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放射線と被曝の教室(4) 事故の時の被曝限度 その2
http://takedanet.com/2012/09/2_16e4.html
平成24年9月19日 武田邦彦(中部大学)
先回の教室で「平時の時には、被曝側は1年1ミリ、原発側は1年0.05ミリ」という整理をしました。また事故時も法令の指針があり、「きわめて希な事故でも1事故5ミリ(5年ほどで5ミリ)」であること、ICRPの勧告は尊重するものの、法治国家としてかならずしもICRPの勧告にそのまま従うものではないことをかきました。
今回は、それでは「きわめて希」というのはどのような状態なのか、その時にどの程度の病気を予想しているのかについて整理をします。この辺も子供の被爆を増やすためにムチャクチャを言っている人が多いので、しっかり勉強したいと思います。
まず、これまで国際的に事故時の被曝についてどのように考えてきたかを勉強したいと思います。ここに書くことは原子力は被曝の専門家なら誰でも知っているような初歩的なことです。これを「知らない」という人はそれだけで専門家ではないことが分かります。
事故がどのぐらいの頻度で起こるかによって「どの程度の被曝ならOKとするか」が決まります。これは集団としての遺伝子の損傷の回復や、工学的な事故確率と設計という事から決まっています。
このグラフはその典型的なもので、事故が1000年に一度以内なら、かなりの頻度で事故が起こるということですから、1年に1ミリの限度を守る必要があることを示しています。でも、1000年から1万年に一度ぐらいでしたら、1年に10ミリぐらい被曝しても集団として我慢ができると考えています。
1万年というとかなり長い時間ですから、気象の循環で言えば次の氷期に入り、世界は台湾ぐらいまで氷河で覆われます。日本も厚い氷に覆われますので、日本には誰も住めないでしょう。つまり、仮に1年に1ミリを上げるような場合と言うのは「日本に住めないぐらいの気候になる時期」(世界は長期的には13万年周期のもとで、寒冷化に向かっているから)ということになります。
このような基本的な研究を通じて、まず設計基準を決める。この指針は、「原子炉の損傷は1万年に1回」(文章内の表現では10−4/年程度)、「原子炉と格納容器が破損するのは10万年に一回」(10−5/年程度)となっています。
今回の福島原発事故は原子炉と格納容器が破損しているので10万年に1回の事故であり、それが原発運転開始から40年、そして震度6,15メートルの津波で起こった(震度は1年に1度、津波も100年に一度程度)ので、完全な設計ミス、審査ミスであることは明らかです。
事故が起こって「想定外」という用語が使われましたが、1万年に1回、10万年に一回ていど起こることは日常的には常に想定外です。これが指摘され、責任を追及されないのは東電と官僚の防御網とマスコミの体制側への強力が完璧だからです。
次に具体的な設計基準とはどのぐらいの危険性かを、がんについては「通常のガン死の0.05%」、つまり1万分の5にすることになっています。日本でガンで死亡する人は1年に約30万人から40万人だから、年間150人から200人の規模(日本人全体)です。
このうち、通常のガン死は年配者に多く、特に60才以上で顕著である。これに対して被曝によるガン死は幼児に多く、年齢と逆比例(年齢が若い方が感度が高いとされている)であり、それを加味するとさらに低くなります(これは事故の時です。このことを国民に説明して「原発は安全」と言ってきたのに、事故が起こると全く違う言い方をします)。
これらのことから分かるように、原発事故が起こってから、政府、自治体、専門家、朝日新聞などが言っていることは犯罪に近いのです。たとえば「普通のガンでも30万人が死ぬのだから、それに比べれば危険性は低い」(原子力安全委員会松原委員の国会発言)、「100人に0.5人(日本人で62万人)だから心配しなくて良い」(山下医師)、「通常のガン死に比べれば著しく低い」(朝日新聞)、「タバコによる死亡より遙かに低い」(横浜市)、「計算してみれば危険がないことがわかる」(中村佳代子委員)などはいずれも人を病気にさせる原因となる発言で、私にははっきりとした犯罪と感じられます。
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高速道路を運転している運転手に「標識は80キロだが、120キロでも大丈夫」というのは犯罪です。このことと高速道路の制限速度を検討する委員会で「あの道路は規格が良いので、100キロまで上げても大丈夫ではないか」と発言するのでは違います。
今、子供が被爆している最中に、法令や基準で決められていることと違う事を言って、子供の健康障害がでたら、全責任は発言者にあります。でも「官僚とNHKが組めばどんなウソもつき通せる」という確信が日本の上層部にあります。
そして「本当のこと」を伝えようとする人をバッシングして社会から除くことも巧妙にやってきます。そして、その被害をうけるのは結局、国民や子供達なのです。
それに加えて今回は、「被曝によるガンも通常の食品などのガンも同じで、区別がつかない」という医学の研究の問題がウソを言う人の防御に利用されようとしています。日本の指導層がこれほどいい加減であるとは思ってもいませんでしたし、原子力の人がこれほどまで!とがっかりします。
でも、法令や基準は「お上の通達」ではなく「国民同士の約束事」ですから、それを自分の利害などで勝手に変更できないことは当然です。相手に傷をつけても許されるのは自分が殺されるのを防ぐ時のような正当防衛に限られますからもっと法令を大切にする社会に住みたいものです。
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