量の灰が付着していることまでは知らなかった。同様に焼却炉の構造に詳しい学者や市民団体関係者らからも驚きの声が届いた。
では、焼却灰まみれの消音器の修理とは、具体的にどのような作業なのか。前出の会社社長はこう話す。
「トラック輸送された消音器が届いたら、フォークリフトで下ろし、吸入口と排気口をふさいであったプラスチックシートを外して、入荷がわかるよう写真を撮ります。自治体の仕事なので工程ごとに写真を撮って提出しなくちゃいけないんです。あとは工場に持って行って修理します」
修理実務は別の会社に下請けに出されていた。消音器修理の実態を話してくれた社長の会社をA社、A社から修理を請け負った会社をB社として話を進める。
さて修理作業だが、B社の工場に持ち込まれた消音器は円筒形の外装を真ん中から輪切りにし、吸音体と吸気口側、排気口側の2つの外装に分離する。この時使うのが「エアプラズマ切断機」で、中心温度が1万度にもなる超高温で溶かし切るという代物である。
「プラズマでの切断は高温と空気で内側から灰がバーッと出てきて、工場内で舞って大変だったそうです。出てきた灰で工場の床に敷いた鉄板がさびてしまったと後で文句を言われました」(A社社長)
次に外装の内側に固定されたロックウール(岩綿)などの吸音体を取り外す。
「外装に溶接されたパンチングメタル(金属板を金型で打ち抜いて製造した金網)をグラインダー(回転式の研削砥石のついた電動工具)で削り取るのですが、振動しますから、かなり(焼却灰が)飛んでいたと思います」(同上)
パンチングメタルに開いた無数の穴には焼却灰が詰まっていた。そこに作業員は頭を突っ込んで、グラインダーで溶接部分を削り切る。狭い場所での粉じん飛散作業なので、相当な曝露作業だった可能性がある。
また吸音体を取り外した後の外装の洗浄でも、内側に付着した焼却灰が飛散した可能性があるが、この作業は最初の2つの作業に比べてそれほど粉じんが飛散していた様子ではなかったという。
それ以降は取り外した部分を新しい部品に交換して溶接し直す。外装のみが再び利用され、それ以外はすべて新しくなっているというから、放射性物質への曝露が考えられるのは外装の切断とパンチングメタルの切断、洗浄作業、あとは焼却灰まみれの吸音体を廃棄するために運んだりする作業といったところだ。
内部被曝の可能性も
B社社長に確認したところ、修理作業には延べ9人が関わった。外装の切断には作業員1人で半日、パンチングメタルの切断には2人で2日要したという。
外装やパンチングメタルの切断作業は「粉じんが舞っている感じ。グラインダーの粉じんも舞うし、中のロックウールなんかも舞っていた」とB社社長も認める。
A社社長も放射性物質による労働曝露の可能性を知らなかった以上、当然、その下請けであるB社社長は知るよしもない。B社を訪れた際に尋ねたところ、「えっ、放射能ですか」と驚いていた。
上述した作業内容から、放射性物質の近くにいることによる外部被曝のみならず、外装やパンチングメタルの切断では作業時にかなり粉じんが舞っていたことから、作業員は鼻や口から放射性物質を吸い込んでしまう内部被曝の可能性もある。
B社社長によれば、もともとそうした作業は粉じん曝露作業のため、防じんマスクは装着していた。だが、どの程度の防じん性能のマスクなのかはわからないという。
フィルターの交換が可能な防じんマスクだったとの話なので、粒子の捕集効率が少なくとも95%以上のものとみられる。よって、防じんマスクの適切な使用と管理がされていれば作業時の内部被曝はかなり防ぐことができたといえるかもしれない。
ただ、防じんマスクが十分に機能していたとしても、B社では宇宙服のような防護服は使っておらず、通常のどこにでもある作業着だった。防護服に付着した粉じんを吹き飛ばし、除じんする「エアシャワー装置」もないため、作業を終えた後、防じんマスクを外してから作業着に付着した焼却灰に曝露するといったことも考えられる。
また放射性物質を扱う施設とは違って、工場の場内を負圧にして、専用の除じん装置による室内空気の管理がされるはずもない。工場内で飛散した焼却灰は換気口や出入口から外部に流出するはずだ。工場内の換気状況にもよるが、場内で舞った焼却灰が一度床に落ちた後で、それを掃き掃除することで再び飛散するといったことが繰り返された可能性もある。あるいは床を水で洗い流すなどしていれば、下水や雨水とともに排水されるかもしれない。
実際の曝露はどのくらいか
では、実際どのくらいの放射性物質による曝露があったのか。
厚生労働省電離放射線労働者健康対策室に確認したところ、「調査してみないとわかりません」という。当然だろう。
その手がかりとなる公表資料は、現状では、この消音器が設置されていた自治体の下水汚泥焼却炉の焼却灰で数千ベクレル単位の放射性セシウムが現在も検出されていること以外ない。
集じん装置で捕集された焼却灰とすり抜けたもので放射能濃度に違いがあるかどうかは、単純に一定割合が集じん機を通り抜けているとすれば、放射性物質の含有量は焼却灰と同程度かもしれない。あるいは集じん機によって粒子の大きい焼却灰は除去され、粒子の小さいものばかりがすり抜けているのだとすれば、微細な粒子ほど放射性セシウムが吸着されやすい(小さい粒子ほど質量・体積当たりの表面積が大きい)ことから、むしろ含有量は高くなる可能性もある。
