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現代ビジネス
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2012年09月10日(月)高橋 洋一
高橋洋一「ニュースの深層」
大阪市の橋下徹市長が率いる大阪維新の会は、9月9日、「維新八策」を巡る公開討論会を開いた。討論会後、橋下市長は、「みんな価値観は一緒だと思う」と述べた。
出席者を記しておこう。配布された出席者リストでは、以下のようになっていた。
有識者として、堺屋太一、北岡伸一、古賀茂明、高橋洋一、上山信一、鈴木亘、田原総一朗(欠席)。国会議員として、松野頼久、松浪健太、石関貴史、水戸将史、小熊慎司、上野宏史、桜内文城。首長・経験者として大村秀章、河村たかし、東国原英夫、斎藤弘、中田宏、山田宏、松田直久(欠席)。それと大阪維新の会のメンバーだ。会場は、「マイドームおおさか」(大阪市中央区)3Fの会議室であった。
価値観の違いが鮮明になる「外交」が抜けたのは残念
午後1時から6時までの公開討論会と聞いていたが、出席者リストについては、30分くらい前に到着した別室ではじめてみた。他の出席者も異口同音に、誰が出席するのか事前に知らなかったという。
大阪維新の会議にはこれまで何回も出席しているが、いつも事前調整などは一切なく、ぶっつけ本番ばかりだ。どのように会議を進めていくかという話もなく、会議の冒頭に橋下市長がだいたいの流れを説明して、それではじめてわかるという具合だ。これが大阪維新流なのだ。
中央官庁に長くいた筆者のように、出席者の応答メモが事前に用意され、分刻みの会議進行が時間どおりに行われ、予定調和で終わる会議に慣れた者にとっては、この事前シナリオなしの会議方式は新鮮に見える。
こうした会議方式にもかかわらす、今回、橋下市長やすべての出席者がいっているように、出席者の価値観はおおむね同じだった。もともと、「八策」が新聞紙上にもでていて、それを見て公開討論会に出席している人ばかりなので、当然といえば当然だ。
ただ、議論をやり残した部分がある。当初の予定では、教育、経済・財政、社会保障、外交、統治機構とすべてを網羅する予定だったが、教育に多くの時間がさかれ、外交、統治機構は議論できなった。特に外交では価値観の違いが鮮明になるために、この部分が抜けたのは残念だった。
それと、橋下市長がいうように「原子力発電所に対する考え方は、ちょっと気になるところがある」。実は、大阪維新の八策では「脱原発依存」というマイルドな表現だ。いろいろな方面への対応のためであろうが、しっかりした方向性をまだ出していない。
橋下市長は公開討論会では「2030年までのゼロ」といっていたが、これでは政府の調査結果をみても、国民の大多数の最低ライン要望であろう。民主党も気楽にこの程度の公約をしてくる可能性は大いにある。
もっとも、民主党は書いてあることはやらない党という評判が定着したので、誰もまともに聞かないかもしれない。また、国会が全会一致で設立した国会事故調(黒川清委員長)が事故原因を検証したうえで今後のための提言を行ったが、前回の国会で民主党はそれを無視した。仮に「脱原発」といってもリップサービスだ。
ほとんどの発電方式よりコストが高い原子力
出席者は原発問題について役所からの情報に依存しているようだった。例えば、原発のコストであるが、内閣府国家戦略室のコスト検証委員会が発表した各エネルギー源による発電コスト(円/kW時)はつぎのとおりとしている。
原子力発電 8・9以上
石炭火力発電 9・5
LNG火力発電 10・7
石油火力発電 38・9
陸上風力発電 9・9 〜17・3
洋上風力発電 9・4 〜 23・1
地熱発電 8・3?10・4
太陽光発電 33・4〜38・3
ガスコジェネ 10・6〜19・7
コスト検証委は原子力の再処理・廃棄物処理費などの「バックエンド・コスト」を最終的に20兆円程度と見積もり、kW時1・0円程度のコストとはじいているが、かなり甘い計算だ。その3〜4倍以上になるので、それだけでコストは2・0〜3・0円以上のアップとなる。
さらに、技術開発への補助金が含まれていない。1・6円程度だが、国民にとっては立派なコストだ。また、従来の政府の試算では、送電費用がコストに含まれていない。発送電分離をしていないのでドンブリ勘定だが、分離したらコストになる。これが2・0〜4・0円程度だ。
最後に保険のコストだ。深刻な事故を起こしたので、事故のための保険に入る必要がある。政府の保険があるが、これはワークしておらず、結局、電力料金値上げという形で国民負担にはね返ってくる。これは本来、負担を平準化する保険で対応すべきものだ。
現段階でこうした保険を引き受けてくれる再保険会社はない。500年に1度の重大事故だとすれば、標準的な原子炉1機の被害額1兆円に対して保険料は0・3円程度と計算できる。今回のように福島原発事故で40兆円程度の被害額とすれば、それをカバーするための保険料で3・0円程度は必要だ。
これらをすべて合算すると、コスト検証委員会の数字に8・6〜11・6円を上乗せして、原発の真の発電コストは17・5〜20・5円となる。石油火力や太陽光を除くと、ほとんどの発電方式よりコストが高くなる。
「脱原発」には成長促進効果がある
つまり、政府が出している資料には、再処理・廃棄・保険・技術開発コストが書かれておらず、これらを含めて見ると、原発は、太陽光や石油火力を除くと、もっともコストが高いエネルギー源になる。このことは、市場原理(発送電分離)を使えば原子力は自ずと価格競争力がなくなり、次第にフェードアウトしていくという意味になる。
単純な比較はできないが、米国エネルギー省資料でも同じような傾向になっている。このため、あえて原発を続けようとすれば、政府からの特別な支援が必要になっている。
以上のことは、決して「原発が安い」と主張する経済界が嘘をいっているというものでない。経済界にとって、原発に関して見えるコストは、政府のコスト検証委のいうとおりだろう。しかし、ここでいいたいことは「見えないコスト」があるということだ。
これは、政府で負担されているものもあるし、いまだに顕在化しないものもある。だが、最終的には国民負担になる。そうしたものをトータルで考えてみれば、原子力の価格競争力はかなり失われているといわざるを得ない。こうしたコストを国民に知らせて、どのようなコスト負担をしていくかを考えるのが、エネルギー政策である。
今の段階でも、バックエンド・コストや保険加入を義務づけると、限界コストが割高になる。他の発電方式の利用が可能であれば、原発を再稼働するより他の方法にするほうが合理的だ。脱原発は低コストのエネルギーを使うわけで、成長促進効果がある。
また、脱原発の方向に進むと、エネルギー輸入で経常収支が赤字になって大変になるという、役所発の情報を正しいと思い込んでいる人も多かったようだ。事実だけをいえば、経常収支赤字で金利が上がるわけでもなく、成長が阻害されるわけでもない。オーストラリア、カナダ、デンマークなどは長い間経常収支赤字であったが、経済成長できなかったわけでない。
最後に、河村たかし名古屋市長が主張する「国民背番号制反対」はまったく理解できなかった。東国原英夫氏は「八策に書いている」と冷やかしていた。大村秀章愛知県知事は必要性を理解していたので、河村市長と早急に政策のすりあわせをすべきだろう。
なお、言うまでもないが、筆者は大阪維新の会のいかなる決定にも一切関わってない。本稿は有識者としての感想にすぎない。
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