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2012年11月01日17:07 とある原発の溶融貫通(メルトスルー)
会津若松市門田町で10月27日、近くに住む夫婦と長男(31)の遺体が見つかった。長男は首を絞められて亡くなっており、県警は夫婦による無理心中事件として調べている。妻(58)は事件前、知的障害を抱える長男や仕事のことで、周囲に悩みを打ち明けていた。
冷たい雨が降る朝だった。JR只見線の鉄橋で、人見(ひとみ)常男さん(60)と妻の明美さんが並んで首をつった状態で見つかった。警察が約2キロ離れた2人の自宅へ行くと、長男の淳さんが居間で亡くなっていた。
「もう疲れちゃった」。事件2日前の25日夕方、明美さんは仕事仲間の女性(50)との電話で、ため息を繰り返した。「原発事故で仕事もなくなって悩んでいた様子だったけど、こんなことになるなんて……」
人見さん夫婦は20年ほど前、いわき市から会津若松市に移り、温泉旅館にコンパニオンを派遣する仕事を始めた。常男さんが送迎の車を運転し、明美さんは組合の役員を務めていた。
だが、原発事故で派遣先のホテルは避難所になり、仕事は途絶えた。その後も客足は戻らず、今年9月には役員を辞任し、廃業届を出した。2週間ほど前、仕事に使っていたワゴン車を売ったという。
夫婦は体調も崩していた。常男さんは腰痛が悪化し、明美さんも甲状腺に病気が見つかった。このころから仕事仲間に「体がだるくてやる気が出ない」とこぼすようになったという。
社交的だった明美さんの周りには、仕事つながりの友人が多かったが、一人息子の淳さんが知的障害を抱えていることを知っていた人は少ない。
別の知人女性は昨年末、明美さんから「淳に彼女ができた」と聞かされた。だが、今年になって「実は淳は障害を持っているの。ウソついていてごめんね」と明かされた。「障害のこと、あまり知られたくなかったのかな」と女性は振り返る。
いわき市で親戚と暮らしていた淳さんが会津若松市に移ってきたのは2009年。親戚が亡くなり、家族3人で暮らし始めた。
淳さんは週に6日、会津若松市内にある福祉施設に通い、農作業や軽作業に取り組んでいた。施設長の吉田英俊さん(63)によると、口数が少なかった淳さんだが、この施設に来て卓球を始め、変わり始めたという。「試合相手としゃべることも増えたし、月2回、公民館の卓球教室にも通うようになった」。昨年のクリスマスにみんなで買ってあげたラケットで、一生懸命練習していたという。吉田さんは「障害者には確かに壁もあるが、それでも精いっぱい生きてほしかった」と言葉を詰まらせた。
明美さんと日誌を交換していた女性職員は「淳さんが施設での出来事を自分から話してくれるようになってうれしいと、明美さんも喜んでいた。さあこれからという時だったのに」。事件の2日前には明美さんから「27日は施設に行くので送迎をお願いします」と連絡があったという。
人見さん一家に遺体の引き取り手はなく、市は30日、葬儀を営んだ。祭壇はなく、小さな遺体安置室での葬儀だったが、知人ら70人近くが参列し、悲しみに暮れた。(高橋尚之)
(朝日新聞デジタル)
http://mytown.asahi.com/fukushima/news.php?k_id=07000001211010001
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