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「福島県県民健康管理調査」は無効
Divina Commedia(@Beatrice1600)
現在、福島県下においては、山下俊一 福島県立医科大学副学長 兼 放射線医学県民健康管理センター長によって「福島県県民健康管理調査」が実施されています。この「健康管理調査」は、その字句通り「健康管理」のための「調査」であるわけですが、この「調査」という言葉はいったい何を意味するのでしょうか? 誰が誰に対してどのような目的でそれを行なおうとしているのでしょう? 福島県民はこの「調査」について、国や県や福島県立医科大学から、しっかりと納得のいく説明を受けたでしょうか? 実際には、ただ一方的に調査しますと言われて、基本調査問診票や受診予定の日程表が送られてきただけです。
福島県に住む一人ひとりにとって、とくに子どもたちにとって、この「調査」はとても大切なことです。だから、いま一度この「調査」といわれているものの本当の意味についてすこし考えてみたいと思います。
たとえば仮にこの調査自体の名称を「県民健康管理研究調査」とした場合、そこから受ける印象は変わるでしょうか? 当然ながらここに「研究」の語句が挿入されただけで、その目的が単なる純粋な「健康管理」だけではなく他の目的、たとえば何か学問的な目的が付与されたような、以前とは異なる印象を受けます。もし初めからこの「研究」という言葉が用いられていたとしたら、今回の調査の対象となっている福島県民にとっては、自分たちが、健康チェックもしくは健康増進のための好意による「調査の対象」としてのみ存在しているのではなくて、あたかも冷徹な学問上の「実験の対象」となってしまっているのではないかという不安、猜疑の念を抱かずにはいられなかったでしょう。
この点に関して、山下先生はどのように話しているでしょう?
2012年8月12日の毎日新聞に掲載されたインタビューにおいて、「検査の目的は?」の質問に対して山下先生は「県民の健康増進のための医療サービスで、決して調査研究ではない」と、研究であることを否定しています。
しかし、2011年8月19日に掲載されたドイツ、シュピーゲル誌でのインタビューにおいては、「研究ではどういうことを調べるつもりなのか?」の質問に対して山下先生は、「被験者を3つのグループに分けます。原発労働者、子供、それから一般住民です。労働者は高線量の放射線に被曝しています。がんをはじめとするいろいろな疾患について、放射線の影響を追跡調査することが絶対に必要です。一般住民はさらに2つのグループに分かれます。比較的低線量の被曝をした住民と、比較的高線量の被曝をした住民です」と述べ、さらに、「どれくらいの人が被験者になるのか?」の質問に対しては、「200万人の福島県民全員です。科学界に記録を打ち立てる大規模な研究になります」と回答しています。
つまり、山下先生はあくまで福島県民に対しては、余計な不安や疑念を与えてしまう「研究」という言葉を慎重に避けて発言しているのですが、実際のところは本人が自ら語っているようにこの「調査」というのものは紛れもない「研究」なのです。
さて、つぎの文は、文部科学省と厚生労働省から出されたある「指針」の一部で、あるものを定義しています。
『明確に特定された人間集団の中で出現する健康に関する様々な事象の頻度及び分
布並びにそれらに影響を与える要因を明らかにする科学研究をいう』
これを今回の「福島県県民健康管理調査」と重ねて合わせてみるとどうなるでしょう?
