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被災地の除染を本格化するのに必要な4つのこと
米除染コンサルタントCH2M HILLのカート・L・キーラー副社長に聞いた
2012年7月11日(水) 笹林 司
原発の廃炉、除染を行っているCH2M HILLのカート・L・キーラー副社長に話を聞いた。何をもって除染「完了」とするのか? 放射性廃棄物をどこに、どのように捨てるのか? これの点で住民との合意を形成することが最も大事だと語った。
(聞き手は笹林 司)
「CH2M HILL」について教えてください。
カート・L・キーラー氏は、CH2M HILLの副社長。原子力ライアビリティ−D&D(廃炉・除染)でプログラムマネジャーを務める。核施設における廃炉や除染に17年の経験を持つ。ハンフォード核施設で廃炉、除染、解体、また、マイアミズバーグやロッキーフラッツでの核施設閉鎖プロジェクトでの主任プロジェクトマネージャーを勤めた。ボイジー州立大学の建築管理学卒業。
カート・キーラー氏(以下キーラー):「CH2M HILL」は原発の廃炉や、土壌・地下水内の汚染物質の除染や拡散の抑制を行う、世界で最も大きな会社の一つです。米国エネルギー省や英国原子力廃止措置機関とともに20年以上、廃炉、解体、廃棄物処理、環境修復などを行ってきました。原子力部門のほかに、水処理、エネルギーと電力事業、交通インフラ――高速道路・港湾・空港などの――建設などの事業を全世界で行っています。社員数は3万人です。
除染のプロフェッショナルということですね。基本的なことからお伺いします。除染はどういった手順で行うのでしょうか?
キーラー:まずは線量を正確に計ることから始めます。線量が人体に影響を与えない程度であれば、特殊なペイントを使ったコーティング、固定剤などを使い、放射能物質がその場所から拡散しないように閉じ込めます。
健康に影響が及ぶ線量が確認されたら、放射能物質を取り除きます。その際に重要なのは、汚染されたものの材質を見極めることです。例えば、瓦など小さな穴が存在する素材は、時間を掛かけて除去作業を行うよりも、交換した方がいいでしょう。穴の中の放射性物質を取り出すのは困難です。
除染を行う場所の優先順位はどう決めますか。
キーラー:線量が低いところから進めるのがいいでしょう。低い場所を除染することで、作業員がトレーニングを積むことができます。慣れたら、だんだんと線量の高い地域の除染に移ります。
線量が低い地域の除染が完了したら、その場所をベース(基地となる拠点)にして、次に線量が高い地域を除染します。線量が高い場所から除染をすると、遠く離れたベースとの間を行き来する必要が生じる。これは効率が悪いし、コストもかさみます。
日本の除染が困難な理由
日本の地理的条件、都市構造などで除染を難しくしている要因はありますか?
キーラー:森林ですね。土壌に含まれる放射能物質を植物が吸い上げる可能性がある。それも除染の対象なので、作業が複雑になります。
「CH2M HILL」は、英国原子力廃止措置機関 やアメリカのハンフォード核施設で除染を経験しています。英国原子力廃止措置機関は、原発の廃炉や使用済み核燃料の処理管理を行う機関。ハンフォード核施設は、マンハッタンプロジェクトの一環として武器の開発と生産のために建設されたものですね。アメリカで最大かつ最も放射能汚染がひどい機関と言われています。
ただし、これらは閉鎖された施設です。原子力発電所の外に放射能物質が広がった日本のケースでも除染は可能なのでしょうか。
キーラー:私たちが、過去数十年にわたって米国や英国で行ってきた除染プロジェクトは、今日の日本のケースとは異なるように見えるかもしれません。しかし、個別の要素――道路、歩道、広場、屋根など――に分けていくと、除染のやり方は同じです。
私たちは20年以上もの間、米国で核施設の土壌、水、地下水の汚染物除去に関わっています。同時に、米国の国立研究所と共同で除染技術も開発してきました。これらの中には「通常の洗浄、ブラッシング」だけでなく以下の技術を使用した経験があります――「ハイドロブラスティング」「砂とショットブラスト」「液体窒素ブラスト」…
「CH2M HILL」は、それらの経験や技術をもとに日本で除染を行う考えなのでしょうか?
