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原発の運転停止で電力不足は起こったか? 大飯原発再稼働から40日の状況で分かった原発必要論の大ウソ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33257
2012年08月14日(火)町田 徹「ニュースの深層」 :現代ビジネス
関西電力の大飯原子力発電所の再稼働は本当に必要だったのか---。再稼働から40日間の状況をみると、こんな疑問が湧いて来る。
関電の発表をみると、電力使用量が今夏最大に達した8月2日でさえ、その使用量は2650万kWで、供給力(2959万kW)から差し引いた余力は309万kWもあった。この余力は、再稼働した大飯原発3、4号機の最大出力236万kW(2機合計)を大きく上回るものだ。
ピークが続く9月半ばまで速断は禁物だが、現状なら、稼働していない大飯原発の1、2号機はもちろん、原子炉を3基持つ美浜原発、4基持つ高浜発電所などの原発は「無用の長物」という計算になる。大飯の2機分ぐらいなら、早期に、火力発電に置き換えることも可能だろう。
関電の場合、節電と地元の有力製造業の業績不振という事情はあるものの、全国レベルでみても、今夏の現状は「電気が足りない」という原発必要論の根拠の乏しさを浮き彫りにしている。
一方、原爆の日に広島を訪れた野田佳彦首相は、「原発ゼロのシナリオの詰めを関係閣僚に指示する」と口にしたが、これも小手先対応の域を出ていない。今こそ、その場しのぎに終始してきた政府の脱原発依存方針を厳しく問い直す時ではないだろうか。
■「15%の需給ギャップは極めて厳しいハードル」
まず、大飯原発の再稼働論議を振り返ろう。
政府が再稼働を強行する布石を打ったのは、5月18日に開いた経済産業省の「電力需要に関する検討会合」と国家戦略室の「エネルギー・環境会議」の合同会合だ。
古川元久国家戦略担当大臣、藤村修官房長官、枝野幸男経済産業大臣らがズラリと顔を揃えて、今夏は各地の原発の運転停止が原因で電力需給のひっ迫が予想されるとして、関電、九州電力、四国電力、北海道電力の管内でそれぞれ、前年比15%以上、同10%以上、同7%以上、同7%以上の節電を要請した。
6月8日になって、野田首相が記者会見し、「実質的に安全は確保されている」との見解を示したうえで、「関西での15%の需給ギャップは極めて厳しいハードル」だと指摘。
「突発的な停電が起これば、命の危険にさらされる人も出ます」と電力不足から国民の生命や健康を守る観点と、「化石燃料への依存を増やして、電力価格が高騰すれば、ぎりぎりの経営を行っている小売店や中小企業、そして、家庭にも影響が及びます。空洞化を加速して雇用の場が失われてしまいます」とおカネの観点の二つを理由に、「大飯発電所3、4号機を再起動すべきというのが私の判断であります」と述べて、再稼働に踏み切った。
ここで話を進める前に触れておくと、首相の「安全が確保されている」という認識について、筆者は事実と異なると考えている。この点は、以前に本コラム(6月12日付、「リスクを国民に押し付け続ける政府を信用できない! 大飯原発再稼働と東電国有化の裏に隠蔽された『不都合な真実』」)で取り上げたので参照いただきたい。
話を戻そう。原発再稼働問題を考えるうえで注目すべきは、関西電力が毎週金曜日に発表する「今週の需給実績」(金曜日分は予測)だ。
丹念に見ていくと、今夏(7月1日から8月10日まで)の最大電力使用の平均(関電の発表値から計算)は2403.4万kWで、供給力の2781.6万kWを大きく下回っている。余力は平均で378.1万kWもあり、大飯原発3、4号機の最大出力236万kW(2機合計)を大きく上回っているのだ。
特に、4号機が7月18日に再稼働(3号機は7月1日に再稼働)してからは、供給余力が大飯原発3、4号機の合計最大出力を割った日は一日もない。4号機が稼働する前の3号機だけが稼働していた時期をみても、供給余力が、大飯原発3、4号機の最大出力を割り込んだのは、7月10日だけなのだ。この日は、余力が230万kWちょうどまで低下した。
■原発への執着が最も強い関西電力
もちろん、手放しで関西地区の電力需給に余裕があると言うつもりはない。近畿各地では真摯な節電努力が繰り広げられていると聞く。加えて、テレビや液晶パネルの販売不振に伴うパナソニック、シャープといった地元の有力企業の主力工場やすそ野の広い協力企業の工場の操業率低下が、電力使用量の低減に寄与している事実もあるらしい。
今後について、お盆明け後も夏の電力使用のピークが9月半ばまで続くため、速断は危険だ。残暑が厳しければ、様相が一変する懸念は残っている。
しかし、これまでの状況をみる限り、節電努力さえあれば大飯原発の再稼働は必要なかったということを、関電の電力需給の実績が示しているのは、動かし難い事実だ。
関電は東日本大震災の発生前から、発電に占める原発の依存度が国内で最も高く、その比率が5割を超えていた。
そのせいか、他の電力会社と比べても、原発への執着は強い。東京電力の福島第一原発事故と九州電力によるやらせ問題を受けて、電力各社が尻ごみする中、先陣を切って大飯の再稼働を主張し続けたことからも、その姿勢が伺える。
