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放射線と被曝の教室(6) 予防原則と被曝
http://takedanet.com/2012/09/post_a65d.html
平成24年9月26日 武田邦彦(中部大学)
NHK教育チャンネルが2012年9月に報道したチェルノブイリ(2)は、被曝地ベルラーシの医師達の診察と治療を中心とした構成でした。多くの人が映像を見たと思われますが、低線量の被曝によって20年後になっても甲状腺ガン、免疫不全などの多くの病気で苦しんでおられることが分かります。
これに対して診察を担当した医師達は「国(ソ連政府)が1年5ミリまでの被曝は安全だ」と言ったことを信じたことが悔やまれる」と述懐していました。もともと学問的に分かっていることは少なく、人間は間違いばかりをしてきたのです。大勢の人が被曝したのは広島・長崎が最初で、チェルノブイリが2番目ですから、被曝と健康に関する私たちの知識はとても少ないのです。
ところでこの番組はNHKとしては珍しく中立的な放送をしたのですが、放送全体にわたってもっとも重要な点が不足していました。それが「予防原則」です(放送しなかったのは故意ではなく、知識不足と考えられます)。
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私たちの科学は人類に良いこともしてきましたが、同時に取り返しのつかない災厄ももたらしました。その一つが「科学の産物による病気」です。その典型が「水俣病」や「四日市ぜんそく」でした。このブログでも何回かこの2つの事件を執筆しましたが、二つとも「当時の科学では意外な結果」でした。
水俣病は水銀がサカナの体の中で有機水銀に変わり、それが人間の脳神経を冒した事件で、小さい子供さんなど1万人を超える方が犠牲になりました。また四日市では煙突からの亜硫酸ガス(二酸化硫黄)がぜんそくをもたらし、これも大勢の人の幸福な人生を奪ったのです。
水俣病が「水俣病」という名前を冠しているように、「水銀が毒物とはつゆ知らなかった」というのが事実であり、四日市ぜんそくは亜硫酸ガスの毒性が知られていなかったので「工場の近くの方が便利だ」と考えて工場の付近に住んだことが原因になりました。
このような経験を積んで、1992年に「予防原則」というのが国際的に合意されます。日本も環境大臣(当時の環境庁長官)が出席しています。それは画期的なものでした。
「原則15: 環境を防御するため各国はその能力に応じて予防的方策を広く講じなければならない。重大あるいは取り返しのつかない損害の恐れがあるところでは、十分な科学的確実性がないことを、環境悪化を防ぐ費用対効果の高い対策を引き伸ばす理由にしてはならない。」(RIO DE JANEIRO DECLARATION 1992)
「過ちを改めるに憚ること無かれ」と言いますが、この宣言は素晴らしいものです。私たちの科学が冒した今までの過ちを反省し、その本質的な欠陥を補う知恵だったのです。国際的な文章で少しややこしいので解説をします。
1) 環境を守ると一言で言っても、その国に発展度合いに応じて現実にできることが決まっているので、その国の力に合わせて予防的措置をすること、
2) 損害が「重大かつ取り返しのつかない恐れ」がある場合は、「充分な科学的確実性を求めてはいけない」、特に「費用がかかるから」ということを理由にしてはならない。
事故以来、私は1)に関して、原子力予算が4500億円あり、東北の汚染された食材を買い上げても700億円にしかならない。また本格的な除染に2000億円を要するが、これも原子力予算の範囲でできる。また震災復興に20兆円を使うことができる経済力を持っている、と言い続けてきました。
また「経済が良くならないと環境は良くならない。だから景気を良くしておくことが環境にも大切だ」と言い続けてきました。これは私の意見ではなく、この文章に見られるように世界的な認識なのです。それに基づいて2011年4月から5月の国会の委員会では「日本は国力があるから、本格的な除染をして綺麗な福島を取り戻せる」と主張しましたが、受け入れられませんでした。
また、今回のNHKの放送では2)が完全に無視されていました。つまり、放送の終わりの方で長崎大学の教授が「低線量の被曝と健康については学問的に確定していない」と発言し、その発言に対して「予防原則」を締結し、指示してきた環境省が同席していながらまったく解説を加えないのです。
日本が守ってきた「予防原則」は「十分な科学的確実性がないことを、策を引き伸ばす理由にしてはならない」と明確に言っているのに、環境省が主催した会議で「学問的に確定していないから対策を取らない」としたのですから、これほど明確なダブルスタンダードはありません。
自らの学問や職業にプライドを持つということは、「自分が不利な場面でも、学問的な結果を優先すること」であり、決して「知らない素人を騙す」ということではありません。
科学がもたらした悲惨な事件の多くは「学問的に確定していないから」という理由で「やや危険らしい」というものをやり続けたことにあるからです。水俣病も「怪しい」という時点で工場を止めていれば可哀想な人が大幅に減ったのですが、「学問的に確実」ということが分かるまでに10年を経て、その間に多くの犠牲者を出したのです。
「低線量被曝と健康障害」はまさに「怪しい」と疑わしいものであり、「重大かつ取り返しのつかない損害」がでる可能性のあるものです。だから、1)医師および医師会は健康に関する国際的合意を尊重すること、2)環境省はダブルスタンダードを使わないこと、3)NHKは予防原則を良く知っているのだから、番組では必ず触れること、を求めたいと思います。
「科学的に確実ではないことを理由にしてはいけない」というこの明確な予防原則は、ベルラーシで疾病が増大しているという事実だけで、私たちは子供達の被曝を絶対に1年1ミリ以内におさめないといけないと思います。また、日本のように教育程度が高い国が、「ご都合」によって予防原則を適応したり、無視したりするのは残念です。
やや難解な文章ですが、予防原則15を繰り返し読み、それと現在の被爆対策とを比べて、特に医師、科学者、技術者がもっと積極的な行動に出ることによって、これまで科学がもたらした災厄を少しでもカバーしなければならないと思います。
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