福島県という明確に特定された人間集団の中で出現する可能性のある放射線被曝障害という事象の頻度や分布、それに影響を与える個々人の被爆線量を明らかにしようとしているのですから、まさにこの定義にぴったり当てはまります。この指針は平成14年に出された「疫学研究に関する倫理指針」というものであり、前述の文はその中で定義された「疫学研究」です。
「福島県県民健康管理調査」は紛れもなく「研究」であり、明らかに「疫学研究」なのです。
つぎにすこし詳しくこの「疫学研究に関する倫理指針」を見てみると、「疫学研究に携わるすべての関係者が遵守すべき事項を定める」として、「研究者等が遵守すべき基本原則」として次の4つの項目をあげています。
(1)疫学研究の科学的合理性及び倫理的妥当性の確保
(2)個人情報の保護
(3)インフォームド・コンセントの受領
(4)研究成果の公表
この中で(1)については次の5つの原則が列記されています。
@ 研究者等は、研究対象者の個人の尊厳及び人権を尊重して疫学研究を実施しな
ければならない。
A 研究者等は、科学的合理性及び倫理的妥当性が認められない疫学研究を実施し
てはならず、疫学研究の実施に当たっては、この点を踏まえた明確かつ具体的な研
究計画を立案しなければならない。
B 研究者等は、疫学研究を実施しようとするときは、研究計画について、研究機
関の長の許可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様とする。
C 研究者等は、法令、この指針及び研究計画に従って適切に疫学研究を実施しな
ければならない。
D 研究者等は、研究対象者を不合理又は不当な方法で選んではならない。
これらの原則に従えば、当然のことながら、今回の疫学研究である「福島県県民健康管理調査」においても、研究対象者である福島県民の尊厳及び人権を尊重して実施されなければならず、かつ、それが科学的合理性及び倫理的妥当性を満たすかどうかについても十分に検討されなければなりません。また、 D に関しては、山下先生の福島県放射線健康リスク管理アドバイザー在任時における、県民に対する居住もしくは避難条件についての言動がこれに抵触することはないのか改めて検討する必要があるかもしれません。
そして最も大切な事項が(3)のインフォームド・コンセントの受領であり、指針ではつぎのように示されています。
@ 研究者等は、疫学研究を実施する場合には、事前に、研究対象者からインフォーム
ド・コンセントを受けることを原則とする。
A 研究者等は、研究対象者に対する説明の内容、同意の確認方法その他のインフォーム
ド・コンセントの手続に関する事項を研究計画書に記載しなければならない。
医療、医学に限らずこれはもう社会通念上、常識とも言えることですが、この場合、研究者は研究対象者に対して、実施しようとしている事柄の詳細を丁寧に説明し、研究対象者からその同意を得なければなりません。これは本当に蔑ろにできない大切なことです。無断で人を勝手に研究の対象にしてはいけないのです。
多少細かくなりますが、指針には各ケースごとのインフォームド・コンセントの内容についての記載があります。
これによると、「人体から採取された試料を用いる場合には、研究対象者からのインフォームド・コンセントを原則として必要とし、人体から採取された試料を用いない場合は、インフォームド・コンセントを必ずしも要しないが、当該研究の実施についての情報を公開し、及び研究対象者となる者が研究対象者となることを拒否できるようにしなければならない」としています。
県民健康管理の項目によると、健康診査では一般健診項目と白血球分画などとあり、これは採血によって採取された試料を用いるのでインフォームド・コンセントが原則として必要となります。甲状腺検査は超音波検査なので後者にあたりインフォームド・コンセントを必ずしも要しないということになりますが、これだけ大規模で、30年という長期にわたって行なわれ、しかも県民のみならず日本人すべてに関わり、関心も高い重大事項であるのですから、すべてをきちんと詳細に説明し、同意を取るべきだと考えます。
「必ずしも要しない」というのは、「必要がない」というのとは異なります。必要ならば同意を取るべきなのです。加えて、今回の疫学研究の実施についての情報を公開し、研究への参加を拒否できるようにしなければならないのは当然です。
「福島県県民健康管理調査」を今後も継続するのであれば、まず、疫学調査を始める出発点である倫理審査委員会を早急に設置して、この調査研究の科学的合理性及び倫理的妥当性を検討したのちに、被験者「200万人の福島県民全員」に対して丁寧かつ詳細な説明を行い、可及的速やかに被験者より疫学研究参加のための同意を得る必要があるのは当然のことと考えます。
2012.8.12毎日新聞でのインタビュー
http://mainichi.jp/opinion/news/20120826ddm003040168000c.html
2011.8.19シュピーゲルでのインタビュー
http://www.spiegel.de/international/world/studying-the-fukushima-aftermath-people-are-suffering-from-radiophobia-a-780810.html
EX-SKFによる全訳
http://ex-skf-jp.blogspot.jp/2011/08/blog-post_9917.html
疫学研究に関する倫理指針
http://www.niph.go.jp/wadai/ekigakurinri/
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