キーラー:「CH2M HILL」が実際に除染を行うのは、現在の日本の法律下では難しい。もし可能になったとしても、まずは日本の会社が前面に立って除染を進めるべきだと考えています。
我々は、これまでの経験を生かして、コンサルタントとしてお手伝いができると思います。具体的には、最後のゴールを念頭に一つ一つの作業のステップを計画する、それぞれの作業の予算またはスケジュールを管理することができます。汚染物質の分析でもお手伝いできます。
先だって日米両政府が、民生用原子力協力に関する日米2国間委員会の設立で合意しました。このフレームワークの下、両国が協力して問題を解決し、福島を復興させることを望んでいます。
福島第1原子力発電所の事故から1年4カ月がたちましたが、除染がなかなか本格化しません。遅れている原因をどう考えますか?
キーラー:新しい除染技術を探しているのかもしれせん。
新しい技術を研究することは重要ですが、今は、利用できる技術を使って除染を始めることが大切です。除染活動が遅れたことで、汚染物質が拡散していることが懸念されます。もっと早く除染を始めていたら、放射能物質の閉じ込めにもっと成功していたかもしれません。
除染の目安である年間1ミリシーベルトは妥当だと思われますか? 一律での基準に問題はないのでしょうか?
キーラー:難しい質問です。年間1ミリシーベルトは国際基準には合致していると思います。ただ、国際的な基準では、リスクベースで基準を設定するのが通例になっています。子供が多い場所や農作物を作る場所はほかよりも厳しい基準を採用するなど、用途に合わせて基準を設定するのがよいと思います。
廃棄物問題は住民との合意が大事
今後除染が進むと、大量の放射性廃棄物が発生します。これらの処理に関してどうお考えですか?
キーラー:廃棄する場所については、関連省庁と住民が話し合って決めるが最適だと思います。私の経験でどこがいいかとか、ここにあるべきだ、とかは言えません。皆さんで合意を形成することが大事なのです。
例えば、福島第1原子力発電所周辺の高汚染地域に放射性廃棄物を集めるといった意見が出ています。これについてはどうでしょう。
キーラー:現在、日本政府が提案している、比較的汚染の高いところに処理施設を作るのは妥当な考え方だと思います。
福島第1原子力発電所の事故による汚染地域は広大です。除染にどれくらいの時間とコストがかると思えばいいでしょう?
キーラー:とても難しいので推定できないと思います。推定するには、いくつかの仮定が必要です。中でも、放射性廃棄物をどう処理するかが大きなポイントです。例えば、現在推定されている放射性廃棄物の量を2トン・トラックに換算するなど簡単な計算をしてみてください。それだけでも、期間やコストが途方もないことが見えてくるでしょう。こういった仮定をどんどん立てて、大きな視野でプロジェクトを見て、計画することが大切だと思います。
また、期間の目安をつけるには、何をもって除染完了と見なすかを決めておく必要があります。現時点では、関連省庁と住民との間にその合意がありません。合意が必要です。ただ、合意の変更はあってもいいでしょう。初めに作った合意を達成するのが大変だからこの合意は変更しましょうとか、ちょっと基準を緩くしましょう、という話し合いは現実として必要だと思います。
日本の除染に必要なこと
日本における今後の除染において最も重要だと思われる要因は何だと考えますか?
キーラー:何をもって除染完了とするかの基準がなくては、除染活動を開始することはできません。お金がなくても作業が始められない。住民との合意がない場合も同様です。これらのうち一つが欠けても除染活動ができないんですね。
加えて、放射性廃棄物をどう処理するかも、この3つと同じくらい大事でしょう。処分場をどこにするか、どう処分するか、というアイデアがないと除染が進められません。一つ一つの項目で答えを探していくのではなくて、総合的に考えることが必要です。
笹林 司(ささばやしつかさ)
フリージャーナリスト
長崎県長崎市生まれ。株式会社リクルートでの情報誌編集職を経て、フリージャーナリストとして独立。IT、経済分野を中心に記事を寄稿。
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