73. 2012年7月11日 07:43:57
: DWlHjmMnho
<68. 2012年7月11日 02:50:23 : UC8c4iia9M 総括原価方式により、太陽光だろうが他社の融通した電力だろうが、電力会社は皆電気代に上乗せ出来るのだ。 電気料金値上げを打ち出した東京電力に対して国民の怒りは沸騰中だ。しかし、そもそもの原因を作ったのは東京電力なのだろうか。痴話喧嘩ならいざ知らず、日本経済の行く末を左右する重大事を、悪戯に短絡的な感情だけで論じては、国家百年の大計を誤ってしまうだろう。 多くの人が電力会社に不信感を持っている。その不信感が、電力会社は今年の夏の供給力を隠しているとの思いにつながっている。また、脱原発を唱える首長もいる。2012年4月28には桜井南相馬市長等による「脱原発をめざす首長会議」が設立された。この会場が、脱原発を宣言し東電からの電力供給をPPS(特定規模電気事業者)に切り替えた城南信用金庫の本店であったことから、メンバーの多くは電力会社への不信感を募らせているのだろう。この不信感は原発事故後の東電経営陣と広報の対応が作り出した面もあるが、不信感を持つ人たちに大きな影響を及ぼしているのは朝日新聞や報道ステーションをはじめとする事実関係を踏まえない感情的な報道だ。 2012年4月16日付の朝日新聞によると、電力会社の需給見通しを信用できないとする人の割合は66%に上る。この電力会社に対する不信感は、原発事故を全て東電の責任にした前政権の中枢にいた一部の人の言動も影響しているのだろう。事故直後の東電のマスコミ対応と説明も決して誉められたものではなく、不信感を増した可能性が高い。原発事故対応へのまずさが、東電への不信感となり、電力会社全体に広がったのだろう。 しかし、それにも増して世論に影響を与えているのは、当の朝日新聞などの一部マスコミの報道姿勢にあるのではないだろうか。2012年4月17日の夕刊では、かなり大きな記事として「東電、顧問に月90万円」との見出しが躍った。震災後も顧問29人に計1億5600万円の報酬を支払っていたとの報道だ。翌18日の朝刊では、電力料金値上げ前に電力会社は積立金を全て使うべきと主張し、その上で電力会社の給与水準が高いので、料金値上げ前に賃下げをすべきと報道している。「電力8社蓄え3兆円 値上げ前にすべきことは」とのタイトルで「人件費カット不可避」との小見出しもある。 http://www.asahi.com/business/intro/TKY201204170713.html http://stopatomicenergy.blog59.fc2.com/blog-entry-746.html 記事を読んだ読者は、電力会社は総括原価主義で費用請求が認められ利益が保証されているから、無駄な顧問料を支払っていたと憤慨するに違いない。また、電力会社の社員の給与が高いのは許されないと思う人も多いだろう。しかし、よく考えると朝日新聞の記事には腑に落ちないことが多くある。積立金の問題から考えてみよう。 朝日新聞は電力料金値上げ前に、積立金を吐き出すべきと主張している。積立金としているが、朝日新聞があげている金額からすると、利益剰余金の中の積立金を対象としているようだ。朝日新聞の主張の理屈であれば積立金以外の利益剰余金も吐き出すべきとなるだろう。ここでは積立金ではなく剰余金と呼ぶことにする。 電力料金の値上げが必要になると見られているのは、原発が停止し、化石燃料の購入量が増えているからだが、燃料購入量とその費用が増加しているのは、電力会社の責任だろうか。原発が停止しているのは、再稼働への道筋を明確に示すことができない政府の責任ではないのか。電力会社は再稼働のために政府の指示に従い作業を行っている。 必ずしも自社の責任とは言えない値上げのために、剰余金を全て使用せよというのは何故だろうか。その根拠は、電力会社が得ていた剰余金は適正なものではないという事だろう。つまり、電力会社は総括原価主義の下で不当に利益を得ているという勝手な思い込みが記事の前提になっているのではないか。この記事を無批判に読む多くの読者は「電力会社は不当に利益を得ている」という前提に誘導される。