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原子力を再選択した中国
国内に蔓延する楽観論
2012年11月7日(水) 青山 周
建設中の原発26基、発電容量は3000万キロワット。中国は今、原子力発電施設建設の数と規模において世界最大である。その中国に昨年「フクシマ・ショック」が走った。原発をどうするかという選択は日本だけの問題ではない。10年に1度の政権交代を目前に控え、中国の原発政策も抜本的な見直しに迫られたが、中国は原子力を再選択する決断をした。
政権交替前の政策発表
11月8日、中国共産党第18回全国代表大会が開催される。10年間続いた胡錦濤政権は習近平政権へと交替する。政権交替に伴い、重要施策は通常、新しい政権が諸情勢を検討した上で順次制定し、実行に移していく。党大会で発信される方針は、新政権の政策を見通す上で内外からの注目を集めるのである。
現在、中国は2011年に始まった第12次5カ年計画を推進中である。計画は2015年までとなっているので、今の5カ年計画で新政権の特色を出すことは難しいが、党大会後に検討が始まる次の第13次5カ年計画では、新政権としての色彩を打ち出した計画が策定されることになる。5カ年計画の流れからすると、主要な政策については新政権が発足してから方向性を打ち出すはずである。
こうしたなかで10月24日、温家宝総理が主宰した国務院常務会議で、「エネルギー発展第12次5カ年計画」が了承されるとともに、「原子力安全計画(2011−2020年)」と「原子力中長期発展計画」が再審議の上、了承された。
党大会直前というタイミングでエネルギーという中国の政治・経済上、重要な分野の方針が示された意味は大きい。エネルギー政策については、現政権と新政権との間に意見や立場の相違がないことが示したと受け止めることができる。今回、公表された政策は政権交替の前後で切れ目のなく、実行されることになるだろう。
原発推進を再開
「エネルギー発展第12次5カ年計画」では、国内資源探査・開発の強化、エネルギー供給方式の変革、エネルギー価格経済メカニズムの合理化などを盛り込んでいる。今回の計画では、エネルギー総消費量を合理的に抑制する方針を打ち出した。現在の中国の地球温暖化対策が原単位目標をコミットのない公約を示すだけであることからすると、新しい方針は注目に値する。
「原子力安全計画(2011−2020年)」と「原子力中長期発展計画」では、(1)正常な建設を穏当に回復する、(2)科学的にプロジェクトを配置する、(3)参入条件を引き上げる、の3つを方針として示し、第12次5カ年計画期間中は十分な検証を受けた少数の建設プロジェクトを沿海地域に実施するが、内陸においては原発を建設しないと発表した。
国務院は、昨年の福島原発の事故以来、原子力発電施設の建設に当たって総合安全検査を実施するという前提の下、2度にわたり、2つの計画について審議を進め、原子力安全と発展について厳粛かつ慎重に検討を行ってきたとしている。
さらに、国務院新聞弁公室は国務院常務会議と同じ10月24日に「中国のエネルギー政策(2012)」と題する白書を公表した。白書では原子力エネルギーを「新エネルギー・再生可能エネルギー」に位置付け、「原子力発電はクリーンで、効率の高く、そして質の優れた現代エネルギーである」と高い評価を与え、「安全かつ効率的に原子力発電を推進する」方針を示した。
現在、中国の原子力発電は発電総量の1.8%を占めるにすぎず、世界平均の14%から見て極めて低いレベルにある。だが、今後は導入を加速し、2015年には発電能力が4000万キロワットに達する見通しを明らかにした。さらに海外との協力においては、原子力発電の分野では中国側が株式の支配権を有しているのであれば外国の投資を奨励する考えも示している。
原発政策の見直し
福島原発事故により原子力に対する逆風が吹く中、中国はどうして原子力を再選択したのか。中国における報道から中国が原子力を再選択した要因や経緯について紹介したい。
2009年、中国は世界最大のエネルギー消費国となった。もちろん温室効果ガスの排出量も世界最大である。日増しに国際社会からの圧力が増大する中、グリーン発展、低炭素社会の実現は中国の重要な国策となっている。
こうしたなか、原子力発電は温室効果ガスの排出量の少ないクリーンエネルギーとして中国政府から重要視されてきた。2020年に7000万キロワットの発電を原子力でまかなうとすれば、原子力発電によるCO2排出量は0.07億トンである。これをもし、石炭による火力発電でまかなうならばCO2排出量は6.8億トンに達する。原子力発電によるCO2排出量の削減効果は6.73億トンに及ぶ。これは2020年における中国のCO2排出総量の8%に相当する。
