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福島原発事故、日本独特の文化が原因の人災―報告
http://jp.ibtimes.com/articles/32802/20120708/37239/page1.htm
2012年7月8日 06時35分 International Business Times
多くの反対の声を押し切り、ついに日本政府は原発の再稼働に踏み切った。2011年3月の福島原発事故以来、国内の原発は全て操業を停止していたが、7月5日朝、事故後初めて、福井県の大飯原発3号機が発電を開始したのだ。
原発反対派からは、これは国中の原発再稼働の第一歩であると心配する声があがっている。しかし同5日、原発反対派にとって有利な報告書が発表された。
政府からも事業者からも独立した国会の調査委員会である福島原発事故調査委員会が、福島原発事故は回避可能な「人災」であり、原発事故を引き起こす原因となったのは日本独特の文化だと厳しく非難する報告書を発表したのだ。
福島原発事故調査委員会は半年にわたる調査を行い、頼りない政府と不透明な組織、組織の利益を最優先する考え、政府や事業者に対し十分に責任を求めてこなかった日本の文化的・社会的風土が原発事故を引き起こした、と結論づけた。
■人災
福島原発事故調査委員会による調査は2011年12月に開始され、専門家や担当職員が、延べ1167人から900時間超にわたるヒヤリングを行った。政策研究大学院大学アカデミックフェローである黒川清委員長と10人の委員が、福島第一原発を含む日本全国の原発施設を視察した。
報告書では、福島第一原発のメルトダウンの直接的原因は地震と津波であるが、原発事故を壊滅的な規模にまで拡大させた一番の原因は、政府と東電に人々の安全を守るという責任が欠如していたことである、と指摘されている。
報告書によると、今回の事故は「自然災害」ではなく「人災」である。原発事故は回避可能であり、回避されるべきであった。また効果的に事後対応を行っていれば被害を緩和できたはずだ。原発事故から国民の安全を守るという責任を果たしてこなかった政府、規制当局、そして東電のなれ合いと、ガバナンス体制の欠如の結果、原発事故は引き起こされた。従って、この事故が「人災」であることは明らかである、としている。
福島原発事故調査委員会は、政府と東電は津波が来た場合の危険性を2006年から認識していた、と指摘する。地震などの自然災害に起因するリスクを回避、緩和する対策を行う準備がなかった東電に対し、厳しい規制が実施されるべきであったにもかかわらず、政府は新たな安全基準を設けなかった。また、日本には原子力推進行政当局である経済産業省の原子力安全・保安院、そして内閣府原子力安全委員会という2つの規制当局が存在するが、両者とも東電に対し新たな規制を設けず、東電は対応を先延ばししてきた。
福島原発事故調査委員会によると、東電が福島原発において重要な安全対策を取らなかった理由は、新たな規制の導入により既設炉の稼働率に影響が生じるほか、安全性に関する過去の主張を維持できず、訴訟などで不利になるといった恐れを抱いていたからである。それを回避したいという動機から、新たな安全対策に強く反対し、規制当局に働きかけていた。また規制当局と東電の両者は、被害の可能性の査定、自然災害に起因する被害への対策、大量の放射能の放出が発生した場合の避難計画など、最も基本的な安全対策を正しく行ってこなかった、としている。
■政府の失敗
原発の危険から人々の安全を守るはずの政府は、企業の利益を守ることを優先した。事故発生後、効果的な事故対応を行うはずの当事者たちが混乱に陥り、的確な指示を出せなかったのは驚くことではない。
福島原発事故調査委員会は「官邸及び規制当局を含めた危機管理体制が機能しなかったこと」、そして「緊急時対応において事業者の責任、政府の責任の境界が曖昧であったこと」が、被害を防ぐことができなかった理由であると指摘した。
原子力災害対策においてリーダー的な役割を果たすべきであった保安院は、責任を果たせなかった。当時の菅直人首相は、直ちに緊急事態宣言を発令せず、後から現場に介入して、指揮命令系統に不必要な混乱を招いた。規制当局は情報を政府に伝えることができず、機能不全に陥った。事故の間、清水社長が率いる東電は、事故対応に関する情報を提供すべきだったが、責任を回避することに終始した。
原発の近隣地域に暮らし、直接被害を受けている住民には、正確な情報が迅速に伝わらなかった。原発から3キロ圏内の地域に避難命令が下った3月11日夜の時点では「事故情報は住民の20%程度にしか伝わっていない」と福島原発事故調査委員会は指摘する。10キロ圏内の住民のほとんどは、発生から12時間以上経って初めて事故について知ったが、避難命令が出た際には、避難情報や避難経路は知らされなかった。
■地震と原発
福島原発事故調査委員会は、津波により事故が発生したとする現在の意見に疑問を呈する。東電は事故の主因を早々に津波とし、「確認できた範囲においては」というただし書きはあるものの、「安全上重要な機器は地震で損傷を受けたものはほとんど認められない」と中間報告書に明記した。
実際、福島原発事故調査委員会は、地震による外部からの全電源喪失が原子炉冷却システムの作動の停止につながったと考えているが、どの被害が地震によるものかを特定するにはより綿密な調査が必要であると指摘している。
しかし、原発の安全を脅かしたのが津波ではなく地震であるとする、福島原発事故調査委員会の結論は、原発にとって安全な土地は日本に存在するのか、という疑問を投げかけた。日本全国が、大地震の危険にさらされているからだ。この結論が広く認められれば、国中の原発を再稼働しようとする政府の取組みにストップをかけることになるだろう。
■メード・イン・ジャパン
黒川委員長は、原発事故を「メード・イン・ジャパン」と表現し、「世界が注目する中、日本政府と東京電力の事故対応の模様は、世界が注目する中で日本が抱えている根本的な問題を露呈することとなった」と指摘した。
黒川委員長は、「根本的な原因は、日本が高度経済成長を遂げたころにまで遡る。政界、官界、財界が一体となり、国策として共通の目標に向かって進む中、複雑に絡まった『規制の虜』が生まれた。そこには、ほぼ50 年にわたる一党支配と、新卒一括採用、年功序列、終身雇用といった官と財の際立った組織構造と、それを当然と考える日本人の『思いこみ(マインドセット)』があった。経済成長に伴い、『自信』は次第に『おごり、慢心』に変わり始めた。入社や入省年次で上り詰める『単線路線のエリート』たちにとって、前例を踏襲すること、組織の利益を守ることは、重要な使命となった。この使命は、国民の命を守ることよりも優先され、世界の安全に対する動向を知りながらも、それらに目を向けず安全対策は先送りされた」と述べている。
この言葉は、原発だけでなく、長年日本を支配してきた考えに一石を投じるものである。これまで日本の優れた技術に対する過信が、日本の産業の低い安全基準や、近隣諸国や世界を危険にさらす行為につながってきた。原発事故は、日本社会をくつがえした。これからは黒川委員長が指摘するように、民主社会の中の個人として、国民一人一人が責任を持つ必要があるのではないだろうか。
この記事は、米国版International Business Timesの記事を日本向けに抄訳したものです。
YIFEI ZHANG、翻訳:神吉ナイト真由
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