福井新聞のホームページによると、関電の八木誠社長は8月9日、8年前に11人の死傷者(死亡5人、負傷6人)を出した美浜原発3号機の事故の追悼式で、石碑の前に立ち「事故の反省と教訓を決して風化させることなく、被災された方やご遺族、ご家族の無念や苦しい気持ちをしっかりと胸に刻み、安全の実績を一つ一つ積み重ねていく」と安全の誓いを読み上げた。その追悼の言葉には、原発存続への強い意欲が滲み出ていたという。
その後の記者会見でも、運転開始から41年が経つ美浜原発1号機のリプレース(置き換え)構想に「後継機を建設したい思いは変わっていない」と強調、大飯原発3、4号機の次の再稼働についても「原子力規制庁、規制委員会の審査があり、きっちり対応したい」と再び運転する決意を示したそうだ。さらに、関電は、高浜3、4号機のプルサーマル計画にも意欲的とされる。
ここで思い出されるのが、関電の大株主である大阪市の橋下徹市長が、「今夏限定の緊急対策」と位置付けて、大飯原発の再稼働に条件付きで賛成した問題だ。これだけの需給の余裕を見れば、9月半ば以降、早期の運転停止を改めて政府と関電に要求するかもしれない。世論に敏感な政治家だけに、そういう主張を持ち出しても何の不思議もないだろう
■原発ゼロ化のコストとその影響
一方で、8月6日の「原爆の日」に被爆地・広島市を訪れた野田首相が、同市内で記者会見し、突然、「将来、原発依存度をゼロにする場合にはどんな課題があるかということは、議論を深める際に必要だ。関係閣僚にしっかり指示したい」と述べ、政府関係者や経済界に衝撃が走った。首相が「中長期的には原発依存度を引き下げたい」という方針を変えて、早期の脱原発に軸足を移したのではないかと早とちりした向きが多かったのである。
実際のところ、大飯原発問題について、政府は当初「再稼働さえしてしまえば、世論の反原発ムードは雲散霧消する」と高をくくっていたフシがある。が、毎週末、官邸周辺で繰り広げられている脱原発デモが一段と盛り上がりをみせる状況に直面し、読みが甘かったと焦りを見せる関係者が増えていた。こうした変化が、実態以上に首相発言にショックを受ける原因になったようだ。
とはいえ、橋本市長が十分な供給余力の存在が証明されたことを理由に早期の脱原発論を再度打ち出したとしても、首相が応じる可能性は小さいようだ。というのは、前述の6月8日の会見で、首相は、供給余力だけでなく、コストの問題を強調しているからだ。
今回の首相指示も、政府がエネルギー・環境政策の柱として、2030年の原発比率について、ゼロ、15%、20〜25%の3つの選択肢を示して、意見聴取会や世論調査を進める中で、「きちんとコストを示さなかったために、ゼロに圧倒的な支持が集まってしまった」との反省が政府内にあることに対応したものとの見方がもっぱらだ。
野田首相の指示には、原発ゼロを急ぐと、燃料費が予想以上に高騰して電気料金に跳ね返ることを示して、国民の目を別の選択肢に向けようという意図が透けて見えるというのだ。
なるほど関電を例にとっても、早期の原発ゼロ化のコストの影響は大きく、経営を揺るがすことは事実だろう。関電は、火力発電の燃料代がかさんで、2012年3月期決算で2,422億5,700万円という巨額の最終赤字を計上したし、新年度に入ってからの2013年3月期第1四半期(4〜6月)決算もわずか3ヵ月間で995億5,800万円の最終赤字を出した。
さらに、株主資本は2012年6月末段階で1兆3579億3900万円だが、早期の脱原発のため、資産に計上している原子力発電設備(3,609億3,600万円)や核燃料(5,323億100万円)の早期一括償却を迫られる事態になれば、経営の屋台骨が揺さぶられることになる。
しかし、野田首相の指示に基づき、政府が額面通り早期の原発廃止のためのシナリオやコストだけを開示したとしても、これが不誠実な話であることに変わりはない。
というのは、拙著『東電国有化の罠』(ちくま新書)や本コラムで繰り返してきたように、将来の原発依存度とは関係なく必要なコスト(福島第一原発の事故処理のコスト。先週の本コラムで指摘したように枝野経産大臣は今なお開示を拒んでいる)や、15%か20〜25%といった原発比率に関係なく原発を残すためにかかるコスト(安全設備、福島第一原発事故で不備が明らかになった原子力損害賠償保険の各原発の立地条件を踏まえた再構築、原発事故時の避難手段の確保など)の開示も不可欠だからだ。
すべて開示して勘案しなければ、適切な原発政策やエネルギー・環境政策を構築できる道理がない。
大飯原発の再稼働は、改めて、おカネさえかければ、ただちに脱原発を推進することが可能な事実を浮き彫りにした。もはや電力が足りないという理屈で原発を維持することはできないだろう。
野田首相が、改めて、原発ゼロの場合の課題を精査するよう指示したのは半歩前進だが、徹底的な情報開示を原発ゼロのケースに限定しようとするのは大きな間違いである。
今こそ、福島原発事故が起きたことによって、原発の存続とは関係なく日本人が背負わなければならなくなった国民負担の総額と、原発存続のためのコスト、代替の再生可能エネルギーやCO2フリーの火力発電のための整備コストをすべて明らかにして、コンセンサス作りに努めるべきである。これ以上、政治家や官僚が密室で立案した独りよがりの政策を国民に押し付けることは許されない。
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