1991年12月に初めて電力を供給して以来、中国の原子力は設計、建設、運営、管理の4つの「自主」を掲げて30年間にわたり一歩ずつ発展を遂げてきた。現在、すでに電力を供給している原子力発電施設は15基。2007年以降、中央政府が認可を出した建設プロジェクトは28基に及ぶ。そのうち、22基が第2世代改良型であるが、米国の加圧水型原子炉「AP1000」を4基、欧州加圧水型炉(EPR)を2基建設中である。
ただ、福島第一原発の事故を受けて、中国の原子力事業も再検討を迫られた。国務院常務会議は国家環境保護部・原子力安全局をはじめとする関連部局に対して原子力施設の安全状況を調査するよう指示を出した。国家環境保護部・原子力安全局、国家エネルギー局、中国地震局は9カ月余りの時間をかけて、既存の原子力発電所15基、建設中の原子力発電所26基、民間の研究用実験炉18基、核燃料サイクル施設9基などの安全状況を調査した。これに基づき、関係部局は共同で原子力安全と放射線汚染の防止に関する計画を取りまとめ、今年5月末に国務院常務会議に提出し、原則について了解を得、その案は早速パブリックコメントにかけられた。
同じタイミングで開催された国務院常務会議で了承された「新興産業発展計画」には原子力を新エネルギーと位置付け、新興産業として先進的原子力技術の発展と原子力プラントの製造能力向上に取り組む姿勢を明確に盛り込んだ。
10月24日の審議はこうしたプロセスを経て行われたものである。
中国の専門家によると、中国の原子力発電の発展方向は「戦略的に取り組み、安全を確保し、着実に効率を向上させる」に集約されるという。
「戦略的に取り組む」とは、気候変動への国際社会の関心の高まりに対して戦略的に先端技術に取り組み、自主創新の原子力産業ブランドを中国として確立することを意味している。こうした既存の政策に加え、福島の事故により安全の意味合いに変化が見られた。中国の原子力政策において「安全」が強調されたことは今までなかったことを考えると、安全計画の意味は大きい。しかし、「安全第一」という名の下に、ほかの分野でも往々に見られるような、なし崩し的な建設が進められるとならば、安全計画は単なる免罪符の役割しか果たせないことになる。
楽観論が支配する
中国の原子力推進政策は再びゴーサインが出された。
最近では、化学工場やゴミ発電、製紙工場の排水に対して、周辺住民は健康への影響の懸念から反対運動が起こることが少なくない。しかし、中国において日本のような反原発運動やデモはまったく行われていない。
原子力爆弾の実験に成功してからおよそ50年。当時、冷戦下の中国では、原爆実験成功は国家をあげた画期的な慶事であり、今に至るまでテレビなどで繰り返し宣伝されている。当時、開発に従事した人々の功績も高く評価されている。
原子力が危険なものであるという指摘はほとんどない。原子力に対する肯定的な評価は国を挙げたものであり、国民も反原子力の感情はきわめて希薄である。
「核」という目に見えないリスクより、北京を覆うスモッグや食品・医薬の安全、自然や交通災害などの方が一般庶民にとってはるかに身近なリスクであり、どうしても関心は目の前の問題に向かいがちとなる。報道や情報への規制以前に、中国の人々の感覚として、原発事故が時間の経過とともに自分たちの問題として意識されにくくなっている。
原子力に対する楽観論が再び中国を覆いつつある。反対運動という対抗力のない中で手放しの楽観論が強くなればなるほど、原子力安全部局の規制が効力を発揮できる社会的環境はますます損なわれていく。こういう状況において、中国における原発の安全性を高める有効な手段は国際協力による“外圧”のみとなっていくかもしれない。
最先端の技術を有する企業が日本にあるからだけでなく、福島事故を経験したという観点からも、原子力安全分野における日本との国際協力が重要なことは言うまでもない。
しかし、日中の政府間チャネルがストップしている現在、お互いの関係部局間の関係も、政策に対する相互理解や協力もすべて没交渉となっている。日本の安全保障は決して尖閣の問題だけではないことを理解する必要がある。
青山 周(あおやま・めぐり)
日本経団連国際協力本部主幹。1982年、慶應義塾大学経済学部卒業後、経団連(現・日本経団連)事務局入局。地球環境・エネルギーグループ長、国際第二本部アジアグループ長を歴任。2009年5月より現職。中国上海の復旦大学に留学経験があり、中国通であり、環境通。2011年、日本大学大学院総合社会情報研究科後期博士課程総合社会情報専攻修了(博士)。
青山周 中国×環境×ビジネス
世界不況下においても、一層の存在感を増す中国。しかし、こと環境問題に関しての評判は芳しくない。しかし、中国はいま、私たちが想像する以上に環境問題の解決に熱を入れている。中国は変わった。そして、変わる。中国のいまを知ることは、環境立国を標榜する日本の使命でもある。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121106/239079/?ST=print
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