記事の中では経済産業省幹部のコメントとして「積立金がなくなるまでは、安易な値上げは認められない」も紹介されている。経済産業省も電力会社が不当に利益を得ていたことを認めていると示唆しているようだ。 http://stopatomicenergy.blog59.fc2.com/blog-entry-746.html 実は、この記事には、もっと大きな誤解がある。まず、今までの利益から積み立てた剰余金があるのだから、それを使用しろとの意見だが、認可料金で事業を行っている企業は値上げ前に剰余金を使い果たせという発想はどこから来ているのだろうか。東京ガスもJR東日本も剰余金は当然保有している。民間企業であれば当然のことだ。値上げ前に剰余金を全て使い果たさないと値上げが認められないのであれば、資金調達にも支障を来たすことになり、企業経営はできなくなる。 さらに大きな誤解は、剰余金がバランスシート上に表示されていても、その分の現金があるわけではないという企業経営の基本を朝日新聞の記者が理解していないことだ。利益が発生し剰余金が出れば、当然負債の返済に充てるなどしているから、剰余金が現金で残っているわけではない。企業は資金を最も有効な用途に利用する。もし、剰余金を現金性の資産で残している企業があれば、株主から資金を有効に利用していないと非難されることになる。 剰余金がなくなるまで値上げをするなとなると、実際には燃料費増に伴う赤字を埋めるために、電力会社は借金をするしかなくなる。剰余金を持つことも出来ないような企業に有利な条件で資金提供する金融機関があるのだろうか。電力会社の財務内容は優れているとは言えない。例えば、関電の財務諸表を見ると、1年以内に支払うべき流動負債の額は1年以内に現金化可能な流動資産の2倍近くもある。赤字分を借金で穴埋めすると、さらに財務内容は悪化する。 電力会社が高い金利で資金調達を行えば、結局電気料金に跳ね返る。関西電力、東京ガス、JR東日本の総資産額、純資産額、利益剰余金、保有する現預金などの流動資産の額、流動負債の額は次の通りだ。 関西電力、東京ガス、JR東日本の財務内容 単位:億円、出所:会社四季報 2011年3月期の数字 @会社名A総資産B純資産C利益剰余金D流動資産E流動負債 の順 (A):@関西電力A73,102B18,324C13,207D5,709E10,721 (B):@東京ガスA18,297B8,741C7,184D3,089E3,089 (C):@JR東日本A70,429B18,346C15,343D5,713E12,291 関西電力の剰余金の額は相対的に少ない。値上げを避け、剰余金相当額を負担するとなると、その大半を新規に借り入れるしかない。調達金利の上昇は避けられない。電力会社の財務内容の悪化は、結局需要家の負担増につながる。それでも、朝日新聞は「蓄え」を使い果たすまで値上げをするなと主張するのだろうか。 朝日新聞は総括原価主義で認められる原価に人件費が含まれるから、コストとして料金に織り込むことが可能な電力会社の給与は他の業界より高いと書き、値上げするならここに切り込むことが大前提と主張している。東電が顧問料を支払っていたと記事に取り上げたのも、同様の意図だろう。 電力各社の人件費と業界平均の人件費を記事では取り上げている。 http://www.asahi.com/business/intro/TKY201204170713.html 例えば、年間平均給与は関西電力806万円に対し、ガス業界634万円、鉄道581万円と報道している。電力会社以外の企業では業界平均しか表示されていないが、業界平均ではなく同規模の会社の年収と比較すべきではないか。会社四季報の数字からいくつかの会社の平均年齢と年収を調べ、まとめてみた。 企業の平均年収、単位:万円、出所:会社四季報、*注:トヨタ自動車の従業員数は連結ベース @会社名A従業員数B平均年齢C平均年収 の順 (A):@関西電力A20,538B41.1C806 (B):@大阪ガスA5,800B42.9C701 (C):@日立製作所A33,133B39.9C757 (D):@トヨタ自動車A324,747B38.3C727 (E):@JR西日本A26,849B40.3C672 (F):@東芝A37,062B41.3C778 (G):@NTTドコモA11,165B38.6C812 大幅な人件費カットが必要なほど、電力会社の賃金は高いのだろうか。