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「原発ゼロ」挫折の影に浮かび上がる核武装問題
原爆5000発分のプルトニウムをどうするのか
2012年10月12日(Fri) 池田 信夫
政府の国家戦略室は、9月14日にエネルギー・環境会議で「2030年代に原発稼働ゼロを可能にする」という方針を決定したが、19日の閣議ではこの決定は閣議決定されず、「参考資料」となった。
その直後に枝野幸男経産相は、地元の突き上げで青森県の大間原発の建設を認め、六ヶ所村の核燃料再処理施設や高速増殖炉「もんじゅ」も当面は存続するとしたため、「原発ゼロ」政策は実質的に撤回された。国の基本政策が発表されてから数日で撤回されるのは異例である。いったい何があったのだろうか。
日本は人類を全滅させる量のプルトニウムを保有している
この時期の目立った大きな動きとしては、18日に経団連と日本商工会議所と経済同友会が合同で記者会見を開いて「原発ゼロ」政策への反対を表明したことだ。
一般には「財界の反発に恐れをなした野田政権が閣議決定を見送った」と見られているが、このときもう1つの大きな動きがあった。
国家戦略室の決定に先だって訪米した前原誠司政務調査会長に対して、米エネルギー省のポネマン副長官は11日、「原発ゼロを目指すと決めた場合には負の影響を最小化してほしい」という懸念を伝えた、と前原氏が記者会見で明らかにしたのだ。
アメリカ政府が心配する最大の問題は、原発をゼロにして高速増殖炉をやめると、使用済み燃料を再処理してできるプルトニウムの用途がなくなることだ。
日本の保有しているプルトニウムは、原子力委員会によれば、国内に9.3トン、海外に35トンの合計44.3トンである(2011年末)。アメリカの核兵器に装着されているプルトニウムの合計が38トンというから、日本はそれを上回る量を保有しているわけだ。
プルトニウムは8キログラムあれば1発の原爆がつくれると言われるので、日本の保有しているプルトニウムは5000発分以上だ。原爆の製造技術は成熟しており、北朝鮮でもつくれるぐらいだから、日本がその気になればいつでも製造できる。つまり日本は、人類を全滅させる量の核兵器をつくることができるのだ。
行き詰まった核燃料サイクル
原爆を保有していない国がこのように大量のプルトニウムを保有することは、核拡散防止条約(NPT)では認められていないが、日本だけは日米原子力協定で特別に保有を許されている。これは高速増殖炉などの平和利用に限定するという条件つきで認められているものだ。最近では、大間のようにMOX燃料(プルトニウムをウランに混入した燃料)を使う原子炉も増えているが、これも余っているプルトニウムを消費するためだ。
今のところ日本はフランスとドイツとイタリアに使用済み核燃料を送って再処理を委託しているが、最終処理の方法は決まっていない。かつては海洋投棄が考えられていたが、ロンドン条約で禁止された。地中に埋める技術は完成しているが、政治的には極めて困難だ。アメリカが建設したネバダ州ユッカマウンテンの処分場は完成の直前になってオバマ大統領の介入で工事が中止されてしまった。
六ヶ所村の再処理施設もまだ本格的に稼働できず、中間貯蔵施設もできていない。このため各原発に暫定的に置かれた使用済み核燃料がたまり、その量は昨年末で1万4800トン。このままでは、あと10年で保管スペースがいっぱいになると予想されている。原発が「トイレなきマンション」と揶揄される所以である。
平和利用の切り札として期待された高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」はたびたび事故を起こしたまま、運転再開のめども立たない。MOX燃料で消費するプルトニウムは燃料棒の5%程度とわずかなので、これだけでは使い切れない。
最大の問題は、経済性である。かつてはウランの埋蔵量は数十年で、各国で原子力開発が進むと価格が高騰することが心配されていたが、最近は精製技術の進歩で純度の低いウランが使えるようになり、埋蔵量は900年以上あると言われる。
おまけに「シェールガス革命」と呼ばれるほど、新しい天然ガスが大量に採掘できるようになり、LNG(液化天然ガス)の価格も下がっている。シェールガスの埋蔵量は200年以上あると言われ、発電単価で考えると原子力より安くなった。
このようにエネルギー源としての原子力は競争力を失い、世界各国で原発建設のキャンセルが相次いでいる。「原子力の時代は終わった」というのが世界の電力産業の共通認識だ。
しかし原発の燃料費は1〜2円/kWhと火力よりはるかに安いので、既存の原発は速やかに再稼働すべきだ。また、地球温暖化の脅威が現実になってくると、原子力の出番はあるかもしれない。この点でも、原子力をわざわざゼロにするのは愚かな政策だ。
核武装は現実的なオプションなのか
原発にまだ存在価値があるとしても、核燃料サイクルの採算性が高くないとすれば、総額19兆円とも言われる莫大なコストをかけてこれから再処理施設を建設することは賢明ではない。
このため民主党政権も(使用済み核燃料を再処理しないで埋める)直接処分を打ち出したが、これによって宙に浮くプルトニウムは核兵器の材料としては非常に重要である。実は日本政府が再処理にこだわる隠れた理由は、ここにある。
私が昨年、自民党の勉強会で「再処理は採算に合わない」と話したら、元閣僚から「原子力は安全保障に必要だ」という反論を受けた。つまり原子力技術を持っていることが、その気になればいつでも核兵器をつくれるという抑止力になっているというのだ。
さらに彼は「日米安保体制がいつまで続くかは分からない。日本が自力で中国の脅威から国を守るには、核兵器というオプションは残す必要がある」と述べた。自民党にとっては、原子力は第一義的には安全保障の問題なのだ。
しかしそれは、現実的なオプションなのだろうか。まず日本が核武装することはNPT違反なので、条約を脱退しなければならない。これには当然、アメリカが強く反対するだろう。日米同盟が解消されることも覚悟しなければならない。
安保条約なしに自主防衛で国を守るには、憲法を改正して「戦力の保持」を明記する必要があるが、憲法改正には衆参両院の3分の2の発議が必要で、それは当分ありえないだろう。
さらに米軍基地がすべて撤退したら、その代わりに自前の防衛力を持たなければならない。そのためには、現在の10倍以上の軍備が必要だと言われる。そんな余裕は、日本の財政にはとてもない。特に中国に対抗できる核兵器を配備するとなれば、防衛予算で財政が破綻してしまうだろう。
つまり今のようにアメリカの「核の傘」で守られている状態は、独立国としては変則的だが、極めて安上がりな方法なのだ。
アメリカとしても、日本は潜在的な軍事大国であり、核武装することは大きな脅威だ。中国を抑え込む橋頭堡としても日本の利用価値は大きいので、今のところは両国にとって今の状態が便利である。
しかし、いつまでもそういう幸福な状態が続くとは限らない。尖閣諸島で軍事衝突が起こったとき、アメリカは無人島を守ってくれるだろうか。キャンベル米国務次官補は「尖閣諸島は日米安保条約第5条の明確な適用範囲だ」と議会で証言したが、領土紛争に介入するとは言っていない。
さらに核戦争の脅威が現実のものになったとき、アメリカは自国が中国からの核攻撃にさらされるリスクを承知で、日本を守ってくれるのだろうか。安保体制で戦争が起こったことは一度もないので、それは戦争になってみないと分からない。
国家のコア機能である安全保障を他国に全面的に依存している日本は異常な状態であり、いずれはそれを是正しなければならない。それが今ではないとしても、行き場をなくしたプルトニウムは、これまで隠れていた問題の所在を示したのである。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36298
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