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除染作業の被ばく懸念 下請け労働者の母、「原発で働けと言えますか」 (東京新聞)
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7月28日 東京新聞「こちら特報部」 :「日々担々」資料ブログ
脱原発デモの現場ではあまり語られないが、避けられないことがある。福島第一原発の廃炉処理や除染作業だ。廃炉までには、膨大な労働力と被ばくが伴う。さらに経験の乏しい除染の被ばく対策も課題に上っている。昨年末にできた除染被ばく規制は有効なのか。長期にわたる作業を保障するのは、確かな労働者保護の仕組みだ。だが、現場では鉛板による被ばく隠しすら発覚している。 (出田阿生、中山洋子)
「あなたは、あなたの大切な夫、息子に、原発で働けと言えますか。私は言えません。原発作業員の母より」
脱原発デモにこう記されたプラカードを手にして参加する女性がいる。木田節子さん(58)。長男は福島第一原発の事故収束作業に従事する。
福島県富岡町に家を建て、二十年間住んだ。現在は水戸市に避難する。「町内は原発で働く人が多く、息子からも小さな事故の話はよく聞いていた。でも、『自分たちの生きてる間は大事故はねえべ』と話していた」
事故後の十カ月間は引きこもっていた。その間、原発に関する本を数多く読んだ。「勉強が足りなかった。作業員は政治家や電力会社に利用されてきたと気づいた」
長男は十九歳で東京電力の下請け会社に就職した。「四次か五次請け」で、月給は八年勤めて手取りで十七万円程度。ボーナスもなかった。一年半前に、少し条件の良い今の会社に転職した。
今年二月、避難先に寄った長男とテレビを見ていると再稼働のニュースが流れた。「この国は懲りないね。福島がこんなになって責任も取っていないのに」と木田さんがあきれると、長男は「この国には資源がないから原発が必要なんだよ」とボソッとつぶやいた。
「原発が爆発して住むところを追われた。田舎に原発を造り、地元民が被ばくしても仕方がないと電力会社に思われていることも知らないのか」
しかし、この木田さんの言葉は届かなかった。その後、長男は寄りつかなくなってしまった。
知人の原発技術者から「東電は社員を被ばくさせたくないので、協力会社(下請け)から出向名目で人を呼ぶ。息子さんもいずれ福島第一の収束作業に従事させられるだろう」と警告された。その予想は現実となった。
ただ、他の原発労働者と知り合い、長男の心情を少し理解できた。「みんな被ばくは怖い。必要とされていると自己犠牲の精神を奮い立たせ、必死に自分を支えていると思う」
別の原発労働者からはデモに参加した感想を聞かされた。「いますぐ廃炉」という掛け声に違和感を抱いたという。
「廃炉にも四十年以上かかる。都会で原発反対と叫ぶ人たちは、その間も被ばく労働が続くことが分かっているのか」
木田さんは最近、原発労働をめぐる対政府交渉に出た。長男と同年齢の官僚が「雇用保険に入っていない作業員が半分くらいいる…」と、淡々と語っていた。同じ国のために働いているのに、この官僚と長男の置かれている環境の違いは何か。憤りを覚えたという。
原発で危険な作業にあたるのは常に下請け労働者だ。最新の「原子力施設運転管理年報」をみると、大手電力会社の社員一人あたりの平均被ばく線量が年間〇・三ミリシーベルトなのに対し、メーカーや下請けなど「その他」作業員の平均は一・一ミリシーベルトと大幅に上回っている。
福島原発直下の富岡町で四十年以上、反原発運動に取り組んできた石丸小四郎さんは「政府が事故収束宣言を出してから、福島第一原発で働く人の労働条件が悪化している」と指摘する。
労働者の持つ線量計を鉛板で覆う被ばく隠しが発覚した。こうした被ばく労働の現場は原発の敷地内に限らず、周辺の除染作業にも共通する。
二十七日には田村市で、国が直轄で除染する「本格除染」が始まった。前段階の除染モデル実証事業では、大熊町で除染に携わった作業員の最大被ばく線量が百八日間で一一・六ミリシーベルト。五年間の法定被ばく線量である一〇〇ミリシーベルトを超える可能性も出てきている。
除染現場の放射線管理が求められている。しかし、対応は後手に回っている感が強い。原発労働者の被ばく対策を定めた「電離放射線障害防止規則(電離則)」は屋内作業を前提としていた。
このため、厚生労働省は昨年末、除染作業での被ばく防止のために「除染電離則」を制定。今月からは対象を広げた改正規則が施行された。しかし、この新ルールでも「労働者を保護できない」といぶかる声は多い。
NPO東京労働安全衛生センターの飯田勝泰事務局長は「作業前には必ず特別教育が必要だとか、粉じんマスクなど決められた装備を守るなど内容は立派だが、どの程度守られるかについては非常に疑問だ」と話す。
「実際は除染作業に当たる業者も労働者も、放射線防護の経験がない場合がほとんどだ。事業者向けの講習もわずか一日。それで必要な手順を身に付けるのは無理だ」
改正除染電離則では、平均空間線量が毎時二・五マイクロシーベルト以下だと個人線量計を着用するのは代表者だけでいい。このルールはボランティアの除染作業従事者にも援用されるが、福島原発事故緊急会議メンバーの那須実氏は「個人線量も管理しないで、被ばくの防護といえるのか」と警告する。
こうした批判に厚労省放射線対策室の担当者は「国際放射線防護委員会(ICRP)の基準を考慮すると、二・五マイクロシーベルト以下の場合は本来、個人線量を測る必要はない」と強調。実効性についても「適切な管理が行われているかどうかは、労働基準監督署が監督する。除染現場にもすでに入っている」と説明する。
しかし、郡山市に住む労働組合「ふくしま連帯ユニオン」の佐藤隆書記長は、規則と現実との背離をこう指摘する。
「実際には公園の除染や街路の枝を払っている作業員も、せいぜいマスクを着けるくらい。きちんと防護しているようには見えない。通学路などは住民たちで除染しているが、被ばく防止の事前講習は全くない。池の周辺や木陰など毎時四〜五マイクロシーベルトを超えるホットスポットはあちこちに点在するのに、累積の被ばくは考慮されているのか」
ある意味、原発敷地内ほどの緊張感がない分、除染作業による被ばくは深刻ともいえる。長丁場になる原発内外での被ばくとの闘い。前出の木田さんはこう断言した。
「この国は、放射線と闘う労働者抜きには立ちゆかない。労働環境を整えずして明日はない」
<デスクメモ> 原発は被ばく労働を必然的に伴う非人道的なシステムだ。政府や電力会社に配慮を期待できない以上、作業員を守る労働運動は不可欠だ。が、一部の脱原発行動では労働組合旗の持ち込みに主催者が難色を示すという。原発建設と電力会社の労務管理強化は同時進行した。過剰な自粛は誰を利するのか。(牧)
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