朝日新聞の記事では人件費カットを行えば、電力料金の値上げ額がかなり圧縮されるような印象を受けるが、人件費が料金に占める比率は大きくない。次に示す通り事故前の東京電力の人件費が料金に占める割合は7.8%だった。顧問料の料金に占める割合は0.003%だ。無論、2億円近い資金は大金だ。しかし、料金へのインパクトは殆どない。この事実は、記事を読む人が持つ印象とは異なるのではないか。 東京電力の原価構成 出所:東京電力に関する経営・財務調査委員会の報告 @燃料費35.5%A購入電力費12.9%B減価償却費12.4%Cその他経費12.1%D人件費7.8%E修繕費7.7%F公租公課6.2%G事業報酬5.4% 必ずしも自社の責任とは言えない燃料費負担の一部を人件費の削減で行うことに従業員の同意は得られるのだろうか。人件費カットを主張する朝日新聞記者の理屈は何だろうか。紙の価格が上昇し、新聞代値上げとなる時には、人件費を削減するのが先というのが朝日新聞記者の考えなのだろうか。それとも必需品の電気では値上げはダメだが、新聞では値上げは許されるというのだろうか。商品のコストという点では電気も新聞も違いはない。 原発の停止が続けば、原発による発電分を火力発電所で行うしかない。震災前の原発による発電量は全体の約30%を占めていた。年間の発電量は3000億KW時に近い。この発電分を火力発電所で代替する場合には、石油火力が中心にならざるを得ない。燃料代が最も安い石炭火力は震災前から、稼働率が非常に高く、さらに稼働率を高める事が難しい。石炭に次いで燃料代が安いLNG(液化天然ガス)火力も稼働率が比較的高かった。燃料代が高い石油火力は、電力需要が高くなる夏場の昼間を中心に利用されており、稼働率が極端に低かった。 2009年度の燃料別の10電力会社の設備稼働率を見ると、石炭火力76.3%、LNG(液化天然ガス)火力54.2%、石油火力22.6%だった。原発の代替としてまず利用できるのは、稼働率が最も低い石油火力、次いでLNG(液化天然ガス)火力だ。このため、電力会社の石油とLNG(液化天然ガス)輸入量は急増している。 2012年2月の燃料使用実績では、東電ではLNG(液化天然ガス)が前年同期比36万トン増の194万トン、20%以上の増加だ。原重油が前年同期比80万トン増の112万トンになっており、3倍以上の増加だ。輸入価格を基に燃料費の増額分を計算すると、920億円になる。中部電力、関西電力も同じような状況だ。中部電力の燃料費増額分は540億円、関西電力では505億円だ。この状況が続けば、東電以外の電力会社でも値上げは不可避となる。 LNG(液化天然ガス)の輸入価格については、米国の国内向け天然ガス価格の数倍もしているとの解説が行われることがある。例えば、テレビ朝日の報道ステーションでは、しばしばシェールガスを取り上げ、「米国ではシェールガスの採掘開始によりガス価格は大幅に下落したが、日本向け天然ガス価格は下がらない。これは電力会社が総括原価主義でコストを保証されているためコスト意識がなく、高いガスを購入するからだ」と説明している。 天然ガスの基本を知らない無知ゆえの誤解だ。日本が輸入しているガスは液化天然ガスなので輸出地においてマイナス162℃で液化し、専用の船で輸送される。液化設備の建設には数千億円かかる。買い手が長期契約で数量と価格を保証しなければ、液化設備に投資を行う人はいないだろう。そのために米国内のパイプラインで運ばれる天然ガスより高くなる。価格が高いのは、総括原価主義とは何の関係もない、調達の仕組みの問題だ。 実際に米国の国内向け天然ガス価格と輸出向けLNG(液化天然ガス)価格を比較すると、米国でもLNG(液化天然ガス)価格はパイプラインによる販売価格の3倍以上している。2011年12月の国内電力向け価格は1000立方フィート当たり4.15ドル、輸出向けLNG(液化天然ガス)価格は12.83ドルだ。設備投資が必要なLNG(液化天然ガス)価格が高いのは当たり前だ。データを調べてから報道する姿勢が必要ではないか。電力会社は総括原価主義なので高く燃料を買っているとの先入観で報道してはいけない。 |