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昼間にホタルを探せますか?
放射性物質検査は「絶対」なのか
2012年10月10日(水) 佐藤 央明
「昼間にホタルを探すようなものですよ」
ここ数カ月の取材で、一番印象に残った言葉だ。
食品に含まれる放射性物質の検査について、千葉市稲毛区にある「日本分析センター」を訪ねたときのこと。取材に応じたIT室調査役の太田裕二氏が、検査の難しさを例えてくれたのが冒頭の言葉だ。どういう意味かは後述するとして、まずは一般的な放射性物質の検査などについて説明したい。
食品に含まれる放射性物質を測定する機器は大きく2種類ある。1つが「ゲルマニウム半導体検出器(以下、ゲルマ)」。その重さは1トン以上。価格も1000万円程度と、非常に高価な測定機器だ。もう1つが「NaIシンチレーション検出器(以下、NaI)」。価格はおおむね100万〜400万円程度で、持ち運びできるポータブルタイプや据え置き型がある。
ゲルマとNaIの最大の違いは、「(エネルギー)分解能」と呼ばれる分析精度だ。
放射性物質が崩壊する過程で、ガンマ線などの放射線が放出される。このガンマ線のエネルギー領域は放射性核種によって異なり、例えばセシウム134は605keV(キロ電子ボルト)および796keV、セシウム137は662keVのガンマ線を主に放出する。核種ごとのエネルギー領域を測定機器が正確に読み取ることができれば、放射性物質を識別できる。
この分解能(分析能力)が非常に高いのがゲルマで、かなりの精度で核種を特定できる。一方のNaIは分解能が低いため、誤差が生じやすいという違いがある。
NaIで食品を検査するときには、鉛などで検出部の周囲を遮蔽する必要がある。むき出しのまま測定すると、食品中の放射性物質だけでなく、周囲にある放射性物質からのガンマ線も拾ってしまい、正しく測定できなくなってしまうためだ。
前述の太田氏によると、20〜30年前まではNaIが食品を測る主力機器だったという。ただ精度がより高いゲルマの登場で、NaIは食品検査の舞台から姿を消し、主に空間線量計として使われるようになった。何を測りたいかによって、棲み分けができていたのだ。
この境界線が崩れたきっかけが福島第一原発の事故。3・11以降、大量の放射性物質が福島を中心に飛散した。これを素早く検査するためには、重いゲルマを福島に運んで、などと悠長なことは言っていられない。そのため簡易ではあるが、現地でも食品の汚染具合などを把握するために、NaIが駆り出されたというわけだ。
当時の食品に関する暫定規制値は、野菜や穀類、肉などで1kg当たり500ベクレル(Bq/kg)という現行の基準値に比べるとかなり“甘い”ものだった。500ベクレル以上かそれ以下かを判定する程度の用途であれば、NaIでも測ることができる。機器メーカー側も食品検査向けのNaIを新たに開発するなど、再びNaIが食品に使われるようになってきた。
NaIはせいぜい20ベクレルが限界
「国の暫定規制値は高すぎる」と、小売りなどが独自の厳しい基準値を設けるようになってきたのもこの頃からだ。例えばイオンは、昨年11月に「店頭での放射性物質“ゼロ”を目標にする」と発表。今年2月には、生鮮宅配のパルシステム生活協同組合連合会や大地を守る会が、独自の自主基準値を策定した(詳しくは、時事深層:放射線「自主基準値合戦」が勃発をお読みください)。
今年4月1日、厚生労働省が食品に含まれる放射性物質の新基準値を施行。前述の野菜やコメ、肉の基準値は1kg当たり500ベクレルから同100ベクレルに引き下げられた。
それに先立つ今年3月、厚労省は「食品中の放射性セシウムスクリーニング法」を掲出し、一定の条件を満たしたNaIであれば、引き続き「1kg当たり100ベクレル以下かどうかの判定に用いてもよい」という見解を示した。太田氏も「適切に遮蔽がなされていれば、100ベクレル程度はNaIでも問題なく測定できる」と話す。
では、それ以下の5ベクレル、10ベクレルなどを正確に測りたい場合はどうか。結論から言うと、NaIでは極めて難しい。「私の感覚では、NaIで正確に測れるのはせいぜい20ベクレル程度。それ以下であればゲルマを使うべきだ」と太田氏は話す。
説明が長くなってしまったが、冒頭の言葉はこの説明の時に太田氏から聞いたものだ。
「NaI」とは「ヨウ化ナトリウム」という物質の結晶で、ガンマ線が入ると発光する特性がある。この時に出た光を電気信号に変えて計測する、というのがNaIシンチレーション検出器の仕組みだ。
500ベクレルの放射性セシウムを含む食品からは、それだけ多くのガンマ線が出るためNaIでも十分に測れる。しかしながら5ベクレルでは放出されるガンマ線量はごくわずか。周囲から別のガンマ線が押し寄せれば、測りたい核種から出たガンマ線はたちまちその中に埋もれてしまう。NaIで数ベクレル程度を測るのは至難の業で、まさに「昼間にホタルを探すようなもの」なのだという。
「汚染度合いが下がっているからこそ、検査の厳密さが必要になる」
今年9月3日の本誌・時事深層「放射性物質、『不検出』の闇(デジタル版のみ)」でオイシックスの放射性物質検査を取り上げた。同社は自前のNaIを使い、乳幼児向け食品の検出限界は「おおむね1kg当たり5〜10ベクレル」としている。
一般的に放射性物質の検査は、時間をかければかけるほど精度が増し、数ベクレルに到達することも理論上では可能だ。ただ実際の運用で数ベクレル程度の具体的な数値をうたうのであれば、ゲルマでなければ正確性の面で危うさが残る。
同社は8月31日、ホームページ上で「年内を目標にゲルマニウム半導体検出器をもちいて、1Bq/kg程度の高精度のクロステストを自社センター内においても実行できる体制を構築してまいります」とアナウンスしたが、消費者にとって非常に歓迎すべき判断だと言えるだろう。
大地を守る会・放射能対策特命担当の戎谷徹也氏は毎日の自主検査を経て、「想像以上に食品の汚染度合いは下がってきている」と語る。「放射性物質の量が減ってくれば、より検査の厳密さが必要になる。消費者の『確かめたい』という要望に応えられるのはゲルマだけになってきている」と戎谷氏は力説する。
コップに入った半分の水を見て、「もう半分しかない」と思う人と、「まだ半分もある」と思う人がいる。同様に数ベクレル含まれる野菜を前に、どういう印象を持つかはその人次第だ。「震災前から、放射性カリウムなどは自然界に存在している。数ベクレル程度を気にする必要は全くない」という人もいれば、「セシウム137の半減期は約30年。できる限りゼロリスクを目指すべきだ」と思う人もいる。どちらかの意見が明白に間違っているとは言い切れない。
ただ少なくとも民間企業が独自基準を標榜し、自主検査を差別化のための“商売道具”にする以上は、厳密な検査に基づいた正確な数値を消費者に指し示す責任があると思う。本気で昼間にホタルを探すには、それ相応の「覚悟」が必要だ。
佐藤 央明(さとう・ひろあき)
日経ビジネス記者。出版社勤務や大学院留学などを経て、2004年日経ホーム出版社(現日経BP社)入社。日経トレンディに約6年勤務。2011年1月より日経ビジネス編集部在籍、流通グループ所属。
記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20121009/237813/?ST=print
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