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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20121107-00007750-president-bus_all
プレジデント 11月7日(水)10時30分配信
原子力事故の損害賠償は原子力損害賠償法(原賠法)の下に行われる。法律は原子力事業者が賠償しきれない場合、政府が国会の議決を得たうえで「必要な援助」をする、としている。しかし天井知らずの賠償に対し、東京電力も、政府も、抑制的な行動を取っているように見える。
国の原子力損害賠償紛争審査会は、11年8月に「中間指針」を策定した。指針は、賠償範囲の外枠を定めたものではなく、最も手堅く見て、事故との間に相当因果関係が認められる損害を類型化したものにすぎない。だが、このような指針の性格を無視し、東電は明示されない対象には賠償しない姿勢さえ見せている。
たとえば「食品が放射能汚染を受けているかもしれない」というケースの慰謝料はどうか。結論からいえば、汚染度にもよるが、慰謝料の請求は容易ではない。
現在の指針で明示された損害対象のうち、慰謝料の性質をもつものは次の3つだ。
原発事故により避難を余儀なくされたための健康状態の悪化(指針第3-5)、避難等によって受ける精神的苦痛(第3-6)、復旧作業に従事した原発作業員、公務員、住民の急性または晩発性の放射線障害(第9)。
つまり、現在の指針では、避難や復旧作業に関わるものでなければ、慰謝料は認められない。いちはやく慰謝料に言及した点は評価できるが十分ではない。たとえば以下のような慰謝料は、今の指針では範囲外だ。避難地域に入れず行方不明者を捜索できなかった。放射線に体を貫かれて将来に不安を感じた。避難指示で家族にも等しいペットを置き去りにした……。
なかでも重要な問題のひとつが距離と時間を中心にした線引きだ。指針は、避難指示の範囲である30キロ圏内を中心に、損害賠償の範囲を考えている。これは、1999年に茨城県東海村でおきた「JCO臨界事故」での賠償基準を参考にしている。避難を強いられた350メートル圏内の住民などに対して約150億円が支払われた。だが、今回の汚染は、30キロ圏外にも広がっている。放射性物質が風や波に乗り、同心円状ではない地域に大量放出されている。だが、指針はこれを考慮せず、相変わらず距離と時間を中心に損害賠償の範囲を考えており現実的でない。さらに、情報提供の不足や一貫性のなさも視野に入れていない。
■「賠償」を「補償」と言い換える東電
11年9月、東電は約7万世帯に「損害賠償請求書」を配布した。請求書は賠償の対象が指針に基づくものに限られているうえ、原子力事故の「賠償」であるにもかかわらず、「補償」という用語で統一されている。法律の世界では、「賠償」は違法な行為、「補償」は適法な行為で生じた損害を填補するものとされ、明確な違いがある。東電が今回の事故をどう捉えているか、よくわかる。
国は「原子力損害賠償紛争解決センター」を開設した。だが「センターの手引き」には、中間指針を基準に紛争解決を図る、とある。指針に基づく東電の基準に納得できないからこそ、第三者に調整を求めるのではないか。センターまで指針でしか動かないなら、裁判の負担に耐えられない弱者は、救済から漏れ落ちてしまう。
指針を策定する審査会のあり方も疑問だ。見直される気配だが、当初避難指示による「精神的損害」は12年8月分までは10万〜12万円で9月分からは5万円に減らすとされていた。指針に「避難生活の不便さは最初の6カ月間に比べ、その後は縮減すると考えられる」と盛り込まれたからだ。(※雑誌掲載当時)
審査会の第7回議事録には、怪我で自由に動けない場合と違い、避難者は行動が一応自由だから交通事故の自賠責より少ない額になるとの発言さえある。血の通った議論ではない。
損害賠償では原告が立証責任を負う。10年後、20年後に晩発性の障害が出たとき、その原因を原発事故に求めるには、さまざまな証拠が必要だ。日記、領収書、賃貸契約書……。被害の実態はまだわかっていない。縁起でもない話だが、今のうちから備えが必要であろう。
※すべて雑誌掲載当時
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弁護士 中所克博 構成=阿久根佐和子
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