取材でA社を訪れた際、廃棄物の一部が残っているかもしれないというのでB社に案内してもらったところ、まだ廃棄前の部材が残っていた。だが、雨ざらしになっており、一部は雨で流されてしまった後のようだった。
パンチングメタルの表面に付着する焼却灰をこそぎ取って持ち帰り、2つの試料にわけて分析してもらったところ、放射性セシウムが1キロあたり計134.7〜135.6ベクレルだった。
しかし、1キロあたり数千ベクレル単位という焼却灰の放射性セシウム濃度に比べ、大幅に低い結果だった。これはなぜなのだろうか。
試料を分析してくれた神戸大学大学院海事科学研究科教授の山内知也氏はこう解釈する。
「焼却灰の濃度に比べてちょっと低すぎる。焼却炉に2年程度設置されていて、原発事故より1年くらい前から使われていたということですから、消音器の設備に近いところは汚染があまりなくて、外側に放射性セシウムによる汚染があったということなのでしょう。それが運搬や作業時に落ちたでしょうし、雨ざらしになっていたということなので、さらに外側の汚染されていたところが落ちてしまって、内側のあまり汚染のないところばかり採取してしまったのではないか。雨で流れる前や外側の粉じんだけを採取できれば、もっと高濃度だったかもしれません」
法適用未満なら対策不要か
厚労省によれば、放射性物質への曝露防止などを定める労働規制は現状では、労働安全衛生法の「電離放射線障害防止規則(電離則)」と「東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則(除染電離則)」の2つがある。
今回の消音器修理では、除染作業ではないことから「除染電離則」は適用されず、可能性があるのは「電離則」となる。だが、電離則では「放射性物質」として扱う基準は、セシウムの場合1キロあたり1万ベクレル超だ。そのため、前述した1キロあたり計134.7〜135.6ベクレルという付着物の分析結果や数千ベクレル単位という自治体による焼却灰の分析結果では対象外となる。
また3カ月間の作業で1.3ミリシーベルトの放射線被曝がある場合(毎時2.5マイクロシーベルト相当)などに、管理区域として指定し、放射線の曝露防止や線量管理をすることになっている。
「そこは調査しないとわかりませんが、仮に3カ月の曝露要件や毎時2.5マイクロシーベルトの放射線量に満たないのであれば、被曝量は取るに足らない程度なので、線量管理や防護措置は必要ありません」(厚労省)
つまり、3カ月で1.3ミリシーベルトの被曝がなければ、個人線量計で放射線の被曝量を管理することはおろか、防じんマスクなどによる防護措置すら必要ないのだという。
だが、NPO「東京労働安全衛生センター」事務局長の飯田勝泰氏はこう反論する。
「100ミリシーベルト未満の被曝であれば、健康障害はないというのが厚労省の言い分で、これは国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づくもので厚労省独自の主張じゃないといつも言いますが、放射性物質による被曝はしきい値(一定濃度までは安全という値)がないというのがICRPの見解ですから、それ以下はいっさい健康影響がないとは言い切れないはずです」
そのうえで、こう指摘する。
「この作業では電離則上の管理区域にならないことを前提としているわけですが、実効被曝線量が3カ月で1.3ミリシーベルトにならないから、法令上は対策が不要となるのでしょう。しかし、電離則でも被曝を抑えるのが前提となっていますし、たまたま測って放射能濃度が低かったからといって、何の対策もしないでよいというのはあまりにも乱暴な論理です。消音器に頭を突っ込んでグラインダーで削り取るような作業をしていて、そこに放射性物質がある。相当な曝露作業の可能性があるわけですから、単純な外部被曝の線量だけで判断せず、しっかりとした防護措置をしなければ、内部被曝は避けられません。当然、被曝線量の管理もすべきです」
たしかに、しきい値がない以上、被曝はできるだけ減らすというのが基本的な考え方のはずだ。その観点からすれば、こうした対策は当然のはずだが、国にいわせるとそうではなくなる。おかしな話である。
B社社長はこう話していた。
「うちは何が含まれているかなんて内容をまったく知らないで対応している。知ってたら当然扱わないですよ。これまで(付着している灰の)内容物が何かなんて気にしたこともなかった。(筆者に)言われて初めて考えるようになりました。あの後で従業員とも話をして、放射能が含まれたものは二度と扱わないと決めました」
発注した自治体や元請け企業から現場にそうした情報が伝わってこなければ、現場で対策することは困難だ。B社社長のような「扱わない」との選択もできないことになる。A社やB社は被害者であり、やはり責任は発注元の自治体や元請け企業にあろう。
「もし放射能が入っているなんて知らされたら、どこも扱わないと思いますよ」
そうB社社長は話していた。
放射性物質を含むことや曝露の可能性を知らせず、現場に被曝を強いることが許されてよいはずがない。
http://diamond.jp/articles/print/27576
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