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山下俊一氏は、昨年3月にいわき市と福島市で数度にわたって、「100マイクロシーベルト/時を超さなければまったく健康に影響はない。どうぞ胸を張って歩いてください」などと発言しておきながら、3月22日、福島県のホームページ上で、これは「100ではなく10マイクロシーベルトの誤りでした。お詫び申し上げます。ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありません」と訂正した。
山下俊一氏は、 3月に開かれた福島県内の講演では曲がりなりにも、「妊婦と子どもは避難すべきだ」と述べていたが(具体的には何も手を打たなかったが)、5月、6月になると、「福島から元気な子どもが消えたらどうします。絶対にこの場所にいてほしい」「自分の子だけかわいいでいいのか〜子どもには苦労させるべきだ。海図のない海に出るという福島県民の覚悟が必要だ」などと、子どもたちに福島に住み続けることを強要する姿勢に一変した。
言わずとしれた山下俊一氏の代名詞でもある、3月に福島県内で連発した「100ミリシーベルト/年まではまったく心配ない」発言。これも5月頃から「100ミリシーベルト以下が安全との保証はまったくなくグレーゾーンである」「100ミリシーベルト以下は分からないから、心配してもしょうがない」「100ミリシーベルトでも大丈夫だから心配いらない、などとは言っていない」と、発言内容が豹変した。 これについてはクライシスコミュニケーションからリスクコミュニケーションへの転換だと本人は釈明するが、医師にそのような弁解は断じて許されるものではない。
これらすべては、DAY JAPAN10月号の特集「告発された医師:山下俊一教授 その発言記録」で確認することができるが、このような山下氏の不可解、不誠実な言動は他にもまだまだたくさんあり数え上げれば切りがない。
当時、福島に住む者にとって、見えない放射線に対してはマイクロシーベルトという数値のみが唯一の手がかりだった。福島県民にとって命にも関わる重大なその数値を、自ら謝罪することもなくただ県のホームページ上で訂正した山下氏の(県に確認すると、「謝罪したのは県として」という認識だった)、避難の根拠、機会も与えられず、避けることのできた過剰の被曝を県民に許した罪は、いくら贖っても贖いきれない大罪である。
そして、その罪の一番の被害者は言うまでもなく福島の子どもたちであった。山下氏の無責任で身勝手極まりない言動によって、いわき、飯館、福島市、郡山市など、高い放射線量の地に子どもたちは捨て置かれたのである。
そして当時3月、切実で切迫した問題がもうひとつあった。それは小児甲状腺癌予防のため、子どもたちに「安定ヨウ素剤」を飲ませるべきなのかその必要はないのか、という問題である。双葉町、富岡町、三春町の住民は内服したものの、他の多くの市町村では国からも県からも内服の指示が与えられず、ストックはあるものの結局使用されることはなかった。この安定ヨウ素剤服用の基準について、2011年3月20日に行われた記者会見でのやり取りの中に山下俊一氏のもうひとつの罪が隠されている。
この日、「福島市で環境放射能の測定値が1時間当たり20マイクロシーベルトと高くなっているが、安定ヨウ素剤の配布は必要ないのか」という質問に対して、山下氏は
「安定ヨウ素剤の配布は、その場に24時間滞在すると50ミリシーベルトを超えると予測される場合になされます。現在の1時間当たり20マイクロシーベルトは極めて少ない線量で、〜健康への影響はなく、この数値で安定ヨウ素剤を今すぐ服用する必要はありません」(DAY JAPAN10月号18ページ)
と回答している。
文脈からここで言われている50ミリシーベルトというのは内部被曝(小児甲状腺等価線量)を指し、20マイクロシーベルトというのは空間線量率のことである。
しかし、 空間線量率で安定ヨウ素剤の内服基準を定めている国は少ないものの存在し、それら各国の基準を見ると
オーストラリア:大人100マイクロシーベルト、子供20マイクロシーベルト
チェコ:100マイクロシーベルト
フィンランド: 大人100マイクロシーベルト、子供10マイクロシーベルト
http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/senmon/shidai/hibakubun/hibakubun029/siryo2-7.pdf
(PDF4ページ参照)
となっている。つまり、 子供を基準とする限り、1時間当たり10〜20マイクロシーベルトの空間線量をもって他国では安定ヨウ素剤を服用させているのである。当時の福島市の線量率20マイクロシーベルトは、まさに安定ヨウ素剤を服用する基準値に達していたにもかかわらず山下氏は、「この値は極めて低い。安定ヨウ素剤を服用する必要はない」と誤った指導を行っていたのである。
日本では空間線量率を基準として安定ヨウ素剤服用を定めてはいない。それはアメリカ、フランス、イギリス、ドイツなども同様である。しかし、原子力安全委員会の原子力施設等防災専門部会の1つである被曝医療分科会では昨年12月にこの件についての検討が行われており、細井義夫委員(広島大原爆放射線医科学研究所)が、福島原発事故後の評価として、1時間当たり10マイクロシーベルトの空間線量での安定ヨウ素剤服用を推奨している。
「空間線量率による安定ヨウ素剤予防服用のOILについて」
http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/senmon/shidai/hibakubun/hibakubun030/siryo4-2.pdf
つまり、今回の事故時における小児甲状腺等価線量と空間線量率を検討評価することによって、前述の各国の基準値が有意義かつ有用であることが確認されたのである(ただし、空間線量率に占めるヨウ素131の寄与率などの議論は継続となっている)。
そしてそれは事後評価でなくとも、放射性物質の拡散による内部被曝(小児甲状腺等価線量)の様々なシミュレーションによって簡単に算出できる数値であるはずである。だからこそ前述の国はその基準を定めているのであるし、そもそも多くの国では原発事故による安定ヨウ素剤服用基準を空間線量率で定める必要もないのである。なぜなら、それらの国では、原発周辺地域では安定ヨウ素剤は事前に配布済みであり、服用指示については、事故発生と同時に研究機関や政府当局、放射線防護を専らとする医師らによって迅速に判断、決定され、早期服用、服用周知を徹底する態勢が整っているからである。
日本でいえばまさに山下俊一氏が、事故を起こした原発から放射性物質が放出されたと同時に、政府や福島県に助言や提言を行うようなものである。
「各国の安定ヨウ素剤服用状況」
http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/senmon/shidai/hibakubun/hibakubun028/ssiryo2-4.pdf
安全神話に奢り、原発事故による安定ヨウ素剤服用の事態などまるで想定せず、事故発生時には、その矮小化と事実隠蔽のために地域住民に対する適切な服用指示すら出さず、いたずらに国民を被曝させた日本国政府の罪も大きいながら、予防原則に立って被災住民の被曝を最低限に抑えることが最大の責務であるはずの放射線被曝専門医師が、 国の無為無策に加担し、人の道を外れ、自らの野望の虜となり、福島の民を蹂躙したことの罪はそれにも増して大きいと言わざるを得ない。
この大罪を日本国民は決して忘れてはいけない。
Divina Commedia(@Beatrice1600)
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